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マツダ・SKYACTIV-X

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SKYACTIV TECHNOLOGY > マツダ・SKYACTIV-X
SKYACTIV-Xのカットモデル(東京モーターショー2019出展)

マツダ・SKYACTIV-X(マツダ・スカイアクティブ エックス)は、マツダが開発および製造するガソリンエンジンの名称である。SKYACTIV TECHNOLOGYのひとつ。

概要

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マツダSKYACTIV TECHNOLOGYを採用したエンジンとして、SKYACTIV-GSKYACTIV-Dに続く第3弾となる。燃料にガソリンを用いてディーゼルエンジンに近い予混合圧縮着火(HCCI)を実現し、熱効率を向上する目的で開発された。最大16.3という高い圧縮比希薄燃焼を行い、比熱比の向上・冷却損失の低減・ポンプ損失の低減により効率を向上する[1]ガソリン軽油に比べて着火点が高く、高負荷や高回転では原理的にHCCIは困難であることが実用化を妨げていた[2]。SKYACTIV-Xでは、高負荷時には従来のガソリンエンジン同様の火花プラグによる着火を行い、軽負荷時には火花プラグ近傍に生成した膨張火炎球によって周囲の希薄な混合気を圧縮着火することで、従来HCCI運転できなかった領域を補完する火花点火制御圧縮着火(SPCCI)を開発した[1][3]

燃費性能としてはSKYACTIV-G比で平均10%改善、低車速の超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)領域では20%以上改善し、この領域ではディーゼルエンジンのSKYACTIV-D 1.8を上回る燃料消費率が得られる。車両全体ではマイルドハイブリッドシステムの効果を合わせてNEDC英語版モードで約30%の改善となる。また排出ガス性能についてはスワールコントロールバルブ(SCV、横渦制御バルブ)と多段燃料噴射により、希薄燃焼で生じる窒素酸化物(NOx)の濃度を規制値以下に制御するため、尿素SCR触媒NOx吸蔵還元触媒は不要である。三元触媒とガソリンパーティキュレートフィルタ(GPF)が装備される[2]

2017年の発表時に2019年の実用化が予告され[4]、2018年のロサンゼルスオートショーにて2019年から北米で順次発売する予定の新型MAZDA3に搭載されることが発表された[5]。日本では当初の予定から約2カ月遅れて[6]2019年12月5日に発売された[7]

なお、当初発表時のSKYACTIV-Xには、「高応答エアサプライ」と呼ばれる機械式吸気装置[8]と、発電機オルタネーター)を強化してエンジンの補助モーターとしたマイルドハイブリッドシステムが同時に採用されている。

高応答エアサプライ

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高応答エアサプライは高圧な空気を短時間にシリンダー内へ送り込むために搭載されており、クランクシャフトからベルト駆動するため、原理的にはルーツ式スーパーチャージャーと同じである。ただし、一般的にスポーツカーなどに搭載されたスーパーチャージャーがエンジンの低回転域でトルクを増やす目的で用いられるのとは異なり、シリンダー内の理想的な燃焼のために空気の量をコントロールすることを目的として搭載されており[8]、CX-30開発を統括するマツダ商品本部・主査の佐賀尚人は「今は(過給機として使わず)送風機として使っている」と述べている[9]

全負荷域でSCVを閉じれば強いスワール(シリンダー中心軸まわりの横渦)が発生する一方、充填効率が下がってトルクが出ない。そこで「高応答エアサプライ」により最大200 kPaレベル(大気圧の2倍)の圧力をかけつつ、排気再循環(EGR)を大量導入する(最大EGR率は内部と外部を合わせて約35%)ことで反応速度を落とし、ノッキング抑制効果を高めているという[10]

マイルドハイブリッド

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SKYACTIV-Xでは、エンジンの低回転域での補助を行うことを目的としてマイルドハイブリッドを採用している[8]。SKYACTIV-Xに採用されたマイルドハイブリッドシステムは、動力伝達系(エンジンと変速機)の外側に発進モーターオルタネーター(ISG)を置く「P0ハイブリッド」と呼ばれるタイプで[注釈 1]、イグニッションと通常燃焼とSPCCIの切り替え時など、必要に応じてオルタネーターがクランキングを補助するシステムとなっている[11]

バリエーション

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SKYACTIV-X 2.0

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型式 HF-VPH
シリンダー配置 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量 1,997 cc
ボア 83.5 mm
ストローク 91.2 mm
圧縮比 15.0(日本仕様)16.3(欧州仕様)
主要燃費向上策
  • ハイブリッドシステム
  • アイドリングストップ機構
  • DI(筒内直接噴射)
  • 希薄燃焼(リーンバーン)
  • 可変バルブタイミング
  • 充電制御
  • ロックアップ機構付トルクコンバーター(AT車)
  • 電動パワーステアリング
最高出力 132 kW(180 PS)/6,000 rpm
140 kW(190 PS)/6,000 rpm(SPIRIT1.1)
最高トルク 224 N·m(22.8 kgf·m)/3,000 rpm
240 N·m(24.5 kgf·m)/4,500 rpm(SPIRIT1.1)
搭載車種

評価

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燃費

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熱効率SKYACTIV-G2.0比で最大20%向上となり、ディーゼルエンジンのSKYACTIV-D1.8を部分的に上回る効率を得られる[2]。欧州向けSKYACTIV-G2.0(5.1 L/100 km)とSKYACTIV-X2.0モデル(4.5 L/100 km)を比較すると、WLTPモード燃費は10%向上となる[12]AUTOCARの長期テストでは実燃費15.2km/Lを記録している[13]。日本国内仕様はハイオクガソリンとレギュラーガソリン両方に対応させるべく[注釈 2]圧縮比を15.0に下げている[6]。圧縮比の違いによる熱効率の差は公表されていない。

価格

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日本国内仕様ではSKYACTIV-G2.0搭載車と比較して約68万円高、SKYACTIV-D1.8搭載車と比較して約40万高となる価格差があり[12]、SKYACTIV-X搭載車の販売台数は各モデルの5-6%[注釈 3]に留まっている[12]。燃焼制御のための高応答エアサプライとマイルドハイブリッド、レーシングエンジン並みの燃焼室容積管理が施されている[注釈 4]ため生産コストが嵩んでいるとの指摘がある[14]。欧州市場ではCO2ペナルティ対策のため[9]、SKYACTIV-Gとの差額が1,600ユーロ(日本円で約19万円)程度に縮まる[15]。このためSKYACTIV-Xモデルが販売台数の40-50%を占め[15]オランダではほぼ100%選ばれている[9]。マツダの佐賀主査は日欧での販売比率の違いについて、欧州では燃費規制の違いも含めてSKYACTIV-Xの評価が高い一方で、日本ではSKYACTIV-Xの技術的な部分や運転時の加速感などの感覚が金額に換算しづらく、一般の顧客にわかりづらい点がSKYACTIV-Xが苦戦している理由ではないかとしている[9]

出力・官能評価

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2 Lの排気量で2.3 L自然吸気ガソリンエンジン並みのトルクを発揮し、エンジン出力は日本仕様で14%向上している[6]。SKYACTIV-D1.8搭載のCX-30と比較すると、ゼロスタート加速の力感はSKYACTIV-X搭載のMAZDA3が上回る一方で、80-100 km/hの中間加速はSKYACTIV-Dに及ばないとの意見がある[16]

AUTOCAR長期テストでは、5,000 rpmを超える高回転域でSKYACTIV-Gに比べて余力を発揮する[13]一方で、常用回転域である2,000-4,000 rpmではディーゼルエンジンのような燃焼音を発する[17]。ディーゼルエンジンよりはトルク感が薄く、低回転域から中回転域にかけては競合するガソリンターボエンジンの方が力強さがあると評している[18]

欧州規制

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SKYACTIV-Xの開発理由として、欧州委員会による欧州市場での二酸化炭素(CO2)排出量規制と、それに付随する燃費規制の導入が挙げられる[19][20]。2021年からの燃費規制値はNEDCモード95 g/km(WLTCモード以前の計測法)をメーカー全体で達成する必要がある。SKYACTIV-XのNEDCモード燃費は約30%向上となる[2]

今後の予定

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SKYACTIV-Xはまだ完成形でなく、改良の余地があると言及されており[21]、マツダの佐賀主査も「これが最終系ではなく、やっと生んだエンジンなので、これから改良を進める」と述べている[19]。改良の方向性として、マツダの佐賀主査は「マツダのスタンダードエンジンにしていく」考え方と、「(高応答エアサプライをスーパーチャージャーとして活用するなどして)ハイパフォーマンスな方向に改良させる」考え方があると述べている[9]

開発スケジュールでは、後継エンジンは2025年頃を目途に既に開発が進められている。次期エンジンは、エンジン内の断熱性を高め、2021年に投入予定の新型ディーゼルエンジンを上回る燃費を狙う[22]

脚注

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注釈

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  1. ^ P0ハイブリッドのモーターは直接駆動力を得るためのモーターではなく、ストロングハイブリッドシステムと異なりモータートルクを感じる発進とはいかないため、「ハイブリッドとしては中途半端」といった評価をする者もいる[11]
  2. ^ 欧州向けに使用されるガソリンはプレミアムガソリンでなくともオクタン価が概ね95以上と高く、日本のハイオクガソリン(オクタン価96以上)相当となる一方で、日本のレギュラーガソリンはオクタン価の下限値が89であり、これに対応させるためにはノッキングを防ぐために圧縮比を下げる必要がある。オクタン価#地域による変化及び高オクタン価ガソリン#商品としての位置付けも参考のこと。
  3. ^ 2019年10月から2020年6月までの累計販売台数ベースでCX-30で5%、MAZDA3で6%程度[9]
  4. ^ 日経xTECH 記者の清水直茂は、SKYACTIV-Xではエンジンの信頼性を高めるため、通常のエンジンでは用いない筒内圧センサーなど高価な部品を追加していることも指摘している[6]

出典

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  1. ^ a b 三浦祥兒 (2018年6月24日). “マツダのSKYACTIV-Xとは何が優れているのか?”. Motor Fan TECH. 三栄書房. 2020年9月29日閲覧。
  2. ^ a b c d 磯部利太郎、遠藤孝次、末岡賢也「新世代ガソリンエンジンSKYACTIV-Xの紹介」『マツダ技報』第36巻、2019年、16-23頁。 
  3. ^ 実用化困難と言われてきた圧縮着火を制御する次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」―マツダ 東京モーターショー2017”. fabcross エンジニア. メイテック (2017年10月27日). 2018年12月5日閲覧。
  4. ^ マツダ、技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」を公表』(プレスリリース)マツダ、2017年8月8日http://www2.mazda.com/ja/publicity/release/2017/201708/170808a.html2018年12月5日閲覧 
  5. ^ “マツダ、新型「アクセラ」世界初公開 デザイン一新、「SKYACTIV-X」搭載”. ITmediaビジネスオンライン. (2018年11月28日). https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1811/28/news112.html 2018年12月5日閲覧。 
  6. ^ a b c d 清水直茂 (2019年12月6日). “マツダ正念場 「X」エンジン目標未達、FR開発遅れ”. 日経XTECH. 2020年9月26日閲覧。
  7. ^ SKYACTIV-X搭載グレード”. MAZDA3公式サイト. マツダ. 2019年11月5日閲覧。
  8. ^ a b c 桃田健史 (2017年9月7日). “マツダ次世代エンジン「SKYACTIV-X」の世界初試乗は驚きの連続!”. ダイヤモンド・オンライン. 2020年9月24日閲覧。
  9. ^ a b c d e f 鈴木慎一 (2020年8月9日). “『SKYACTIV-Xはどう進化させる?』マツダCX-30開発主査に訊く「CX-30のX比率は現在国内では約5%、欧州では40-50%です」(後編)”. Motor-Fan.jp. 2020年9月25日閲覧。
  10. ^ 安藤眞 (2020年1月19日). “マツダSKYACTIV-X、全負荷時にはどんな状態で回っているのか——安藤眞の『テクノロジーのすべて』第42弾”. モーターファン TECH.. 2020年9月24日閲覧。
  11. ^ a b 中尾真二 (2020年1月20日). “マツダがトヨタハイブリッドを採用しない理由?”. Response.. 2020年9月24日閲覧。
  12. ^ a b c 鈴木ケンイチ (2020年4月26日). “マツダ「SKYACTIV-X」乗って見えた美点と不満”. 東洋経済オンライン (東洋経済新報社). https://toyokeizai.net/articles/-/345263 2020年4月26日閲覧。 
  13. ^ a b ローレンス・アラン (2020年7月25日). “【スカイアクティブ-XとGとを比較】マツダ3 2.0(最終回) 長期テスト”. 2020年10月1日閲覧。
  14. ^ 小野正樹・高根英幸 (2019年12月19日). “マツダ3 SKYACTIV-Xで元は取れるのか? 約68万円高い夢を買う意味”. ベストカーWeb. 2020年9月25日閲覧。
  15. ^ a b 市原信幸・渡辺陽一郎 (2020年4月5日). “マツダの宝 SKYACTIV-X なぜ苦戦!?? 理想の技術なのに”. ベストカーWeb. 2020年9月18日閲覧。
  16. ^ 桂伸一 (2019年8月17日). “[マツダ3特集スカイアクティブXが描く内燃機関の未来像とは]”. CAR and DRIVER. 2020年9月27日閲覧。
  17. ^ ローレンス・アラン (2020年4月12日). “【常用域のエンジンノイズと小さな警告音】マツダ3 2.0(2) 長期テスト”. 2020年10月1日閲覧。
  18. ^ ローレンス・アラン (2020年4月12日). “【魅惑するのはハンサムな容姿だけじゃない】マツダ3 2.0(1) 長期テスト”. 2020年10月1日閲覧。
  19. ^ a b 桃田健史 (2020年8月26日). “【マツダの切り札、どう攻め直す】マツダ秘蔵っ子「スカイアクティブX」 際立つ技術の新たなる伝え方とは?”. AUTOCAR JAPAN. 2020年9月22日閲覧。
  20. ^ 林眞人、国沢光宏 (2020年4月5日). “【国産メーカー大打撃か!?】新欧州燃費規制で苦境のメーカーと無傷の会社【クルマの達人になる】”. ベストカーWeb. 2020年9月22日閲覧。
  21. ^ Mr. ソラン (2020年8月2日). “革新エンジン「SKYACTIV-X」【マツダ100年史・第33回 最終回・第8章 その6】”. clicccar. 2020年9月19日閲覧。
  22. ^ マツダ、新型DEを21年以降導入 低燃費で販売増図る”. 中国新聞 (2020年3月24日). 2020年3月24日閲覧。

読書案内

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  • マツダ技報』第36巻、マツダ株式会社、2019年、 ISSN 2186-3490

関連項目

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外部サイト

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