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テオグニス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
メガラのテオグニスから転送)
テオグニスの詩を朗誦する饗宴出席者を描いた前5世紀の酒杯(キュリクス)。アテネ国立考古学博物館所蔵

メガラのテオグニス古希: Θέογνις Theognis 紀元前6世紀ごろ)は、古代ギリシアアルカイック期詩人教訓詩を多く詠み、後世のギリシア文学に度々引用された。代表作に「人間にとって最善なのは初めから生まれないこと、次に善いのは早く死ぬこと」という厭世主義の詩があり[1][2][3]反出生主義の先駆者とも言われる[4]ニーチェ古典学者だった頃に研究対象としたことでも知られる[3]

人物

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人物像は不明な点が多く、学者間で見解が異なることもある[5]

活動時期は、前600年ごろ[5]前540年ごろ[6]など諸説ある。

出身地はメガラであり「メガラのテオグニス」と呼ばれる[5]。しかしこれがギリシア本土のメガラなのか、その植民都市のシケリアのメガラなのか、古代から諸説ある[5]

アルカイック期のメガラでは、僭主テアゲネス英語版に象徴される階級秩序の解体が進んでいた。貴族階級に属していたテオグニスは、階級間の政争によりメガラを追われ放浪した[6]。このような経歴から、テオグニスの詩には、当時の貴族の価値観、混沌とした世間への絶望感が反映されている[1]

詩の多くは、少年愛の相手である少年キュルノスに宛てられている(呼格)。このキュルノスは、詩作のための架空の人物と解釈されることが多い[7]

作品・受容

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詩の韻律は全て「エレゲイア詩形」であり、他の詩人含む現存する全エレゲイアの最大量を占めることから、代表的なエレゲイア詩人とされる[1]

当時の詩人では珍しく、まとまった詩集、通称『エレゲイア詩集』が現存している。詩は篇でなく行で数えられ、総計1389行からなる[8]。この詩集は写本の形で中世ビザンツを経て、ルネサンス期の1543年に最初の刊本が出た[8]。しかしながら、他人の詩が多く混入しており、しかも真贋の判別は困難とされる[5]

後世のギリシアでは、主に饗宴の際、集団の価値観の確認や少年への教訓を目的として、テオグニスの詩が朗誦された[1]。またプラトンアリストテレスイソクラテスプルタルコスなど、様々なギリシア古典でテオグニスが引用・言及されている[9]。詩集に無く引用でのみ伝わる詩もある[5]ディオゲネス・ラエルティオスギリシア哲学者列伝』によれば、アンティステネスにはテオグニスについての著作があったが、現存しない。

19世紀には、ドイツ古典文献学ヴェルカーが研究を開拓した。これを受けて後述のニーチェも研究した。またチャールズ・ダーウィンは『人間の進化と性淘汰』で、性淘汰を論じた先駆者として言及した[10][11]

パピルス断片も発見されている。

厭世主義

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テオグニスの代表作として、以下の厭世的な死生観を説く詩がある[1][2][3]

地上にある人間にとって何よりもよいこと、それは生まれもせず

  まばゆい陽の光も目にせぬこと。

だが生まれた以上は、できるだけ早く冥府ハデス)の門を通って

  うず高く積み重なる土の下に横たわること。 — 西村賀子訳『エレゲイア詩集』425-428行[12]

この詩は『エレゲイア詩集』だけでなく、セクストス・エンペイリコスピュロン主義哲学の概要』3巻231節やストバイオスの引用によっても伝わる[12]

同様の死生観はテオグニスだけでなく、アリストテレス『エウデモス』断片所引の諺[13]ソポクレスコロノスのオイディプス』1224-1228行[1]バッキュリデス『祝勝歌』5番160行[1]喜劇作家プラトンの詩[14]などにも見られるが、古代ギリシアではテオグニスが代表格とされる[1]

21世紀現代では、この詩は反出生主義(誕生否定)の先駆の一つとされる[4]

ニーチェ

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ギムナジウム時代のニーチェ

ニーチェ1864年ギムナジウムを卒業する際『メガラのテオグニスについて』という古典文献学の論文をラテン語で書き、以降も複数の論文を書いた[3]

思想的影響は一概には言えないが、『悲劇の誕生』や『ツァラトゥストラ』では、テオグニスと同様の厭世主義や賎民蔑視を説いている[15]

日本語訳

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  • テオグニス他著、西村賀子訳『エレゲイア詩集』京都大学学術出版会西洋古典叢書〉、2015年。ISBN 9784876989133 (伝来の詩集に引用やパピルスで伝わるエレゲイアを加えたもの)
  • テオグニス著、久保正彰訳「エレゲイア詩集」『世界人生論全集 1』筑摩書房、1963年。 国立国会図書館書誌ID:000000895409
  • 他には呉茂一の抄訳がある[16]

脚注

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  1. ^ a b c d e f g h 西村 2015, p. 389f.
  2. ^ a b 久保 1963, p. 431.
  3. ^ a b c d 小野寺 1994, p. 13.
  4. ^ a b 森岡 2021, p. 54.
  5. ^ a b c d e f 西村 2015, p. 384ff.
  6. ^ a b 廣川洋一、小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)『テオグニス』 - コトバンク
  7. ^ 西村 2015, p. 387f.
  8. ^ a b 西村 2015, p. 364ff.
  9. ^ 西村 2015, 各詩の訳注.
  10. ^ M.F. Ashley Montagu, 'Theognis, Darwin and Social Selection' in Isis Vol.37, No. 1/2 (May 1947) page 24, online here
  11. ^ Charles Darwin, The Descent of Man, 2nd edition, London (1874), chapter 2
  12. ^ a b 西村 2015, p. 160.
  13. ^ 小野寺 1994, p. 14.
  14. ^ 沓掛良彦 『ギリシア詞華集 3』 京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2016年10月。ISBN 9784814000326。9.359
  15. ^ 小野寺 1994.
  16. ^ 「以前ここでコピーしたテオグニスの詩が入った本は何だったか?」香川県立図書館) - レファレンス協同データベース

参考文献

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外部リンク

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