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メルドラム酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
メルドラム酸
識別情報
CAS登録番号 2033-24-1
PubChem 16249
ChemSpider 15418
特性
化学式 C6H8O4
モル質量 144.13 g mol−1
融点

94-95 °C
367-368 K
(分解)[1]

酸解離定数 pKa 4.97
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

メルドラム酸(メルドラムさん、Meldrum's acid)、もしくは 2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-4,6-ジオン分子式 C6H8O4 で表される有機化合物である。この化合物は1908年スコットランドの化学者アンドリュー・ノーマン・メルドラム (Andrew Norman Meldrum) により、無水酢酸硫酸中でマロン酸アセトン付加脱離反応を行っているときに発見された[2]。メルドラムはβ-ラクトン(β-ヒドロキシイソプロピルマロン酸)と構造を誤認していた。正しい構造[3]はこのページに表示されているものである。

メルドラム酸の合成

メルドラムが使った方法に変わるメルドラム酸の製法として、硫酸触媒としてマロン酸酢酸イソプロペニルを反応させるものがある。メルドラム酸は高い酸解離定数を持っている (pKa = 4.97) 。メルドラム酸は関連するほかのカルボニル化合物に比べ非常に高い酸度を示し、長い間これは異常であると考えられてきたが、2004年に大和田智彦らによって解決されている[4]。大和田らは、メルドラム酸の最安定配座において、α位のC-H σ軌道がC-O π*軌道に沿った配向をとっており、このために基底状態がC-H結合を異常に強く不安定化していることを見いだした。

メルドラム酸はマロン酸と同様に、クネーフェナーゲル縮合の試薬として用いられる。

ケテンの形成

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メルドラム酸は熱不安定性を示す。高温においてメルドラム酸はペリ環状反応を起こして、アセトン二酸化炭素、および高反応性のケテンを生じる[5]。 ケテン中間体は高温においてメルドラム酸を瞬間真空熱分解 (flash vacuum pyrolysis) することによって単離することができる。これらの非常に求電子性の高いケテンは他の化学物質と様々な反応を起こすことができる。熱分解は溶液中でも行うことができるため、不安定なケテン中間体を単離することなく、すでに加えてある化合物とのワンポット反応を行うことができる。比較的単純で、新しい炭素間結合や環状化合物、アミド、エステル類、酸類を合成することが可能である。このためメルドラム酸は、合成化学者にとって非常に有用な試薬である。[6]

Reaction of the pyrolysis-product ketene with amines, hydroxyl compounds, or water gives amides, esters, or carboxylic acids respectively


出典

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  1. ^ "メルドラム酸". The Merck Index. 14th. Vol. edition. Merck Research Laboratories. 2006. p. 1005. ISBN 978-0-911910-00-1
  2. ^ Meldrum, Andrew Norman (1908), “A β-lactonic acid from acetone and malonic acid”, Journal of the Chemical Society, Transactions 93: 598 – 601, doi:10.1039/CT9089300598, https://books.google.co.jp/books?id=PMM3AAAAMAAJ&pg=PA598&lpg=PA598&dq=andrew+norman+meldrum&redir_esc=y&hl=ja 
  3. ^ Davidson, David; Bernhard, Sidney A. (1948), “The Structure of Meldrum's Supposed β-Lactonic Acid”, Journal of the American Chemical Society 70 (10): 3426 – 3428, doi:10.1021/ja01190a060 
  4. ^ Nakamura, Satoshi; Hirao, Hajime; Ohwada, Tomohiko (2004), “Rationale for the Acidity of Meldrum's Acid. Consistent Relation of C−H Acidities to the Properties of Localized Reactive Orbital”, Journal of Organic Chemistry 69 (13): 4309–4316, doi:10.1021/jo049456f, PMID 15202884 
  5. ^ Dumas, Aaron M./Fillion, Eric. (2009)Meldrum's Acids and 5-Alkylidene Meldrum's Acids in Catalytic Carbon-Carbon Bond-Forming Processes. Accounts of Chemical Research. 43 (3): 440-454.
  6. ^ Lipson, Victoria V./Gorobets, Nikolay Yu. (2009)One hundred years of Meldrum's acid: advances in the synthesis of pyridine and pyrimidine derivatives. Mol Divers. 13: 399-419.

参考文献

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  • Kidd, Hamish (November 2008), “Meldrum's Acid”, Chemistry World: 35 – 36 
  • Lipson VV & Gorobets NY (2009), “One hundred years of Meldrum’s acid: advances in the synthesis of pyridine and pyrimidine derivatives”, Molecular Diversity 13 (4): 339–419, doi:10.1007/s11030-009-9136-x, PMID 19381852 

外部リンク

[編集]
  • Synlett Spotlight [1](英語)
  • 有機合成におけるメルドラム酸 [2](英語)
  • メルドラム酸の酸性度の理論的解析 [3]