ライ麦パン
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ライ麦パン(ライむぎパン、英: rye bread)は、ライムギから作ったパンである。「ライ」(rye)から作った「パン」なので「ライパン」とも呼ばれ、また、通常作られるパン(小麦から作ったパン)より黒いので黒パンともいう。ライ麦パン(黒パン)は、ドイツ、オーストリア、ロシア、東欧、北欧などで、多く食べられている。
寒さに強いライムギはヨーロッパ大陸北部に居住しているゲルマン人、スラヴ人の間では重要な主食である。また七王国を建国したことで知られるゲルマン系のアングロ・サクソン人もグレートブリテン島にライ麦パンを持ち込んだ。
ライ麦パンと黒パンは同義ではない。黒くなる理由は全粒粉や、皮や胚芽を含む精製度の低い粉を使用するためである。そのため精製度の高い粉を使うあまり黒くないライ麦パンもある。しかし全粒粉や精製度の低い粉を使用すると、栄養価が高く、麦の旨みを味わえるパンができる。また、全てライ麦ではなく、小麦や燕麦を混ぜたライ麦パンもある。小麦を混ぜたライ麦パン(ライ麦を混ぜた小麦パンともいえる)は色が薄く柔らかくなる。この混ぜる割合により様々なライ麦パンの種類がある。
ドイツにおけるライ麦パンの定義
[編集]ドイツパンの場合、ライ麦の配合率で呼び方が決まっている。小麦はヴァイツェン(独: Weizen)、ライ麦はロッゲン(独: Roggen)、混ぜるはミッシュ(misch)、パンはブロート(Brot)なので、「小麦またはライ麦(WeizenまたはRoggen)」+(「混ぜる」(misch)+)「パン(Brot)」という表記方法になる。ドイツで定められている名称は、以下の通りとなる[1]。
ライ麦の割合 | 小麦の割合 | 名前 |
---|---|---|
10%未満 | 90%以上 | ヴァイツェンブロートまたはヴァイスブロート(Weizenbrot oder Weißbrot) |
10%以上50%未満 | 50%以上90%未満 | ヴァイツェンミッシュブロート(Weizenmischbrot) |
50%以上90%未満 | 10%以上50%未満 | ロッゲンミッシュブロート(Roggenmischbrot) |
90%以上 | 10%未満 | ロッゲンブロート(Roggenbrot) |
「ドイツ食品便覧(Deutsches Lebensmittelbuch:ドイチェス・レーベンスミッテルブーフ)」の「大型と小型パンの指導原則(Leitsätze für Brot und Kleingebäck:ライトゼッツェ・フュァ・ブロート・ウント・クラインゲベック)」に収録されるライ麦を用いたパンには、このほか次のようなものが挙げられている[1]。
- ロッゲンフォルコルンブロート(Roggenvollkornbrot)
- 少なくともライ麦全粒粉を90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種(Sauerteig:ザウアータイク)に由来するものを使用したライ麦パン。
- フォルコルンブロート(Vollkornbrot)
- ライ麦全粒製品と小麦全粒製品を任意の比率で合わせたものを少なくとも90%使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用したライ麦パン。
- ロッゲンヴァイツェンフォルコルンブロート(Roggenweizenvollkornbrot)
- 50%以上のライ麦全粒粉を使用したライ麦パン。
- ロッゲンシュロートブロート(Roggenschrotbrot)
- 90%以上の粗挽きライ麦粉を使用したライ麦パン。
- シュロートブロート(Schrotbrot)
- 粗挽きのライ麦粉と粗挽きの小麦粉を任意の比率で合わせた粉を90%以上使用するライ麦パン。
- プンパーニッケル(Pumpernickel)
- 粗挽きライ麦粉とライ麦全粒粉を90%以上使用し、添加する酸の2/3以上はサワー種に由来するものを使用し、焼成に16時間以上の時間をかけるライ麦パン。
食感と栄養
[編集]ライ麦パンは、小麦から作る一般的な白いパンと比べて食感が硬いため、「ハードパン」(対して、中間の硬さのパンは「セミハードパン」、柔らかいパンは「ソフトパン」)の一種に分類される。
小麦から作るパンでは発酵にイースト菌のみがよく使われるが、ライ麦パンでは主にサワードウ(乳酸菌とイースト菌を主な発酵主体とする発酵種)が使われる。そのため生地に酸味がある。
ライ麦には、パンの膨張を高度に支えるための小麦由来のグルテンが含まれておらず[2]膨らみにくいので、硬くて密度が高い、目の詰まったパンになる。麦の濃厚な旨みを味わえ、噛みごたえや食べごたえがあり、咀嚼回数が増え、腹持ちがいい。
ライ麦パンはビタミンB類を始め、ミネラルや食物繊維が多く栄養価が高い。また、小麦のパンより糖類が少ないために、食後の血糖値が緩やかに上昇する特徴を持つ「低GI食品」である。
長らく欧米では食感が硬いライ麦パン・黒パンは低級で、口当たりの良い小麦の白パンが高級という価値観が存在した。近年では健康志向から栄養豊富・低GIなライ麦パン・黒パンが見直されており[3]、日本における麦飯や雑穀と米飯の関係に似ている。
食べ方
[編集]硬いので薄切りにしてバターやラードやシュマルツやサワークリームなどを塗って食べる。また、塩気のある食材と相性が良く、薄切りパンにイクラやキャビアやオイルサーディンなどをのせたり、薄切りパンでハムやチーズやスモークサーモンなどを挟んでサンドイッチにもする。薄切りにしてトーストしたライ麦パンにパストラミやコンビーフやザワークラウトやスイスチーズなどを挟んだルーベンサンドが知られている。ラクレットなどのチーズを焙って薄切りパンにのせて食べるのもよい。
昔のヨーロッパでは、パンを1週間から数ヶ月おきにまとめて焼いて貯蔵しておく習慣があったので、古くなったライ麦パンはナイフも通らないほど硬くなった。そのため予め適当な大きさに切って保存した。ライ麦パンはその酸味のため日持ちがする。
硬くなったパンは水や酒やスープに浸して柔らかくして食べる他、粥やスープにして食べる。また(硬くなった)ライ麦パン(黒パン)をお湯に溶かして麦芽や酵母によって発酵させ、1〜3%のアルコールを含むビールのような清涼飲料水を作る。ロシアのクワスが有名である[4]。
シベリア抑留者が食べた黒パン
[編集]通常の黒パンはライ麦から作られるが、第二次世界大戦後、シベリア抑留でラーゲリに収容された元日本兵にはライ麦の使われていない黒パンが支給された。これは粗挽きの小麦粉に大麦粉か玉葱粉、フスマなどから作られる粗悪なもので、極めて酸味が強く水気の多い重いパンであった[5]。
脚注
[編集]- ^ a b “「【独逸見聞録】ブロートの定義 〜大型パン(其の壱)〜」”. 辻調グループ総合情報サイト内 2011年6月15日. 2015年4月11日閲覧。
- ^ 燕麦などと異なり、グルテンを含まないわけではない。セカリンと呼ばれるグルテリン(グルテニンとも言いうる)を含んでいることもあり、ライ麦のグルテンが生地膨張を全く支えないわけではない。
- ^ みんなの健康:ヘルシーなパンって一体どんなもの?
- ^ “第92回あなたはまだ知らない?パンケーキの国”. ナショナルジオグラフィック. p. 3 (2013年8月2日). 2020年3月9日閲覧。
- ^ 長勢了治『シベリア抑留全史』原書房、2013年8月8日、210頁。ISBN 9784562049318。