ラグナル・ロズブロークのサガ
ラグナル・ロズブロークのサガ(古ノルド語: Ragnars saga loðbrókar)は、アイスランドのサガの一つ。伝説的なヴァイキングの王ラグナル・ロズブロークに関する物語が描かれており、伝説的サガに分類される。内容の成立は13世紀後半かそれ以降と考えられている[1]。最古の写本[注 1]は14世紀末のもので、『ヴォルスンガ・サガ』と同じ写本に収められており、『ヴォルスンガ・サガ』の直後に配置されていた[1]。内容面でも『ヴォルスンガ・サガ』から続くものとなっている[3]。
内容
[編集]物語で描かれているのは、『ヴォルスンガ・サガ』に登場する英雄シグルズとブリュンヒルドの娘であり、後にラグナルの妃となる女性アースラウグの生い立ち、ラグナルの竜退治とソーラ姫との結婚、ソーラとの死別後のラグナルとアースラウグの結婚、戦いにおける彼らの息子たち(およびアースラウグ)の事績、そしてノーサンブリア王エッラの手によるラグナルの死と、息子たちによる仇討である[4]。
文学的文脈
[編集]『ラグナル・ロズブロークのサガ』の情報源にはブレーメンのアダムやサクソ・グラマティクスが含まれている[5]。サクソの『デンマーク人の事績』の「第9の書」の内容が、ラグナルがソーラを追い求める物語、ラグナルとアースラウグの結婚、ラグナルの息子たちの事績の記述と重なっている。
また、『ラグナル・ロズブロークのサガ』は『ヴォルスンガ・サガ』の続編の体裁を取っており、シグルズやブリュンヒルドといった伝説的な人物を9世紀から11世紀の歴史的な出来事に接続するとともに、第18章で「〔ラグナルとアースラウグの息子の〕蛇の目のシグルズ(シグルズ・オルム)からは偉大な一族が生まれた。彼の娘はラグンヒルドであり、ノルウェー全土を支配した最初の王であるハラルド美髪王の母である」[6][7][8]と述べられているように、シグルズをノルウェー王家の祖先として描くことでノルウェー王家の権威を高めようとしている[9][10]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c McTurk 2017.
- ^ Finch 1965, p. xxxviii.
- ^ 谷口 2017, pp. 253.
- ^ 谷口 2017, pp. 253–259.
- ^ Walter 2011, p. 34.
- ^ Jónsson & Vilhjálmsson 1943
En frá Sigurði orm í auga er mikill ættbogi kominn. Hans dóttir hét Ragnhildr, móðir Haralds ins hárfagra, er fyrstr réð öllum Noregi einn.
- ^ Crawford 2017, p. 128.
- ^ 谷口 2017, p. 259.
- ^ Walter 2011, p. 35.
- ^ Crawford 2017, § "The Making of the Sagas".
参考文献
[編集]- 谷口幸男『エッダとサガ 北欧古典への案内』新潮社〈新潮選書〉、2017年7月。ISBN 9784106038136。 - 253-259頁に「ラグナル・ロズブロークのサガ」の章題でサガのあらすじが掲載されている。初版は1976年(ISBN 4106001829)。
- トム・バーケット 著、井上廣美 訳『図説 北欧神話大全』原書房、2019年11月28日。ISBN 978-4-562-05708-5。 - 258-275頁に「ラグナル・ロズブロークの伝説」の章題で再話が掲載されている。
- 松村武雄 編『北欧神話と伝説』趣味の教育普及会〈神話伝説大系〉、1935年9月30日。NDLJP:1717913 。 - 743-757頁に「ラグナルの傳說」の章題で再話が掲載されている。1980年に名著普及会より『世界神話伝説大系 29 北欧の神話伝説 1』(全国書誌番号:81003511)、『世界神話伝説大系 30 北欧の神話伝説 2』(全国書誌番号:81003512)に分冊・改題のうえ復刊されている。
- McTurk, Rory, ed. “Ragnars saga loðbrókar (Ragn)”. Skaldic (Skaldic Poetry of the Scandinavian Middle Ages) 8 2022年4月10日閲覧。.
- Schlauch, Margaret (1978). The saga of the Volsungs: the saga of Ragnar Lodbrok together with the Lay of Kraka. New York: Ams Press. ISBN 978-0404147044
- Waggoner, Ben (2009). The Sagas of Ragnar Lodbrok. New Haven, CT: Troth Publications. ISBN 978-0578021386
- Crawford, Jackson (2017). The Saga of the Volsungs: With the Saga of Ragnar Lothbrok. Indianapolis/Cambridge: Hackett Publishing. ISBN 9781624666339
- Jónsson, Guðni; Vilhjálmsson, Bjarni, eds (1943). “Ragnars saga loðbrókar ok sona hans”. Fornaldarsögur Norðurlanda. 1. Reykjavík: Bókaútgáfan forni. OCLC 13150673
- Walter, James K. (2011). “RAGNARS SAGA LOÐBRÓKAR”. In Gentry, Francis G., et al.. The Nibelungen Tradition: An Encyclopedia. Routledge. pp. 34-35. ISBN 978-1136750199
- Finch, R. G., ed (1965). The Saga of the Volsungs. London: Nelson
関連文献
[編集]- 校訂版
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- Jónsson, Guðni; Vilhjálmsson, Bjarni, eds (1943). Fornaldarsögur Norðurlanda. 1. Reykjavík: Bókaútgáfan forni. OCLC 13150673
- 英語訳
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- Schlauch, Margaret (1978). The saga of the Volsungs: the saga of Ragnar Lodbrok together with the Lay of Kraka. New York: Ams Press. ISBN 978-0404147044
- Waggoner, Ben (2009). The Sagas of Ragnar Lodbrok. New Haven, CT: Troth Publications. ISBN 978-0578021386
- Crawford, Jackson (2017). The Saga of the Volsungs: With the Saga of Ragnar Lothbrok. Indianapolis/Cambridge: Hackett Publishing. ISBN 9781624666339
- 研究
-
- McTurk, Rory (1991). Studies in Ragnars Saga Loðbrókar and its Major Scandinavian Analogues. Oxford: The Society for the Study of Mediæval Languages and Literature. ISBN 0-907570-08-9
関連項目
[編集]- ラグナル・ロズブローク
- アースラウグ
- ヴォルスンガ・サガ
- クラーカの言葉 - 『ヴォルスンガ・サガ』『ラグナル・ロズブロークのサガ』と同じ写本(NKS 1824 b 4to)に収められていたスカルド詩(参考(英語):1、2)
- ラグナルの息子たちの話 - 写本『ハウクスボーク』などに保存されていたサットル(参考(英語):1、2)
- ボーシとヘラウズのサガ - 『ラグナル・ロズブロークのサガ』に登場したヘルルズ Herruðr(こちらではヘラウズ Herrauðr の表記)が登場するサガ。最終章でラグナルが退治することとなる竜が登場し、『ラグナル・ロズブロークのサガ』に繋がる物語となっている(参考(英語):1)
- ノルナゲストの話 - 話(サットル)の中で、ノルナゲストが「ロズブロークの子ら」に同行する場面があり、ローマへの進軍を諦める挿話がこちらでも描かれている。