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フォリン酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロイコボリンから転送)
フォリン酸
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 ロイコボリン(Leucovorin)など
Drugs.com monograph
胎児危険度分類
  • AU: A
  • US: C
薬物動態データ
生物学的利用能用量依存性:
  • 97% (25mg)
  • 75% (50mg)
  • 37% (100mg)
血漿タンパク結合~15%
半減期6.2 時間
排泄尿
データベースID
CAS番号
58-05-9 チェック
1492-18-8 (Ca塩)
ATCコード V03AF03 (WHO)
PubChem CID: 143
IUPHAR/BPS英語版 4816
DrugBank APRD00698 ×
ChemSpider 5784 チェック
UNII RPR1R4C0P4 チェック
KEGG D07986
C03479
ChEMBL CHEMBL1679 チェック
別名 5-formyltetrahydrofolate
化学的データ
化学式C20H23N7O7
分子量473.44 g/mol
物理的データ
融点245 °C (473 °F) decomp
テンプレートを表示
レボホリナートカルシウム
データベースID
CAS番号
80433-71-2
ATCコード V03AF04 (WHO)
KEGG D04715
別名 レボロイコボリンカルシウム
化学的データ
化学式C20H21N7O7. Ca
テンプレートを表示
Levofolinic acid

フォリン酸(フォリンさん、: folinic acid国際一般名: folinic acid)は、ふつうカルシウム塩またはナトリウム塩として、メトトレキサートを含む化学療法の際に投与される[1]。 また、フォリン酸はチミジル酸シンターゼ阻害薬としてのフルオロウラシル(5-FU)の作用を増強する効果もある。

生物学的に活性があるのはL体のみであり、レボフォリン酸という場合には全ての分子がL体であるものを指す。

フォリン酸は1948年にシトロボラム因子として発見され、現在でもその名称で呼ばれることがある[2]。 フォリン酸(folinic acid)は、英語圏では時に葉酸(folic acid)と混同されることがある。フォリン酸(N5-Formyl-THF=5-ホルミルテトラヒドロ葉酸)は、体内で容易に代謝されて葉酸の活性型であるN5,N10メチレンテトラヒドロ葉酸となる。

フォリン酸は、世界保健機構が定めた必須医薬品リストであるWHO必須医薬品モデル・リストにも含まれている[3]

シトロボラム因子としての発見

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1948年に、SauberlichとBaumannは、細菌Leuconostoc citrovorumの培養に必要な因子として「シトロボラム因子」を発見した。 当初はこの分子の構造は不明であったが、実験的には葉酸がアスコルビン酸存在下で肝細胞により代謝された産物として報告された。 また、このシトロボラム因子合成系に蟻酸ナトリウムを加えると、上清中のシトロボラム因子活性が上昇することが発見された。 今日では、これは5-ホルミル誘導体の収量が増加するためであるとして理解されている。 この処理によりシトロボラム因子の大量生産が可能となり、その構造が5-ホルミルテトラヒドロ葉酸であることが同定されるに至った。[要出典]

フォリン酸救援療法

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メトトレキサートジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬である。すなわち、ジヒドロ葉酸テトラヒドロ葉酸に還元されることを妨げることにより、核酸合成de novo経路を阻害し、細胞の増殖を抑止するものである。フォリン酸救援療法とは、ある種の腫瘍に対してメトトレキサートを大量に投与する一方で少量のフォリン酸を投与すると、正常細胞はフォリン酸の作用によりメトトレキサートから「救援」され、腫瘍細胞が選択的に傷害されるというものである。

フォリン酸はテトラヒドロ葉酸の5-ホルミル誘導体である。フォリン酸は体内で容易にテトラヒドロ葉酸に代謝され、葉酸と同程度にビタミンとしての活性を発揮する。フォリン酸救援療法は、フォリン酸はジヒドロ葉酸レダクターゼの作用を受けずに活性化することから、古典的には、フォリン酸が葉酸の代わりに補酵素として用いられることがフォリン酸救援療法の基礎であると考えられていた。

しかし1980年代に、フォリン酸はメトトレキサートによるジヒドロ葉酸レダクターゼの阻害を解除することが報告された。詳細な機序は不明であるが、メトトレキサートやジヒドロ葉酸がポリグルタミル化されている場合にはフォリン酸による救援が行われないことが知られている。正常な細胞ではポリグルタミル化はあまり行われていないが、一部の腫瘍細胞では顕著なポリグルタミル化が行われており、このことがフォリン酸救援療法の基礎であると考えられるようになった。[4]

臨床的には、メトトレキサート投与後に適切な間隔をあけてからフォリン酸が投与される。これにより骨髄や消化管粘膜上皮細胞がメトトレキサートの毒性から「救援」されることを期待するものである。メトトレキサートによる既存の腎傷害に対しては救援効果がないことが報告されている。[5]

フォリン酸は厳密にはメトトレキサートの解毒剤とはいえないが、メトトレキサートの過剰投与に対する治療としては有効である。投与プロトコルは複数提唱されているが、いずれにせよメトトレキサートの血中濃度が5 x 10−8 M以下になるまでフォリン酸を反復投与する必要がある。[6]

フォリン酸は経口的に投与することも、静脈内投与または筋内投与することもできる。[7]

その他の用法

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フォリン酸は大腸癌の治療に際して5-FUと共に投与されることがある。この場合、フォリン酸は「救援」ではなく5-FUによるチミジル酸シンターゼ阻害作用を増強する目的で用いられる。すなわち、フォリン酸は5-FUおよびチミジル酸シンターゼと三元複合体を作ることで安定化する。[8][9]

また、フォリン酸はジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害する抗生物質を高用量で投与する際に毒性を緩和する目的で使用されることがある。こうした抗生物質にはトリメトプリムピリメタミンが該当する。たとえばトキソプラズマ症に際してピリメタミンやスルファジアジンと共に投与される。また、後天性免疫不全症候群でしばしばみられるニューモシスチス肺炎に対してST合剤が用いられるが、フォリン酸は、その作用を減弱させる。[10]


関節リウマチに対するメトトレキサート療法の副作用を軽減する目的で用いられることもある。フォリン酸で軽減される副作用としては、悪心、腹痛、肝細胞障害、口腔内の痛みがある。[11]

フォリン酸にはD体とL体の光学異性体があるが、薬理学的に活性を有するのは後者のみである。従って米国FDAは2008年にレボロイコボリンを承認した。[12]

フォリン酸はダウン症候群治療薬として検討されたこともあるが、特に効果は認められなかった。[13]

MTHFR遺伝子にある種の多型を有する人について、不安障害や抑鬱に対するフォリン酸の効果を調べた報告もある。[14]

副作用

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フォリン酸を髄腔内投与してはならない。なぜならば、深刻な有害作用を生じ、死に至ることもあるからである。[15]またフォリン酸は胎児の免疫系を弱体化させる恐れがあるため、妊婦に投与してはならない。

また、過敏症やアナフィラキシーを来すことがある。

参考文献

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  1. ^ ">Keshava, Channa; Keshava, Nagalakshmi; Whong, Wen-Zong; Nath, Joginder; Ong, Tong-man (1998). “Inhibition of methotrexate-induced chromosomal damage by folinic acid in V79 cells”. Mutation Research/Fundamental and Molecular Mechanisms of Mutagenesis 397 (2): 221–8. doi:10.1016/S0027-5107(97)00216-9. PMID 9541646. 
  2. ^ http://www.jbc.org/content/200/1/223.full.pdf Citrovorum factor discovery
  3. ^ WHO Model List of EssentialMedicines”. World Health Organization (October 2013). 22 April 2014閲覧。
  4. ^ Goldman ID, Matherly LH (1987). “Biochemical Factors in the Selectivity of Leucovorin Rescue: Selective Inhibition of Leucovorin Reactivation of Dihydrofolate Reductase and Leucovorin Utilization in Purine and Pyrimidine Biosynthesis by Methotrexate and Dihydrofolate Polyglutamates”. NCI monographs 5: 17-26. PMID 2448654. 
  5. ^ Therapeutic Information Resources Australia (2004). Calcium Folinate (Systemic) in AUSDI: Australian Drug Information for the Health Care Professional. Castle Hill: Therapeutic Information Resources Australia.
  6. ^ http://www.cancercare.on.ca/pdfdrugs/leucovo.pdf[要文献特定詳細情報]
  7. ^ McGuire, B. W.; Sia, L. L.; Leese, P. T.; Gutierrez, M. L.; Stokstad, E. L. (1988). “Pharmacokinetics of leucovorin calcium after intravenous, intramuscular, and oral administration”. Clinical pharmacy 7 (1): 52–8. PMID 3257913. 
  8. ^ 川西正祐, 中瀬一則, 大井一弥 編『腫瘍薬学』南山堂、2010年。ISBN 978-4-525-72651-5 
  9. ^ Trissel, L. A.; Martinez, J. F.; Xu, Q. A. (1995). “Incompatibility of fluorouracil with leucovorin calcium or levoleucovorin calcium”. American journal of health-system pharmacy 52 (7): 710–5. PMID 7627739. 
  10. ^ Razavi, B; Lund, B; Allen, B. L.; Schlesinger, L (2002). “Failure of trimethoprim/sulfamethoxazole prophylaxis for Pneumocystis carinii pneumonia with concurrent leucovorin use”. Infection 30 (1): 41–2. PMID 11876516. 
  11. ^ Shea, Beverley; Swinden, Michael V; Tanjong Ghogomu, Elizabeth; Ortiz, Zulma; Katchamart, Wanruchada; Rader, Tamara; Bombardier, Claire; Wells, George A et al. (2013). “Folic acid and folinic acid for reducing side effects in patients receiving methotrexate for rheumatoid arthritis”. Cochrane Database of Systematic Reviews 5: CD000951. doi:10.1002/14651858.CD000951.pub2. PMID 23728635. 
  12. ^ Drugs.com (2008年5月7日). “FDA Approves Levoleucovorin”. 2009年6月7日閲覧。
  13. ^ Ellis JM, Tan HK, Gilbert RE, et al (March 2008). “Supplementation with antioxidants and folinic acid for children with Down's syndrome: randomised controlled trial”. BMJ 336 (7644): 594–7. doi:10.1136/bmj.39465.544028.AE. PMC 2267988. PMID 18296460. http://bmj.com/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=18296460. 
  14. ^ http://www.adelaidenow.com.au/lifestyle/sa-lifestyle/how-a-vitamin-cured-my-anxiety-elisa-blacks-story-of-lifelong-struggle-and-new-hope-for-the-future/story-fnizi7vf-1227251037624
  15. ^ Jardine, LF et al (1996). “Intrathecal Leucovorin After Intrathecal Methotrexate Overdose”. J Pediatr Hematol Oncol 18 (3): 302–304. doi:10.1097/00043426-199608000-00014. PMID 8689347. http://www.jpho-online.com/pt/re/jpho/abstract.00043426-199608000-00014.htm. 

外部リンク

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