ロバート・ファン・ヒューリック
表示
ロバート・ハンス・ファン・ヒューリック(Robert Hans van Gulik、1910年8月9日 - 1967年11月24日)は、オランダの外交官、東洋学者、推理小説家。ヴァン・グーリック、ファン・フーリク、ファン・フーリック等の表記もある。
人物
[編集]オランダ東部のヘルダーランド州ズトフェン出身。オランダ陸軍軍医の五男として生まれ、幼年期をオランダ領東インド(インドネシア)のバタヴィア(ジャカルタ)などで過ごした。ライデン大学卒業後に、ユトレヒト大学大学院で学ぶ。東洋学博士号を取得後、オランダ外務省入省。
1938年、駐日オランダ公使館書記官として来日。東京芝の大使館2階の書斎を「集義斉」と銘し、勤務の傍ら唐名「高羅佩」・字「芝臺」として古琴や篆刻等を嗜み、東洋に関する幅広い造詣から和漢書等の収集及び研究等も行った。
太平洋戦争の勃発によって一時収容された後、中国に渡り在中大使館に勤務。この際にタイピストの中国女性と出会い、結婚する。
第二次世界大戦終結後に再来日。中国の「公案小説」をモデルに、1951年の『迷路の殺人』をはじめとする狄仁傑(ディー判事)が主人公の推理小説を発表した。
1965年、在日オランダ大使として再び来日。1967年、肺癌のため帰国し、同年9月4日にハーグで死去。
在日中は、江戸川乱歩とも交流があり、また語学の天才で15か国語に通じていた。「ディー判事シリーズ」の一部の作品の中国語訳も自身で担当している。
作品
[編集]長編
[編集]- "The Chinese maze murders" (1952)
- "The Chinese bell murders" (1958)
- 『中国梵鐘殺人事件 ディー判事』(松平いを子訳、三省堂, 1989年、大室幹雄解説)、グーテンベルク21あり
- 『江南の鐘』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2008年) ISBN 9784150018160
- "The Chinese gold murders" (1959)
- 『黄金の殺人』(沼野越子訳、東都書房, 1965年)
- 『中国黄金殺人事件 ディー判事』(大室幹雄訳・解説、三省堂, 1989年)、グーテンベルク21あり
- 『東方の黄金』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2007年) ISBN 9784150018047
- "The Chinese lake murders" (1960)
- 『中国湖水殺人事件 ディー判事』(大室幹雄訳・解説、三省堂, 1989年)、グーテンベルク21あり
- 『水底の妖』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2009年) ISBN 9784150018290
- "The Chinese nail murders" (1961)
- 『中国鉄釘殺人事件 ディー判事』(松平いを子訳、三省堂, 1989年、解説大室幹雄)、グーテンベルク21あり
- 『北雪の釘』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2006年) ISBN 415001793X
- "The Red pavilion" (1961)
- 『紅楼の悪夢』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2004年) ISBN 4150017522
- "The Haunted monastery" (1961)
- 『雷鳴の夜』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2003年) ISBN 4150017298
- "The Lacquer screen" (1962)
- 『四季屏風殺人事件 ディー判事』(松平いを子訳、中央公論新社[中公文庫], 1999年)、グーテンベルクあり
- 『螺鈿の四季』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2010年) ISBN 9784150018320
- "The Emperor's pearl" (1963)
- 『白夫人の幻』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2006年) ISBN 4150017891
- "The Given Day" (1964)
- ※未訳 ディー判事の登場しない現代ミステリ
- "The Willow pattern" (1965)
- 『柳園の壺』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2005年) ISBN 4150017743
- "The Phantom of the temple" (1966)
- 『紫雲の怪』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2008年) ISBN 9784150018092
- "Murder in canton" (1966)
- 『南海の金鈴』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2006年) ISBN 4150017816
- "Necklace and calabash" (1967)
- 『真珠の首飾り』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2001年) ISBN 4150016984
- "Poets and murder" (1968)
- 『観月の宴』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2003年) ISBN 4150017441
中・短編集
[編集]- "The Monkey and the tiger" (1965)
- 『寅申の刻』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2011年) ISBN 9784150018443
- 「通臂猿の朝」「飛虎の夜」の2編を収録
- 『寅申の刻』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2011年) ISBN 9784150018443
- "Judge Dee at work" (1967)
- 『五色の雲』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2005年) ISBN 4150017638
- 「五色の雲」「赤い紐」「鶯鶯の恋人」「青蛙」「化生燈」「西沙の柩」「すりかえ」「小宝」の8編を収録
- 『五色の雲』(和爾桃子訳、早川書房[ハヤカワ・ミステリ], 2005年) ISBN 4150017638
翻訳・論考
[編集]- Dee Goong An: three murder cases solved by judge Dee (1949)
- ※ディー判事シリーズの原案となった公案小説『狄公案』の英訳。日本で出版された。
- "Sexual life in ancient China" (1961)
- "The Gibbon in China" (1967)
日本語未訳・論考
[編集]- A Blackfoot-English Vocabulary Based on Material from the Southern Peigans, with Christianus Cornelius Uhlenbeck. (Amsterdam, 1934)
- The Lore of the Chinese Lute: An Essay in Ch'in Ideology (1941)
- Hsi K'ang and His Poetical Essay on the Lute (1941)
- Erotic Colour Prints of the Ming Period (Privately printed, Tokyo, 1951)
- Siddham: An Essay on the History of Sanskrit Studies in China and Japan (1956)
- Chinese Pictorial Art, as Viewed by the Connoisseur (Limited edition of 950 copies, Rome, 1958)
評伝
[編集]- 中野美代子「『ディー判官もの』の作者」 - 『仙界とポルノグラフィー』(青土社, 1989年)
- 中野美代子「訳者あとがき」 - 『中国のテナガザル』(博品社, 1992年)
- 鶴ヶ谷真一「唐代のミステリー」 - 『書を読んで羊を失う』(白水社, 1999年、平凡社ライブラリー, 2008年)
脚注
[編集]