ワルザザート太陽熱発電所
ワルザザート太陽熱発電所(ワルザザートたいようねつはつでんしょ)は、モロッコ中部のワルザザート近郊にある太陽熱発電所である。モロッコの公用語であるアラビア語で「光」を意味する「نور」(ヌール)を冠して、地元では単に「ヌール発電所」と呼ばれる場合もある。
背景
[編集]ワルザザートは険しいオートアトラス山脈の南側に形成された内陸の町であり、乾燥した気候である。雨は少なく、太陽光を受けるには適した気候である。また、緯度も北緯31度よりも南と、充分に低緯度に位置しており、強い日射が望める[注釈 1]。
21世紀初頭の段階でも、モロッコは原油や天然ガスが少しは産出していたものの、特に原油は輸入を行っていた状態だった[1]。2009年の段階で、モロッコの貿易収支は赤字であり、328億ドルの輸入額の6.5パーセントを占めていた[1][注釈 2]。
一方で、発電に関しては、2008年の段階で、モロッコの1年間の総発電量は約20300 GW・hであった中で、水力発電が6.7パーセント、風力発電が1.4パーセントで、残りの大部分の91.9パーセントが火力発電によって賄われていた[1]。
発電所概要
[編集]この発電所は、太陽熱を利用して汽力発電を行う複数の発電機が備えられており、さらに溶融塩を利用した蓄熱装置も装備している。これらが主力設備であり、2019年4月現在、合計で最大で510 MWの出力を擁する。また、これらとは別に太陽電池による発電パネルも併設して、昼間の電力供給を補っている。つまり、その分で太陽熱発電機の出力に回す太陽熱を、蓄熱装置へと蓄えられる事を意味する。蓄熱装置に蓄えた太陽熱は、夜間など太陽熱が得られない時間帯に利用して、汽力発電を実施する。
なお、2019年4月の段階で、この発電所の敷地面積は、25 km2に達していた。
発電所の建設は、スペインの企業共同体の協力を得て、モロッコ太陽エネルギー庁(MASEN)も関与したワルザザート太陽共同体(Ouarzazate Solar Complex)によって行われた。
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2013年12月
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2015年12月
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2019年3月
1号機
[編集]ワルザザート太陽熱発電所の第1期工区として建設された場所である[2]。地面に多数の放物線形状の凹面を有した凹面鏡を並べて、太陽光を集めて熱を得る、いわゆる「パラボリックトラフ式」である。約4.5 km2の敷地に、約50万枚の凹面鏡が並べられており[3]、最大で160 MWの出力が可能である。また、夜間でも約3時間の発電が可能な溶融塩を使用した蓄熱装置も備える[4][5]。1号機は2016年2月5日にモロッコの電力網に組み込まれ、商業運転を開始した[6]。開業までに1号機に費やした費用は、約39億ドルであった[7]。なお、運転開始時点で、1 kW・hの発電を行うために、約0.19ドルの費用を必要としていた[8]。
復水器が水冷式
[編集]ワルザザートは乾燥した気候であり、普通であれば、そのような場所で汽力発電を行う場合には、空冷式の復水器を使用する事例が目立つ。しかし、1号機の復水器は水冷式である。さらに、凹面鏡の洗浄にも水を使用し、最大で1年間に1700 kLの水を使用する[9][注釈 3]。
これが可能だった理由は、ワルザザート付近にはドラア川が流れており、その水を利用できるからである。ただし、2号機と3号機の復水器は、水冷式ではなく空冷式である。
発電実績
[編集]2017年の1号機の発電実績は、次の通りであった[10][11]。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 合計 |
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30.26144 | 19.41825 | 48.60563 | 40.37602 | 45.44562 | 33.36919 | 42.27652 | 30.85000 | 41.20518 | 31.97398 | 22.68940 | 27.62856 | 414.0998 |
参考までに、1年間の発電目標としていた電力量の合計は、370 GW・hであった[12]。
2号機
[編集]2号機は、ワルザザート太陽熱発電所の第2期工区として建設された場所の中の1区画である[13]。2号機の建設は2016年2月に開始され[14]、2018年1月に稼働を開始した[15][16]。集光方式は1号機と同じくパラボリックトラフ式であり、約6.8 km2の敷地を使用し、最大で200 MWの出力が可能で、さらに、夜間でも約7時間の発電が行える蓄熱装置を備えている[14]。
なお、1号機とは異なり、水の使用量を節約するため、2号機は空冷式の復水器を装備している[17]。
3号機
[編集]2号機と同様に、3号機もワルザザート太陽熱発電所の第2期工区として建設された場所の中の1区画である[13]。しかしながら、3号機は2号機と異なり、集光方式は集光タワーを用い、これに約7時間の発電が行える蓄熱装置を組み合わせた[18]。敷地面積は、約5.5 km2であり、2018年3月に太陽光を集光タワーに反射するための地上の鏡の設置を終えた[19]。しかし、その後も集光タワーの建造は続き、さらに改良を行っていった。これにより、最大で150 MWの出力を可能にした[20]。結局、商業運転を開始したのは、2018年11月であった[21]。さらに、2018年12月には、太陽光を10日間にわたって集光タワーに集めない状態にしておき[注釈 4]、その後、10日前までに蓄熱装置へと蓄えておいた熱を利用して、汽力発電する試験にも成功した[22]。
なお、3号機も2号機と同様に、水の使用量を節約するため、空冷式の復水器を装備している[17]。
4号機
[編集]2017年に建設計画が発表された[23]。ただし、4号機と番号が振られているものの、これは太陽熱発電設備ではなく、太陽電池を用いた太陽光発電の設備である[24]。
太陽電池パネルの増設を行い、72 MWの出力を確保する予定である[7][23]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ List of solar thermal power stationsを見ると、北緯40度程度までは太陽熱発電所が分布していると判る。中緯度高圧帯の影響で、晴天が望める緯度なども関係する。
- ^ 2009年のモロッコの輸出額は、137億ドルだった。
- ^ 元来、人名に由来しないリットルは「l」と小文字で書くべきだが、見間違えが起こり易いやめ「L」と大文字で表記した。
- ^ 集光タワーを用いる方式は、heliostatと呼ばれる地上で太陽の動き追尾する反射鏡を用いて、太陽光を集光タワーの頭頂部に向けて反射し続け、集光タワーの頭頂部において高温を得る。したがって、太陽の追尾機能を切っておけば良いだけなので、集光タワーに太陽光を集めない事は、簡単に実現できる。
出典
[編集]- ^ a b c 二宮書店編集部 『Data Book of The WORLD (2012年版)』 p.317 二宮書店 2012年1月10日発行 ISBN 978-4-8176-0358-6
- ^ “Ouarzazate Solar Power Complex, Phase 1 (Morocco) Specific Environmental and Social Impact Assessment” (PDF). afdb.org. 2019年7月8日閲覧。
- ^ “Morocco's Massive Desert Solar Project Starts Up”. MIT Technology Review. 2016年2月9日閲覧。
- ^ “Saudi Power Developer Gives Spanish Firms Work in Morocco” (30 April 2013). 2021年8月31日閲覧。
- ^ “King Mohammed VI to Inaugurate ‘Noor’ Solar Plant in Ouarzazate”. moroccoworldnews.com (26 December 2015). 2019年7月8日閲覧。
- ^ Vorrath, Sophie (2016年2月5日). “First 160MW of huge Noor solar thermal plant connected to Moroccan grid”. RenewEconomy. 2016年7月19日閲覧。
- ^ a b Neslen, Arthur (2016年2月4日). “Morocco to switch on first phase of world's largest solar plant” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077 2016年2月7日閲覧。
- ^ “Morocco starts production at 160 MW solar plant - Agricultural Commodities -Reuters”. af.reuters.com. 2016年2月8日閲覧。
- ^ “Ouarzazate Solar Power Complex, Phase 1
Morocco
Specific Environmental and Social Impact Assessment
Volume 1” (PDF). masen.org.ma. 2019年7月8日閲覧。 - ^ « These data were given by a student that made his internship in Nomac » , April 23th, 2019
- ^ « Nomac » , January 2019
- ^ “Project Ourzazate Solar Power Station – Phase I
Country: Kingdom of Morocco
Project Appraisal Report
Date: April 2012” (PDF). afdb.org. 2021年8月31日閲覧。 - ^ a b “Ouarzazate Solar Complex Project – Phase II (NOORo II AND NOORo III power plants)” (PDF). 2021年8月31日閲覧。
- ^ a b “Concentrating Solar Power Projects - NOOR II | Concentrating Solar Power | NREL”. www.nrel.gov. 1 December 2016閲覧。
- ^ “Concentrating Solar Power Projects - NOOR II | Concentrating Solar Power | NREL” (英語). www.nrel.gov. 26 February 2018閲覧。
- ^ “Morocco’s Noor II Begins Synchronization to Grid”. Zawya. (2018年1月14日) 2018年1月14日閲覧。
- ^ a b “Project: Ouarzazate Solar Power Station Project II
Country: Morocco
Summary environmental and social impact assessment” (PDF). afdb.org. 2021年8月31日閲覧。 - ^ “Concentrating Solar Power Projects - NOOR III”. solarpaces.nrel.gov. 12 December 2018時点のオリジナルよりアーカイブ。12 December 2018閲覧。
- ^ “World's second utility-scale 24/7 tower CSP, Noor III commissions solar field”. www.eurekalert.org (11 March 2018). 12 March 2018時点のオリジナルよりアーカイブ。12 December 2018閲覧。
- ^ “First synchronisation of phase III of the world’s largest CSP”. www.modernpowersystems.com (28 October 2018). 12 December 2018時点のオリジナルよりアーカイブ。12 December 2018閲覧。
- ^ “Noor Ouarzazate III central receiver concentrated solar power plant with storage completes its reliability test” 11 November 2018閲覧。
- ^ “Moroccan Molten Salt Tower Project Clears Reliability Test”. www.powermag.com (2 December 2018). 12 December 2018閲覧。
- ^ a b “Noor IV lancée, parachevant la méga-centrale solaire de Ouarzazate” (英語). Le Desk (2017年4月1日). 2019年3月24日閲覧。
- ^ “Morocco to complete Noor Ouarzazate solar complex by mid-2018” (英語). Renewablesnow.com 2018年11月22日閲覧。
外部リンク
[編集]ウィキメディア・コモンズには、ワルザザート太陽熱発電所に関するカテゴリがあります。