上野市ビジネスホテル従業員強盗殺人事件
最高裁判所判例 | |
---|---|
事件名 | 強盗殺人被告事件 |
事件番号 | 平成26(あ)749 |
2015年(平成27年)12月3日 | |
判例集 | 刑集 第69巻8号815頁 |
裁判要旨 | |
公訴時効を廃止するなどした「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)の経過措置として,同改正法律施行の際公訴時効が完成していない罪について改正後の刑訴法250条1項を適用する旨を定めた同改正法律附則3条2項は,憲法39条,31条に違反せず,それらの趣旨にも反しない。 | |
最高裁判所第一小法廷 | |
裁判長 | 櫻井龍子 |
陪席裁判官 | 山浦善樹・大谷直人・小池裕 |
意見 | |
意見 | 全員一致 |
参照法条 | |
憲法31条,憲法39条,刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律(平成22年法律第26号)附則3条2項,刑法等の一部を改正する法律(平成16年法律第156号)附則3条2項,刑訴法(平成16年法律第156号による改正前のもの)250条,刑訴法250条1項 |
上野市ビジネスホテル従業員強盗殺人事件(うえのしビジネスホテルじゅうぎょういんごうとうさつじんじけん)とは、1997年に発生した強盗殺人事件。
概要
[編集]1997年4月13日未明に三重県上野市(現在の伊賀市)のビジネスホテルでフロント係の従業員(48歳)がフロント奥の事務室金庫から3日分の売上金約159万円を奪われた末に二十数か所を刃物のようなもので刺されて出血多量で死亡した[1][2]。扉などに手形の血痕が付着しており、カウンターのレジスターにも物色した跡があった[1]。被害者は仮眠用のトレーニングウエア姿で、裸足だったことから、仮眠中に刃物で脅され、金庫の開け方を教えた後に殺害されたものとみられた[1]。三重県警は強盗殺人事件として上野署に特捜本部を設置した[1]。
強盗殺人罪の公訴時効は当時15年であり、時効成立まであと2年を切った2010年4月27日に殺人罪と強盗殺人罪の公訴時効を廃止し、公訴時効が成立していない過去の事件にも遡及する法案が国会で成立し、同日に施行されたことで、同事件の公訴時効は廃止された。
三重県警によってDNA鑑定をやり直し、遺留物と型が一致した元ホテル従業員の工員が犯人と特定されて、2013年2月1日に逮捕され、2月23日に起訴された[2][3][4]。2010年の殺人罪の公訴時効廃止を受け捜査本部が継続された事件で、被疑者が割り出され、逮捕された初のケースとなった[3]。
2013年11月14日から津地裁で裁判員裁判が開かれ、11月22日に「被害者の上半身を集中的に刺し、深さ5センチメートル以上の傷だけでも23ヶ所あった。執拗かつ残虐。」「当初は窃盗目的だったが、殺害後すぐに現金を奪うなど冷酷な犯行。酌量の余地はない。」として検察の求刑通り無期懲役の判決を言い渡した[2][5]。弁護側は控訴したが、2014年4月24日に名古屋高裁は控訴を棄却。弁護側は上告した。
弁護側は「事件当時は時効が15年だったのに、改正で遡って時効を廃止にしたのは(事後に定めた法律によってさかのぼって違法とする)遡及処罰を禁止した憲法第39条に違反する。時効成立を認めるべきだ。」と主張したが、2015年12月3日に最高裁は「時効撤廃は憲法で禁止された違法性の評価や責任の重さを遡って変更するものではなく、被疑者や被告人になる可能性のある人物の既に生じていた法律上の地位を著しく不安定にする改正ではない」と退けて時効成立を認めずに上告を棄却し、無期懲役の判決が確定した[6]。
脚注
[編集]- ^ a b c d 「ホテルマンを殺害 仮眠中脅す? 金庫の150万円強奪/三重・上野」『読売新聞』読売新聞社、1997年4月15日。
- ^ a b c 「16年前のホテル強盗殺人 初公判 津地裁」『産経新聞』産経新聞社、2013年11月14日。
- ^ a b 「16年前の強盗殺人容疑で逮捕 三重、現場ホテルの元従業員を」『共同通信』共同通信社、2013年2月1日。
- ^ 「16年前の強盗殺人罪で起訴 伊賀の現場ホテル元従業員」『共同通信』共同通信社、2013年2月22日。
- ^ 「16年前の強盗殺人で無期 津地裁「残虐、酌量の余地ない」」『西日本新聞』西日本新聞社、2013年11月22日。
- ^ 「「殺人の時効廃止は合憲」と最高裁 初適用の強盗殺人被告、無期懲役が確定へ」『産経新聞』産経新聞社、2015年12月3日。