中村保男
中村 保男(なかむら やすお、1931年12月21日 - 2008年12月9日)は日本の翻訳家、作家。
人物
[編集]東京府生まれ。1955年東京大学文学部英文科卒業、1958年同大学院修士課程修了。在野の福田恆存に師事し、1957年福田を中心に沼沢洽治、谷田貝常夫、横山恵一と読書会「蔦の会」を結成する。
初期の訳書では、福田と共訳のコリン・ウィルソン『アウトサイダー』(1957年)、G・K・チェスタートン「ブラウン神父シリーズ」(1959 - 1961年)が代表的である。単独では伝記の『フランクリン』(R・バーリンゲーム、時事通信社、1956年)、小説の『苦力』(マルク・ラジ・アナンド、新潮社、1957年)などが挙げられる。1960年代から1990年代にかけて安定したペースで翻訳を継続し、訳書の総計はフィクション(主にSFとミステリー)だけで100を超える。シルヴァーバーグ『時間線を遡って』、J・G・バラード『燃える世界』、パングボーン『オブザーバーの鏡』など、創元推理文庫SF部門の初期を飾る名作SF群を手がけた。 ミステリーでは前述した「ブラウン神父シリーズ」を初め、フレドリック・ブラウン、ハドリー・チェイス(en)、ピーター・ラヴゼイ等がある。小説以外の翻訳としてはオルダス・ハクスレー『永遠の哲学』(平河出版、1988年)やコリン・ウィルソンによる複数の思想書などがある。
著書としては、主に英語と翻訳に関するものが約20冊ある。中・高校生向の『英語なぞなぞ集』、一般向けの『翻訳の技術』、専門家向けの『翻訳の秘訣』など。
翻訳業と併行し、立教大学、慶應義塾大学、早稲田大学、白鷗大学などで大学講師として働いた。
2008年12月9日、埼玉県さいたま市の病院にて肺炎により死去[1]。76歳没。
著書
[編集]- 『翻訳の技術』(中公新書) 1973年
- 『楽しむ英語』(中公新書) 1975年
- 『言葉は生きている』(聖文社) 1978年
- 『イメージとしての英語 - 超辞書的英語征服術』(日本翻訳家養成センター、Babel双書) 1981年
- 『翻訳の秘訣 - 理論と実践』(新潮選書) 1982年
- 『ユーモア辞典』(中央公論社、C books) 1982年
- 『翻訳はどこまで可能か』(ジャパンタイムズ) 1983年
- 『実用英語サクセス和英表現辞典』(日本英語教育協会) 1985年
- 『英訳日本語らしい表現660』(日本英語教育協会) 1986年
- 『英語なぞなぞ集』(岩波ジュニア新書) 1987年
- 『名訳と誤訳』(講談社現代新書) 1989年
- 『現代翻訳考- 超訳・名訳・誤訳を読む』(ジャパンタイムズ) 1992年
- 『続・英和翻訳表現辞典』(研究社出版) 1994年
- 『中村保男の使えますか、この英語』(研究社出版) 1995年
- 『日英類義語表現辞典』(三省堂) 1998年
- 『創造する翻訳 - ことばの限界に挑む』(研究社出版) 2001年
- 『英和翻訳の原理・技法』(日外アソシエーツ) 2003年
- 『絶対の探求 - 福田恆存の軌跡』(麗澤大学出版会) 2003年
共著
[編集]- 『英和翻訳表現辞典』1 - 3(谷田貝常夫共著、研究社出版) 1978 - 1982年
- 『「大学入試」英語長文要約法』(谷田貝常夫共著、三省堂) 1994年
主な翻訳
[編集]ミステリー
[編集]- チェスタートン
- 『第二の男』(エドワード・グリアスン、福田恆存と共訳、東京創元社、現代推理小説全集10)1957年
- 『リトモア少年誘拐』(ヘンリー・ウェイド、東京創元社、クライム・クラブ5) 1958年、のち創元推理文庫
- 『モーテルの女』(フレドリック・ブラウン、東京創元社、創元推理文庫) 1975年
- 『裁判』上・下(V・ビューグリオシー、創林社) 1979年
- 『ソフト・センター』(ハドリー・チェイス、東京創元社、創元推理文庫) 1976年
- 『キーストン警官』(ピーター・ラブゼイ、早川書房、ハヤカワ・ミステリ文庫) 1985年
- 『ロケーションの女』(ハワード・エンゲル、早川書房、ハヤカワ・ミステリ文庫) 1986年
- 『殿下と七つの死体』(ピーター・ラブゼイ、早川書房、ハヤカワ・ミステリ文庫) 1991年
SF
[編集]特記せぬ場合は東京創元社、のち創元推理文庫(一部はのちに創元SF文庫へ)
- 『スポンサーから一言』(フレドリック・ブラウン、東京創元社) 1961年、のち文庫
- 『明日プラスx』(ウィルスン・タッカー、創元推理文庫) 1965年
- 『非Aの世界』(ヴァン・ヴォークト) 1966年
- 『宇宙の一匹狼』(フレドリック・ブラウン) 1966年
- 『死の世界』1 - 3(ハリー・ハリスン) 1967 - 1969年
- 『オブザーバーの鏡』(エドガー・パングボーン) 1967年
- 『結晶世界』(J・G・バラード) 1969年
- 『宇宙をぼくの手の上に』(フレドリック・ブラウン) 1969年
- 『燃える世界』(J・G・バラード) 1970年
- 『ウィリアム・テン短編集』1 - 2(ウィリアム・テン(en)) 1973年
- 『年刊SF傑作選 1』(ジュディス・メリル編) 1976年
- 『1985年』(アンソニー・バージェス、サンリオ) 1979年
コリン・ウィルソン
[編集]- 『ガラスの檻』(新潮社) 1967年
- 『夢見る力 - 文学と想像力』(竹内書店) 1968年
- 『オカルト』上・下(新潮社) 1973年
- 『黒い部屋』(新潮社) 1973年
- 『純粋殺人者の世界』(新潮社) 1974年
- 『新時代の文学』(福村出版) 1976年
- 『宇宙ヴァンパイアー』(新潮社) 1977年
- 『賢者の石』(東京創元社、創元推理文庫SF) 1982年
- 『フランケンシュタインの城 - 意識のメカニズム』(平河出版社) 1984年
- 『ルドルフ・シュタイナー - その人物とビジョン』(河出書房新社) 1986年
- 『コリン・ウィルソン評論集 - 新楽観主義を求めて』(扶桑社) 1987年
- 『現代の魔術師 - クローリー伝』(河出書房新社) 1988年
- 『コリン・ウィルソンのすべて - 自伝』上・下(河出書房新社) 2005年
その他のフィクション
[編集]- 『苦力』(マルク・ラジ・アナンド、新潮社) 1957年
- 『ホロコースト』上・下(ジェラルド・グリーン、パシフィカ) 1978年
- 『癒されぬ傷』(リー・グルーエンフェルド、TBSブリタニカ) 1994年
- 『エイリアニスト』(ケイレブ・カー、早川書房、ハヤカワ文庫NV) 1995年
- 『少年ピーターのささやかな冒険』(エリック・クラフト、新潮社、新潮・現代世界の文学) 1997年
- 『ロス・アラモス運命の閃光』上・下(ジョゼフ・キャノン、早川書房、ハヤカワ文庫NV) 1998年
- 『再開』(エリザベス・リチャーズ、飛鳥新社) 1998年
- 『誇りへの決別』(ギャビン・ライアル、早川書房、ハヤカワ文庫NV) 2000年
その他のノンフィクション
[編集]- 『フランクリン』(R・バーリンゲーム、時事通信社) 1956年
- 『空想動物園 - 神話・伝説・寓話の中の動物たち』(A・S・マーカタンテ、文化放送) 1976年
- 『冒険の文学 - 西洋世界における冒険の変遷』(ポール・ツヴァイク、文化放送開発センター出版部) 1976年、のち法政大学出版局、教養選書 1990年
- 『ブレザレン - アメリカ最高裁の男たち』(ボブ・ウッドワード、TBSブリタニカ) 1981年
- 『ベルリッツの世界言葉百科』(チャールズ・ベルリッツ、新潮社、新潮選書) 1983年
- 『サイエンス・アドベンチャー』上・下(カール・セーガン、新潮社、新潮選書) 1986年
- 『永遠の哲学 - 究極のリアリティ』(オルダス・ハクスレー、平河出版社) 1988年
- 『教養が、国をつくる。アメリカ建て直し教育論』(E・D・ハーシュ、TBSブリタニカ) 1989年
- 『男らしさの心理学』(ロバート・ムーア、ジャパンタイムズ) 1993年
- 『アメリカ教養辞典』(E・D・ハーシュ、川成洋共訳(監訳)、丸善) 1997年
- 『はじめての死体解剖 - 医学部新入生の16週間』(A・H・カーター、飛鳥新社) 1999年
関連項目
[編集]主要参考文献
[編集]- 『翻訳の技術』(1979年第8刷)
- 『翻訳の秘訣』(初版)
脚註
[編集]- ^ 「アウトサイダー」など翻訳、中村保男さん死去 朝日新聞 2008年12月9日閲覧