代脈
代脈(だいみゃく)は、古典落語の演目の一つ。原話は、元禄10年(1697年)に出版された笑話本「露鹿懸合咄」の一編である「祝言前書」。
主な演者には、6代目 三遊亭圓生や3代目 古今亭志ん朝、3代目 桃月庵白酒、上方では6代目 笑福亭松鶴や3代目 笑福亭仁鶴などがいる。
あらすじ
[編集]主人公は、江戸は中橋に住む名医、尾台良玄の内弟子で銀南という男。
幼少時は利発だったが、大人になった今は単なる『色ボケ』であり、頭も鈍くなってきたため玄関番しか勤まらない。
先生も見かね、何とか一人前に育てようと、銀南に「代脈」に行くように命じた。
「ダイミャクぅ?」
医者の代わりの弟子が診療に行き、脈を取ってきて先生に報告する…ということなのだが、当然、銀南には分からない。
患者は蔵前の伊勢屋という豪商であり、銀南が失敗したらそのまま失業しかねない。
「いいか、御嬢さんのおなかにシコリがあるが、こいつは決して触ってはならない。…というのはな、このシコリを触るとオナラが出るんだよ」
もし間違って触ったら、こう言ってごまかすように。
「『この頃は、のぼせの加減で耳が遠くなっております。おっしゃりたいことがありましたら、ちと大声でお願いします』」
先生は、銀南に医者の心得から返事の仕方まで教え、少しでも箔をつけようと駕籠に乗せて送り出した。
「やっとお医者さんみたいな事が出来るなぁ♪」
大喜びしている銀南を乗せ、駕籠は蔵前へと到着した。
「若先生、お待ちしていました!」
伊勢屋総出のお出迎えに、びっくりした銀南はつい何時もの調子で「へいへーい!」と答えてしまう。慌てて言い直して「はいはい」…。
「そんなにそっくり返って、若先生、具合でもお悪いのでしょうか?」
座敷に上がっても、先生が言っていた『羊羹なんかが出てきても、食べ飽きたふりをして手を出すな』という言葉がちらついて涙ぐむなど銀南の暴走は止まらない。
やっと病間へやってきたが、お嬢さんと猫の前足を取り違えて診察したりするため、番頭もだんだん不安になってきた。
「若先生、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ。まず脈を見て…エヘヘ、キチンと生きていますね。次はおなかを…ん? これがシコリか。どれどれ…?」
止せばいいのにグッと押したものだから、たちまちものすごい音が響き渡った。
「ア…ヒャ…!! お、奥さん、何かあったら大声でおっしゃってください。最近、のぼせの加減で耳が遠くなっておりますので…」
「ホゥ、大先生もそのようなことを仰ってましたが、若先生ものぼせでございますか?」
「ええ。ですから、さっきのオナラも聞こえませんでした!」
概要
[編集]『青菜』や『新聞記事』と同じく、教えられたとおりに実践しようとし、結局ハチャメチャにしてしまう『オウム』と言うパターンの噺である。
原話は医者の機転を称賛した内容であるが、それを一ひねりして大失敗の落語に仕立てている。先生が医者の心得を教える件から笑いの要素がいっぱいであり、非常に賑やかな噺となった。