イボタ蝋
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(会津蝋から転送)
イボタ蝋(イボタろう、英語:Chinese wax)または会津蝋(あいづろう)は、白色から黄色がかった白色で、ゼラチン質、結晶性、水に不溶な物質である。ある種の昆虫から分泌される蝋から得られる。鯨蝋に似ているが、より硬く、より脆く、より融点が高い。
生成方法
[編集]中国やインドに生息するツノロウムシと、中国や日本で見られるイボタロウムシという2種のカイガラムシが生産する。これらの昆虫は、イボタノキ属の枝の上に分泌物を堆積させる。昆虫と堆積物を収穫し、水で煮て、蝋を抽出する。底に沈んだ昆虫は、豚の餌に利用する[1]。
ハーバード・ビアズリーは、1932年11月の『ネイチャー』誌に掲載された論文に、以下のように書いている[2]。
カ程の大きさの白い昆虫のオスの幼虫は、混じりけがなく輝く蝋の繭を作る。この昆虫の成長する木は、西昌市の谷にあり、そこでは、3月頃には、木の枝の上に、数えきれないほどの昆虫を含む、丸く茶色い繭を見ることができる。これらがその場所に留まると、餌が合わないため、最終的には死んでしまう。他の種類の植物に移動することができると、メスは卵を産み、幼虫は成長し、オスの幼虫は輝く宮殿を作って、蝋農家に利益をもたらす。そのため、3月下旬には、昆虫はアブラナの葉に縛られ、2つの大きな竹の籠に詰められたヒョウタンのような形の容器に入れられる。真昼の暑さに晒されるとさなぎの段階がすぐに終わってしまうため、その籠を肩にかけて、岩道や山を越え、夜間に農場のある地区まで運ぶ。昆虫の入った籠は農家に配布され、農家は、それをすぐに餌となる植物(通常は、高さ5-6フィートのマルバアオダモ)の上に置く。葉で作った小さな袋の中で昆虫を枝に結び、成虫が逃げ道を見つけられるように、尖っていない針で袋に穴を開ける。最初に出てきた際には、すぐに葉まで這いより、そこに2週間近く留まる。この後は散らばり、枝に沿って這うことを始める。6月初旬頃には、メスは卵を産み始め、8月には蝋の繭が形成されて、全ての枝と茎を覆う。9月初めには、全ての木は文字通り、4分の1程度の厚さの、混じりけのない白い蝋の層で覆われる。農家はそれを枝からこすり落とし、市場に出す準備をする。
利用
[編集]主にろうそく、寺院の絵画やその他の宗教儀式に関連する物品の製造、また家具を磨いて艶を出すために用いられる。さらに、掛軸の裏を磨いて艶を出すのにも、石と一緒に用いられる。
中国では、薬用としても使用され、内服薬として、しわがれ声、痛み、寄生虫、不安、骨折等の治療に用いられる。外用薬として、傷治療用の軟膏として用いられる。日本でも、イボタノキの蝋を飲むと咳が止まるという伝統的民間療法が長野県阿智村、喬木村などの周辺に残っている[3]。
日本では、会津地方が主産地であったため、会津蝋とも呼ばれ、ハマグリの碁石(白色)の手入れに用いられる[4]。
出典
[編集]- ^ “Chinese wax - insect secretion”. 2022年8月20日閲覧。
- ^ Herbert Beardsley, Nature Magazine article from November issue 1932
- ^ 『信州の民間薬』全212頁中79頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
- ^ “大石さんに聞いてみよし!『碁石の取り扱いと管理法!』”. www.tengudo.jp. 2023年6月7日閲覧。