コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

作用・角変数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

作用・角変数 (さよう・かくへんすう, action-angle variable) とは、解析力学において可積分な正準力学系に対して導入される、作用変数と角変数の組からなる正準変数のこと。

定義

[編集]

可積分系

[編集]

自由度の自励正準力学系がLiouvilleの意味で可積分であるとは、個の関数的に独立[注釈 1]孤立積分 () が存在し、互いにPoisson可換であること、すなわち

を満足することである[1][2]。このとき、リウヴィル=アーノルドの定理は、各積分 が値 を取る超曲面 が連結かつコンパクトであるならば、この曲面はトーラス と同相であること(Arnoldトーラスと呼ばれる)、そしてArnoldトーラスを含む近傍で定義された正準変数 が存在しハミルトニアン だけの関数になることを主張する[1][3]。この定理により保証される正準変数 が作用・角変数である[1][3]

変数分離系

[編集]

変数分離可能 (separable) な系に関しては、作用・角変数をより明示的に導入することができる。このような系では、適切な正準変数 を用いると、ハミルトンの特性関数 という形に書くことができる[4]。積分定数 の値が特定されると、各座標 が周期運動をするならば、その運動のパターンは次の二通りが可能である[5][6]

  • ある有界な範囲を周期的に運動する秤動 (libration)
  • 運動量が座標の周期関数となる回転 (rotaion)

このとき、定数 により定まる解軌道に沿った一周期に関する次の積分

により作用変数 (action variable) が定義できる[7][8][9][10][注釈 2]。この定義のもとでハミルトンの特性関数は という関数に読み替えることができ、この特性関数を母関数とする正準変換 により角変数 (angle variable)

が導入される[7][8][11]。角変数 は運動の一周期の間に 変化する[9][11]

性質

[編集]

Kronecker軌道

[編集]

作用・角変数 を用いるとき、系のハミルトニアンは であるため、正準方程式

となる。従ってその解はただちに

と求まる ( は定数)。従って は運動の角振動数である。この解がArnoldトーラス上に描く軌道をKronecker軌道と呼ぶ[3]

振動数 がすべて互いに有理数比にある場合には、解軌道 はArnoldトーラス上の周期軌道となる[12]。一方、そうでない場合には、解軌道はArnoldトーラスを稠密に埋め尽くし、準周期軌道 (qusi-periodic orbit) または条件周期軌道 (conditionally periodic orbit) と呼ばれる[12]

正準摂動論

[編集]

可積分ハミルトニアン に摂動 が加わったハミルトニアン

を取り扱うことはしばしばある。このような近可積分系に対して適用される正準摂動論は作用・角変数に立脚して定式化される。これは、非摂動ハミルトニアン に関する作用・角変数 から摂動後のハミルトニアンに関する作用・角変数 への正準変換 を摂動的に決定するというアイデアに基づいている[13][14]

断熱不変量

[編集]

作用変数 は、ハミルトニアンの断熱的な(運動の時間スケールに比べてゆっくりとした)変化に際して保存する断熱不変量になる[15]

具体例

[編集]

調和振動子

[編集]

1次元調和振動子は次のハミルトニアンにより記述される。

この系はエネルギー が保存するため可積分であり、ハミルトンの特性関数 はエネルギーを積分定数とする

という形に求まる。ここから調和振動子の作用・角変数は , と計算できる[16]

ケプラー問題

[編集]

3次元ケプラー問題のハミルトニアンは、球座標 を用いるとき変数分離系となる。

対応するハミルトンの特性関数は次式で与えられる。

系のエネルギーが負であるときには運動は有界であり、作用・角変数 は次のように求められる[17]

ここに は軌道長半径、 は軌道離心率、 は軌道傾斜角、 は平均近点離角、 は近点引数、 は昇交点黄経である。このときハミルトニアンは と表示される。なお、天体力学において用いられるドローニー変数ポアンカレ変数は、この作用・角変数に対して接触変換を施すことで得られる正準変数である[18]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 位相空間上で稠密な開集合が存在し、その各点で勾配 が一次独立であること。
  2. ^ ゴールドスタインは因子 を含めずに定義しているが、本記事ではそれ以外のすべての参考文献に従いこの因子を含めて定義する。

出典

[編集]
  1. ^ a b c 大貫&吉田, pp. 100-110.
  2. ^ 柴山, p. 70.
  3. ^ a b c 柴山, p, 72.
  4. ^ Lichtenberg & Lieberman, p. 21.
  5. ^ ゴールドスタイン, pp. 627-628.
  6. ^ Lichtenberg & Lieberman, p. 29.
  7. ^ a b 大貫&吉田, pp. 109-110.
  8. ^ a b ゴールドスタイン, pp. 629-630.
  9. ^ a b エリ・デ・ランダウ、イェ・エム・リフシッツ 著、広重徹, 水戸巌 訳『力学(増訂第3版)』東京図書、1974年、201-206頁。ISBN 978-4-489-01160-3 
  10. ^ Lichtenberg & Lieberman, pp. 21-22.
  11. ^ a b Lichtenberg & Lieberman, p. 23.
  12. ^ a b 柴山, pp. 73-75.
  13. ^ ゴールドスタイン, pp. 744-749.
  14. ^ Lichtenberg & Lieberman, pp. 78-80.
  15. ^ ゴールドスタイン, pp. 754-756.
  16. ^ 大貫&吉田, pp. 110-112.
  17. ^ ゴールドスタイン, pp. 646-660.
  18. ^ Murray, C. D.; Dermott, S. F. (2000). Solar System Dynamics. Cambridge University Press. pp. 59-60. ISBN 978-0521575973 

参考文献

[編集]
  • 大貫, 義郎、吉田, 春夫『岩波講座 現代の物理学〈1〉力学』(第2刷)岩波書店、1997年。ISBN 4-00-010431-4 
  • 柴山, 允瑠『重点解説ハミルトン力学系 : 可積分系とKAM理論を中心に』サイエンス社、2016年。ISSN 0386-8257 
  • ゴールドスタイン, H.『古典力学(下)』矢野忠、江沢康生、渕崎(訳)(原書第3版)、吉岡書店、2009年。ISBN 978-4-8427-0350-3 
  • Lichtenberg, Allan; Lieberman, Michael (1992). Regular and Chaotic Dynamics. Springer. doi:10.1007/978-1-4757-2184-3. ISBN 978-1-4757-2184-3 

関連項目

[編集]