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分子度

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

化学において分子度(英語:Molecularity)とは1つの素反応英語版)で反応に関わる分子の数を表し[1]、その素反応での反応物の化学量論的係数の合計に等しい[2]化学反応はいくつの分子が反応するかで、単分子反応、二分子反応、三分子反応などに分類される。

全ての素反応や反応段階反応次数は分子度に等しいため、素反応の反応速度式は分子度から決定できる[1]が、分子度は素反応や1段階の反応のみを記述するため、複合反応(多段階反応)ではこの理論を適用できない。

1分子反応

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1分子反応(単分子反応)は、1つの分子の結合が組み替えられて異なる分子に変わる反応である[1]。その化学式は以下のように表される。

この反応は反応速度式では次のように表される。

[A]は化学種Aの濃度、tは時間、kr速度定数を表す。 反応速度式からわかるように、分子Aが分解する速さはAの濃度に依存する。1分子反応の例としてシクロプロパン異性化がある[3]

シクロプロパンの異性化
シクロプロパンの異性化

1分子反応はリンデマン・ヒンシェルウッド機構で説明できる。

2分子反応

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2分子反応では、2つの原子や原子団が衝突してエネルギーを交換する[1]。この反応式は以下のようになる。

反応速度式は2次式になる。

ここでは、反応速度は2つの反応物が1箇所にくる確率に比例する。2分子反応の一例は求核置換反応の一種、SN2反応である。臭化メチル水酸化物イオンの反応を以下に示す[4]

三分子反応

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三分子反応(英語ではtermolecular[5][6]もしくはtrimolecular[7] reaction)とは、溶液中や混合気体中で三分子が同時に衝突英語版しておこる反応である[5]

矢印の上に書かれたMは、エネルギー保存の法則運動量保存の法則を満たすためには3つ目の分子が必要であるということを示している。最初の2分子AとBが衝突し、励起状態になって反応中間体ができると、それがMと衝突して2回目の二分子反応が起こり、余剰のエネルギーがそちらに移る[8]

この反応は2つの連続した反応で説明できる。:

このタイプの反応は多くの場合圧力温度に依存し、2次と3次の間で次数が変化する[9]

触媒反応はしばしば3次反応だが、実際は開始物質の錯体が最初にでき、この錯体が生成物になる反応が律速段階になるため、2つの化学種と触媒が偶然1箇所で衝突する確率には依存しない。例えば、金属触媒を用いた水素化では、分子の水素(H2)が金属表面で解離して表面に結合し、単原子になった水素が、同じく金属表面に吸着されていた開始物質と反応する。

4分子以上が同時に衝突する可能性は非常に低いため、分子度の大きな反応は観測されない[10][5]

分子度と反応次数の違い

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分子度と反応次数を区別することは非常に重要である。反応次数は反応速度式から実験的に決められた量であり、速度式の指数の合計である[11]。一方分子度は、素反応の反応機構から導かれるものであり、素反応についての議論でしか登場しない。これは反応に関与する分子の数である。

この違いを明らかにするために、一酸化窒素と水素の反応を示す。

.[12]

観測された反応速度式はであるから、この反応は3次反応である。反応次数は反応物の化学量論係数の合計と等しくないから、この反応は多段階反応である。提案されている2段階の反応機構は以下の通りである[12]

一方、この反応では分子度は定義されない。なぜならこれは多段階反応だからである。しかし、それぞれの素反応について分子度を考えることはできる。1つ目の反応は、3つの分子が反応に関与しているため3分子反応、2つ目の反応は2つの分子が反応に関与しているため2分子反応である。

 関連項目

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脚注

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  1. ^ a b c d Atkins, P.; de Paula, J. J. Physical Chemistry. オックスフォード大学出版局 2014
  2. ^ Temkin, O. N. State-of-the-Art in the Theory of Kinetics of Complex Reactions. In Homogeneous Catalysis with Metal Complexes: Kinetic Aspects and Mechanisms, John Wiley and Sons, ltd, 2012
  3. ^ ピーター・アトキンス・Jilio de Paura著『アトキンス物理化学(下)第8版』p.878
  4. ^ Morrison R.T. and Boyd R.N. Organic Chemistry (4th ed., アリン・アンド・ベーコン英語版 1983) p.215 ISBN 0-205-05838-8
  5. ^ a b c J.I. Steinfeld, J.S. Francisco and W.L. Hase Chemical Kinetics and Dynamics (2nd ed., プレンティス・ホール英語版 1999) p.5, ISBN 0-13-737123-3
  6. ^ IUPAC Gold Book: Molecularity
  7. ^ termoleculartrimolecularを同じ意味の言葉として表記している教科書もある。J.W. Moore and R.G. Pearson英語版Kinetics and Mechanism (3rd ed., ジョン・ワイリー・アンド・サンズ 1981) p.17, ISBN 0-471-03558-0など
  8. ^ 三分子反応の速度定数について議論している教科書
  9. ^ IUPACゴールドブック英語版でのTroe expressionの定義は、三分子反応の速度定数を半経験的に表現する方法することである。IUPAC Gold book
  10. ^ Carr, R. W. Chemical Kinetics. In Encyclopedia of Applied Physics. ウィリーVCH英語版 Verlag GmbH & Co KGaA, 2003
  11. ^ Rogers, D. W. Chemical Kinetics. In Concise Physical Chemistry, John Wiley and Sons, Inc. 2010.
  12. ^ a b キース・J・レイドラー英語版, Chemical Kinetics (3rd ed., Harper英語版 & Row 1987), p.277 ISBN 0-06-043862-2