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五度圏

五度圏(ごどけん、英語: circle of fifths)は、幹音・派生音[注 1]の計12の音名を、隣り合う2音が半音7つ分離れるように円周上に配置したものである[注 2]

1オクターブずれた音は五度圏上同じ場所に配置される。


五度圏は下記の用途に用いる事ができる:

完全5度と完全4度[編集]

{ 
\new Staff \with { \remove "Time_signature_engraver" }
<c' g'>1
<g c'>1
}
五度圏上で隣り合う2音のC、G
から作った完全五度(左)と完
全四度(右)。この2つは転回
音程
の関係にある。

五度圏では隣り合う2音は半音7つ分離れている為、五度圏上の外側にある大文字で書かれた音(例:C)と右隣りの音(例:G)を右隣りのもののほうが高い音(で1オクターブ以内にあるもの)になるよう譜面上に並べると、その2音は完全5度の関係になる。五度圏上の内側にある小文字で書かれた音も同様。

逆に右隣りのもののほうが低い音(で1オクターブ以内にあるもの)になるように並べると、その2音は完全4度の関係になる。これは完全4度が完全5度と転回音程の関係にある為である。

五度圏の成り立ち[編集]

ピタゴラス学派はCの完全5度上の音をGとし、Gの完全5度上の音をDとし…と完全5度ずつ音を動かすことで音律を決めていった[1]。上述のように五度圏の隣り合う2音は完全5度の関係にあるので、五度圏はピタゴラス学派が元々音律を決めた順番で音が並んでいる事になる。

五度圏のCの右側に幹音が固まっているのもこれが理由で、上述の方法でできた音律で最初の方を幹音にしたからである[1]

なお、Fの音のみ例外的にCより左側にあるのは、古くはFでなくF#が幹音だった為で[1]、この古い方の幹音であればCから右回りに辿っていくと、最後の幹音としてF#が登場する。

ピタゴラスコンマ[編集]

ピタゴラス学派が用いていた音律(ピタゴラス音律)では、完全5度の関係にある音のペアの周波数比がになるように音を決めているので、五度圏の1周分に相当する12音分これを繰り返すと周波数は倍される。

一方五度圏は隣り合う2音が7半音分離れているので、一周は7×12半音=7オクターブに相当し、これは周波数を27倍する行為に相当する。しかし両者は

だけズレているため、ピタゴラス音律で12音をたどると五度圏1周より1%程度多く回ってしまう。このズレをピタゴラスコンマという[2]

完全5度の関係にある音のペアであっても周波数比がではない箇所を作る必要があり、そのようなペアの音を同時に鳴らすとうなりが生じてしまう。

平均律[編集]

これに対し平均律では半音上がるときに周波数が倍される音律であり、12半音分上がると丁度倍=1オクターブ分上がるので、上記ようなズレは生じない。

そのかわりに平均律では完全5度の関係にあるどのペアであっても常にうなりが生じてしまう。


五度圏はピタゴラスコンマの問題を避けるため、平均律を前提としているので[3]、以下特に断りがない限り、本項では平均律の場合を述べる。

音階[編集]

長音階[編集]

五度圏を利用すると長音階の音階構成音[注 3]を調べられる。


具体的には五度圏上の(外側に書いてある大文字の)任意の音を主音として決めると、その主音に関する長音階の音階構成音とその音度を下記の表により調べられる[注 4]。下記の表で「主音+n」は五度圏で主音から右回りにn個進んだ所の音であり、「主音-1」は主音から左回りに1つ進んだ所の音である:

位置 主音-1 主音 主音+1 主音+2 主音+3 主音+4 主音+5
音度 下属音 主音 属音 上主音 下中音 中音 導音
具体例 Cメジャー

(ハ長調)

F C G D A E B
Aメジャー

(イ長調)

D A E B F# D♭

(=C#)

A♭

(=G#)

譜面の調号[注 5]はその音を主音とする長音階の音、すなわち(上述の表の記法で)主音-1から主音+5に登場する音を五度圏から調べればわかる。


前述した五度圏の図には、これを踏まえた長音階の譜面が載っている。

自然短音階[編集]

五度圏の内側に書いてある小文字は、外側に書いてある長音階の平行調[注 6]になっている(自然)短音階の主音である。平行調の調号は同一なので、長音階のところに書いてある譜面が短音階にも使える。


五度圏に書いてある長音階を表す大文字を左回りに3つ回すと短音階を表す小文字に一致する。これはCメジャー(ハ長調)とAマイナー(イ短調)が平行調でCとAが五度圏上で3つ離れている事による。

長音階の場合と同様、五度圏を使うと音階構成音の音度が分かる:

位置 主音-4 主音-3 主音-2 主音-1 主音 主音+1 主音+2
音度 下中音 中音 下主音 下属音 主音 属音 上主音
具体例 Cマイナー

(ハ短調)

g#

(=a♭)

e♭ b♭ f c g d
Aマイナー

(イ短調)

f c g d a e b

近親調[編集]

2つ音階の音階構成音に同じものが多く含まれているとき、その2つの音階は近親調であるという[4]


五度圏は近親調を調べる事にも使え、五度圏上で近い音階は近親調になる。具体的には2つの音階(の主音)が五度圏上でn個離れているとき、その2つの音階は7-n個の音を共有している。


前述の音度の表から分かるように、ある長調(例:Aメジャー)の主音から右隣りに1つ進んだ音(=属音)を主音とする長調(例:Eメジャー)は元の音階の属調という[4]。同様に左回りに1つ進んだ音(=下属音)を主音とする長調(例:Dメジャー)は元の音階の下属調という[4]。短調の場合も同様の事が成り立つ。

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c #音律と音階の科学 pp.40-41,49,51.
  2. ^ #音律と音階の科学 p.72.
  3. ^ William Drabkin, “Circle of fifths,” in The New Grove Dictionary of Music and Musicians, 2nd ed., ed. by Stanley Sadie (London: Macmillan, 2001), vol. 5, pp. 866-867.
  4. ^ a b c 調”. 専属オンラインスクール. 2023年9月27日閲覧。

注釈[編集]

  1. ^ 幹音はピアノで言えば白鍵に相当する音、派生音は黒鍵に相当する音。
  2. ^ すなわち、譜面上Cの音から半音7n個だけ高い音は、五度圏ではCから時計回りに(n mod 12)番目に配置される。
    これは、譜面上Cの音から半音m個だけ高い音が五度圏ではCから時計回りに(7m mod 12)番目に配置される事を意味する。(である為)。
  3. ^ その長音階に登場する音の事。
  4. ^ これは下記の理由により成立する:
    • 長音階はCの場合と同一の音程のパターンになる事によって特徴づけられる。
    • 五度圏は隣り合う音が常に完全5度になるように決められているので、五度圏上のどこを主音にしてもCの場合と同一の音程のパターンになる
    • Cが主音の場合はCの周辺に幹音が固まっており、Cメジャーが幹音からなる長音階な事から成立する。
  5. ^ 調号とは譜面上でシャープやフラットがつく箇所の事。
  6. ^ ある長音階とある短音階が平行調とは、その長音階と短音階の主音は異なるが、登場する音が同じである事を指す。

参考文献[編集]

  • 小方厚『音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか』講談社〈ブルーバックス〉、2018年5月16日。ISBN 978-4065116647