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利用者:むらのくま/プライバシー・名誉棄損

プライバシー[編集]

憲法 13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

私事[編集]

  • 日本でのリーディングケースは1964年の東京地裁判決で、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」とし、その侵害の要件を以下の様に判示した[1]。(参考判例: 宴のあと事件[2]
  1. 「私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること」[2]
  2. 「一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること、換言すれば一般人の感覚を基準として公開されることによつて心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること」 [2]
  3. 「一般の人々に未だ知られていないことがらであること」 [2]
  4. 「公開によつて当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと」 [2]
  • そのほか、育成歴(中田事件、東京地裁平成12年2月29日判決)、同棲(東京地裁昭和43年11月25日判決)、家庭状況(東京地裁昭和49年7月15日判決)、離婚原因(東京地裁平成5年9月22日判決)、個人の収入状況(東京地裁平成6年9月5日判決)、犯罪被疑者の家族である事実(東京地裁平成7年4月14日判決)、前科・前歴(ノンフィクション「逆転」事件[3])など、プライバシー侵害とされた判例が有る[4]

肖像権[編集]

  • 1969年の最高裁判決においては、憲法13条に絡み肖像権(但し判決文では「これを肖像権と称するかどうかは別として」としている)を認め、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(中略)を撮影されない自由を有する」「少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されない」と判示した[1]。(参考判例: [5]
  • そのほか、病院内での撮影(武富士会長事件、東京地裁平成2年5月22日判決)、居宅内での容貌・姿態(東京地裁平成元年6月23日判決)、イラスト画(「フォーカス」イラスト肖像権事件、最高裁平成17年11月10日判決)、事案と関係ない以前の写真(東京地裁平成6年1月31日判決)など、プライバシー侵害とされた判例が有る[6]

個人情報[編集]

1984年の最高裁判決では、氏名・住所・電話番号などの個人情報は「プライバシーの権利ないし利益として、法的保護に値する」として上で、「私生活上の情報を開示する行為が、直ちに違法性を有し、開示者が不法行為責任を負うことになると考えるのは相当ではなく、諸般の事情を総合考慮し、社会一般の人々の感受性を基準として、当該開示行為に正当な理由が存し、社会通念上許容される場合には、違法性がなく、不法行為責任を負わないと判断すべき」と判示した[1](参考判例: 早稲田大学江沢民講演会名簿提出事件[7])。

免責要件[編集]

  • 対象者の同意 - 同意の明示があればプライバシー侵害には該当しない[8]。黙示・推定的同意については判例では安易に認めない傾向[9]。包括的同意については公表目的・時期・様態などの総合的判断が必要で、講談社肖像権侵害事件(仮称)(東京地裁平成13年9月5日判決)では「包括的に同意された公表目的・時期・様態を逸脱した公表は改めての同意を要する」と判示された[9]
  • 比較衡量論 - ノンフィクション「逆転」事件の最高裁判決で採用された考え方で、同判決では「プライバシーを公表されない法的利益と、対象者の社会的状況・影響力、事件の歴史的・社会的意義、当該著作物の目的・性格及び侵害表現の意義・必要性など、を併せて比較検討する必要がある」との趣旨が判示された[10][11]

忘れられる権利[編集]

  • さいたま地裁平成15年12月22日決定にて一定の要件の下で「わすれられる権利」を認めたが、その控訴審・東京高裁平成28年7月12日決定では「明文の根拠なく、名誉権・プライバシー権による差止請求権として処理すべき」として「わすれられる権利」としての権利行使を否定[12][13]、その上告審・最高裁平成29年1月31日決定では「忘れられる権利」には言及せず「プライバシーに関する情報提供の違法性は、当該事実の性質・内容、プライバシー情報の伝達範囲・具体的被害の程度、対象者の社会的地位・影響力、当該情報提供の目的・意義・必要性、当時の社会状況とその変遷などを総合的に検討し、当該事実を公表されない法的利益と、当該事実の情報提供する利益とを比較衡量して判断すべき」といった要旨を判示した[14][15]

名誉棄損・侮辱[編集]

民法 709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
同 710条
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
同 723条
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
刑法 230条1項
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
同条2項
死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
同 230条の2 1項
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
同条2項
前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
同条3項
前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
同 231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
同 232条1項
この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
同条2項 (省略)
  • 「名誉」とは「社会的名誉」(社会一般から社会的・客観的に評価されている人格的価値)のことであり。「名誉感情」(自身の人格的価値に関する主観的評価)は含まないとされる[16]。(参考判例: 委嘱状不法発送謝罪請求事件[17]
  • 「名誉感情」に対する侵害は、受忍限度を超えるものが例外的に人格権侵害とされる[18]。(参考判例: タクシー暴言事件(仮称)[19]

要件[編集]

  • 「人の名誉を毀損」の「人」 - 「特定人」もしくは「特定人との明記が無い場合でも、示唆する内容・属性などから一般読者が特定人を推定できる場合」は該当[20]。なお、「法人」「権利能力なき社団」も「人」に該当するが、抽象的な「集団」は非該当とされる[21]
  • 「棄損」の有無の判断基準 - マスコミ報道に関する判例で「一般読者の普通の注意と読み方とを基準として」と示された[22]。(参考判例: 東京新聞・自治会事件(仮称)[23]

死者に対する名誉棄損[編集]

  • 刑法では「虚偽事実の摘示」を要件に認めるが、民法には死者に対する規定が無い[24]
  • 民事上の損害賠償請求に関する判例では、「遺族の故人に対する敬愛追慕の情」を保護対象として認めるが、「摘示事実の真偽・重大性」「死去からの時間的経過状況」などを総合的に判断、とする[25]。(参考判例: 「落日燃ゆ」事件[26]

免責要件[編集]

真実性・相当性の法理[編集]

刑事上は刑法230条の2の規定があるが、同様の規定がない民事上でも「名誉棄損とされた表現事案が、公共の利害に絡み公益目的のために行われたものである場合、摘示事実が真実であること、もしくは真実であると信じた相当の理由がある場合には、名誉棄損は成立しない」とする考えで判例もこれを認める立場である[27]。(参考判例: 読売新聞二月選挙事件(仮称)[28]

  • 「公共の利害に関する事実」 - 刑事上の判例では「私人の社会的活動の性質・影響力などの程度によっては、その社会的活動の批評などの一環としてなされる場合、その私人の私生活状況が『公共の利害に関する事実』となる場合もある」「判断基準は摘示事実自体の客観的内容・性質に基づくべきであり、摘示方法・表現や事実調査状況は『公益目的の有無の認定』に関わる事柄」と判示されている[29](参考判例: 月刊ペン事件[30])。民事上では、上記刑事上と同様に判示される場合もある一方[31]、「著名人等の私生活状況に関して公共性が無い」とされるケースも散見され[32]、「対象者の地位・立場」「棄損内容・事柄」などの総合的判断が必要とされる[33]
  • 「その目的が専ら公益を図ること」 - 刑事上は「摘示方法・表現や事実調査状況は『公益目的の有無の認定』に関わる事柄」と判示されており[34]、民事裁判でも「棄事実摘示表現や毀損表現の態様・状況・相当性、事実摘示の根拠等の客観的状況の考慮が必要」とするものがある[35]。(参考判例: 美容整形豊乳術事件[36]
  • 「摘示事実が真実であること」 - 真実性の証明は「重要な部分」(主要部分)でなされれば可で、何が「重要な部分」(主要部分)に当たるかの判断は「一般読者の普通の注意と読み方により、棄損とされる表現(例えば新聞記事)全体の総合的な印象に基づく」とされる[37]
  • 「真実であると信じた相当の理由」 - 刑事上の判例では「確実な資料、根拠に照らし相当の理由」とされており(参考判例: 夕刊和歌山時事事件[38])、民事においても同様とされる[39]。マスコミ報道に関する判例からは「取材源の信用性の程度」「裏付け取材の必要性の有無・程度」を基準に判断しているとされる[40]

公正な論評の法理[編集]

元々はアメリカで発展した考え方で、民主主義社会において表現・言論の自由はその根幹をなすものであるから、「公共の利害に関する事項や一般公衆の関心事に関する論評は、その論評が公正である限りは(公的活動以外の私生活暴露や人身攻撃は対象外)、その表現程度や被評論者の社会的名誉低下の度合に関わらず、名誉棄損には該当しない」というもの[41]。日本の判例においても「公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、もとより表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場合には、右批判等により当該公務員のの社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである」と判示された[41](参考判例:長崎市通知表事件 [42])。

言論の応酬[編集]

民主主義社会の根幹の一つを為す表現・言論の自由により、言論の応酬においての自由な反論は保証(最大限尊重)されるべきで、その反論に名誉棄損的表現が含まれていた場合も一定の免責を与える、とする考え[43]。判例においても「自己の正当な利益を擁護するためやむをえず他人の名誉、信用を毀損するがごとき言動をなすも、かかる行為はその他人が行つた言動に対比して、その方法、内容において適当と認められる限度をこえないかぎり違法性を缺くとすべきもの」と判示されている[44](参考判例: 日本医師会雑誌事件[45])。

侮辱[編集]

  • 刑事上の保護法益は「名誉棄損罪」の場合と同様に「社会的名誉」(「名誉感情」は含まない)とされ、事実の摘示が有る場合は「名誉棄損罪」、事実の摘示が無い場合は「侮辱罪」となる[46]
  • 民事上は、侮辱的行為による「名誉感情」の侵害は、受忍限度を超えるものが例外的に人格権侵害とされる[47]
  • 民事の判例では、「泥棒は泥棒だ」(東京高裁昭和56年8月25日判決、社会的信用低下)、「顔は悪の履歴書」(東京地裁昭和61年4月30日判決、名誉感情の不当な侵害)、「カエル顔、カッパ頭」(名古屋地裁平成6年9月29日判決、名誉感情の不当な侵害)、といった事例が有る[48]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 158.
  2. ^ a b c d e 宴のあと事件 東京地裁判決 1964.
  3. ^ ノンフィクション「逆転」事件 最高裁判決 1994.
  4. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 163–167.
  5. ^ 京都府学連事件 最高裁判決 1969.
  6. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 160–163.
  7. ^ 早稲田大学江沢民講演会名簿提出事件 最高裁判決 2003.
  8. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 168.
  9. ^ a b 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 159.
  10. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 171.
  11. ^ ノンフィクション「逆転」事件 最高裁判決 1994, p. 4.
  12. ^ 宮下紘 2021, p. 138.
  13. ^ 奥田喜道『グーグル検索結果の削除を命じる仮処分決定を取り消した決定』(PDF)(レポート)TKCローライブラリー、2016年10月21日https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-011161416_tkc.pdf2022年1月14日閲覧 
  14. ^ 宮下紘 2021, pp. 138–139.
  15. ^ 検索結果削除仮処分申立事件(仮称) 最高裁決定 2017.
  16. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 19–21.
  17. ^ 委嘱状不法発送謝罪請求事件 最高裁判決 1970, p. 1.
  18. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 21–23.
  19. ^ タクシー暴言事件(仮称) 大阪高裁判決 1979.
  20. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 23–26.
  21. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 26–27.
  22. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 43.
  23. ^ 東京新聞・自治会事件(仮称) 最高裁判決 1956, p. 1.
  24. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 28.
  25. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 30.
  26. ^ 「落日燃ゆ」事件 東京高裁判決 1979, p. 2.
  27. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 65–66.
  28. ^ 読売新聞二月選挙事件(仮称) 最高裁判決 1966.
  29. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 83–84, 91.
  30. ^ 月刊ペン事件 最高裁判決 1981.
  31. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 92–94.
  32. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 94–95.
  33. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 95.
  34. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 84.
  35. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 96–98.
  36. ^ 美容整形豊乳術事件 東京地裁判決 1991.
  37. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 102–105.
  38. ^ 夕刊和歌山時事事件 最高裁判決 1969.
  39. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 109.
  40. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 117.
  41. ^ a b 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 129–130.
  42. ^ 長崎市小学校通知表事件 最高裁判決 1989.
  43. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, pp. 139–141.
  44. ^ 宮原守男、松村光晃、中村秀一 2006, p. 141.
  45. ^ 日本医師会雑誌事件 最高裁判決 1963, p. 3.
  46. ^ 平山信一 1995, pp. 58–59.
  47. ^ 平山信一 1995, p. 60.
  48. ^ 平山信一 1995, pp. 60–63, 116–117.

参考文献[編集]

  • 松村光晃(編集)、中村秀一(編集) 編『名誉棄損・プライバシー 報道被害の救済 - 実務と提言』宮原守男(監修)、ぎょうせい、2006年10月10日。ISBN 4-324-08052-6 
  • 宮下紘『プライバシーという権利 - 個人情報はなぜ守られるべきか』岩波書店〈岩波新書〉、2021年2月19日。ISBN 978-4-00-431868-2 
  • 平山信一『名誉棄損』自由国民社、1995年8月31日。ISBN 4-426-25300-4 

判例[編集]

プライバシー[編集]

名誉棄損[編集]

外部リンク[編集]

削除依頼事例集[編集]