利用者:夜瀬府俊平太/sandbox

租税理論(そぜいりろん)は、租税制度を説明する理論である。公共経済学において幾つかの課税の理論(かぜいのりろん)がある。あらゆる層の行政機関(国、地域、地方)は、公的支出英語版へ資金を供給するために様々な財源からの歳入を増やさなければならない。

歴史[編集]

古代・中世[編集]

租税は反対給付を伴わないので手数料(サービスの対価)とは異なるが、国や自治体が提供するサービスの財源として負担を求めるものである。文明発生により政府・支配層が生じたときから、その経費を賄うため生み出された。農耕・牧畜社会から商工業・貨幣経済が発展し、都市が成立するに従い、租税の仕組みも変わっていった。古代エジプトでは賦役中心であったが、古代ギリシア古代ローマでは財産税間接税が芽生え、ローマ帝国末期には不動産税人頭税も導入された。

中世ヨーロッパの封建制社会では、支配層への貢献・年貢が要求された。

東アジアでは農業が経済の中心であったので、では塩税商業課税関税の比重が高まり、に至るまで租税の中心は田賦であった。

重商主義[編集]

ヨーロッパでは商業・貨幣経済の発展や絶対王政大航海時代を迎え、都市部では間接税・個別消費税が課されるようになる。国王と封建貴族の抗争・妥協により封建制は崩壊し、国内産業は国王の庇護のもと発展していった。国王は産業保護の費用、戦費、奢侈のため多額の収入を必要とした。そこで保護の対象とならない商工業者や農民から封建制以来の夫役・地租・関税・消費税を課す一方、富裕階級である僧侶・貴族は免税特権を有していた。こうした中で支配階級の代弁者となったのが重商主義であった。

重商主義者トーマス・マンは、「国民が貧しくても、それだけ王様が富んでいるなら、国は貧しいとは言えない。なぜなら王様の年々の収入は、常に国民の利益のために使われるからである」と主張した。また、税の目的を下層民を勤勉にさせる方便であるとし、消費税によって農民が消費物資を買わなくなるので労賃を抑えられると述べ、国王の保護下にある商業資本化や免税特権を主張する貴族・僧侶を擁護した。当時は国内産業を保護・育成するために関税が用いられていたが、重農主義者は資本の蓄積を促進し、直接税が課税されない層にも税負担させるとして正当化していた。

イギリスではスチュアート朝期に議会・市民階級が力を持ち、国王の課税権について議論された。トマス・ホッブズは、臣民への過大な徴税は国王にも不利益になると主張した。国王は臣民がいなければ権勢を維持できないからである。しかし、国王が適切な支出と徴税を行うなら共同の平和と防衛のためになるとも述べた。また、直接税は苦情・紛争の原因になるだけでなく、浪費家よりも勤勉で蓄財に励む者に多くの税を課すとして、痛税感の少ない消費税(間接税)の方が好ましいとした。

イギリスに比べ市民階級への権力移譲が遅れたフランスでは、財務総監ジャン=バティスト・コルベールが対人的なタイユ・エード(消費税)を対人的なものにして土地や所得に比例する対地的な税に変更し、全国的な統一租税法規の実施によって特権階級の免税を防ごうとした。しかし、特権階級の圧力により所得に低い層に負担の重い間接税が拡大され、農民や大衆の税負担を強いることになった。

古典経済学の創設者に一人、ボアギュベールは免税特権を廃止し、対人的な税制の改善、関税を対地的な税に整理統合、間接税の縮小、徴税請負人の廃止(国家官吏による徴税)を主張した。

フランス軍の元帥セバスティアン・ル・プレストル・ド・ヴォーバンは、所得税の萌芽ともいえる「国王十分の一税案」を提唱した。これは租税を4種類に分類し、第一種(農業所得など)と第二種(賃金・営業所得など)には収入税の色彩も持っていた。

重農主義[編集]

封建末期から資本主義勃興まで理論的拝見を持たない関税・消費税が無秩序に課税され、貿易や商工業の発展を阻害していた。このような中で、資本的企業体としての農民を中心に重農主義という思想が生まれ、下層階級に負担の強い間接税中心主義への批判、租税簡素化論、特権階級の免税特権への抵抗などの役割を果たした。また、重農主義は国家の仕事は人民の生命・財産の保全に専念し、それ以外のことは人民の自由に任せるべきだとする間g苗が根底にあり、重商主義とアダム・スミスの橋渡しの役割を果たしたとされる。

重農主義的租税理論の代表者であるフランソワ・ケネーは、税は土地の純生産物だけに課されるべきで、資本である土地そのものへ課税してはならないと主張した。その根拠として、価値を生むのは土地だけで、国民所得の源泉は収益から費用を差し引いた純生産物であり、賃金・商品も土地の純生産物により支払われているという重農主義の思想があった。また、税は国民所得に対して破壊的であったり、不均衡であったりしてはならず、増税には国民所得の増加を伴わなけてばならないとした。従来の税制は国家と市民の関係を政治・法律・道徳の上でとらえていたが、重農主義者は経済的な法則があると主張し、(上流階級の)免税特権と(下層階級にとって重い負担となっていた)間接税の廃止を目指した。

ルイ16世の時代になるとフランスの税制は混迷を極め、財務総監ジャック・テュルゴーは税制の抜本改革を試みた。しかし封建勢力の反対で失脚し、のちのフランス革命へとつながっていく。

アダム・スミス[編集]

「経済学の父」アダム・スミス

イギリスの正統経済学派の祖アダム・スミス(1723年 - 1790年)は、『国富論』(1776年)において租税論を展開している。彼は個人の収入を「地代」・「利潤」・「賃金」に区分し、租税の対象とした。重農主義者ケネーは課税対象を土地の純生産物に限ったのは、当時のフランスが農業国であったためであるが、イギリスでは商工業が振興していたため、このような区分がなされたのだと思われる。

また、スミスは次のような租税四原則を唱えた[注 1]

  1. 公平の原則 - 人民は能力に応じて負担すべき。人民は国家の保護下で収入を得るので、収入に比例して政府の維持に貢献する[注 2]
  2. 明確性の原則 - 租税は明確でなければならず、方法・金額は明瞭・簡明でなければならない
  3. 便宜の原則 - 租税は納税者にとって最も便宜な時期・方法で課されなければならない
  4. 最小徴税費の原則 - 徴税にかかる費用を最も少なくなるようにしなければならない

スミスは租税原則で収入に比例する税を説いているが、それを所得税とは考えなかった。また、「自然的自由の制度」を犯す恐れが少ない税として、地租・家賃税・奢侈消費税がふさわしいとした。

リカード[編集]

デヴィッド・リカード

デヴィッド・リカードは自由主義・資本主義のもと、世界の工場として繁栄したイギリスにおいて、スミスの理論を発展させていった。彼は『経済学および課税の原理』において、資本に対する課税は労働を維持するための基金を損ない、生産の減少を伴うと主張した。資本蓄積の重要性を強調しており、当時のイギリス上流階級の税に対する認識(「得られた利益が所得であり、その利益を得る手段は所得ではない」)を表している。

J・S・ミル[編集]

J・S・ミル

ナポレオン戦争中の1799年、イギリスでは戦費調達の臨時税として世界初の所得税が導入されたが、調査・審問の苦痛が大きく戦争終結後の1816年に廃止され、間接税(関税・国内消費税)への依存が高まった。しかし、観関税・消費税は商品の円滑な流通と生産力増強を阻害することが明らかになり、商工業者(かつては所得税反対派だった)も間接税減税の財源として所得税復活を受け入れ、1842年に所得税が復活した。この頃には独占労使対立格差拡大など社会問題が噴出し、リカードのような典型的資本主義思想を修正し、社会政策を取り入れる経済学者が増えていった。

このような中で、イギリス正統経済学者の集大成者とされるジョン・スチュアート・ミルは、政党楽派の伝統を活かしつつ資本主義の矛盾を解決するために税について次のような主張を行った。

  1. 生活必需品への課税は制限を置くべき
  2. 土地の自然増加に課税すべき
  3. 自由勤労所得に対して課税すべき
  4. 最低生活費は免税すべきだが、差別税率を設けることは所得税では反対(相続税では別)
  5. 貯蓄から生じる収入は免税すべき[注 3]
  6. 税の公平は税が各人の所得に比例するだけでなく、課税は社会全体が負う犠牲が最小になる方法によるべき

これらの理論は政党楽派の伝を打を守りつつ社会政策要素も取り入れたため、整合性を書き、不明瞭な面も少なくないとされる。また、後世の財政学者により納税義務(犠牲)説と命名された。納税義務説は「社会全体が負う犠牲が最小になる」(6)として、累進税率の論拠となった(ミル自身は累進税率に反対していた)。

ワグナー[編集]

19世紀後半、国に歳出は増大傾向にあった。しかし、社会主義勢力が台頭したこともあり、労働者階級の反発を招く間接税の増税は難しくなった。そこで所得税に最低生活費免税、勤労所得軽課・不労所得重課、累進税率適用などを取り入れ、財源を確保しつつ社会主義者による攻撃をかわす必要性が説かれるようになった。こうして、資本主義社会の要求にこたえつつ、社会主義の主張に対抗しうる租税理論が求められるようになった。

このような背景でドイツ人の財政学者アドルフ・ワグナーは、租税の4大原則・9原則を提唱した

大原則 原則 定義
1 財政政策上の原則 1 十分の原則 租税は国家経費の支弁に足る収入が上がらなければならない
2 弾性力の原則 歳出増や税外収入減による歳入不足を租税の自然増収・増税で安易に埋められる税制にしなければならない
2 国民経済上の原則 3 財源選択原則 租税は原則国民所得に求め、国民の財産や国民資本を破壊しないよう努めなければならない
4 税種選択の原則 租税を負担すべき者に負担が帰着するよう、租税転嫁を含めて考慮し、租税の種類を選ばなければならない
3 公平の原則 5 普遍の原則 租税負担は広く人民に分配しなければならない
社会政策的に少額所得者への減免を認める
6 公平の原則 各個人の負担能力に応じて課税すべき
負担能力は所得増加割合以上に高まるので累進課税
国民は国家の維持発展のため、当然の義務として能力に応じて公平な犠牲をしなければならない
4 税務行政上の原則 7 明確の原則 租税は明確で中ればならない
8 便宜の原則 納税手続きは便宜で中ればならない
9 最小徴収費の原則 徴税費は少なくしなければならない

財政政策上の原則 」はスミスの租税4原則には見当たらない。小さな政府を目指す済氏にとって必要がなかったためである。ワグナーの時代には資本主義国間の海外市場争奪戦、国内の労使対立などで軍事費・警察費・社会保障費が膨張し、資本主義化の遅れから国家の補助を必要としたドイツの情勢を反映している。

「公平の原則」では、「負担能力」という表現を使い、応能負担に立脚している。ミルから租税義務説を受け継ぎ、高所得者・財産所有者は同じ金額を納税しても労働者・低所得者と比べて犠牲が少ないとして、財産所得・不労所得重課・勤労所得軽課を受け入れた。貧富の差をやわらげ、労働者が社会主義に走らないよう明確な応能原則を掲げた。

税務行政上の原則」はスミスの2・3・4の原則に相当する。スミスの時代には徴税請負人制度があり、徴税請負人の横暴や脱税が横行していたので重要視されていたが、ワグナーの時代には徴税機構が整備され、強調する必要が薄れたため高順位となっている。

ピグー[編集]

現代の公共財政の文献では、誰が支払うべきなのか、そして誰の利益になりうるのか(応益原則英語版)という二つの大きな論点が挙げられてきた。有力な学説はアーサー・セシル・ピグーが提示した応能説(英:ability theory)[3]エリック・リンダール英語版が提示した応益説(英:benefit theory)であった。[4][5]自発的交換英語版理論: voluntary exchange theory)として知られる応益説の最新のものがある。[6]

応益説のもとでは、納税者は自身が受ける行政機関からの利益に応じて税を納めるため、租税水準は自動的に定まる。言い換えれば、公共サービスから多く利益を受ける個人は多く税を支払う。

ケインズ[編集]

19世紀末から20世紀初頭にかけて、資本主義の負の側面を租税制度に織り込まれた社会的政策によって克服していくことが可能となった。財政面でも軍事費・社会政策費の増大を税収の伸びが平均して上回っており、平時には健全財政が実現された。1929年に世界大恐慌が起こり、資本主義の自立的発展・自動的調整機能に疑念が持たれ、金本位制から管理通貨制度への移行し、大量の公債発行が行われた。こうした中でジョン・メイナード・ケインズは『雇用・利子および貨幣の一般理論』において積極財政論を展開した。

マスグレイヴとブキャナン[編集]

ケインズの流れを汲み、新しい財政政策を展開したリチャード・マスグレイブは、財政当局の責任を以下の三つに要約した

  1. 資源分配の調整
  2. 所得・富の分配の調整
  3. 経済の安定化

このうち「経済の安定化」は租税の経済理論化ともいえる。インフレの時は増税・財政支出削減により総需要を減退させ、インフレを抑えて国民経済を安定させる。逆にデフレ・過少雇用・失業の恐れがあれば、減税・財政支出増加により、有効需要を喚起して、雇用拡大を図る。この考えは、ジョン・F・ケネディリンドン・ジョンソンジェラルド・フォードジミー・カーターなどの歴代政権に取り入れられ、日本でも景気浮揚策として減税の考えに引き継がれている。

ただしケインズの理論は大恐慌に対応する「不況の経済学」で雇用安定のためにインフレを前提としても経済成長を図るものであり、スタグフレーションには無力であった。また、経済安定化のための歳出増は「大きな政府」を作り上げ、大きな国民負担や財政赤字を生み出した。

このような反省の元、イギリスのマーガレット・サッチャー、アメリカのロナルド・レーガン、日本の中曾根康弘など各国の政権が、民間経済の活性化のために「小さな政府」を目指して、減税や歳出削減などを図った。

こうして政府と市場をめぐる論争が注目されるようになると、政府の役割の前提となる租税理論にも活発に議論が行われた。1997年の京都と1998年ノミュンヘンで、大きな政府に肯定的なマスグレイヴと市場機能を重視するブキャナンの間で論争が行われた。

ブキャナンによれば、現代福祉国家の財政危機は人々が納税する額を福祉的移転給付(再分配)の需要が上回ることで生じる。この背景として、政府の膨張と市場における私的取引の割合減少により、多くの人々が他者利益に対して不寛容になり、自己利益追求のために財政による再分配を望むようになったことが挙げられる。政府はこのような人々と結託して、少数者への累進課税を原資とする再分配が行うようになってしまった。これを防ぐためには、多数決原理よりも限定された全員一致が望ましく、政府による再分配の余地を少なくするか、そもそも再分配を目指さないことが必要である。

これに対してまマスグレイブは、財政拡大や社会保障の登場は教育・インフラ・経済成長・福祉の増進に貢献してきたと主張した。民主化・社会正義・絶対的公平・選択的平等主義の観点から肯定されるとした。政府の役割は良好で、政府の活動は削減するのではなく改善するべきである。

このような政府に対する見方の違いは、両者の租税理論にも反映されている

ブキャナンの租税理論は、人頭税のように非差別的な税制が必要であるとした。課税は個々の納税者の支払い能力を明確に規定したベースに基づきなされるべきで、おかなる個人・集団にも免除・所得控除・税額控除・除外は認められない。特に差別的課税(累進課税)は多数派による少数派の搾取であるとして厳しく制限される必要があるとした。

これに対してますグレイブスの租税原則は次の通り。包括的な増加ベースを持つ累進的所得税は文明のために支払われる価格であり、現代財政を支える民主主義の重要なテストである。消費課税をあまり評価せず、不労所得にも課税するべきだとした。二元的所得税(比例的資本所得税)については、消費前に富の保有から引き出される効用を考慮すべきとして、否定した。累進税率は所得分配のゆがみを改善するために重要であるとした。租税の簡素化についてはその効用を認めるが、唯一の関心ごとであってはならない。

パラドックス理論[編集]

法人税のパラドックス理論は、法人税の表面実効税率を下げても、GDPにおける法人税収は増加するというもの。EU15か国(1998年時点の加盟国)では、近年10年間で表面実効税率を37.7%→28.7%に日k下げているが、名目GDpに占める法人税収の割合は2.2%→3.2%に増加している。これは法人税率引き下げにより法人設立が増加したためであり、法人なりで個別所得税は減収となっている。

マーローズ報告[編集]

ここでは、応益説のアプローチをとる二つのモデル、リンダール・モデルとボーエン・モデルについて議論する。

リンダールのモデル[編集]

リンダールのモデル

リンダールは次の三つの問題を解こうとした

  • 国家の活動の範囲
  • 様々な商品やサービスの合計消費の割り当て
  • 租税負担の割り当て

リンダール・モデルでは、直線線SS' が国家のサービス供給曲線であるとき、公共財の生産は線形かつ均一だと推量される。曲線DDa は納税者A需要曲線、そして曲線DDb は納税者B の需要曲線である。二つの需要曲線の垂線の和は国家のサービスに対する共同体全体での需要予定となる。AB は、それぞれの比率に沿ってそのサービスの対価を支払い、その比率は垂線長で計測することができる。長さON が生み出された国家のサービスの合計であるとき、A は長さNE を与え、B は線分NFを与える。また、供給の費用は長さNG である。国家は非営利の組織なので、その供給は長さOM まで増大する。この段階では、(供給の合計費用として)A は長さMJを与えB は長さMR を与える。自由意志による交換に基づくと、点P において釣り合うようになる。

ボーエンのモデル[編集]

ボーエンのモデル

ボーエン英語版のモデルは、私的財の機会費用が先に増大して、公共財の費用も増大するという条件の下ではいつ公共財が生産されるかということを具体的に説明するため、より重要な運営上の意味を持つ。例えば、一つの公共財があって二人の納税者A ,B がいるならば、公共財へのそれぞれの需要は曲線a と曲線b で表され、曲線a + b は公共財の需要の合計となる。公共財の供給曲線はa' + b' で表され、コストの増大の条件下で財が生産されることを指し示している。公共財の生産費用は過去の私的財の価値である、これはa' + b' が私的財の需要曲線であることを意味する。費用曲線と需要曲線の交点B によって、与えられた国民所得が公共財と私的財の間でどの様に(納税者の要望に従って)分配されるべきかが決まり、これによれば、長さOE は公共財、長さEX は私的財に当たるべきである。同時に、A 並びにB それぞれ税の分配は彼らの個人的な需要の予定に従って決定される。税の総合的な必要額は、Aの支払い額に相当する領域GCEOB の支払い額に相当する領域FDEO の和(ABEO )である。

応益説の長所と限界[編集]

応益説の長所は予算における歳入と歳出を直接的に関係づけられることである。その関係は、公営事業の配当手順における市場の振る舞いに概ね等しくなる。適用も簡単であるが、応益説には以下の欠点も存在する。

  • 政府の活動の機会を制限すること
  • 政府が低所得者を支援できなくなり、また経済安定化の政策を行うことができなくなること
  • 応用できるのが受益者が直接に観察できる場合(多くの公共サービスでは不可能)に限ること
  • 応益原則に基づく課税が実際の所得の分布と変わらない可能性があること

応能説のアプローチ[編集]

応能説に基づいたアプローチでは政府の歳入と歳出を分けて扱う。租税は納税者の担税力に基づくものであって、納税者の受益は納税の「見返り英語版」 (ラテン語: quid pro quo)ではない。税負担は納税者にとって犠牲として見なされ、それにより、各々の納税者にとって何を犠牲とすべきか、そしてどのように負担額を測られるべきかといった問題が生じる。それに対しては次の説がある

  • 均等犠牲:課税の結果としての効用損失の合計 は納税者全員にとって等しくするべきである(豊かな者は貧しい者よりも重税を課される)。
  • 均等比例犠牲:課税の結果としての効用の損失の比率 は納税者各々にとって等しくするべきである。
  • 均等限界犠牲:課税の結果としての(効用関数の導関数によって得られる)効用の瞬間の損失 は納税者全員にとって等しくするべきである。これには(犠牲の合計が最小になるような)最小総犠牲の値が必要となる。

数学的には、それらの条件は次のようになる

  • 均等犠牲 = U( Y ) - U( Y - T ) 、ここでY は所得、T は税の合計
  • 均等比例犠牲 = ( U( Y ) - U( Y - T ) ) / U( Y ) 、ここにU( Y ) = 所得Y からの総効用
  • 均等限界犠牲 = dU( Y - T ) / d( Y - T )[7]


フランス[編集]

フランスは原則一定の財産を政府の共通財産と定める法定共通制である。1914年の所得税創設以来、世帯合算非分割制となった。1945年、世帯単位の家族除数方式N分N乗方式)を採用した。夫婦・扶養親族の所得合計額を家族の人数で割った金額(N分)に税率をかけ、次に家族の人数をかけて(N乗)、税額を決定する方法。子どもが増えるほど税負担が減ることになり、日本では少子化対策として捉えられる傾向がある。しかし、政府税制調査会の海外調査団によれば、フランスにおいては政府による少子化対策は一切行っておらず、N分N乗方式も少子化対策と見なされてはいなかったという[8]

  1. ^ Adam Smith (2015). “Government Finaces: Public Expenditure, Taxation and Borrowing”. The Wealth of Nations: A Translation into Modern English. ISR/Gooe Books. 5. pp. 423, 429. ISBN 9780906321706. https://books.google.co.uk/books?id=hj2gCQAAQBAJ&printsec=frontcover&dq=isbn:9780906321706&h1=en&sa=X&ved=0ahUKEwiTIFDAA#v=onepage&q&f=false,Ebook 
  2. ^ Zaehner, 1955:419-428
  3. ^ Samuelson, Paul A.. “Diagrammatic Exposition of a Theory of Public Expenditure”. University of California, Santa Barbara. 2012年8月27日閲覧。
  4. ^ Erik Robert Lindahl”. Encyclopædia Britanica (1960年1月6日). 2012年8月27日閲覧。
  5. ^ Theories of Taxation - Benefit Theory - Proportionate Principle”. Economicsconcepts.com. 2012年8月27日閲覧。
  6. ^ Gierscj, Thorsten (August 2007) (PDF), From Lindahl's Garden to Global Warming: How Useful is the LIndahl Approach in the Context of Global Public Goods?, https://editorialexpress.com/cgi-bin/conference/download.cgi?db_name=IIPF63&paper_id=246 
  7. ^ Friedman, David D. (1999年12月). “Price Theory: an intermediate text”. South-Western Publishing Co.. 2012年11月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年11月23日閲覧。
  8. ^ 山本守之『租税法の基礎理論』新版改訂版(2013年、税務経理協会)


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