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利用者:新続頭痛/sandbox

あらすじ[編集]

栗毛の馬

転々とした生活を送っている「吟遊作家」の「私」(マキノ)は、新たな生活に向けて家財や負債の整理を終えたところで、自身をモデルにして作られた一個のブロンズ製の等身胸像「マキノ氏像」の始末に迷う。この像は以前、「私」が先輩の藤屋八郎の屋敷「ピエル・フォン」に寄宿している間に、同じ寄宿者であった彫刻家・経川槇雄が作成し「私」に贈ったものである。藤屋はギリシャ古典・中世騎士道文学の研究家で、屋敷内に丸木小屋をいくつも建てて「ラ・マンチャの図書館」「イデアの楯」などといった名前を付け貧しい芸術家のための寄宿舎としていた。

「私」はこの藤屋に「マキノ氏像」を保存してもらうことを思い立ち、龍巻村にある「ピエル・フォン」までの難所の多い道を越えるため、水車小屋で栗毛の牡馬「ゼーロン」を借り出す。しかしかつて「私」の優秀な愛馬であったゼーロンは、「私」が村を去って以来、打たねば進まぬ駄馬になっていた。「私」はゼーロンに自分を思い出させるために歌ったり、かき口説いたりしたのち、虻に驚いて走り出したゼーロンを操り目的地に向かう。「私」は様々な負債や負い目のために、村人たちの目を避けて大きく迂回しなければならなかったが、途中で行く手の森の奥から銃声らしき音を聞いて慄く。その森には窃盗団の団長の住処があり、拳銃使いの彼は、かつて手下だったことのある「私」が黙って都に去ったことに憤っているという噂があった。

「私」が意を決して歩を進ませようとすると、ゼーロンはそこで木馬のように立ちつくしてしまう。「私」は憤り、ゼーロンを殴り始める。すると猪鼻村の方角から半鐘が鳴りはじめたため、村人に見つかったと思った「私」はゼーロンの尻に石を投げつけて駆り出す。しかしその半鐘は納屋からの出火を知らせるもので、消防隊のなかにはあの盗賊団長の姿が混じっていた。団長は半鐘を暗号法に従って叩き、「私」が飲み代のカタにしてしまった先祖伝来の鎧を取り返してやったこと、「マキノ氏像」は「私」の亡父の像と称して生家に売ればよいといったことを「私」に伝える。「私」は名案だと思うと同時に、「恐ろしい因果の稲妻」に打たれる思いがして落馬する。

「私」はふたたびゼーロンを駆り、半鐘の鳴り響く中、「ヤグラ嶽」の頂きに、私、父、マキノ氏像、ゼーロンの四者が「四人組の踊り」(カドリーユ)を踊る光景を幻視する。しかし我に帰ると、この像は鬼涙沼に沈めてしまうよりほかはないと思いなおす。沼の底に似た森にさしかかった「私」は、自分にもゼーロンにも鰓があるように感じ、重荷で破れた背中の皮膚に水がしみる、血でも流れてはいないかと思う。