利用者:甘栗太郎
人材マネジメントの定義
[編集]人材マネジメント(Human Resource Management)とは、経営戦略の達成に向け、組織の経営資源のひとつとして多様な人材を獲得・育成・活用・定着する継続的な取り組みである。
組織経営における人材マネジメントについて考える際には、経営戦略、経営資源、多様な人材が重要なポイントとなる。
- 経営戦略
人材マネジメントの目的は経営戦略の達成である。言い換えれば、人材マネジメントでは、経営戦略達成のために如何に求められる人材を獲得・育成・活用・定着させるか、が問題となる。 また経営戦略達成に必要な人材というトップダウン的な視点からだけではなく、経営戦略を立案・実施・達成させる主体自体も人材であり、組織内の人材によって戦略・組織が左右されるというボトムアップ的な視点も重要になる。 いずれの視点をとるにしても、人材マネジメントを考える上では経営戦略との関係性は必須である。
- 経営資源
人材は、4つの経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」の中で唯一主体的な意思をもつ経営資源であり、またその他のモノ・カネ・情報を活用する経営資源でもあるという特徴をもつ。 またドラッカーが知識社会の到来を告げたように、人材こそが競争力を生み出す唯一の源泉であるとの考え方が浸透してきている。 こうした経営資源としての特性と時代的な背景からも、人材が最も重要な経営資源であるという認識が広がりつつある。昨今では日本企業においても、経営資源としての人材の重要性を強調するために、従前の「労務管理」ではなく「人材マネジメント」という言葉が一般的に使われている。
- 多様な人材
日本では人口の減少に伴い国外労働力活用の必要性が増大している中、外国人労働者の家族も含めた社会的な受入体制の遅れが指摘されている。またFTA交渉において見られるように、国外からの人材の受入は政治的な問題ともなっている。 グローバリゼーションの進行に伴う事業競争の視点からも、国・地域・文化・年齢などの多様性(Diversity)の管理が人材マネジメントにおいても世界的な課題となっている。 このように社会的・政治的な視点からだけではなく事業競争の視点からも人材の多様性のマネジメントは今後の重要な課題となっている。
人材マネジメントの構成要素
[編集]人材マネジメントは以下の7つの要素に分けて考えることができる。
一般的には、等級・評価・報酬に関する仕組みが人事制度と呼ばれる領域である。とくに等級が人材マネジメントのスタイルを決定する重要な要素となっている。 採用・教育・評価・配置/異動・代謝に関する仕組みは人材育成や人材開発と呼ばれる領域である。 これら7つの要素は密に関連しており、一連の関係性を指して人材マネジメントシステムと呼ぶこともある。
人材マネジメントに関する用語は、組織経営において日常的に使われる言葉が多く、関連法規は存在するものの財務・会計のように細部にわたり定義されたものではないことや、経営戦略とその達成に求められる人材マネジメントも異なるため、現状では組織ごとに考え方や呼び名が異なっている。
人材マネジメントの類型
[編集]人材マネジメントは経営戦略達成を目的としているため、組織ごとに望ましいマネジメントスタイルが異なる。また市場、顧客、競合などの事業環境や社会・環境などの外部要因に応じて経営戦略が変化するように、ひとつの組織においても望ましい人材マネジメントは変化する。
現在の組織経営においては、以下の3つのマネジメントスタイルが一般的にとられている。
職能基準の人材マネジメント
[編集]- 基準
職能(職務遂行能力) ~ができる
- 背景
職能基準の人材マネジメントは、日本・韓国など限定的な地域でのみ採用されている。 日本では戦後、安定成長や生活補償という考え方から全社員共通の尺度である年齢や勤続年数、標準的な生計費を考慮した年功序列の人材マネジメントがとられていたが、職務や求められる能力の多様化を背景に職能基準の人材マネジメントへと変遷している。
- 特徴
- 職能を基準として等級を決定する職能資格制度により、職能の向上により資格等級があがること(主管から参事など)を指す「昇格」と組織的な位置づけがあがること(課長から部長など)を指す「昇進」が分離して運用されるため、職務や役割の概念が緩やかであり、配置/異動や人材育成の柔軟性が高い。
- 研究開発職や技術職など、成果を定量的に把握しにくく、能力の向上が成果の向上につながると考えられる職種に適している。
- 新卒採用中心・長期雇用を前提とした安定性と内部公平性を重視した処遇により、継続的な組織力の強化を促す。
- 課題
- 従業員の能力向上に伴い人件費が恒常的に上昇する傾向が強い。
- ポジションごとに求められる職務や成果が曖昧であるため、経営戦略に基づいて組織設計や人材の育成を進める戦略性が低く、従業員個別の成果や処遇に対する説明性も低い。
- 人材の流動性が高い労働市場においては、内部公平性が重視されるため外部市場を考慮した処遇の競争力が維持しにくく、役割や成果に応じて処遇に大きな差をつけにくいことから外部市場からの採用や、内部の優秀な人材の獲得・定着が難しい。
職務基準の人材マネジメント
[編集]- 基準
職務 ~をする
- 背景
職務基準の人材マネジメントはアメリカなど欧米諸国で多くみられる。 多様な文化・宗教・地域からの人材を抱える環境において、差別的な処遇の撤廃を背景に職務基準の人材マネジメントが採用されている。また報酬水準が安定的な成熟した労働市場において取られているケースが多い。
- 特徴
- 職務内容を細かく定義し、職務の価値に応じて等級を決定する職務等級制度により職務と処遇が厳密に管理されるため、人材マネジメントの説明性と人件費のコントロール性が高い。
- 製造現場作業員など、求められる仕事の内容が明確な職種に適している。
- 流動性が高い労働市場においても、中途採用時に外部市場との整合性を維持しやすい。
- 課題
- 職務と処遇が厳密に定義されているため、異動/配置や人材育成の柔軟性が低い。
- 担当すべき職務が明確であるため、与えられた職務のみを行えばよいという意識が横行しがちである。
- 事業環境・経営戦略が不安定な状況においては、職務の定義や見直しが難しく運用コストがおおくかかる。
役割基準の人材マネジメント
[編集]- 基準
役割 ~を達成する
- 背景
職務基準の人材マネジメントを一般的に採用していた欧米企業だけでなく、内部公平性が過度に重視され人件費の高騰を招いていた日系企業においても「成果主義」の掛け声のもと役割基準の人材マネジメントの採用が近年多く見られる。 職務基準の人材マネジメントの説明性と人件費のコントロール性、職能基準の人材マネジメントの柔軟性を継承しながらも、事業環境が不安定な状況において経営戦略に基づいた戦略性の高い人材マネジメントを行う必要性を背景に採用されている。
- 特徴
- 課題
- 高い役割につくことが昇進の条件となるため、成長が停滞している組織では昇進の可能性が限られ昇進による従業員のモチベーションを高めることが難しい。
- 経営戦略に基づいてトップダウンで役割ごとに求められる成果の責任を定義する必要があるため、管理職に組織・役割設計や目標設定の高い能力が求められる。
- 経営戦略からトップダウンで設計される役割を基準とするため、人材マネジメントだけではなく、組織運営や業務の考え方など経営全体との高い整合性が求められる。