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利用者:逃亡者/sandbox4

2021年10月31日撮影

歴史[編集]

863年(貞観5年)に京都に疫病が流行したとき、清和天皇がそれを憂いて、怨霊の祟りを鎮めるために、京都の寺院である神泉苑御霊会を開いた[1]。記録に残っている限りでは最古の御霊会である[2]。このとき魔除け(疫病除け)として神饌(神への供え物)の煎餅が供えられ、これが庶民にも配られたものが、唐板の起源とされる[1][3]。名称の「唐」が示す通り、唐菓子が由来であり[3]遣唐使吉備真備中国)から製法を持ち帰ったものと考えられている[2][4]。御霊会はその後も各所で盛んに開催されたが、応仁の乱によって途絶え、唐板もいつしか忘れ去られた[2]

1477年(文明9年)に、京都で疫病除けの霊社として知られる上御霊神社境内に茶店を開いた水田玉雲堂の初代が、唐板が廃れてしまったことを残念がり[5]、古書をもとに製法を学んで再現し、上御霊神社の茶店で、神饌菓子として商売を始めた[6][7]。応仁の乱での非業の死を遂げた人々を弔うために、御霊会に因んだものともみられている[8][9]。当時は参拝客の一服用として、茶店で売り出されていた[10]。江戸時代後期より「唐板」の名が定着した[7]

水田玉雲堂では唐板の再現以来、半世紀を経ても製法はほとんど変わっていない[2]。変わった点といえば、店の場所が移転したこと、煎餅を焼く方法が炭火から電熱に変更されたこと[2]、材料につなぎの卵が加わったこと程度である[8][11]

平成期には水田玉雲堂店主夫妻2人で水田玉雲堂を切り盛りしていたが、2016年(平成28年)10月に主人が体調不良で休業、翌2017年(平成29年)10月に死去した[12]。唐板作りの大半を主人が作業しており、後継者も不在だったことから妻が閉業を考えたところ、多くの人から惜しむ声が寄せられたことで、妻が夫の味を再現させるべく試作を重ね、客からも「昔と同じ味」と太鼓判を押され、2018年(平成30年)2月から営業が再開された[12]

特徴[編集]

室町時代の頃の煎餅は、砂糖を混ぜた小麦を練って焼いた柔らかめのものであり、唐板はその系譜を受け継ぐ煎餅である[8]小麦粉上白糖鶏卵を混ぜて[13][14]、短冊形に成型して焼いて作られる[8][14]。出来上がった形は守り札に似ており、神饌菓子の名残を彷彿させる[8]

香ばしい歯当たり[6][13]、ほんのりとした甘み[6]、口の中で溶けた後の味の上品さ[5][13]、心地よい余韻と食感が特徴である[5]。1枚ずつが手焼きで作られるために[8]、量産はされていないが、昔と変わらない味を求める客が多い[2]。参拝客が土産として買うことが多いが、茶会に出す干菓子として、茶人にも人気がある[6][11]

購入者の約半数は唐板の由来を知っているというが、厄除けという由来は時代と共に、作り手にも買い手にも意識されなくなっている[9]。それでも初宮参り、七五三、成人式、結婚、快気祝い、法事などに買う客が多く、人間の誕生、成長、結婚、出産、死という人生の節目、節目に買われる習慣が続いている[9]

小説家の水上勉の随筆「失われゆくものの記」に「昔馴染んだ菓子」も記述があり[4][10]、小説家の宮尾登美子の著書にも登場するなど、文人にも好まれている[5]

脚注[編集]

  1. ^ a b 今屋 & 桐村 1984, p. 231
  2. ^ a b c d e f 高田 2006, p. 212
  3. ^ a b 岡田 2003, p. 114
  4. ^ a b 蔵田 2006, p. 111
  5. ^ a b c d 本田 1996, p. 22
  6. ^ a b c d 今屋 & 桐村 1984, p. 232
  7. ^ a b 宗政 & 森谷 1986, p. 123
  8. ^ a b c d e f 鳥居 2004, p. 36
  9. ^ a b c 佐々木ふみ「千年の都はミステリアス 唐板せんべい」『産経新聞産業経済新聞社、2003年7月17日、大阪夕刊、12面。
  10. ^ a b 水上 1977, pp. 302–303
  11. ^ a b 西村宏治「おあがりやす 唐板 食感パリっ、元は疫病よけ」『朝日新聞朝日新聞社、2016年10月6日、大阪地方版 京都、28面。
  12. ^ a b 上田裕子「伝統菓子「唐板」私が継ぐ 創業1477年 老舗再開へ 亡き夫に代わり 試作重ね 味再現」『京都新聞』京都新聞社、2018年1月26日、夕刊、1面。
  13. ^ a b c 本田 2002, p. 23
  14. ^ a b 駒 1984, pp. 72–73

参考文献[編集]

  • 蔵田敏明『水上勉の京都を歩く(新撰京の魅力)』淡交社〈新撰京の魅力〉、2006年10月24日。ISBN 978-4-473-03340-6 
  • 駒敏郎「諸国和菓子めぐり」『俳壇』第1巻第4号、本阿弥書店、1984年9月14日、NCID AN10410163 
  • 高田京子「最古巡礼 平安時代の御霊会にさかのぼる菓子」『週刊新潮』第51巻第10号、新潮社、2006年3月16日、NCID AN1016794X 
  • 鳥居美砂「和歌、茶の湯と並ぶ男子の嗜み 和菓子の正統」『サライ』第16巻第17号、小学館、2004年8月5日、NCID AN10549990 
  • 本田由紀子「創業100年頑固な味 全国老舗煎餅」『サライ』第8巻第24号、1996年12月19日。 
  • 本田由紀子「京みやげ」『サライ』第14巻第19号、2002年10月3日。 (別冊付録「京都 快適な宿、美味しい店67軒」)
  • 水上勉『水上勉全集』 20巻、中央公論社、1977年12月20日。 NCID BN06087007 
  • 宗政五十緒森谷尅久編 編『京都歳時記』淡交社、1986年2月19日。ISBN 978-4-473-00940-1 
  • 邦光史郎編 編『京都千年』 7巻、講談社、1984年10月10日。ISBN 978-4-06-187107-6 
  • 岡田哲編 編『たべもの起源事典』東京堂出版、2003年1月30日。ISBN 978-4-490-10616-9 


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