利用者:雪妖精/作業所01

数学、特に代数学の分野において、根と係数の関係(こんとけいすうのかんけい)あるいはビエトの公式(ビエトのこうしき、: Vieta's formulas)とは、一変数多項式係数とそのの和や積などを関連づける公式である。この公式は16世紀のフランス人数学者フランソワ・ビエト: François Vièteラテン翻字: Franciscus Vieta)にちなむ。

歴史[編集]

その名称に反映されている通り、この公式は16世紀フランス人数学者フランソワ・ビエトによって、多項式が正の実根を持つ場合に発見された[1]。ただし、Funkhouser が自身の論文[2]で引用しているように、18世紀イギリス人数学者 Charles Hutton によれば多項式が正の実根を持つとは限らない一般の場合であっても17世紀のフランス人数学者 Albert Girard により知られていたという:

...[Girard was] the first person who understood the general doctrine of the formation of the coefficients of the powers from the sum of the roots and their products. He was the first who discovered the rules for summing the powers of the roots of any equation.
……[Girard は]多項式の根の和や積と係数の一般的な原理を最初に示した。彼は任意の多項式における根の累乗和に対する規則を初めて見出したのだ。

基本公式[編集]

任意の一変数 n多項式 an xn + an−1 xn−1 + … + a1x + a0 = 0係数 ai実数R もしくは複素数C の元であり、首位の係数 anan ≠ 0 を満たすとする)は、重複を込めて n 個の根(解)r1, r2, …, rn−1, rn を持つことが代数学の基本定理により知られている。ビエトの公式は基本対称式における多項式の根による値と元の多項式の係数を以下のように関連付ける。

あるいは同じことだが、ビエトの公式は以下のようにも書ける。

任意の k = 1, 2, …, n に対して次が成り立つ:

(ここで、k 個の元をちょうど一回ずつ用いることを保証するため、添字 ik は昇順に並べ替えておく)

ビエトの公式は、多項式の根そのものを計算することなしに多項式の係数とその根の間に成立する関係を提示する。

次数が低い多項式についての具体例[編集]

低次の多項式に対しては以下の事実が成立する。

二次の場合[編集]

因数定理によって x に関する二次多項式

因数分解可能であるから、この両式を比較することで次が得られる[3]

特に、P2(x) の最小値(または最大値)を求める際に根の和に関する等式が使われる。

三次の場合[編集]

二次の場合と同様に、因数定理によって x に関する三次多項式

因数分解可能であるから、この両式を比較することで次が得られる[4]

四次の場合[編集]

二次、三次の場合と同様に、因数定理によって x に関する四次多項式

因数分解可能であるから、この両式を比較することで次が得られる[5]

より高次の場合[編集]

四次より高い次数の多項式に対しては、複素数体を係数とする多項式であっても必ずしもその根を代数的に記述することはできない(アーベル–ルフィニの定理)が、それでもビエトの公式は成立する。例えば五次多項式に対する公式はビエト本人による論文において明示されている[6]

証明[編集]

ビエトの公式は先の具体例を任意の次数の代数方程式に一般化することで得られる。すなわち、以下の等式

を展開した上で各次数ごとの係数を比較することで証明できる。

より形式的には、an(xr1)(xr2)…(xrn) を展開した際の各項は (−1)nkr1b1r2b2rnbn xk という形の項からなり、ここに各 bi因子ri を含むかどうかに応じて 1 か 0 の値をとり、k は除外された ri の個数を表し、合計で n 個の因子からなる(xkk 個の因子として勘定する)。よって各 i について rix かの二者択一があり、これが n 組あるので合計で 2n 個の項よりなる -- 幾何学的には n 次元超立方体の頂点として理解される。これらの項を x の次数についてまとめると、xk の係数として k 次の基本対象式が得られる。

可換環に対する一般化[編集]

ビエトの公式は一般の整域 R を係数とする多項式にも用いられる。このとき、その「商」ai /anR全商環(あるいは an そのものが R可逆なら、元の整域 R 自身)に属し、多項式の根 riR代数閉体に属す。特に R として整数Z をとったとき、その全商環は有理数Q となり、代数閉体は複素数C となる。

整域とは限らない可換環 S を係数とする多項式 P(x) に対しては、ビエトの公式は首位の係数 an が非零因子であり、かつ P(x)S 上で P(x) = an(xr1)(xr2)…(xrn)因数分解できる場合に限られる。例えば、8を法とする剰余類環 Z8 = Z/8Z に対して、多項式 P(x) = x2−1 は4つの根1、3、5、7を持つ。このとき、Z8 においては P(x) ≠ (x−1)(x−3) であるから (r1, r2) = (1, 3) に対してはビエトの公式は成り立たない。しかしながら、P(x)P(x) = (x−1)(x−7) = (x−3)(x−5) と因数分解できるため (r1, r2) = (1, 7), (3, 5) に対してはビエトの公式を適用できる。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Francisci 1591, pp. 128–130.
  2. ^ Funkhouser 1930.
  3. ^ Francisci 1591, Collectio Quarta, Cap. XIIII, PROPOSITIO I.
  4. ^ Francisci 1591, Collectio Quarta, Cap. XIIII, PROPOSITIO II.
  5. ^ Francisci 1591, Collectio Quarta, Cap. XIIII, PROPOSITIO III.
  6. ^ Francisci 1591, Collectio Quarta, Cap. XIIII, PROPOSITIO IIII.

参考文献[編集]

  • Djukić, Dušan (2006), The IMO compendium: a collection of problems suggested for the International Mathematical Olympiads, 1959–2004, Springer, New York, NY, ISBN 0-387-24299-6 
  • Funkhouser, H. Gray (1930), “A short account of the history of symmetric functions of roots of equations”, American Mathematical Monthly (Mathematical Association of America) 37 (7): 357–365, doi:10.2307/2299273, JSTOR 2299273, https://jstor.org/stable/2299273 
  • Francisc, Vietae (1591), De Aequationum Recognitione et Emendatione Tractatus Duo, 第二論文, De aequationum recognitione et emendatione 
  • Vinberg, E. B. (2003), A course in algebra, American Mathematical Society, Providence, R.I, ISBN 0-8218-3413-4 
  • Hazewinkel, Michiel, ed. (2001), “Viète theorem”, Encyclopaedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4, http://eom.springer.de/p/v096630.htm