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利用者:132人目/曲率

曲率(きょくりつ、curvature)とは、局所的に空間の曲がり方を表す尺度の1つ。ここでは主に 1 次元空間である曲線の曲率を扱う。

概要[編集]

自動車が走るとき、道路の曲がり方は自動車の走り方に大きな影響を与える。自動車の速さに対して、曲がり方が急すぎれば事故にもつながる。道路や線路などの設計においては、道の曲がり方を表す曲率半径という値を計算し、自動車や電車が安全に走ることができるかどうかをチェックする。曲率半径とは、曲線上の各点に対して与えられる値であり、曲率円と呼ばれる半径である。その点の周辺での道路の様子は、そこでの曲率円の円弧によく似た曲がり方をしているということを表している。円周の形をした道路は、その上のどの点でも曲がり方は変わらず一定と考えられるために、曲がり方を表す基準になる。接線という直線を用いて曲線を局所的に直線で近似するように、曲率円という円を用いて曲線を円という二次曲線で局所的に近似しているのである。曲率半径が小さいほど曲がり方は急であり、曲率半径が大きいほど曲がり方は緩く、形は直線に近付く。直線の道路は、曲率半径が無限大の曲率円の円弧ともみなせる。

曲率円という分かりやすい図形に結び付けやすい曲率半径という数値は、実社会において実用的な表現であるものの、数学においては、曲率半径よりも、曲率半径の逆数である曲率を用いる方が扱いやすい場合が多い。直線の曲率は 0 であり、半径 R の円周では円周のどこでも曲率が 1R で一定である。逆に、曲率が常に 0 であったり、一定である曲線は、それぞれ直線や円しかない。すなわち、微分という局所的な情報を与えれば積分によって元の関数の形が得られるように、曲率も局所的な情報であるにも関わらず、曲線全体の形という大域的な性質と結びついているのである。

ガウスは曲面にも曲率を定義し、曲面論を築き上げた。曲面の場合、円のようにどの点においても、一様な曲がり方をしている曲面として球面が考えられる。球面上ではどの点に立っても、足下の曲がり方から自分の位置を特定することは無理である。しかし、円柱の側面も同じように一様である。したがって、曲率の概念の多次元化は 1通りではないことが窺える。実際に、曲面であればガウス曲率平均曲率主曲率などの拡張が知られている。さらに曲線論・曲面論が多様体に一般化されていく過程で、曲率の概念も一般化されていった。

平面曲線の曲率[編集]

ここでは、区間 I = [a,b] ⊂ R 上で定義された 2 次元ユークリッド空間内の十分滑らかな曲線

φ(t) = (x(t), y(t))
φ : IR2

の曲率を与える。

弧長と曲率[編集]

特定の点 cI から tI までのφ(t) の弧長

をとり、ψ(s) = φ(t) として曲線の変数を s に変換し、定義域は I から I2 に変換されたとする。

s による微分を ′ で表すと、接ベクトル

e1(s) = ψ′(s)

の大きさが 1 であることから、e1(s)・e1(s) = 1 を s で微分すれば、 e1(s)・e1′(s) = 0 であるから、e1′(s) ≠ 0 であれば、e1(s) と e1′(s) は直交している。したがって、e1 を正の向きに 90度回転して得られるベクトルを e2(s) とすれば、スカラー量 κ(s) を用いて

e1′(s) = κ(s) e2(s)

と表すことができ、この κ(s) のことを曲率という。

この表現では e1′(s) = 0 の場合も κ(s) = 0 の場合として含めることができる。これは曲線 ψ(s) が直線の場合にあたる。また、κ(s) > 0 となる場合は e1(s) の方向を向いて、曲線が e2(s) の方、つまり左の方へ曲がり、κ(s) < 0 であれば、右の方へ曲がる。そういった方向を特に気にする必要がない場合は、絶対値を取った値を曲率ということもある。

曲率は局所的な値であるものの、曲線全体の形を決定付ける値である。ある 2 つの曲線、ψ1(s) と ψ2(s) の全ての点で、曲率 κ1(s)、κ2(s) が与えられているとき、

κ1(s) ≡ κ2(s)

となる必要十分条件は、曲線同士が平行移動と回転移動を使って重ねあわせられることである。

これは合同を定義する 3 つのユークリッドの運動のうち、対称移動を除いた 2 つ移動である。対称移動が無い分だけ変換の自由がないため、ここで言う「重ね合わせ」は、合同という性質よりも窮屈な強い条件になっている。対称移動の場合は、左カーブが右カーブに移動されるように、曲率の符号が入れ替わってしまう。

κ(s) ≠ 0 のとき、その逆数の絶対値

曲率半径(きょくりつはんけい、radius of curvature)といい

を、曲率中心(きょくりつちゅうしん、center of curvature)という。曲率中心を中心として曲率半径を半径とする円は、曲率円(きょくりつえん、circle of curvature)と呼ばれる。

s を時間を表す変数とみる場合、e1(s) は速度e1′(s) は加速度である。速度の大きさが 1 で一定であることから、円周上の運動であれば等速円運動ということになり、加速度ベクトル e1′(s) は円の中心を向き、その大きさは円の半径の逆数、つまり、曲率 |κ(s)| である。

曲率や曲率半径などは、変数 s に依存した値であり、道路や線路のカーブの曲率半径を測定する場合には、カーブとなっている区間での曲率半径の最小値を代表値とし、最小曲率半径として表示する場合が多い。この最小曲率半径を取る位置は、そのカーブで最も急な曲がり方になっている部分であり、そのカーブを自動車や電車が通過する時の危険度を表す指標の 1 つになる。

積分と曲率[編集]

半径 r 、中心角 θ の扇形の弧の長さは s = r θ であり、曲率は κ(s) = 1r である。したがって、 κ(s) s = θ は中心角に等しいことが分かる。一般の曲線では扇形の弧と違って円周の一部ではないが、微小な区間に分け、それぞれが曲率円で近似されると考えると、曲率の積分

は、微小な区間ごとの移動での中心角の増減を足し合わせたものということになる。特に閉曲線、すなわち、φ(a) = φ(b) であるとき、この積分は 2 π の整数倍となり

を、回転数(かいてんすう、rotation index)という。

円周を正の向きに m 周することは中心角でみれば 2 π m ラジアンの移動を行ったことになる。曲率が負になるときは、負の向きに後戻りしていると考えて、全体で何回転しているかを表す整数値が回転数である。


座標と曲率[編集]

曲率の性質を理解するために、弧長 s を変数にするのは見通しがよいものの、実際に曲率の値を得たい場合は s に直して計算するよりも、そのまま曲率を求める方法も便利である。 この節では t での微分を ′ で表す。

t で微分して

さらに s で微分すれば

e1(s) を正の方向へ 90度回転すると

となるので曲率は

となる。

y = f(x) という関数で与えられるグラフの曲率を調べたい場合は、t = x とみることで

である。

極座標で r = r(θ) と与えられている場合は、変数変換により

によって、曲率が得られる。