利用者:0Chair/sandbox
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
産業財産権法において、手続の補正(てつづきのほせい)とは、特許庁に手続をした者が、先に行った手続の不備を補充、訂正、削除する法律行為である。手続の補正の一例として、特許庁に書面を提出した者が、その書面の記載を修正する行為が挙げられる。適法にされた手続の補正は、その手続の内容がはじめから補正した内容であったとみなされ、いわゆる遡及効を有することとなる。
特に、特許出願の特許請求の範囲などの出願書類は、所定の範囲内で要旨を変更する補正も認められており、その効果も出願日に遡及し、はじめから補正した内容で出願したとみなされる。このことから、出願書類の補正は、先願主義の面で不利益を被ることなく、特許出願の拒絶理由を回避・解消する有効な手段の一つである。
概要
[編集]手続の円滑迅速な進行を図るためには、はじめから完全な内容の書類を提出することが最も望ましいので、本来であれば、一度特許庁に提出した書面について、遡及効を有する補正を認めるべきではない。しかし、実際問題として当初から完全なものを望み得ない場合も少なくないので、時期・内容に制限に設けた上で、補正を認めている[1]。
手続の補正は、事件が特許庁に係属している場合であればできることが原則であり(特許法第17条1項)、補正の内容についても所定の要件を満たしさえすれば自由に行うことができる。しかし、出願書類や審判請求書などの書面については補正できる内容と時期に制限がある。
手続の補正を行うことができる者は、特許庁に手続をした者に限られる(特許法第17条1項)。したがって、特許庁に手続を行っていない第三者は、弁理士などの代理人でない限り、補正を行うことはできない。ただし、手続を複数人で共同で行った場合、その手続の補正は、複数人全員で行う必要はなく、原則として単独で他の者の同意なしに行うことができる(特許法第14条)[2]。
手続の補正の手続きは、手続補正書を特許庁に提出することによって行う(特許法第17条4項)。ただし、手数料の納付についての補正は、手数料補正書でする必要がある(同項かっこ書)。
国内特許出願
[編集]明細書などの補正
[編集]明細書、特許請求の範囲または図面(以下明細書等)の補正は、特許査定謄本の送達まではいつでもすることができることが原則である(特許法17条の2第1項柱書)。ただし、拒絶理由通知を受けた場合は以下の機会に限定される(同項但書)。
- 拒絶理由通知の指定期間内(同項1号、3号)
- 拒絶理由通知後にされた第48条の7の通知の通知の指定期間内(同条2号)
- 拒絶査定不服審判の請求と同時(同条4号)
また、明細書等の補正内容の制限としては、以下の制限がある。
- 新規事項の追加の禁止(同条3項)
- シフト補正の禁止(同条4項)
- 補正の目的の制限(同条5項)
要約書の補正は、出願日(または優先日)から1年4月以内にすることができる。なお、要約書の補正に内容的な制限は課せられない。
新規事項の追加の禁止
[編集]明細書等の補正では、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(当初明細書等)に記載した事項の範囲を超えて補正する事は原則することができない(17条の2第3項)。これを新規事項追加の禁止という。
このように規定されているのは、補正をすることによって出願の時が補正をした時に繰り下げられるわけではないので、補正によって内容を追加できるとすれば、出願人は出願後に知った発明を出願時に出願したことにできることとなり、先願主義に反し不合理であるためである[3]。
審査基準では、当初明細書等の記載事項とは、出願当初の明細書等に明示的に記載された事項およびその事項から自明な事項の範囲内とされる[3]。
本要件の違反は、拒絶理由、無効理由となる。
シフト補正の禁止
[編集]拒絶理由通知があった後の特許請求の範囲の補正では、拒絶理由通知で判断対象とされた補正前の発明と補正後の発明とで発明の単一性の要件(37条)を満たすものでなければならない(17条の2第4項)。これをシフト補正の禁止という。
このように規定されているのは、発明の特別な技術的特徴を変更する補正がされると、審査官がそれまでになされた先行技術調査・審査の結果を有効に活用することができず、先行技術調査・審査をやり直すこととなるため、 権利付与の迅速性・適格性に支障が生じることとなるためである。また、シフト補正を認めると、単一性のない複数の発明を審査官に調査・審査させることとなるため、出願間の取扱いの公平性が十分に確保されなくなるという問題もある[3]。
本要件の違反は、拒絶理由であるが、無効理由とはならない。本規定は、分割出願をすべきであったところを補正とした手続上の不備があるのみであるので、シフト補正がされたのまま特許査定されたとしても直接的に第三者の利益を著しく害することにはならないためである[3]。
補正の目的の制限
[編集]最後の拒絶理由、分割出願にされる元出願と同じ拒絶理由である旨の通知(50条の2の通知)または拒絶査定謄本送達後の明細書等の補正では、補正の目的は下記に限られる(第17条の2第5項)。
- 特許請求の範囲の請求項の削除
- 特許請求の範囲の限定的減縮
- 誤記の訂正
- 拒絶理由通知で指摘された明瞭でない記載の釈明
ここで、2.の「限定的」とは、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前と補正後の請求項に記載された発明の産業上の利用分野・解決しようとする課題が同一であることを指す。例えば、構成A、構成Bおよび構成Cの組み合わせの発明を、構成A、構成Bおよび構成Cの下位要素であるC1の組み合わせの発明に減縮することは限定的減縮となる可能性があるが、構成A、構成B、構成Cおよび構成Dの組み合わせの発明に減縮することは限定的減縮と判断されない。
また、限定的減縮を目的とする補正には、さらにその発明が独立して特許を受けられる要件(独立特許要件、特許法126条7項)を満たす必要がある(第17条の2第6項)。
この規定は、権利付与の迅速性・適格性を確保するために、既になされた審査結果を有効に活用できる範囲内に制限する趣旨で設けられたものである[3]。また、この規定が50条の2の通知に規定されるのは、分割により本規定の適用を逃れるなどの分割出願制度の濫用抑止を図るためである[3]。
本要件は、発明の内容に関して実体的な不備をもたらすものではないことから、無効理由とはされていない[3]。このことから、審査基準では、審査官が本要件を必要以上に厳格に運用することがないよう求められている[3]。
外国語書面出願に係る書面の補正
[編集]国際特許出願(PCT)
[編集]19条補正
[編集]34条補正
[編集]日本移行後の取扱い
[編集]実用新案登録出願
[編集]実用新案法では明細書、実用新案登録請求の範囲または図面(以下明細書等)の補正は、出願後1月以内に限られる(実用新案法2条の2第1項但書)。補正の内容の制限は新規事項追加の禁止(同条2項)のみで、シフト補正の禁止および補正の目的の制限が課せられない。また、上記の期間以外であっても、基礎的要件違反(保護対象外・公序良俗違反・クレームの記載要件違反・記載事項の欠落)による補正指令に対応して明細書等の補正を行わなければならない(同法6条の2)。
意匠登録出願
[編集]意匠法では、意匠登録出願に係る書面の補正は、その要旨を変更しない補正のみが認められ(意匠法60条の24)、願書の記載または願書に添付した図面等についての要旨を変更する補正は却下される(同法17条の2第1項)。この却下の決定に対しては、補正却下決定不服審判を請求できる(同法47条1項)。また、出願日が補正日に繰り下がるものの、補正後の意匠についての再出願をすることもできる(同法17条の3第1項)。また、要旨変更補正が看過されて登録になり、その後その補正が要旨変更と認められた場合、そのこと自体は無効理由とならないが、出願日がその補正をした日に繰り下がる(同法9条の2)。
ここで「願書の記載」とは、以下の項目で記載された事項を指す(同法9条の2かっこ書)[1]。
- 意匠に係る物品(または意匠に係る建築物もしくは画像の用途)
- 意匠に係る物品の説明
- 意匠の説明
また、審査基準では、以下の補正は要旨を変更するものと判断される[4]。
- その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて当然に導き出すことができる同一の範囲(類似の範囲を含まない)を超えて変更するものと認められる場合
- 出願当初不明であった意匠の要旨を明確なものとするものと認められる場合
- 部分意匠について意匠登録を受けようとする範囲を変更する場合
ただし、2以上の意匠を含む出願について、一方の意匠を削除する補正など、拒絶理由を解消するために必要な補正は、要旨を変更しない補正であるとして認められることもある[1]。
商標登録出願
[編集]商標法では、商標登録出願に係る書面の補正は、その要旨を変更しない補正のみが認められ(商標法60条の40)、願書の記載した指定商品(もしくは指定役務)または登録を受けようとする商標についての要旨を変更する補正は却下される(同法16条の2第1項)。この却下の決定に対しては、意匠法と同様、補正却下決定不服審判(同法45条1項)または補正後の商標についての再出願(意匠法17条の3第1項準用)が可能である。また、要旨変更補正が看過されて登録になり、その後その補正が要旨変更と認められた場合、そのこと自体は無効理由とならないが、出願日がその補正をした日に繰り下がる(商標法9条の4)。
審判請求書
[編集]無効審判請求書など、審判請求書の補正はその要旨を変更する補正は認められないことが原則である(特許法131条の2第1項柱書)。ただし、以下の場合は要旨の変更であっても認められる(同項但書)。なお、商標登録無効審判請求書については、要旨変更補正は例外なく認められない(同項但書不準用)。
- 特許・実用新案登録・意匠登録・商標登録の無効審判以外の審判における、請求の理由についての補正(同項1号)
- 特許・実用新案登録・意匠登録の特許無効審判において、所定の要件を満たし、審判長の許可があった補正(同項2号)
- 審判請求書について補正指令がされ、その指令に基づいて行う補正(同項3号)
ここで、特許・実用新案登録・意匠登録の無効審判において、審判請求書の要旨を変更する補正が認められる要件は、具体的に以下の要件をすべて満たした場合に限られる。なお、この補正の許可は、被請求人(特許権者)に審判請求書が送達される前にすることはできず(同条3項)、その可否については不服を申し立てることはできない(同条4項)。
- 要旨を変更する補正が、請求の理由に係るものであるものであること(同条2項柱書)
- 当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであること(同項)
- 被請求人の訂正によって補正の必要が生じたこと(同項1号) または 補正後の請求の理由が審判請求時の請求書に不記載であったことについてそのほかの合理的な理由があり、かつ、被請求人が当該補正に同意したこと(同項2号)
- 決定による審判長の許可があったこと(同条2項柱書、同条1項2号)