利用者:Eugene Ormandy/sandbox106 秋冬山水図

『秋冬山水図』
英語: Autumn and Winter Landscapes
「秋冬山水図」より秋景図
作者雪舟
製作年15世紀末~16世紀初頭
種類掛幅 2幅 紙本墨画
寸法47.7 cm × 30.2 cm (18.8 in × 11.9 in)
所蔵東京国立博物館

秋冬山水図 (しゅうとうさんすいず) とは、雪舟による水墨画である。秋景図と冬景図の2幅からなる。東京国立博物館が所持している。

構図[編集]

「秋冬山水図」より冬景図

両図の共通点[編集]

両図とも画面中央にS字の山路が描かれ、全ての景物がその山路に帰納されることで奥行きが表現されている[1]。また、両図とも「岩容の輪郭線が激しくぶつかり合い、その相互がせり合うかたちで深奥の調和が見事に保たれた構図」であると指摘されている[2]

秋景図[編集]

モチーフは画面下部に集められ、上部は空間の広がりを表している[3]。実際、楼閣の水平線は自然と対立することのないよう描かれている[2]。また、画面の中の人物は、比例を無視して大きく描かれている[2]

「秋景図」とされる本作が描く季節は曖昧であるという指摘もあり、『国宝辞典 第4版』は「夏景と伝えられていた一幅は、落葉した梅樹が描かれていると見れば秋景のようでもあり、本来は白色を点じて表現されるべき花が省略された状態の梅樹が描かれているとみれば春景のようでもあって、必ずしもその季節は判然としない」と記している[4]。また、実際この2幅はもともと「冬山水図」として知られていた[4]

冬景図[編集]

楼閣、懸崖、水辺、樹木が描かれている[3]。他にも、山路には楼閣へ向かって雪道を歩く人物が描かれているが、この人物は作者である雪舟自身の修行姿を表したようにも見えると指摘されている[2]。また、画面中央には濃墨の垂直線が描かれているが、これは懸崖の輪郭を表現しているとされる[5]。ただし、この垂直線については「あまりに強烈なため、懸崖の輪郭には見えないほどである」とも指摘されている[5]

なお、冬景図にのみ「雪舟筆」の落款と「等楊」の印がある[2]

表現技法[編集]

夏珪の影響[編集]

雪舟の時代には、夏珪を手本とする「夏珪様」が流行した[3]。本作も、両図ともに夏珪の影響を受けているほか、夏珪様の「山水長老」と類似していると指摘されている[3][5]。救仁郷秀明は、秋景図について「夏珪様であると判定されるが、その堅固な構築性は『山水長老』に近い」と指摘しており、冬景図については「反時計回りに岩や山を螺旋状に配置する構図は、執拗にモチーフを交錯させて奥深い空間を作り出す」点が「山水長老」と類似していると指摘している[3][5]。くわえて、冬景図における、上方が下方より突き出た岸壁を表現している垂直線について「夏珪様である図巻である『山水長老』にたびたび現れるが、一方、伝朱栄筆『盤車図』や伝夏珪筆『渓山清遠図巻』などの中国絵画にも見ることができ、夏珪画に由来する可能性が高い」と指摘している[3]

独自性[編集]

夏珪の様式にならってはいるものの、淡彩を施さないことは異例であるとされる[4]。金澤弘は「両図にみられる確実な筆致と意図された安定感のある構図は、雪舟の在明中の作品やその後の四季山水図などにはみられない新しさをもっており、もちろん若年の頃に雪舟が学んだ如拙周文の画風にもなかったものである」と指摘している[1]

また、上述のとおり「山水長老」との類似性は指摘されているものの、本作は「山水長老」ほど入り組んだ空間配置ではないぶん、筆墨の強さが強調されているという意見もある[5]

形態[編集]

秋景図と冬景図の2幅からなる[4]

一方、『国宝辞典 第4版』は「秋景図とされる作品の季節は曖昧であり、もともと2幅で『冬山水図』として知られていたこと」「落款が冬景図にしかないこと」を根拠として、「向かって右から左へゆるやかに四季がうつろう山水図を横に連続するように描いた一連の画幅のうち、隣り合わない2幅のみが残存したものと思われる」と推定している[4]

制作の経緯[編集]

制作の背景[編集]

武家社会で流行した禅宗や、新たに中国から伝来した宋元画の影響を受け、鎌倉時代の日本では水墨山水画という新しい分野が誕生した[6]。山水画は単なる風景描写ではなく、禅の精神の象徴であるとされ、日本の山水画は中国の山水画を規範とした[6]

雪舟は室町時代後半に中国へと渡り、中国の山水画の精神と技法を日本に伝え、日本の山水画を大成させた存在であると言われている[6]

制作時期[編集]

冬景図の落款より、雪舟が中国から日本へと帰国した50歳前後の頃の作品であると推定されている[1]。一方、雪舟が67歳で描いた「山水長巻」より後に制作された、70歳代の頃の作品ではないかという意見もある[2][5]

所有者の変遷[編集]

京都の曼殊院が所蔵していたが[4]、1936年に東京国立博物館の所蔵となった[5]

評価[編集]

本作は雪舟の代表作であると言われている[6]。1953年には、日本の国宝に指定された[1]。また、1998年には長野オリンピックの開会式ポスターに冬景図が用いられた[3]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 金澤 1985, p. 321.
  2. ^ a b c d e f 日本の水墨画1 山水 2018, p. 15.
  3. ^ a b c d e f g 救仁郷 1999, p. 46.
  4. ^ a b c d e f 国宝事典 第4版 2019, p. 43.
  5. ^ a b c d e f g 救仁郷 1999, p. 47.
  6. ^ a b c d 国宝の旅 2001, p. 232.

参考文献[編集]

  • 金澤弘「秋冬山水図」『国宝大事典 全5巻 1 絵画』、講談社、1985年、321頁、ISBN 4-06-187821-2 
  • 救仁郷秀明「雪舟筆 秋冬山水図」『日本の国宝』、朝日新聞社、1999年、46-47頁、ISBN 4-02-380012-0 
  • 『国宝事典 第4版』便利堂、2019年。ISBN 978-4-89273-108-2 
  • 『国宝の旅』講談社、2001年。ISBN 4-06-173492-X 
  • 『読書案内 国宝を知る本 絵画編』日外アソシエーツ、2001年。ISBN 4-8169-1692-X 
  • 『日本の水墨画1 山水』河出書房新社、2018年。ISBN 978-4-309-62251-4 

関連文献[編集]

外部リンク[編集]