利用者:Hermeneus/Wikipedia:独自の調査

ウィキペディアは長い年月を経て培われてきた人類の英知を概括・分類して記録する百科事典であり、新しい発見やオリジナルの創作物を発表する場ではありません。斯様な百科事典であるという性質上、ウィキペディアには既に一般社会において十分に認知されている情報、あるいは一般社会において広く認知されている専門分野内において十分に認知されてる情報のみが掲載されます。

ある情報が一般社会において十分に認知されていることを示すには、それが主要メディアや学術誌など何らかの公共性と権威を兼ね備えた媒体において発表・認知されていることを示す必要があります。未だどこにも発表されたことがない研究や調査、新理論、批評、新概念などの、いわゆる独自調査(英:original research)の類いは、ウィキペディアに掲載することはできません。

ウィキペディアが独自調査を掲載しないのは、独自調査に価値が無いと見下しているからではなく、ウィキペディアが単に独自調査を発表するのに適切な場所ではないからです。どうしても独自調査の成果をウィキペディアに掲載したい場合には、まずそれを権威のある査読制度を備えた学術誌などに投稿して出版し、少なくともその分野で十分に認知されるようになってから、ウィキペディアに投稿してください。

当方針は、Wikipedia:中立的な観点Wikipedia:検証可能性と共にウィキペディアの編集に関する三大基本方針を成しています。これらの方針は相互補完的なもので、併せて記事名前空間に記載することが出来る情報の種類と質を規定します。いずれの方針も他の二方針と切り離して考えるべきではなく、執筆者は三方針を併せて理解するよう努めて下さい。

独自調査の定義[編集]

独自調査とは、ウィキペディア編集者によって寄稿された情報のうち、既に何らかの社会的に広く認知された媒体において発表・認知されていないものを指すウィキペディア用語です。以下のいずれにも該当しない情報は一般にウィキペディアに掲載するにはふさわしくない独自調査に認定されます。

  1. 新聞やニュース番組など、権威があると一般社会において広く認知されている媒体で発表・認知されたもの。例:主要局で放送されたドキュメンタリー番組、主要紙で報道された著名人の発言。
  2. 公官庁や政治家など、権威があると一般社会において広く認知されている機関や人物が公式に発表・認知したもの。例:総理大臣記者会見。
  3. 学術誌など、権威があると一般社会において広く認知されている専門分野内において、権威があると広く認知されている媒体で発表・認知されたもの。
  4. 研究機関や学者など、権威があると一般社会において広く認知されている専門分野内において、権威があると広く認知されている機関や人物が公式に発表・認知したもの。

その情報が発表された媒体が一般社会において広く認知されていなくても、その媒体が属する分野が社会的に広く認知されたもので、かつその分野でその媒体が広く権威があると認知されている場合には、その情報はウィキペディアに掲載するにふさわしいものであり独自調査には当たりません。例えば、アメリカ政治学会が刊行している学術誌PS: Political Scienceは一般社会においてはあまり知られていませんが、政治学が一般社会においても広く権威のある学術分野であると認められており、かつ政治学界においてPSが権威のある学術誌であると広く認定されていることから、PSで発表された論文はウィキペディアで言及するに値する情報となります。

仮にある情報が権威のある機関などから提供されたものであっても、その機関が公式に発表したものであるか、あるいは他の何らかの公共性と権威を兼ね備えた媒体において発表・認知されたものでない限りは、独自調査あつかいとなります。例えば、無名のウィキペディア編集者が地元選出の国会議員に直接電話で問い合わせて得た情報は、それが何らかの第三者が確認できる媒体において認知されない限りは、独自調査になります。また、社会において広く権威があると認められている人物自身がウィキペディアに直接寄稿するような場合でも、その寄稿内容が学術誌などで既に発表済みか主要メディアなどにおいて認知されていなければ、同じく独自調査あつかいとなります。

ウィキペディアに掲載する情報は、その対象のみが十分に社会で認知されているだけではなく、情報自体も十分に認知されていなければなりません。例えば、選挙における投票行動は一般社会においても広く認知されている現象であり、これに関する情報はウィキペディアに記載するに値します。しかし、その解説が政治学界において定説となっている投票行動論などを紹介するものではなく、まったくのオリジナル理論を展開するような場合は独自調査に相当し、掲載するに値しません。

独自調査の種類[編集]

独自調査には幾つかの形態があります:

  1. 一次資料を形成するもの。
    1. 自分が行った未発表の実験・観察(例:自分が発見した動物の生態、社会現象の法則)。
    2. 自分が行った未発表の調査(例:自分が発掘した遺物、自分が行ったインタビューやアンケート調査)。
    3. 自分が作成した未発表の作品(自作の小説、映画)。
  2. 二次資料を形成するもの。
    1. 既存の実験・観察・理論の、未発表の批判、評価、追試。
    2. 既存の調査の、未発表の批判、評価、解釈。
    3. 既存の作品の、未発表の評論。
  3. 新概念・新用語の提唱、既存の概念・用語の再定義。

使用している一次資料が広く認知された媒体で既に発表されたものであっても、それを独自に解釈して記事を書いた場合には独自調査となります。例えば、来日外国人の犯罪率自体は法務省という社会的に広く認知された機関が発表する統計データでありウィキペディアに記載するに値するものであっても、この一次資料のみを元に「来日外国人の犯罪は大きな社会問題である」という主張をすることは独自調査に相当します。この場合、独自調査の誹りを回避するには、来日外国人の犯罪に対し警戒を促している社会学者の著作なり主要メディアで報道された政治家の発言なりの二次資料も提示する必要があります。

何らの解釈も評価もともなわない、専門知識が無い一般人にも正しいことが明白な、純粋な事実叙述の場合は、具体的なソースの裏付けがなくとも例外として独自調査には認定されません(例:アップルパイ)。

一次資料を作り出す独自調査は認められません。しかしながら、既に存在している一次資料や二次資料を集めて、情報を整理する調査は、もちろん、強く推奨されます。ウィキペディアにおける全ての記事は、出版されている一次資料や二次資料を集めた情報に基づいているべきです。これは「独自調査」ではありません。「ソースに基づいた調査」であり、百科事典の執筆において基本的なことです。

「社会的に広く認知された権威のあるソース」の例[編集]

例えば学術書を専門に刊行している大手の出版社や、大学出版局などから出版されている書籍、査読制度を備えた学術誌などが「社会的に広く認知された権威のあるソース」に相当します。

非学術的な分野の事物に関しては明確な「権威」の基準はありませんが、常識の範囲内である程度どれが信頼のおける情報源であるかは判別できるでしょう。例えば、政治分野の事物に関しては、急進的な政治団体が発行している機関誌の類いは「権威のある媒体」とは認められません。「ブッシュ大統領はゲイである」という言明を裏付ける情報源としてアメリカ社会労働者党(Socialist Workers' Party)の機関誌The Militantにのみ依拠するのは明らかに誤りです。しかし、同じ言明がニューヨーク・タイムズで報道されたのであれば、出典を添えてウィキペディアに掲載することが出来ます。

一般的な目安としては、以下のような点を考慮すると良いでしょう:

  • ある党派や宗派などを公然と支持する出版社ではないかどうか。
  • 読者層は大きいかどうか。
  • 自費出版請負業者からの出版物ではないかどうか。
  • 査読制度を備えているかどうか。

ある事物に関して異なる見解を主張するソースが複数存在し、いずれのソースが最も正統で権威があるかについて意見が分かれる場合には、斯様な見解の対立が存在することを記し、対立する見解を公平に併記します(Wikipedia:中立的な観点参照)。

出典の明記の必要性[編集]

ある情報が独自調査ではないことを示すためには、その出典を明記して、情報源が公共性と権威を兼ね備えた媒体であることを示す必要があります。他のウィキペディア編集者が出典に記されている文献リストを見てそれが社会的に広く認知された権威のあるものであることを確認し、かつその媒体を自ら読んでその媒体においてその情報が実際に発表・認知されていることを確認して、はじめてその情報はウィキペディアに掲載するに値すると判断されます。出典の明記されていない情報は独自調査の結果として修正・削除の対象となります。第三者が自ら「検証」できないような媒体が情報源の場合も、独自調査と見なされることがあります。

当方針の適用範囲[編集]

当方針は基本的に標準名前空間にある記事にのみ適用されます。

ノートページは当方針の適用対象外ですが、ノートページで持論を展開するような行為は無作法であると見なされ、推奨はされません。

利用者ページも同様に適用対象外ですが、オリジナルの科学理論や小説を利用者ページに書くことはWikipedia:ウィキペディアは何でないかの「ウィキペディアはフリーのウェブサイトでもプロバイダーでもありません」に抵触することになります。

Wikipedia:統計など、ウィキペディアに関する統計調査などを行っているプロジェクト関連文書は、ウィキペディア以外の媒体で発表されたソースに基づくものではないので定義上「独自調査」に当たりますが、これも当然ながら当方針の適用範囲外となります。

画像[編集]

編集者が自ら撮影した写真や自作イラストの画像などは、基本的に当方針の適用対象外となっています。その理由としては:

  1. 画像は一般に何らかの対象を例証するために用いられ、画像自体は単体では当方針が禁じている未発表理論などを唱導するものではないため。
  2. 著作権法とGFDLライセンスとの兼ね合いからウィキペディアで自由に利用できる既存の画像は数が限られており、それを補完するために編集者自らが作成した画像が重宝するため。

などが挙げられます。ただし、特定の観点を唱導したり、事実を歪めるような細工の施された画像は掲載することが出来ません。例えば、「地球に衛星が二つある」という持論を提唱するために、月が二つ映っているイラストをアップロードすることはできません。事実を歪めるような細工が施された画像を自分の利用者ページなどで使用する分には特に問題がありませんが、その際には細工を施したことをその画像のページにおいて注意書きしておく必要があります。

知識の信憑性と正確性[編集]

ウィキペディアでは掲載する知識のソースが信頼のおけるものであるかのチェックは行いますが、掲載する知識自体の正確性に関する査読は基本的に行わず、その保証もしません。その知識が正しいかどうかに関わらず、そのソースが権威のある、社会的に広く認知されたものでさえあれば、掲載されます。そのため、ウィキペディアに掲載される知識の正確性は学術機関など外部の権威に完全に依拠することになります。読者がウィキペディアを利用する際には、掲載されている知識の正確性の確認に関しては自己責任ということになります(参考:Wikipedia:免責事項)。ウィキペディアの読者は、それぞれの項目の最後に添付された参考文献を自ら当たって、その解説が正しいことを自分で確かめ判断することが望まれます。そのためにも、ウィキペディア編集者は自分が寄稿する情報を裏付けるソースの出典を十分に明記しておく必要があります。

知識は、仮に誤りであっても、そのソースが権威のある信頼のおけるものである限りにおいて、ウィキペディアに掲載されえます。例えば、ある分野において最も権威のある学術誌で発表され、その分野内において広く正しいと認知されていた理論は、仮に誤りであることが後に明らかになったとしてもウィキペディアに掲載するに値します。なぜなら、その理論が誤りであろうとも、その学術分野において正しい理論であると一時期でも認定されていたという事実自体に思想史的な掲載価値があるからです。アリストテレス力学は今日の物理学界においては誤りであるとされていても、過去の一時期、ある地域において広く真実であると信じられていた事実ゆえに、ウィキペディアに掲載する価値があります。このように、ウィキペディアでは知識を正誤によってではなく、そのソースの社会、歴史における評価の度合いに応じて掲載します。多数派の支持する通説は通説として、少数派の支持する異論は異論として、それぞれがその分野において占める支持の比率に応じて掲載されます。いずれの説が正しいかの判断はウィキペディアでは下しません。

この基本方針の起源:ウィキペディア創設者の意見[編集]

独自調査についてウィキペディア創設者であるジンボ・ウェールズは以下のように述べています:

「独自の調査」という用語は、主にウェブ上にあふれる物理学系のトンデモ理論(英:crank)対策の為に生まれたものです。基本理念は次の通り:「ある事柄が本当に正しいかどうかの有効な判断を下すのは、我々にはたいへん困難です。ある人が提唱する物理学の奇抜な理論が正当なものであるかどうかを我々が決めるは適切でもありません—我々はそのような判断を下せるほどの専門知識は持ち合わせていません。しかし、我々はその理論が権威のある学術誌で発表されたかどうか、権威のある出版社から出版されているかどうかは、確認できます。ですので、その理論の正しさを直接判断するようなことはせずに、そうした理論の正しさを判断するのに適切な能力を備えた専門家の判断に依拠するほうが便利でしょう。歴史についても同じことが言えます。 [1]

関連項目[編集]

参考資料[編集]