利用者:Kazushi/編集ページII
V型ATPase(Vascuolar Type H+-ATPase、V-ATPase)とはプロトンポンプの一種であり、真核細胞内のリソソームやゴルジ体など細胞小器官の膜や細胞膜上に存在する。液胞型ATPaseとも呼ばれる。V-ATPaseは複数のサブユニットから形成されるタンパク質複合体であり、液胞内へのプロトン(H+)の取り込みに関与する。
分子構造及び発現
[編集]V-ATPaseは大きく分けてV0とV1の2つのセクターから構成される。その構造や機能はF-ATPaseと呼ばれるプロトンポンプと類似している。
V0セクター
[編集]V0は膜内在性であり、少なくとも4種類のサブユニットからなり、それぞれa,c,d及びeと呼ばれる。cサブユニットはそのアイソフォームであるc'及びc"と共にリング状の構造を形成し、細胞質側からみて左回りの回転をする。
aサブユニットにはa1-a4の4種類のアイソフォームが存在しており、発現する細胞や細胞内の分布が異なる。a1は広範に発現しているが、その他はそれぞれ限られた箇所に発現しており、a2は腎臓や肺、脾臓などに発現、a3は破骨細胞や腎に、a4は腎臓や内耳に発現が見られる。精巣上体や腎臓の細胞ではa2が細胞内の構造体に発現する一方で、a4は細胞膜上に発現している[1][2]。
名称 | 遺伝子(ヒト) | 分子量(kDa) | 機能 |
a | ATP6V0A | 100-116 | イオンチャネル |
c,c" | ATP6V0C,ATP6V0B | 16,21 | H+輸送を行う分子モーター |
d | ATP6V0D | 38 | - |
e | ATP6V0E | 9 | - |
V1セクター
[編集]表在性のV1セクターはA-Hの8つの異なるサブユニットから作られている。AとBがそれぞれ3つずつ、計6つのタンパク質でリング状の構造を形成しており、AサブユニットはATPをADP及びピロリン酸に加水分解する働きがある。一方でBサブユニットにもATPの結合部位があり、ATP加水分解の制御に関わっていると考えられる[3]。また、Bサブユニットにはアクチンが結合している[4]。
BサブユニットにはB1とB2のアイソフォームが存在しており、上述のaサブユニットのうちa1,a2及びa4はB2と結合し、a4のみがB1と結合することが報告されている[5]。
名称 | 遺伝子(ヒト) | 分子量(kDa) | 機能 |
A | ATP6V1A | 70 | ATPの加水分解 |
B | ATP6V1B | 56 | |
C | ATP6V1C | 42 | 固定子 |
D | ATP6V1D | 34 | |
E | ATP6V1E | 31 | - |
F | ATP6V1F | 14 | - |
G | ATP6V1G | 13 | 固定子 |
H | ATP6V1H | 50 |
生理機能とその制御
[編集]細胞内の膜状構造に発現するV-ATPaseはオルガネラ内側へ水素イオンを取り込み、オルガネラ内部を酸性に保持する。V0サブユニットのaサブユニットには2つのイオンチャネルが存在し、細胞質側のイオンチャネルをプロトンが通過するとcサブユニットのうちのいずれかに結合する。cサブユニットで構成されるリングはプロトンを乗せたままATPのエネルギーに依存して時計回りにほぼ一回転し、aサブユニットのもうひとつのイオンチャネルへとプロトンを運ぶ。cサブユニットとATP結合部位の数から1つのATPにつき2つのプロトンを輸送するというのが妥当であると考えられている[6]。
V-ATPaseの機能は以下のような機序により制御される。
- V-ATPase各サブユニットの発現制御
- V0/V1サブユニットの会合及び解離
V-ATPase阻害薬
[編集]V-ATPase阻害薬の臨床応用
[編集]出典
[編集]- 今堀 和友、山川 民夫 編集 『生化学辞典 第4版』 東京化学同人 2007年 ISBN 978-4-8079-0670-3
参考文献
[編集]- ^ Hurtado-Lorenzo A, Skinner M, El Annan J, Futai M, Sun-Wada GH, Bourgoin S, Casanova J, Wildeman A, Bechoua S, Ausiello DA, Brown D and Marshansky V.(2006)"V-ATPase interacts with ARNO and Arf6 in early endosomes and regulates the protein degradative pathway."Nat Cell Biol 8,124-36. PMID 16415858
- ^ Pietrement C, Sun-Wada GH, Silva ND, McKee M, Marshansky V, Brown D, Futai M and Breton S.(2006)"Distinct expression patterns of different subunit isoforms of the V-ATPase in the rat epididymis."Biol Reprod 74,185-94. PMID 16192400
- ^ Breton S and Brown D.(2007)"New insights into the regulation of V-ATPase-dependent proton secretion."Am J Physiol Renal Physiol 292,F1-10. PMID 17032935
- ^ Holliday LS, Lu M, Lee BS, Nelson RD, Solivan S, Zhang L and Gluck SL.(2000)"The amino-terminal domain of the B subunit of vacuolar H+-ATPase contains a filamentous actin binding site."J Biol Chem 275,32331-7. PMID 10915794
- ^ Sun-Wada GH, Murata Y, Namba M, Yamamoto A, Wada Y and Futai M.(2003)"Mouse proton pump ATPase C subunit isoforms (C2-a and C2-b) specifically expressed in kidney and lung."J Biol Chem 278,44843-51. PMID 12947086
- ^ Tomashek JJ and Brusilow WS.(2000)"Stoichiometry of energy coupling by proton-translocating ATPases: a history of variability."J Bioenerg Biomembr 32,493-500. PMID 15254384