利用者:Kovayashi/sandbox2

ハッブル宇宙望遠鏡が撮像した、こと座惑星状星雲M57(環状星雲)。
2004年にハッブル宇宙望遠鏡が撮像した、みずがめ座の惑星状星雲NGC7293(らせん星雲)。

惑星状星雲中心星[1](わくせいじょうせいうんちゅうしんせい、: central star of planetary nebula、略称:CSPN(複数形 CSPNe)、以下「CSPNe」)または惑星状星雲中心天体[2]は、太陽を含む中小質量星が恒星進化の末期に迎えるとされる、質量が小さく高温の天体。文字通り、惑星状星雲の中心にある星であることからこの名称で呼ばれる。惑星状星雲は、高温のCSPNeから放出される強力な紫外線によって電離された水素ガスが、再び分子として結合する際に光子を放出することによって輝いている。一般に「惑星状星雲の中心には白色矮星がある」と言われることがあるが、これは厳密には正しくない[3]。CSPNeは白色矮星よりも高い光度を持つ、漸近巨星分枝 (AGB) から白色矮星へと進化する過渡期の天体である[3]

特徴[編集]

CSPNeの表面温度は、25,000 K-200,000 Kと非常に高い。これは、恒星の中で最も表面温度が高いウォルフ・ライエ星と同じかはるかに高い温度である。

惑星状星雲中心星の表面温度を求めるには、星雲のスペクトル中のHα線とR帯の強度(光子数)を比較することで温度を推定する手法が一般に用いられる[4]。この手法は、1927年にオランダの天体物理学者ヘルマン・ザンストラが考案した[5]ことから「Zanstra method」と呼ばれる[4][6]

スペクトル[編集]

CSPNeは、恒星としての最終段階から白色矮星へと至る過渡期の天体であるため、そのスペクトルは幅広く多様性が見られる。他の銀河の惑星状星雲の観測結果から、2020年現在ではより複雑な進化の経路が存在すると考えられている[7]

[WR]

比較的低温のCSPNeには、ウォルフ・ライエ星と良く似た特徴のスペクトルを持つものがあるが、これらの星の光度は典型的なウォルフ・ライエ星に比べて100分の1程度しかない[6]。そのため、ウォルフ・ライエ星と区別するため「[WR] star」と呼ばれ、スペクトルも[WC]、[WO]、[WN]と表記される[8][7]

sdO

O型主系列星と似たスペクトルの特徴を持つものは「O型準矮星 (sdO) 」と呼ばれる[9]。sdOよりも低温のものはsdB(B型準矮星)と呼ばれる。


進化[編集]

恒星として輝きだしたとき(零歳主系列、zero age main sequence, ZAMS)の質量、すなわち初期質量が太陽の0.8倍 - 8倍の中小質量星は、中心核水素を使い果たし主系列星の段階を終えると、準巨星赤色巨星分枝水平分枝またはレッドクランプの順に進化のステージを経たのち、核融合をエネルギー源として輝く最後の段階である「漸近巨星分枝 (AGB) に至る。AGB期にある星は、星全体が脈動して光度が大きく変化するミラ型変光星として観測される。また、AGB星に生じる大きな脈動によって、主に水素からなる星の外層は星間空間に放出される。AGB星自体の光度は進化するにつれて増していくが、自らが放出したガスや塵が可視光を遮り赤外線マイクロ波として放出するため、AGB期の後半は赤外線波長で明るく輝くOH/IR星(赤外線星)として観測される。星の脈動と外層の放出はAGB期の終わりまで続き、外層がほぼ失われた状態になると「Post-AGB」と呼ばれる段階へと移行する。

Post-AGB期には、AGB期に放出したガスと塵が中心の星の周りを包んだ状態となっており、中心の星を外部から観測するのは困難である。このとき、中心の星にはほとんど外層が残されておらず、核を取り巻く燃焼殻で核融合が続いている。中心星に近いガスは電離され輝線を放ち始めているが、遠くのガスはまだ分子の状態を保っている。この状態は「原始惑星状星雲」と呼ばれる。Post-AGB星が収縮するにつれて表面温度は上昇し、HR図上では光度をほぼ変えないまま高温の左方向へと進化していく。中心星の表面がより遠くのガスまで励起・電離させるほどの高温となると、ガス雲全体が輝線を放ち始め、外部からは惑星状星雲として観測されるようになる。この状態での中心星を「惑星状星雲中心星 (CSPN)」と呼ぶ。

CSPNeとなった後も表面温度の上昇と星の収縮は継続する。表面温度はピーク時には200,000 Kにも達する。さらに中心星の収縮が進み、水素燃焼殻が失われてエネルギーを産出できなくなると、星の質量を電子の縮退圧で支える段階、すなわち白色矮星へと進化し、星の収縮はストップする。この後は徐々に冷却が進行していき、長い時間をかけてHR図上を右下へと進化していく。


一般に「惑星状星雲の中心には白色矮星が存在する」と言われるが、上述のとおりCSPNeは白色矮星だけではなく、漸近巨星分枝の段階を終えて白色矮星に至る過程の高温星を含む。実際、2020年に公表された銀河系に存在する620個のCSPNeのカタログでは、水素の吸収線が強い星のグループ (H-rich) と吸収線が弱いまたはない星のグループ (H-poor) の存在比は2:1となっており、外層に水素を残したCSPNeのほうが多い。

。このカタログは、光度、表面重力、温度、光度推定値、公開されているスペクトルの参考文献などの物理パラメータを含み、既存のカタログを25%上回っています。H-rich/H-poor 比は 2:1 であること、CSPNe の型は [WC 5-6] であること、連星の 80% 近くが H-rich グループに属すること、などである。このことは、連星を形成するような進化シナリオが、H-poorなCSPNの形成に必要な条件を阻害していることを示唆しています。また、log L⋆, log Teff, log gの値が導出されたサンプルの約50%は、質量と年齢が単一星の進化モデルと一致している。このことは、単一星が惑星状星雲を形成する可能性があることを示唆している。さらに、H-poor CSPNe はより質量の大きい星によって形成されることも示されました。このカタログはVizierデータベースで公開されています。

2020年に公開されたCSPNeのカタログでは、統計的に顕著な改善が H-richなCSPNeはH-poorに比べて約2倍多く、連星CSPNeの約8割がH-richであること、水素を含まないウォルフ・ライエ型の[WC5-6]のスペクトルを示す中心星が存在しないこと、などが[8]

惑星状星雲 緑色をしたThe misnomer planetary nebula was given probably by Herschel in 1785 (Kwok 2000) due to their similar appearance to the greenish disk of a planet.

The Origin and Evolution of Planetary Nebulae


出典[編集]

  1. ^ 小暮智一輝線星研究の最近の動向 3.O型星と惑星状星雲中心星」『天文月報』第101巻第3号、2008年、143-151頁、ISSN 0374-2466 
  2. ^ 鳴沢真也「第3章 ミラ」『へんな星たち-天体物理学が挑んだ10の恒星』講談社〈ブルーバックス〉、2016年6月20日、80頁。ISBN 978-4-06-257971-1 
  3. ^ a b 鳴沢真也「第4章 かんむり座R星」『へんな星たち-天体物理学が挑んだ10の恒星』講談社〈ブルーバックス〉、2016年6月20日、104-105頁。ISBN 978-4-06-257971-1 
  4. ^ a b Ridpath, Ian, ed (2018). “Zanstra method”. A Dictionary of Astronomy. p. 965. ISBN 9780192542618. https://play.google.com/books/reader?id=VmZaDwAAQBAJ&pg=GBS.PT963 
  5. ^ Zanstra, H. (1927). “An Application of the Quantum Theory to the Luminosity of Diffuse Nebulae”. The Astrophysical Journal (American Astronomical Society) 65: 50. Bibcode1927ApJ....65...50Z. doi:10.1086/143024. ISSN 0004-637X. 
  6. ^ a b planetary-nebula/The-central-stars - ブリタニカ百科事典
  7. ^ a b Frew, David J. et al. (2014-03-22). “The planetary nebula Abell 48 and its [WN] nucleus”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 440 (2): 1345-1364. arXiv:1301.3994. Bibcode2014MNRAS.440.1345F. doi:10.1093/mnras/stu198. ISSN 0035-8711. 
  8. ^ a b Weidmann, W. A. et al. (2020-07-30). “Catalogue of the central stars of planetary nebulae”. Astronomy & Astrophysics (EDP Sciences) 640: A10. arXiv:2005.10368. Bibcode2020A&A...640A..10W. doi:10.1051/0004-6361/202037998. ISSN 0004-6361. 
  9. ^ Ahumada, Javier A. et al. (2019-09-16). “Hunting Young White Dwarfs at the Center of Planetary Nebulae”. The Astrophysical Journal (American Astronomical Society) 882 (2): 171. arXiv:1909.13364. Bibcode2019ApJ...882..171A. doi:10.3847/1538-4357/ab3797. ISSN 1538-4357.