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利用者:Kovayashi/sandbox5

本田・桑野天体[1][2]
Honda-Kuwano 1979 object[3]
仮符号・別名 PU Vul, PU Vulpeculae[4],
Kuwano's object[3]
星座 こぎつね座
見かけの等級 (mv) 10.87[4]
8.7 - 16.6(変光)[5]
分類 共生星[4]
共生新星[6]
位置
元期:J2000.0[7]
赤経 (RA, α)  20h 21m 13.3111130147s[7]
赤緯 (Dec, δ) +21° 34′ 18.697391656″[7]
固有運動 (μ) 赤経: -3.002 ミリ秒/年[7]
赤緯: -6.006 ミリ秒/年[7]
年周視差 (π) 0.1909 ± 0.0393ミリ秒[7]
(誤差20.6%)
距離 17,100+4400
−2900
 光年
[注 1]
5200+1400
−900
 パーセク
[注 1]
本田・桑野天体の位置(赤丸)
物理的性質
質量 ~0.6 M(白色矮星)[8]
スペクトル分類 M3+F2Ib[4], NC[5]
他のカタログでの名称
TYC 1643-1021-1[4], 2MASS J20211331+2134186[4], Gaia DR3 1829139027066224640[7]
Template (ノート 解説) ■Project

こぎつね座PU星 (PU Vulpecula, PU Vul)、通称「本田・桑野天体[1][2]」 (: Honda Kuwano object) は、太陽系から見てこぎつね座の方向約17,100 光年の距離にある天体。「共生星[9] (: symbiotic star)」と呼ばれるスペクトルに特異な特徴を持つ連星系で、1977年後半から「共生新星 (: symbiotic nova)」または「共生星新星」と呼ばれるアウトバーストを起こし、1978年から1979年にかけて日本人アマチュア天文家本田実桑野善之によって発見されたことから、2名の名前に由来する通称が付けられた[1][2]

特徴

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連星系

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白色矮星赤色巨星からなる連星系である。そのスペクトル中に、低温度星に由来する分子の吸収線スペクトルと、高温のプラズマに由来する輝線スペクトルという相反する2つの特徴が「共生」しているように見えることから「共生星」に分類されている。膨張した赤色巨星のロシュ・ローブからあふれた水素ガスは絶えず白色矮星へと流れ込み、白色矮星の周囲には流れ込んだガスによる降着円盤が形成される。共生星のスペクトルに見られる輝線は、この降着円盤から発せられたものと考えられている[9]

2つの星は、約13.4年の周期で互いの共通重心を周回している。公転周期が長く、2つの星の視線速度の差が小さいため、分光観測で2つの星の成分を分離することは難しい。太陽系から見ると約13.4年周期で赤色巨星が白色矮星を掩蔽する現象が確認できる「食連星」でもある[6]。1980年に観測された深い減光は赤色巨星が白色矮星を完全に隠したによるもので、このときの最小光度では赤色巨星の脈動による変光が観測された[8]。1994年、2007年にも食によると思われる減光が観測されている[8]。1980年の食と1994年の食の間に、どちらの星もサイズが縮んだと見られる[6]。特に白色矮星は100 Rから0.1 Rまで半径が縮んだものと考えられている[8]

年周視差が大変小さいため、この天体までの距離は他の手法で推定されてきた。2012年の加藤万里子らの研究では、星間減光(星間赤化)や赤色巨星の脈動周期から得た推定値として約15,300 光年(4.7 キロパーセク (kpc))とされた[8]。2022年に公開されたガイア計画の第3回データリリースでは、まだ小さくない誤差を含む値ながら0.1909±0.0393 ミリ秒という年周視差が得られた[7]。この年周視差から算出される太陽系からの距離17,100+4400
−2900
 光年
という値は、過去の研究結果と大きく矛盾しないものである。

新星現象

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白色矮星に降り積もった水素の量が臨界量を超えると水素の核融合が暴走的に始まり、新星として検出される。特に本田・桑野天体のような共生星で起こる新星現象は「共生新星」または「共生星新星」と呼ばれる。「古典新星」と呼ばれる一般的な新星では増光から短いピークを経て減光して元の明るさに戻るまでの期間は数ヶ月~1年ほどであるが、本田・桑野天体は、増光・減光のペースが非常に緩慢で、最大光度が10年近くもの長い期間維持されるなど、際立った特徴を持つ新星であった[8]

新星現象で観測される増光は、光学的に厚い放出物 (optically thick ejecta) の光球からの黒体放射と、光学的に薄い放出物 (optically thin ejecta) からの自由-自由放射 (free-free emission) による。質量の軽い白色矮星では、新星現象の際に質量放出が起こらないため、自由-自由放射による増光が起こらず、減光が遅くなる。

新星現象の減光の速さは、白色矮星の質量による影響が大きい[10]。白色矮星が軽いほど減光のペースは遅くなる[10]。減光のペースが非常に遅いことや新星進化の過程で見られたスペクトルの特徴から、本田・桑野天体の白色矮星の質量は~0.6 M太陽質量)と推定されている[8]

[11]

名称

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肉眼で見えるほど明るい天体ではないため、バイエル符号やフラムスティード番号は振られていない。非常に暗い天体であったため、輝星目録ヘンリー・ドレイパー星表にも記載されていなかった。

桑野の発見報告からしばらくは「Novalike object in Vulpecula[12][13]」(「こぎつね座の新星様天体」の意)と呼ばれていたが、その後発見者の桑野の名前を取って「Kuwano's object」「Nova-like object Kuwano」などと呼ばれた。1981年になって変光星として「PU Vulpeculae」という名称が定められると「PU Vul」と呼ばれるようになった[14]。日本国内では本田、桑野両名の名前から「本田・桑野天体[1][2]」と呼ばれていたが、21世紀以降は国際的に通用する「PU Vul」が研究者間で使われている[8]

研究史

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1979年4月5日 (UT) 、大分県日田市のアマチュア天文家桑野善之によって、こぎつね座の南端、いるか座や座との境界近くに9等級で発見され、同年4月10日の国際天文学連合回報 (IAUC) で「nova-like object(新星様天体)」として報告された[12]。その後、前年の1978年8月21日に岡山県倉敷市のアマチュア天文家本田実がこの天体を10等級で発見していたことが判明し[1]、同年4月28日のIAUCで報告された[13]

この新星様天体の前駆天体と思われる星は、ハーバード大学天文台掃天観測のアーカイブから発見された。最も古い記録は1898年のもので、以後1956年までの約60年間はほとんどB等級で16-16.5等級であった。その間、1926年と1955年にはB等級で15等まで増光したことが記録されている。1968年に機器を更新して再開された掃天観測の記録では、1977年10月7日までは写っていないが、1977年11月2日には12.5等(B等級)で写っており、それ以降増光が続いていた[15]。ハーバード掃天記録の限界等級は約14等であるため、1977年後半から増光が始まったとみられる[1][8][15]

1979年の発見時は「novalike object(新星様天体)」として報告されたが、増光速度が緩慢であること、増光が進んでからスペクトルがM型からA型へと変化したことなどから通常の新星とは異なる現象であると考えられており、その正体について「緩慢な新星現象」、「共生星の増光現象」、あるいは「おうし座T型変光星に見られるFU Ori型の増光現象」などの仮説が立てられた[1]。1980年に深い減光が観測されたが、1981年中頃には再び最大光度まで明るさが戻り、その後1988年頃までほぼ9等級のまま明るさに大きな変化が見られなかった[2]。このように発見後8年もの間光度のピークが続いたことから、この現象が新星か否かについて長く議論されていたが、1988年頃からようやく減光が始まり、国際紫外線天文衛星 (IUE) による観測で紫外線のピークが観測されたことから、ようやく新星であると結論付けられた[10]

脚注

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注釈

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  1. ^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算

出典

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  1. ^ a b c d e f g 石田蕙一「こぎつね座1979年の新星 -本田・桑野天体-」『天文月報』第73巻第4号、日本天文学会、1980年、92-95頁、ISSN 0374-2466 
  2. ^ a b c d e 金光理「こぎつね座の共生新星」『宇宙NOW』第11号、兵庫県立西はりま天文台公園、1991年2月、3-5頁。 
  3. ^ a b Fernandez, A.; Lortet, M. -C.; Spite, F. (1983). “The First Dictionary of the Nomenclature of Celestial Objects (solar system excluded)”. Astronomy and Astrophysics (EDP Sciences) 52 (4): 1.1-7.14. Bibcode1983A&AS...52....1F. ISSN 0004-6361. https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1980/pdf/19800405.pdf. 
  4. ^ a b c d e f "V* PU Vul". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年7月19日閲覧
  5. ^ a b Samus’, N. N.; Kazarovets, E. V.; Durlevich, O. V.; Kireeva, N. N.; Pastukhova, E. N. (2017). “General catalogue of variable stars: Version GCVS 5.1”. Astronomy Reports 61 (1): 80-88. Bibcode2017ARep...61...80S. doi:10.1134/S1063772917010085. ISSN 1063-7729. http://vizier.u-strasbg.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ62db49f03e2592&-out.add=.&-source=B/gcvs/gcvs_cat&recno=57913. 
  6. ^ a b c Garnavich, Peter M. (1996). “The Period of the Symbiotic Nova Pu Vulpeculae”. The Journal of the American Association of Variable Star Observers (AAVSO) 24 (2): 81-85. Bibcode1996JAVSO..24...81G. ISSN 0271-9053. 
  7. ^ a b c d e f g h Gaia Collaboration. “Gaia DR3 Part 1. Main source”. VizieR On-line Data Catalog: I/355/gaiadr3. Bibcode2022yCat.1355....0G. https://vizier.idia.ac.za/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ62db4816262cc7&-out.add=.&-source=I/355/gaiadr3&-c=305.30544862174%20%2b21.57183369421,eq=ICRS,rs=2&-out.orig=o. 
  8. ^ a b c d e f g h i Kato, Mariko; Mikołajewska, Joanna; Hachisu, Izumi (2012-04-06). “Evolution of the Symbiotic Nova PU Vul-Outbursting White Dwarf, Nebulae, and Pulsating Red Giant Companion”. The Astrophysical Journal (American Astronomical Society) 750 (1): 5. arXiv:1202.6171. Bibcode2012ApJ...750....5K. doi:10.1088/0004-637x/750/1/5. ISSN 0004-637X. 
  9. ^ a b 共生星”. 天文学辞典. 日本天文学会 (2019年9月17日). 2022年7月25日閲覧。
  10. ^ a b c 加藤万里子 (21 March 2016). "新星とIa型超新星の観測をお願いします!" (PDF). In 新天体捜索者会議実行委員会事務局 (ed.). Stella Nova 2015 第1回新天体捜索者会議集録. 第1回新天体捜索者会議.
  11. ^ Belczyński, K.; Mikołajewska, J.; Munari, U.; Ivison, R. J.; Friedjung, M. (2000). “A catalogue of symbiotic stars”. Astronomy and Astrophysics Supplement Series (EDP Sciences) 146 (3): 407-435. arXiv:astro-ph/0005547. Bibcode2000A&AS..146..407B. doi:10.1051/aas:2000280. ISSN 0365-0138. https://vizier.cfa.harvard.edu/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ62db4ccc5775&-out.add=.&-source=J/A%2bAS/146/407/catalog&recno=176. 
  12. ^ a b IAUC 3344: NOVALIKE OBJECT IN Vul; WZ Sge; IR BURSTS FROM MXB1730-335”. Central Bureau for Astronomical Telegrams (1979年4月10日). 2022年7月23日閲覧。
  13. ^ a b IAUC 3348: SN IN NGC 4321; NOVALIKE OBJECT IN VULPECULA (N Vul 1979?)”. Central Bureau for Astronomical Telegrams (1979年4月23日). 2022年7月23日閲覧。
  14. ^ IAUC 3589: SN (EVANS) IN NGC 1316; SN IN NGC 4536; PU Vul (KUWANO'S OBJECT)”. Central Bureau for Astronomical Telegrams (1981年3月31日). 2022年7月23日閲覧。
  15. ^ a b Liller, M. H.; Liller, W. (1979). “The pre-maximum light curve of the slow Nova Vulpeculae 1979”. The Astronomical Journal (American Astronomical Society) 84 (9): 1357-1358. Bibcode1979AJ.....84.1357L. doi:10.1086/112550. ISSN 0004-6256. 

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