コンテンツにスキップ

利用者:McYata/アイスランドにおけるビール

 

酩酊したアイルランド人(15世紀の年代記の挿絵)

アイスランドにおけるビールの歴史は、アイスランド島ノース人入植英語版した当初にまで遡ると考えられている[1]。近代においては、ビールは1915年から1989年まで厳しく規制されていた。解禁後はアイスランド人のビール消費量が著しく増加しており、アイスランド発の酒類メーカーも登場してきている。

前近代[編集]

アイスランドに到来した初期の入植者は、ビール蜂蜜酒を嗜んでいた。『ハーヴァマール』などの詩には、エール(öl)を飲む描写が見られる。しかしアイスランドの気候変動(特に小氷期の1300年ごろから1850年ごろ)により島内で大麦を生産できなくなり、ビール生産が困難になったと考えられている[2]

禁酒法[編集]

20世紀初頭のアイスランドでは、ビールなどのアルコール飲料に対する風当たりが強くなった。その中心にあったのは、周辺諸国と同様に勃興した、道徳的観点から酒類を忌避する禁酒運動であった。また政治的にもアイスランド独立運動英語版が起こり始め、宗主国デンマークのイメージと結び付けられたビールは「選ぶべき愛国的飲料ではない」とされるようになったのも、ビール忌避が広がった一因となった[3]

1908年に行われた国民投票英語版で、60.1パーセントがアルコール飲料の禁止を支持した。その結果、アイスランドでは1915年1月1日から全面的な禁酒法が発効した。しかし1921年、スペインやポルトガルからの経済的圧力を受け、規制が一部緩和された。両国は、自国のワイン輸出をアイスランドが承認しなければ、アイスランドの主力輸出品である塩漬けタラの輸入を停止すると脅したのである。アイスランド人の間でも禁酒法に対する支持が弱まり、1933年の国民投票英語版で57.7パーセントが酒類の解禁を支持するに至った[3]

しかしビールに限っては、アルコール度数2.25パーセントを上回るものが禁止され続けた。なお一般的なビールのアルコール度数は4-5パーセント程度である。ただし、こうした禁令をかいくぐったビール密輸入や自家醸造も横行していた。また、合法でよりアルコール度数が高い合法な蒸留酒ブレンニヴィーン英語版をビールに加えて規制を回避しようとする者もいた。歴史家のウンナル・イングヴァルソンは、このカクテルについて「面白く、まったくもって不愉快」な味だったと述べている[3]

1979年、アイスランドの実業家ダヴィード・シェヴィング・トルステインソンが帰国時にビールをアイスランドへ持ち込もうとした。ビールは押収されたものの、ダヴィードは航空関係者や外国人観光客が免税店でビールを買うのを認められているのと同じ権利を認めるべきだと主張し、罰金の支払いを拒否した。裁判でダヴィードは敗訴したものの、この事件が報道されたことでアイスランド内でも酒類規制への関心が高まり、法改正でアイスランド人も外国のビールを6リットル(12.2パイント)まで国内に持ち込めることになった[3][4]

1988年、アルシング(アイスランド議会)で2.25パーセント以上のビールも合法とする法案が可決された。これにより、ビールに対する規制も1989年3月1日をもって廃止された[4]

その後[編集]

禁酒法の全面廃止により、アイスランド人の嗜好は以前から合法だった高アルコール度数の蒸留酒からビールやワインへ移っていった。1989年から2007年にかけて、一人当たりの蒸留酒販売量が半分近くまで落ち込んだのに対し、ビールの販売量は2倍以上に伸び、2007年のビール販売量は1.94億リットルに上った[5]:13。2014年の世界保健機関の報告によれば、アイスランド人の酒類消費量の62パーセントをビールが占めていた[3]>。

アイスランドにおける2大酒類メーカーは、エギル・スカラグリームソン醸造所英語版ヴィーキング・ビョール英語版コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズ英語版が運営)である。Tその他、200年代後半から小規模なクラフトビールメーカーが増加して多彩なビールを提供するようになり、中には国際的な賞を受賞するメーカーも出てきている[2]

販売[編集]

オフプレミスのアルコール飲料小売は、国営のアルコール・タバコ公社英語版が国内46か所の店舗(ヴィーンブージン)で行う専売制となっている。2015年には国家による酒類販売独占を廃そうとする法案が提出された[6]

脚注[編集]

  1. ^ Zori, Davide Marco (2016). The Norse in Iceland 
  2. ^ a b Hauptmann (2013年11月26日). “Beer in Iceland”. Wall Street International. 2023年9月30日閲覧。
  3. ^ a b c d e “Why Iceland Banned Beer”. BBC News. (2015年3月). https://www.bbc.com/news/magazine-31622038 
  4. ^ a b “Beer (Soon) for Icelanders”. The New York Times. Associated Press. (1988年5月11日) 
  5. ^ Kristjánsson. “Icelandic Beer Market”. Aarhus University. 2016年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月10日閲覧。
  6. ^ Alcohol monopoly bill must wait”. Iceland Monitor. 2023年9月30日閲覧。

外部リンク[編集]