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利用者:Misola/下書き

死後懐胎子(しごかいたいし)とは、ある男性が冷凍等の方法により保存した精子につき、それを提供した男性(以下、「提供者」とする)が死亡した後に、女性が人工授精等の生殖補助医療により妊娠し、出産した子のことである。提供者がその子の法律上も父となりうるか否かにつき、争いがある。

なお、本項においては、生殖補助医療のうち、人工的に精子を母体内に注入する方法を人工授精、母体外で受精させ母体に戻す方法を体外受精とし、その両者等を含む人為的な生殖方法を人工生殖とする。

問題の所在[編集]

生殖補助医療の技術を用いれば、夫の死から長期間経過した後であっても夫の子を出産することが可能である。 しかし、民法772条2項の反対解釈により、夫の死亡を含む婚姻解消から300日以降に出産した子には、嫡出性の推定がないから、生物学上は、提供者が父であることを証明できても、法律上は、提供者は当然には父とならない。 そこで、その子らは、民法787条により、認知の訴えを提起することになるが、この訴えが認められるかどうかが問題となる。

平成18年最高裁判決まで[編集]

後述平成18年最高裁判決の一審は、原告の請求を棄却した。すなわち、認知請求を認めるか否かは、子の福祉の観点、 なされた生殖補助医療と自然的な生殖との類似性、その生殖補助医療が社会一般的に受容されているか否かなどを総合的に考慮し判断すべきだとした上で、当事案では、子の福祉の観点では問題はないが、提供者が死亡した後に体外受精、懐胎した場合には、自然的生殖との類似性がなく、このような懐胎につき、その提供者を父とする社会的認識は、なお乏しく、さらに、保存した医療機関に提出した書面などからすれば、提供者の同意を明確に認めることはできない、とした。

しかし、その控訴審である、高松高裁判決平成16年7月16日高民集第57巻3号32頁は、上述一審を破棄し、原告が提供者の子であることを認知した。すなわち、子と提供者との間に血縁上の親子関係が存在し、当該人工生殖につき提供者の同意があれば、特段の事情がない限り、認知請求を認めることができるとし、当事案では、血縁上の親子関係及び提供者の同意が認められ、特段の事情もないとした。

別の事案として、提供者と母親の間に婚姻関係がなかった事案につき、東京地裁判決平成17年9月29日家月58巻5号104頁は、提供者の同意を観念することには疑問があるなどとして、原告の請求を棄却した。なお、当事案の判文は、生殖補助医療が急速に進展している現状では、早急な法整備が求められる、と付記している。

平成18年最高裁判決[編集]

最高裁判決平成18年9月3日は、上述平成16年高松高裁判決を破棄、自判した。すなわち、死後懐胎子の場合、その懐胎以前に提供者が死亡しているのだから、親権につき、提供者が死後懐胎子の親権者とはなりえず、扶養等につき、死後懐胎子は提供者から監護、養育及び扶養を受けることはなく、相続につき、死後懐胎子は提供者の相続人になりえないから、民法の実親子に関する法制は、死後懐胎子とその提供者との親子関係を想定していない。 すると、死後懐胎子と提供者の親子関係を認めるか否か、また、認めるとした場合の要件及び効果は立法により解決される問題であり、そのような立法がない以上、親子関係は認められない、とした。なお、二裁判官による補足意見は、共に、早期の法制度の整備が望まれる、という趣旨の付記をしている。

関連する問題[編集]

民法787条但書は、「父又は母の死亡の日から3年を経過したときは」認知の訴えを提起することができないとしている。 そして、「3年」の起算点につき、最高裁判決昭和57年3月19日民集36巻3号432頁は、「死亡が客観的に明らかになった」ときとしている。 すると、死後懐胎子の認知が問題となる事案においては、提供者の死亡時は死亡した時点で客観的に明らかであることがほとんどであると想定されるから、この論理をそのまま適用すると、提供者の死亡から3年を経過した後に死後懐胎子が出生した場合には、認知の訴えを提起することができない。

また、第三者の卵子を用いた代理母、及び、第三者により懐胎ないし出産する代理懐胎についても、嫡出性ないし認知につき同様の問題が生じうる。この点、大阪高裁決定平成17年5月20日判時1919号107頁は、夫を提供者とした代理懐胎により生まれた子と妻との間に、法律上の親子関係を認めることはできないとして、出生届を不受理とした処分につき、相当であるとしている。

なお、夫以外を提供者とする人工授精により生まれた子につき、大阪地裁判決平成10年12月18日家月51巻9号71頁は、夫は嫡出否認の訴えをすることができるとしている。