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スペシャルステージ (Special Stage) は、モータースポーツラリー競技においてタイムトライアルを行なう走行区間。略称はSS(エスエス)。

世界ラリー選手権 (WRC) などの速さを競う種類のスプリントラリーは、全SSにおける所要タイムの合計が順位決定の基本となる。運転の正確さを競う種類のアベレージラリーでも、スポーツ性を加味するためにSSを設けることがあるが、本項ではスプリントラリーの特徴やルールについて記述する。

概要[編集]

2007年ラリー・モンテカルロのルートマップ。フランス南東部のヴァランスを中心に、周辺にSS(赤線)やリエゾン(黒線)を設定している。

ラリーは公道上で行なう自動車競技であるため、一般通行車と同じく交通法規に従い、信号機制限速度を守りながら走行する。ただし、特定区間の一般交通を一時的に遮断して占有状態にすることで、競技車両が1台ずつノンストップ・速度無速度のタイムトライアルに挑戦することができる。この閉鎖された競技区間がスペシャルステージと呼ばれる。

ラリーの走行路は競技区間 (SS) と移動区間(リエゾンまたはロードセクションと呼ばれる)に分けられ、ひとつのSSを走り終えるとリエゾンを移動し、次のSSスタート地点に向かうという行程を繰り返す。かつては都市と都市の間をつなぎながら広範囲に移動するツール形式のラリーが盛んだったが、1990年代後半よりコスト削減のためホストタウンをスタート・ゴール地点にして、その周辺にSSを配置する形式が主流になっている。走行ルートを地図上で見ると、ホストタウンを中心にクローバーの葉のように見えることから「クローバーリーフスタイル[1]」と呼ばれる。

点検・修理・交換を行うサービスポイントもかつてはリエゾン区間であれば任意に設定できたので、メーカー系ワークスチームはルート上に複数のサポートトラックを配置し、メカニックをヘリコプターで空輸し、各SS走行後に素早くメンテナンスするような物量作戦をとることができた。現在はホストタウンに設営したサービスパークでのみチームによる作業を許可し、ルート上では乗員自らが作業を行わなければならない。また、サービスパーク内での作業には制限時間が設定されている。

ラリーの1日のスケジュールは早朝サービスパークを出発し、午前中に2〜3本のSSを終えると、サービスパークに戻って車両整備を行い、午後は同じSSを再走する(リピートステージまたはループステージと呼ばれる)。夜間はサービスパーク内の車両保管所(パルクフェルメ)に車両を保管し、翌日はまた別方面に移動して競技を行なう。ルートが長距離の場合は、サービスパーク以外の場所でのリモートサービスが認められる場合もある。また、1日中サービスを行わないノーサービスデイを設定する場合もある。

進行手順[編集]

スペシャルステージの始点・終点や車両整備・保管場所の出入り口など各所にタイムコントロール (TC) が設置されており、オフィシャルがタイムスケジュールを管理している。TCの通過時間やSSの開始時刻など、1日のスケジュールが記された日程表の事をアイテナリーという。

試走[編集]

1台の車に同乗するドライバーとコ・ドライバーの2名を「クルー」と呼ぶ。クルーは競技日の前(ワンデイイベントでは当日の朝)にSSの偵察走行(レッキ)を1~2度行い、SSの詳細を書き留めたペースノートを作成する。レッキの際には本番用とは異なる車両を用意し、法律上の制限速度を守りながら走行する。

競技前日にSS以外のコースでセッティングの最終確認のためテスト走行(シェイクダウン)を行う。この際は本番同様のスピードで走行する。

オフィシャルの走路確認[編集]

0カー(2010年ラリージャパン

競技当日、SS走行開始前にコースの入口と出口が閉鎖(クローズド)され、人や一般車両の進入が禁止される。その後、オフィシャルカー数台が時間を空けて試走し、コース上の準備状況をチェックする。路面コンディションが危険だったり、コースサイドの観客整理が不十分と判断されると、そのSSがキャンセルされるケースもある。

オフィシャルカーは黄色いパトライトを点け、サイレンを鳴らしながら走行する。30分前に走行するのが「00カー(ダブルゼロカー)」、15分前に走行するのが「0カー(ゼロカー)[2]」と呼ばれ、それぞれ"00"と"0"番のゼッケンを付けている。00カーは比較的スローペースで人員配置などを確認し、0カーは本番の競技車両に近い速度で最終確認を行なう。ファンサービスをかねて、現役引退した有名選手が0カーの運転を引き受けることもある。WRCでは1時間前に000カー(トリプルゼロカー)も走行する。

競技実施[編集]

スペシャルステージ概図
SSスタート
SSフィニッシュ

競技者は上位クラスの方から先に出走する。出走順は抽選で決める場合や、選手権のポイントランキング順、前日の成績順に従う場合、もしくは独自のルールを採る場合もある(後述)。

競技車両はタイムカードに指定された時刻までにSS開始地点のタイムコントロール (TC) に到着する。SSではコースの両脇に標識が設置されており、まずはTC予告標識(黄色の時計)より手前で出走順に縦列駐車して待機する。指定時刻1分前にTC(赤色の時計)へチェックインし、タイムカードにスタート時刻を記入してもらい、その先のスタートライン(赤色の旗)に停車する。スタートはスタンディングスタート方式で、競技員の声か、電光掲示板で30秒前・15秒前・10秒前・5・4・3・2・1とカウントダウンされる。1台がスタートすると次の車両がスタートラインに進み、1分間隔(上位ドライバーの場合は2分間隔)で同様の手順をこなす。

SS走行中は助手席のコ・ドライバーがレッキで作成したペースノートを読み上げる。ドライバーは耳で聴く情報(直線距離・コーナーの曲がり具合・路面の起伏・道幅など)と視覚に映る情報とを組み合わせながら、先の見通せないコースを全力走行する。

SSの最後にはフィニッシュ予告標識(黄色のチェッカーフラッグ)があり、その100mほど先のフィニッシュライン(赤色のチェッカーフラッグ)を全速力で通過する。これをフライングフィニッシュ方式と呼ぶ。タイムはスタートラインとフィニッシュラインに設置された光電管で計測され、1秒単位もしくは1/10秒単位で記録に反映される。フィニッシュライン通過後は減速したのちストップコントロール(赤色の「STOP」)で停車し、競技員からタイムカードにSS走行タイムを記入される。

全車両の走行が終了すると、最後にオフィシャルのスイーパーカーが走行し、選手・観客の安全やリタイア車両の有無などを確認する。その後、占有状態が解除され、一般交通へ開放(オープン)される。

リエゾン[編集]

リエゾン走行中のラリーカー(2010年ラリー・フランス

SS終了後、競技車はロードブックの道順(コマ図)に従い一般車両に混じってリエゾンを走行し、次のSS開始地点へと移動する。リエゾンではコ・ドライバーが運転を代行することも認められている。途中、指定のガソリンスタンドや臨時の給油スポットで再給油(リフューエリング)を行う。リエゾン移動中に停車し、クルー2名が車載工具で応急修理したり、スペアタイヤの交換作業を行ってもよいが、クルー以外の手を借りてはならない。深刻なトラブルの場合は、携帯電話でチームのアドバイスをもらいながら作業する。

SS開始地点に到着すると、TCの手前にある予告看板の所で停車し指定時刻を待つ。指定時刻には余裕が持たせてあるので、ミスコースや不測のトラブル(故障や交通渋滞など)が起きない限り遅れることはない。ただし、リエゾン区間は一般道であるため、SSで大きなダメージを負ったまま走行したり、一時停止や制限速度を無視したりすると、警察から走行中止を命じられたり、交通違反で罰せられたりすることもある[3]

アクシデント時の対応[編集]

SS途中数箇所のコースサイドにラジオポイントが設置され、オフィシャルが通過車両を確認するトラッキングを行い、不通過車両があれば大会本部(ヘッドクォーター)へ無線連絡を行なう。

SS途中で故障やコースアウトなどのアクシデントが起こった場合イエローフラッグが提示され、後続車は安全を確保できる速度で走行しなければならない。走行不能になったクルーは停車位置より50m以上前に反射式の三角表示板を置いて、後続車に注意を促す。また、両面に"SOS"と"OK"が書かれたA3サイズのカードの片面をみせて、救急搬送や消火作業が必要かどうかを後続車に示す。

事故車がコースを塞ぐなどして走行不可能になった場合、そのSSは途中で中止され、残りの車両はドライブスルーとなる。その場合公平を期すため、適正と思われる均等なタイム(ノーショナルタイム)が与えられる。ただし、中断原因を作ったクルーには実際にかかった時間が与えられる。

ペナルティ[編集]

以下のケースではタイムペナルティを加算されたり、最悪の場合失格処分を下される。

  • SSスタート地点で、TCの指定時刻1分前より早くTCエリア(黄色い予告看板と解除看板に挟まれた区間)に進入すること(TC早着)。
    • リエゾン到着後にTC予告看板前に停車し、指定時刻1分前まで待機していることは問題ない。
  • TCの指定時刻1分後までにタイムカードを提出できないこと(TC遅着)。
  • スタートにおけるフライング(ジャンプスタート)。
  • 自力脱出不可能な状態から、観客の手を借りて競技に復帰すること。
    • コースを塞ぐなどの特定状況では認められる。
  • フィニッシュ予告看板からストップコントロールまでの間に停車すると失格処分を受ける。
  • TCエリア内で車両整備を行なうこと。
  • サービスパーク以外の場所でクルー2名以外の人間が手を貸し、車両整備を行なうこと。
  • パルクフェルメ保管中の車両にチームスタッフなどが触れること。

SSの種類[編集]

ターマック
グラベル
スノー
ウォータースプラッシュ

SS1本の走行距離は数kmから50km超まで様々。SSの本数・合計距離などはイベントの規模によって異なる。WRCの場合3日間にSSが20本前後、合計距離は400kmほど。全日本ラリー選手権 (JRC) では2日間にSSが10~15本、合計距離は65~85km程度。アジアパシフィックラリー選手権 (APRC) と併催されるラリー北海道では合計距離が230kmに及ぶ。JRCでは各イベントごとにSSの距離や路面の種類によって獲得ポイントの係数が変わるシステムを採用している[4]

SSがされるのは普段交通量の少なく、難易度のある場所。したがって山間部の林道農道、私有地内の連絡道など。細く曲がりくねり、片側一車線

舗装路面(ターマック)と未舗装路面(グラベル)に大別され、ふたつの混成(ミックス)もある。さらにウィンターラリーでは積雪路面(スノー)や凍結路面(アイス)もある。ターマックよりもグラベルのほうが滑りやすいが、北欧のグラベルコースは高速タイプが。

路面によって車輌のセッティングや装着するタイヤの種類も異なる。

  • ターマックは大径ブレーキディスク[5]、硬めのサスペンション、低い車高
  • グラベルはストロークの深いサスペンション、高めの車高
  • スノーではスパイクタイヤ

コースコンディションの変化を見越したスペアタイヤの選択も、順位を左右する重要なファクターとなる。

路面の起伏(クレスト)、ジャンピングスポットや水濠(ウォータースプラッシュ)などの障害がある。これらの勢いよく突っ込みすぎると、姿勢を乱したり衝撃でマシンが損傷するので、慎重さが必要になる。また、コース上に野生動物や家畜が入り込んで障害物になったり、心無い観客が石や雪玉を投げ入れるといった不測のアクシデントもまれに起こる[6][7]

スーパースペシャルステージ(SSS)[編集]

ラリー・アルゼンチンのSSS(2006年)

パワーステージ[編集]

セレクティブ・セクション[編集]

  • 閉鎖されない(対向車あり)
  • サービス自由
  • 達成困難なターゲットタイム設定あり→減点の少なさで順位決定
  • 計測は1分単位

走行順の有利・不利[編集]

サーキットレースと異なり、ラリーは1台ずつ走行するため、SSの出走順によって路面コンディションが変化し、走行タイムが影響されやすい。グラベルラリーではその影響度が大きく、出走順が早い者は路面に浮いた砂利を掃除する「砂掻き役」を負わされ、大幅なタイムロスを強いられる。逆に、ウェットコンディションではぬかるんだ路面に轍ができ、出走順が遅いほど不利になることもある。

WRCの出走順は、初日はシリーズランキング順、2日目以降は前日の走行タイム順と決められているが、成績が良い選手ほど毎回グラベルの砂掻きに悩まされることになる。そのため、前日の最終SSで故意に数秒間フィニッシュを遅らせ、翌日の出走順を有利にしようとするスローダウン戦略が横行した。この行為はルール上問題ないものの、スポーツ精神上好ましくないと考えられた。

こうしたハンディや戦略をため、WRCのグラベルラリーでは2012年より「リバースオーダーシステム」を採用し、前日の順位とは逆にした[8]。しかし、これだと速いドライバーため、再変更も考えられている[9]

2012年にはグラベルラリー限定として、「シェイクダウンの代わりに予選セッションを行い、予選タイムの良い者から初日の出走順を選べる」「2日目以降は前日の成績が悪い順にスタートする(リバースオーダー)」というシステムが採用された。2014年には予選セッションが廃止され、初日はシリーズランキング順、2日目以降はリバースオーダーという方式へ再変更された。

名物SS[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ WRC第10戦ラリー・オーストラリア報告(その2)【WRC 03】”. WEB CG (2003年9月8日). 2021-0-閲覧。
  2. ^ "【WRCラリージャパン】これがゼロカーだ!". レスポンス.(2004年9月1日)2017年2月27日閲覧。
  3. ^ "ペター・ソルベルグ、免停の顛末を語る". RALLY+.net.(2011年2月14日)2016年1月25日閲覧。
  4. ^ "全日本ラリー選手権の基礎知識". JRCA.
  5. ^ WRC世界ラリー選手権の厳しさに挑むブレンボ製ブレーキ:レースによる違い”. ブレンボ (2016年5月20日). 2021-0-閲覧。
  6. ^ 古賀敬介の WORLD RALLY TOURS IRCモンテ編02】モンテ名物の雪のワナ - ウェイバックマシン(2012年8月19日アーカイブ分) RALLY PLUS.NET.
  7. ^ "メキシコ2日目:フォード勢、そろって脱落". オートスポーツweb.(2012年3月11日)2016年1月25日閲覧。
  8. ^ 古賀敬介 "2012WRCプレビュー 不安定要素に揺れる新シーズンの開幕(2/3)". OCNスポーツ.(2012年1月25日)2013年128月日閲覧。
  9. ^ "オジエ快進撃に歯止め? FIAが出走順の変更を検討". RALLY-Xモバイル.(2013年月日)2013年8月17日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]