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利用者:Omotecho/ウォルビス海嶺


ウォルビス海嶺
アフリカ大陸棚から南大西洋のゴフ島近海まで伸び、アンゴラ海盆とケープ海盆を隔てる。全長およそ3千 km。
所在地 南大西洋
位置 南緯23度14分57秒 東経8度16分16秒 / 南緯23.24917度 東経8.27111度 / -23.24917; 8.27111
山系 大西洋中央海嶺
種類 海嶺
プロジェクト 山
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ウォルビス海嶺: Walvis Ridge[注釈 1])は、大西洋南部に分布するクリープ断層である。全長およそ3千 kmトリスタンダクーニャゴフ島に近い大西洋中央海嶺からアフリカ沿岸(南緯18度のナミビア北部)まで伸びる[1]。一連の海山はいずれも活発なホットスポットで、巨大火成岩岩石区と結ぶ地球上でもまれな海底地形である。トリスタンという主要または深いマントル型の希少なホットスポットがあり、その点でも最も重要な海山の連なりと見なされる[2]

地質学[編集]

南大西洋の海底は大西洋中央海嶺を除くと、この海嶺とリオグランデ海嶺に最も特徴がある。ホットスポット火山作用によって形成され、大西洋中央海嶺全域がトリスタン・ホットスポットを中心に鏡像のように対称形をなす。左右対称な領域はウォルビス海嶺にも2ヵ所見られ、たとえばリオグランデ海膨英語版の西端(ブラジル沿岸沖のトーレスアーチ)と連動して進化し、南大西洋が徐々に拡大するにつれて離れて行った。ところが他方、同じウォルビス海嶺でも西端の海山の複合体ではアメリカ側に同様の構造が見られず、リオグランデ海膨東端の南側にはザピオラ海山複合体(Zapiola Seamount Complex)がある[3]。このように構造が鏡像として発達した背景に約1億2千万年前、南大西洋とその構造の最も外縁部のパラナ・エテンデカ巨大火成岩岩石区[注釈 2]が離れていった過程があり、その端緒は現在、ブラジルナミビアが位置する地域で始まった[2]

ウォルビス海嶺は主に3つの部分に分かれた[1]

  1. 第1の区分はアフリカ沖600 kmから東経約6°まで伸び、幅は90–200 km。
  2. 第2の区分は南北500 kmで幅は第1区分より狭い。
  3. 第3は不連続で海山が特徴の区分で、ウォルビス海嶺と大西洋中央海嶺を結ぶ。

この海嶺と対照する白亜紀の鉱物キンバーライトコンゴ民主共和国中央部とアンゴラに分布する[5]

トリスタンダクーニャからゴフ島に至るホットスポットの連なりは、今から135億年から132億年前、マントルプルームにより形成されたもので、のちのエテンデカ・パラナ巨大火成岩岩石区の一部に当たる[6]。この海嶺の東側は白亜紀の120億年から80億年前の間にできたと考えられる[7][8]。マントルプルームは大きく安定したまま存続し、東部のウォルビス海嶺は大西洋中央海嶺側のリオグランデ海膨とともに形成された[6]。6千万年前のマーストリヒチアンに至り伸展する方角が変わったさまは、ウォルビス海嶺のさまざまな支脈に観察できる[2]。その後、マントルプルームは徐々に不安定になると元のホットスポットは700万年から600万年前、トリスタンダクーニャ側とゴフ島側に分岐する。45億年から35億年前、マントルブルームはついに崩壊し、海嶺西端に海山の一種「ギヨー」を形成した[6]

この海嶺では2001年と2002年に火山爆発が数百回、記録されている。発生源は尾根の北側、名前のない海山であって、トリスタン・ダクーニャホットスポットとは関係ないと考えられる[9]

古気候の役割[編集]

地球温暖化が発生した5億3700万年前は、謎の起源の始新世層(ETM-2、H1またはELMO(英語)の期間である。およそ2万年ほどさかのぼると暁新世から始新世の温暖化極期(PETM=Paleocene-Eocene_Thermal_Maximum)があった。ウォルビス海嶺特有の炭酸塩の少ない赤い粘土層はこの痕跡で、PETMに似るが量と密度は少ない[10][11]

海洋学[編集]

ウォルビス海嶺はアガラスバンク[12](アガラス海台[13])の南を流れようとするアガラス海流にとっては自然の障害物である。この海流は中規模の暖かい還流(Warm_core_ring)で、そのような海流は年によって発生数に大きな変動があり、年平均5つ発生する[14]。この海流は最も深く潜ったあたりでウォルビス海嶺を横切る傾向が見られ、それでも遷移速度を失い流れの束は急速に崩壊する[15]。遷移速度は5.2±3.6 km/日から4.6±3.1 km/日へと落ちるが、ウォルビス海嶺から中央大西洋海嶺の間で4.3±2.2 km/日に下がる点を考えると、果たして前者の減速がウォルビス海嶺に起因するかどうかは明らかでない[16]

還流は2年半から3年で南大西洋を横断し、ウォルビス海嶺を越えて進むのは3分の2とされる[14]。この海嶺の南のキャップ海盆(Cap Basin)を通過するとき、還流と還流の相互作用に加えベンゲラ海流、ベマ海山(Vema Seamount)など海底地形に次々とぶつかる。対照的にウォルビス海嶺の西側では障害はむしろ少なめで、流れは安定する傾向がある[17]。アガラス海流がインド洋から南大西洋に送る海水は1–5 Sv(毎秒百万m3)と推定される[18]

南極底層水(AABW=Antarctic Bottom Water)は南極に発してアガラス海台[13][12]とアガラス海嶺(Agulhas_Ridge)に囲まれたケープ海盆に流れ込んだ後、アガラス海嶺に沿って西北に回り込み、海嶺の南西端で反転すると海嶺沿いに北東に進んでから北大西洋深層水に南に押し戻され、ケープ海盆からインド洋に流れ出す[19]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ウォルビス(walvisはオランダ語アフリカーンス語クジラの意。ウィクショナリー「walvis(英語)、「cetus(日本語)も参照。
  2. ^ パラナ・エテンデカ巨石火成岩岩石区の英文表記は、Paraná-Etendeka traps、Paraná and Etendeka Plateau、Paraná and Etendeka Provinceがある[4]

出典[編集]

 

  1. ^ a b Goslin et al. 1974, Introduction, p. 469
  2. ^ a b c Sager 2014, pp. 2–5
  3. ^ O'Connor & Duncan 1990, Introduction, p. 17475
  4. ^ Michele Lustrino、Marianna Marrazzo、Leone Melluso、et al.(著)、Geochemical Society of Japan(編)「Petrogenesis of Early Cretaceous silicic volcanism in SE Uruguay: the role of mantle and crustal sources」『Geochemical journal』第44巻第1号、Terrapub、東京、1-22頁。 
  5. ^ de Wit 2007, Fig. 7, p. 380; Fig. 9, p. 385
  6. ^ a b c Rohde et al. 2013, Conclusions, pp. 69-70
  7. ^ Pastouret & Goslin 1974
  8. ^ Müller, Royer & Lawver 1993
  9. ^ Haxel & Dziak 2005, Abstract
  10. ^ Lourens et al. 2005, Abstract
  11. ^ Eocene Layer of Mysterious Origin”. JOIDES Resolution. 2015年5月閲覧。
  12. ^ a b 深澤理郎(監訳)こどもくらぶ(訳) 訳「アガラスバンク インド洋」『海の大図鑑 : イラストレイテッド・アトラス』丸善出版、2016年5月、155, O-11頁https://rnavi.ndl.go.jp/mokuji_html/027268656.html2021年8月13日閲覧 
  13. ^ a b ドリク・ストウ 著、天野一男、森野浩 訳「アガラス海台」『テーマで読み解く海の百科事典 : ビジュアル版』柊風舎、2008年5月、123/F3,126/A2頁https://rnavi.ndl.go.jp/mokuji_html/000009375510.html2021年8月12日閲覧 
  14. ^ a b Schouten et al. 2000, Discussion and Conclusions, p. 21933
  15. ^ Schouten et al. 2000, Abstract, Introduction, pp. 21913-21914
  16. ^ Schouten et al. 2000, Rings paths, pp. 21916-21918
  17. ^ Schouten et al. 2000, Ring Decay, pp. 21918-21919
  18. ^ Ruijter et al. 2003, p. 46
  19. ^ Gruetzner & Uenzelmann-Neben 2014, Fig 1.A

参考文献[編集]

  • ドリク・ストウ 著、天野一男、森野浩 訳『テーマで読み解く海の百科事典 : ビジュアル版』柊風舎、2008年。 ISBN 978-4-903530-13-0
  • 『海の大図鑑 : イラストレイテッド・アトラス』深澤理郎(監訳)、こどもくらぶ(訳)、丸善出版、2016年。 ISBN 978-4-621-08981-1

関連項目[編集]

Portal:地理

関連資料[編集]

  • Sparks, John(総編集)『海洋大図鑑』内田至(日本語版総監修)、ネコ・パブリッシング、2007年。ISBN 978-4-7770-5197-7
    • 改訂版、『海洋大図鑑』内田至(日本語版総監修)、ネコ・パブリッシング〈DKブックシリーズ〉、2018年。ISBN 978-4-7770-5425-1
  • ハンス=ウルリッヒ・シュミンケ『火山学』隅田まり、西村裕一(訳)、古今書院、2010年。ISBN 978-4-7722-3133-6

洋書[編集]

外部リンク[編集]

座標: 南緯26度 東経6度 / 南緯26度 東経6度 / -26; 6 [[Category:海山列]]