イギリス医学研究審議会
略称 | MRC |
---|---|
設立 | 1913年 |
種類 | 政府外公共機構(en) |
目的 | 生物医学分野の研究の資金援助 |
所在地 | |
貢献地域 | イギリス |
上部組織 |
ビジネス・エネルギー・産業戦略省 イギリス研究技術革新機構 |
ウェブサイト |
mrc |
イギリス医学研究審議会(イギリスいがくけんきゅうしんぎかい, 英: Medical Research Council, MRC)はイギリスの政府外公共機関[1]であり国内のバイオ医学研究を支援するため、資金調整と支給を担当する。支援対象は基礎研究から臨床試験まで広範にわたり、イギリス保健省および国民保健サービスと密接に連携する[2]。2018年4月1日より政府外公共機関の監督組織として新設されたイギリス研究技術革新機構(UKRI=UK Research and Innovation)に帰属[3]。
活動内容
[編集]勅許[2]の規定によると、医学研究審議会(以下MRCと略)の任務は次のとおり。
- 人々の健康改善に資する医学研究を促進し、支援する。
- 関連技術者の研修。
- 人々の生活の質を向上させ、イギリス経済の競争力向上のため、関連する知識と技術を高めるて普及させる。
- 医学研究と一般社会との交流を強化する。
沿革
[編集]MRCは1913年に医学研究・諮問委員会として設立されると[4]1911年制定の国家保障法(英語版)にしたがい、主に医学研究基金の分配を担当する。王立結核評議会による永久的な医学研究機関の設立勧告を受けたものではあるが、委任対象は結核に限定されていない。
勅許により1920年に医学研究「審議会」に改称する[注釈 1]。MRCはその趣旨である科学の開発促進を支える初の科学的査読による論文集として1933年3月に定期刊行物『British Journal of Clinical Research and Educational Advanced Medicine』を創刊[注釈 2]、新しい研究の報告を目指したmedical patrol[訳語疑問点]であり、研究者は一定の品質と科学的妥当性を確保した同誌から専門分野の最新情報を入手し、独自の研究実施に使えるようになった。
2012年8月、個別化医療の研究施設としてMRC-NIHRフェノームセンター設立が発表された[6][7]。同センターはインペリアル・カレッジ・ロンドンを拠点とし、2012年オリンピック・パラリンピック・ロンドン大会の不正薬物検査施設から機器を受け継ぎ[6][7]、さらに同センターの技術提携先ブルカーおよびウォーターズコーポレーションから受贈した機器を組み合わせて活動を開始する。運営主体は拠点大学ならびにキングス・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学キングス・カレッジ)とされ、予算はMRCに加えイギリスの国立健康研究所(National Institute for Health Research)の2箇所からそれぞれ500万ポンドずつ5年にわたり助成を受け[6][7]、2013年6月に正式に始動した[8]。
顕著な研究
[編集]MRCの支援により実施された重要な研究を記す。
- くる病の病因として栄養不足を解明したエドワード・メランビー(英語版)の研究[9]。メランビーはソルビー研究所 在籍中に志願者を募り、ビタミンAとビタミンCの欠乏症を実証実験した。
- インフルエンザの病因が特定のウイルスであると実証した1918年の発見[10]。
- 神経伝達系(英語版)の解明ならびに神経伝達物質第1号としてアセチルコリンを報告したヘンリー・H・デールとオットー・レービは1936年にノーベル生理学・医学賞を受賞。
- 抗生物質ペニシリンを開発したアレクサンダー・フレミング、エルンスト・チェーン 、ハワード・W・フローリーは1945年ノーベル賞を受賞[11]。3名とも叙勲。
- 喫煙と肺がんの因果関係を解明したリチャード・ドール(英語版)[12]、オースティン・B・ヒル(英語版)がイギリス版前向きコホート研究( 英語版)として1956年に発表[13]。
- DNAの構造を解明したジェームズ・ワトソン、フランシス・クリック、ロザリンド・フランクリン、モーリス・ウィルキンスの研究[14]。3名はこの発見により1962年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞。
- 1973年の核磁気共鳴画像法の開発に関するピーター・マンスフィールドとポール・ラウターバーの個別の研究。連名で2003年にノーベル賞を受賞[15]。
- 1975年にモノクロナール抗体を開発[16]したセーサル・ミルステインおよびジョルジュ・ケーラーの研究(1984年ノーベル賞受賞)。
- 葉酸と二分脊椎症ならびに神経管閉鎖障害の予防に関する研究[17]。
- 1970年代と1980年代に行われた大規模実証実験により、心血管疾患のリスク低減とアスピリンの関与を解明。
- 線虫の1種カエノラブディティス・エレガンスを用いて1998年に実現した、多細胞生物では初のゲノム解析。
- 現在進行中の心疾患予防研究[18]における、心疾患の高リスク群に対するシンバスタチン投与の治験。
- MRC分子生物学研究所のヴェンカトラマン・ラマクリシュナンによるリボソームの原子構造を決定する研究。抗レトロウイルス療法による生存率の向上に関し、2009年ノーベル化学賞を受賞。
- 外科手術用の器具に付着する伝染性のプリオンを検出する検査法の開発。既存の検査法より正確かつ所要時間が100倍速い。
- 肥満に関する2番目の遺伝変異体の発見[19]。
- 高品位の外科手術と短期間の放射線療法により、結腸直腸がん再発率を半減させるという知見[20]。
MRCの支援を受けた科学者から32名のノーベル賞受賞者が生まれ、いずれも生理学もしくは医学賞分野である[21]。
研究拠点と施設
[編集]この組織は研究施設をイギリス全土のほか、海外もウガンダとガンビアに置く[22]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 2003年7月17日の補足勅許発布を受け、正式承認。
- ^ JSTORに掲載分は後継誌か? British Medical Journal (Clinical Research Edition):1981年-1988年 (第282巻 - 第296巻第6639号)、BMJ。1988年-2015年(BMJ: British Medical Journal)。電子版あり[5]。
出典
[編集]- ^ 『(資料3-3)英国・公的機関改革の最近の動向』(pdf)内閣官房、2013年9月、4頁 。
- ^ a b Medical Research Council, MRC (2018年6月19日). “Mission” (英語). mrc.ukri.org. 2018年8月25日閲覧。
- ^ Medical Research Council, MRC (2018年4月3日). “About us” (英語). mrc.ukri.org. 2018年8月25日閲覧。
- ^ “医学研究審議会による作成もしくは継承の記録” (英語). The National Archives. 2012年2月28日閲覧。
- ^ (English) British Medical Journal (BMJ).. London, England: BMJ Pub. Group.. (0000 uuu). OCLC 44366939
- ^ a b c “London 2012 legacy to include medical research centre”. Times Higher Education. (1 August 2012) 1 August 2012閲覧。 「2012年ロンドン五輪の遺産に医学研究センターを併設」
- ^ a b c “Legacy for anti-doping centre”. BBC News. (1 August 2012) 1 August 2012閲覧。 「不正薬物検査センターの遺産」
- ^ “New centre will decipher roles of nature and nurture in human health”. Imperial College News and Events. Imperial College London. 13 November 2014閲覧。 「新センター、ヒトの健康における自然と栄養補給の役割を解析へ」
- ^ “Complete Dictionary of Scientific Biography: Mellanby, Edward”. Encyclopedia.com. 28 February 2012閲覧。 項目名「メランビー、エドワード」『科学人物総合辞典』
- ^ “Social History of Medicine – Uses of a Pandemic: Forging the Identities of Influenza and Virus Research in Interwar Britain” (pdf). Oxford University Press (15 December 2011). 28 February 2012閲覧。 「医療の社会史 – パンデミックの効用:インフルエンザとウイルス研究を結ぶ戦間期イギリス」
- ^ Bud, Robert (2007). Penicillin Triumph and Tragedy. Oxford University Press. p. 43. ISBN 978-0-19-925406-4 『ペニシリンの栄光と悲劇』
- ^ “禁煙コーナー(サー・リチャード ドールの死を悼む):広島県民のみなさまへ - 禁煙コラム”. www.hiroshima.med.or.jp. 広島県医師会. 2020年7月30日閲覧。
- ^ Doll, R.; Peto, R.; Boreham, J.; Sutherland, I. (2005). “Mortality from cancer in relation to smoking: 50 years observations on British doctors”. British Journal of Cancer 92 (3): 426–429. doi:10.1038/sj.bjc.6602359. PMC 2362086. PMID 15668706 . 「喫煙と肺がんの死亡率:50年にわたるイギリスの医学者の観察に基づく」『イギリス腫瘍学会誌』
- ^ Torsten, Krude; Klug, Aaron (2004). Changing Science and Society. Cambridge University Press. pp. 3–26. ISBN 0-521-82378-1 『科学と社会の変革』
- ^ “The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2003”. Nobelprize.org. 28 February 2012閲覧。 「2003年ノーベル賞生理学・医学賞」
- ^ “Therapeutic Antibodies and the LMB”. MRC Laboratory of Molecular Biology. 22 December 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。28 February 2012閲覧。 「抗体医薬とLMB(MRC付属分子生物学研究所)」
- ^ Centers for Disease Control (CDC) (1991). “Use of folic acid for prevention of spina bifida and other neural tube defects—1983–1991”. MMWR. Morbidity and Mortality Weekly Report 40 (30): 513–516. PMID 2072886. 「葉酸の投与と二分脊椎症その他の神経管端欠陥—1983年–1991年」
- ^ Collins, R.; Armitage, J.; Parish, S.; Sleigh, P.; Peto, R.; Heart Protection Study Collaborative Group (2003). “MRC/BHF Heart Protection Study of cholesterol-lowering with simvastatin in 5963 people with diabetes: A randomised placebo-controlled trial”. Lancet 361 (9374): 2005–2016. doi:10.1016/s0140-6736(03)13636-7. PMID 12814710. 「MRC/BHF心血管疾患防止に関する研究、糖尿病患者5,963例に見るシンバスタチン投与とコレステロール低減能:二重盲検法試験」
- ^ Loos, R. J. F. (2009). “Recent progress in the genetics of common obesity”. British Journal of Clinical Pharmacology 68 (6): 811–829. doi:10.1111/j.1365-2125.2009.03523.x. PMC 2810793. PMID 20002076 .
- ^ “Press release: Doctors more than halve local relapse of rectal cancer”. http://insciences.org+(6 March 2009). 2 May 2013時点のオリジナルよりアーカイブ。28 February 2012閲覧。
- ^ “Nobel Prize Winners”. Medical Research Council. 28 February 2012時点のオリジナルよりアーカイブ。28 February 2012閲覧。
- ^ Medical Research Council, MRC (2015年10月26日). “List of Institutes, Units & Centres” (英語). mrc.ukri.org. 2018年8月25日閲覧。 「付属機関・研究単位・研究センター総覧」