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医学を基礎とするまちづくり(いがくをきそとするまちづくり)とは、医学的知見をまちづくりに積極的に応用することにより、まちづくり自体を大きく変革しようとする概念をいう。「Medicine-Based Town」の頭文字を取ってMBTと呼ばれている。

概要

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細井裕司[注釈 1]が2005年に想起した住居医学を発展させ、提唱した概念で、住居からまち、そして、都市規模へと拡大するものである[2]。住居医学は住環境を改善することにより、病気を予防し、健康を維持することを目的とした学問分野である。また、MBTの前段階の概念として医学を基礎とする工学「Medicine-Based Engineering」(MBE)の概念を同時に提唱している。MBEは医学を基礎として、工学・産業を発展させるとの概念であり、医用工学「Medical Engineering」(ME)が工学による医学への貢献をイメージした概念であるのに対し、医学による工学への貢献をイメージしたものである。MBTは住居医学とMBEを結びつけたものである[3] [4]

医師(医療者)は患者に対し一対一で対応しているが、医師等の持つ知識は膨大である。この医学的知識を工学に生かすことによって、新しい製品開発をはじめ新産業創生、少子高齢社会のまちづくりを行う。また、MBE、MBTは従来からある医療産業の集積ではなく、すべての産業に医学の光をあて、産業の創生・再生を図る。すなわち医療産業でない産業を医療産業化する。新しい手法による産業の活性化により、地方創生・再生を行う。新しく作るまたは既存の「まち」に医師等が持つ医学の知恵を注ぎ込んで、付加価値の高いまち「MBT」を作る。この過程が新産業創生、地方創生の原動力となる。[5][6][7]

経緯

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奈良県立医科大学と早稲田大学の動き

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奈良県立医科大学は2006年に大和ハウス工業株式会社の寄附により、寄附講座「住居医学」講座を開設した。住居医学は、住まいにおける健康について「医学的見地からの考察、検証を加え、住居内におけるアレルギー・微生物の分析や、宅内環境が睡眠や循環器系・脳血管系へ及ぼす影響、「温度・光と健康」、「振動・音響と健康」、あるいはスポーツ医学といった視点での研究および対応策を開発し、「健康を維持、増進する住宅」の実現を目指」[8]すものである。

2012年、住居医学講座教授となった細井裕司は、MBT構想実現に向けて、当時日本都市計画学会会長であった早稲田大学後藤春彦に協力を依頼し、医学を基礎とするまちづくりに関する共同研究が奈良県立医科大学早稲田大学との間で開始された[6]

2015年10月、早稲田大学は重点領域研究機構の研究所として「医学を基礎とするまちづくり研究所」を設立した[9]。一方、奈良県立医科大学は2016年6月に「MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所」を設立し、2017年4月に大学院医学研究科にMBT学の科目を開講した[10][11][12]

2016年1月、奈良県立医科大学を中心としたMBTコンソーシアム研究会が「MBTコンソーシアム研究会設立記念シンポジウム」を開催した[13][14]。また2016年11月には、奈良県立医科大学早稲田大学の共催で、「医学を基礎とするまちづくり(MBT)コロキウム」が内閣府など6つの省庁の後援を受けて開催された[15][16]

行政の動き

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2014年5月、地域活性化の推進に関する関係閣僚等会合において、医学を基礎とするまちづくりの視点を含んだ橿原市等の提案が地域活性化モデルケースとして選定された[17][18][19] [20]

2015年3月、橿原市奈良県は、協働による「まちづくり」を推進していくために「まちづくりに関する包括協定」を締結した[21]。この包括協定の対象に医大および附属病院を核とする新しい都市拠点「橿原キャンパスタウン」の形成が含まれており、MBT構想を具体化する動きとなっている[22]。同月、内閣府は地域再生法に基づき橿原市から申請された地域再生計画「賑わいのまち・健やかなまちの実現を目指して」を認定した[23]橿原市は、奈良県立医科大学および橿原市観光協会を橿原市地域再生法人として指定した[24]。この地域再生計画ではMBT構想に基づくまちづくりが中核要素として位置づけられている[25]

2015年6月、橿原市奈良県立医科大学は、医科大学周辺地区を中心としたまちづくりや健康づくりなど多岐にわたる分野において、それぞれが保有する知的・人的および物的資源を活用することにより、地域社会の総合的な発展を図るための連携協力に関する協定を締結した[26]

2016年3月、橿原市は橿原市まち・ひと・しごと創生総合戦略を策定した。この中で「MBT(医学を基礎とするまちづくり)の考え方をも取り入れ、にぎわい・健康づくり・医療・福祉等に関する各種機能の再配置や、鉄道駅・道路・公園等の都市施設の整備と並行して、新しいまちにふさわしい機能的な公共交通の整備を進めます。」と言及している[27]

民間の動き

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2015年12月、奈良県立医科大学早稲田大学奈良県橿原市関西電力などが連携して産学官によるMBTコンソーシアム研究会を設立した[13]。この研究会を前身として、2016年4月には一般社団法人MBTコンソーシアムが設立された[5][28]。MBTコンソーシアムの幹事メンバーとして、凸版印刷関西電力富士通、パシフィックコンサルタンツ、健康都市デザイン研究所、南都銀行が名を連ねている[29]。この他にも医学の知識を用いた新産業、まちづくり等を目指す多くの企業[注釈 2]が会員として参加し、活動を開始している。

主要な公的関連事業

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主要なMBT関連の公的事業として以下のものがある[注釈 3]

  • 農林水産政策研究所農林水産政策科学研究委託事業『「大和漢方」の産地形成と薬用作物の園芸療法を通した医学的エビデンスにもとづく「農村医療観光」による6次産業の創出』[32]
  • 科学技術振興機構「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」『i-Brain×ICT「超快適」スマート社会の創出グローバルリサーチコンプレックス』[33]
  • 内閣府「地域再生制度に基づく地域再生計画の認定」『高取町 漢方を活かしたメディカルツーリズムの推進』[35][36]

注釈

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  1. ^ 2014年4月から奈良県立医科大学理事長・学長[1]
  2. ^ 2016年末時点で約80社参加しているとされている[30]
  3. ^ 2017年5月時点で進行中のもの[31]

出典

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  1. ^ 理事長・学長就任挨拶」(PDF)『奈良県立医科大学学報』第48巻、奈良県立医科大学、2014年4月、1頁、2017年5月16日閲覧 
  2. ^ 細井 & 後藤 2014, pp. 10, 24.
  3. ^ 細井 & 後藤 2014, pp. 10–12.
  4. ^ 橿原市で「医学を中心としたまちづくり」、コンソーシアムを近く発足”. 日経デジタルヘルス (2015年11月9日). 2017年5月16日閲覧。
  5. ^ a b ご挨拶”. MBTコンソーシアム. 2017年5月16日閲覧。
  6. ^ a b 細井 & 後藤 2014, pp. 12.
  7. ^ 細井 & 後藤 2016, pp. 155.
  8. ^ "奈良県立医科大学に、寄附講座「住居医学」を開講-住まいにおける"健康"を医学的見地から検証します-" (Press release). 大和ハウス工業株式会社. 2006-2-6. 2017-5-16閲覧 {{cite press release2}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  9. ^ “「医学と都市計画学の統合による21世紀型まちづくり手法の確立へ」 WASEDA研究特区-プロジェクト研究最前線-”. YOMIURI ONLINE. http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/research/tokku_160223.html 2017年5月16日閲覧。 
  10. ^ MBTの状況2016, pp. 1.
  11. ^ 平成29年度奈良県立医科大学大学院医学研究科(修士課程)学生募集要項” (PDF). 奈良県立医科大学. p. 11. 2017年5月16日閲覧。
  12. ^ 平成29年度奈良県立医科大学大学院医学研究科(博士課程)学生募集要項” (PDF). 奈良県立医科大学. p. 10. 2017年5月16日閲覧。
  13. ^ a b “医学を基礎にしたまちづくり始動 県立医大中心にMBT研設立”. 産経新聞. (2016年1月26日). http://sankei-nara-iga.jp/news/archives/5185 2017年5月16日閲覧。 
  14. ^ MBTの状況2016, pp. 2.
  15. ^ MBTの状況2016, pp. 7.
  16. ^ 「MBTコロキウム」無事終了いたしました!”. 早稲田大学重点領域研究機構医学を基礎とするまちづくり研究所. 2017年5月16日閲覧。
  17. ^ 地域活性化の推進に関する関係閣僚等会合”. 内閣府地方創生推進事務局. 2017年5月16日閲覧。
  18. ^ 資料1 地域活性化モデルケース選定案について(ワーキングチーム決定)” (PDF). p. 4. 2017年5月16日閲覧。
  19. ^ 橿原市「特集:コンパクトシティ橿原~『飛鳥シティ・リージョン』で元気創造~」(PDF)『広報「かしはら」』、橿原市、2015年2月、4-5頁、2017年5月16日閲覧 
  20. ^ 橿原市「特集:コンパクトシティ橿原~『飛鳥シティ・リージョン』で元気創造~」(PDF)『広報「かしはら」』、橿原市、2015年2月、6-7頁、2017年5月16日閲覧 
  21. ^ 奈良県と橿原市とのまちづくりに関する包括協定書”. 橿原市. 2017年5月16日閲覧。
  22. ^ 橿原市. 橿原市のまちづくりについて (PDF) (Report). pp. 7–9. 2017年5月16日閲覧
  23. ^ 橿原市地域再生計画.
  24. ^ 地域再生計画「賑わいのまち・健やかなまちの実現を目指して」”. 橿原市. 2017年5月16日閲覧。
  25. ^ 内閣府地方創生推進事務局. 認定した地域再生計画の概要 (PDF) (Report). p. 7. 2017年5月16日閲覧
  26. ^ 橿原市「奈良県立医科大学と包括的な連携協力に関する協定を締結しました」(PDF)『広報「かしはら」』、橿原市、2015年8月、8頁、2017年5月16日閲覧 
  27. ^ 橿原市. 橿原市まち・ひと・しごと創生総合戦略 みんな 活躍するまち・かしはら (PDF) (Report). p. 24. 2017年5月16日閲覧
  28. ^ “次々繰り出す新サービス、医学を基礎とするまちづくり-「MBT」の進捗を奈良県立医大の梅田氏が語る”. 日経デジタルヘルス. (2016年10月23日). http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/101600083/102300017/?ST=health 2017年5月16日閲覧。 
  29. ^ 細井 & 後藤 2016, pp. 154.
  30. ^ MBTの状況2016, pp. 3.
  31. ^ MBTの状況2016, pp. 1, 5–7.
  32. ^ 医療分野との連携による農業・農村の活性化とその波及効果及び体系的支援のあり方に関する研究”. 農林水産省農林水産政策研究所. 2017年5月16日閲覧。
  33. ^ 「リサーチコンプレックス推進プログラム」採択拠点の概要”. 科学技術振興機構. 2017年5月16日閲覧。
  34. ^ プロジェクト紹介-空き家活用によるまちなか医療の展開とまちなみ景観の保全”. 科学技術振興機構社会技術研究開発センター. 2017年5月16日閲覧。
  35. ^ 第40回(後半)認定地域再生計画の概要” (PDF). 内閣府地方創生推進事務局. p. 49. 2017年5月16日閲覧。
  36. ^ 地域再生計画『漢方を活かしたメディカルツーリズムの推進』” (PDF). 高取町. 2017年5月16日閲覧。

参考文献

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梅田智広『超高齢社会が日本を変える!-医療と介護、住民をつなぐICTネットワーク』ワイズファクトリー、2015年。ISBN 978-4-7825-9009-6 

橿原市. 地域再生計画 (PDF) (Report). 2017年5月16日閲覧

奈良県立医科大学MBT(医学を基礎とするまちづくり)研究所 (2017). MBT(医学を基礎とするまちづくり)の状況2016 (PDF) (Report). 2017年5月16日閲覧

細井裕司・後藤春彦編著『医学を基礎とするまちづくり-Medicine-Based Town-』水曜社〈文化とまちづくり叢書〉、2014年。ISBN 978-4-88065-335-8 

細井裕司、後藤春彦「医学を基礎とするまちづくり(MBT)コロキウム開催へ」『時評』、時評社、2016年10月、152-161頁。 

外部リンク

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