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クロスビー対ナショナル・フォーリン・トレード・カウンシル[編集]

クロスビー対ナショナル・フォーリン・トレード・カウンシル(Crosby v. National Foreign Trade Council) 530 U.S. 363 (2000)は、アメリカ合衆国最高裁判所の判決で、連邦法によって専占されていることを理由に全員一致でマサチューセッツ州ビルマ法を違憲であると判断した。

事実[編集]

 1996年6月マサチューセッツ州はビルマ制裁法(Act Regulating State Contracts with Companies Doing Business with or in Burma(Myanmar))を制定した。この法律は、州政府がビルマと取引を行っているためにリストに載っている企業と取引をすることを禁止する。その3か月後にあたる1996年9月に合衆国議会も、ビルマ連邦制裁法(Foreign Operations, Export Financing, and Related Programs Appropriations Act)を制定した。連邦法は5つの基本的な部分から成り、3つが実体的なことを定め、残りの2つは手続きを定める。まず、ビルマへの制裁として援助の禁止を定め、国際機関を通じての援助を行わないこと、ビルマ政府関係者にビザを発給しないこととし、大統領がビルマが民主的になったと認めるまで効力が継続することが規定されている。第二の部分は、大統領にさらなる制裁を与える権限を与えており、大統領がアウンサンスーチー氏の迫害や再逮捕、または民主主義への暴力的弾圧があると認めた場合には、新規の投資を禁止することができる。最後に、当該法は大統領に対してビルマに民主主義をもたらすために包括的な戦略を実行することを指示している。大統領は国際機関と協力して、包括的な戦略を実行できる[1]

 マサチューセッツ州の制裁法によって取引活動が制限された業者が、州法は連邦権限である外国通商についての立法を行っており、連邦制裁法によって専占されていること、外国通商条項違反であること、連邦の外交権限を侵害していることの3点を根拠に訴えを起こし、州法の無効宣言と差し止めを求めた。第一審、第二審ともに3点につき原告の主張を認めた。マサチューセッツ州側が連邦最高裁まで争った[2]

判決[編集]

 州制裁法は合衆国憲法の最高法規条項の下では無効であると判示した。スーター裁判官が法廷意見を執筆した。

 合衆国議会は、州法に専占する権限があり、明示的な専占がない場合でも、黙示的に専占される場合がある。なお、専占とは連邦の法律による州法の効力の否定という意味である。黙示的に専占される場合とは、合衆国議会に当該分野を専占する意図があるとき(領域専占)と、州法は当該分野で連邦法と抵触する限りにおいて専占されるとき(障害専占)、州法と連邦法の両方を遵守するのが困難なとき(非両立専占)で、この場合には州法は連邦法に譲歩しなければならない。本件では、マサチューセッツ州法は、3つの点で連邦法によって意図された目的と当然の効果を妨げていると言え、その限りにおいて州法が連邦法に抵触するため連邦法に専占される[3]

 まず、経済制裁をコントロールする大統領に授権された裁量の規定と抵触する。国会は明らかに柔軟で効果的な大統領の権限を認めており、そのことは制裁の終了規定があることからもわかる。一方で州法は、私人の行動をも罰する規定を有し、連邦法が届かない領域にまで州法の影響力が及んでいると言える。したがって、柔軟性のない州法によって連邦法が意図した大統領の柔軟な経済制裁のコントロールという意図を弱めることになる[4]

 次に、取引制限を新規の投資と米国人に限定する規定と抵触する。合衆国議会は、経済制裁を「新規の投資」に限り、モノやサービスの契約を制裁から免除しているように、明らかに経済的制裁を制限的に行っている。一方、州法はビルマと取引を行っているすべての企業に対して制裁を課しており、連邦法の「新規の投資」の定義を超えて、既にビルマと関係があり既に投資を行っていた企業をも罰している。さらに州法は、外国企業も対象としており、米国人に限定している連邦法よりも幅広く影響を及ぼしている[5]

 最後に、ビルマへの包括的な多国間戦略を外交的に形成する大統領への指示と抵触する。アメリカ国内において連邦政府とマサチューセッツ州の経済制裁の足並みがそろっていない点について、日本やEUASEANから政府に対して公的な抗議が連邦政府に示されており、またEUと日本はさらに進んでWTOにアメリカに対して公的な不満を提示している。これらは州法が大統領の権限への脅威になっていることを示しており、大統領がアメリカのために包括的な戦略を実行するという連邦法による権威づけにマサチューセッツ州法は反している。

 以上から、州法の規定は連邦法に抵触し、州法は連邦法に専占されるので、その適用は合衆国憲法の最高法規条項の下で違憲である[6]

本判決の特徴[編集]

 本判決の特徴はその違憲判断の論拠が狭く、控訴裁判決が合衆国政府の排他的な対外権限に加えて、外国通商権限及び専占を違憲の理由にしているのに対して、最高裁は専占のみを理由として違憲判断をしている。また領域専占ではなく、障害専占を理由にすることで、州法も外国通商に関わる事柄でも外国の人権状況の改善を目的とした制裁立法をなす余地が残された[7]

  1. ^ 530 U.S. 363 (2000) Ⅰ
  2. ^ 530 U.S. 363 (2000) Ⅱ
  3. ^ 530 U.S. 363 (2000) Ⅲ
  4. ^ 530 U.S. 363 (2000) A
  5. ^ 530 U.S. 363 (2000) B
  6. ^ 530 U.S. 363 (2000) Ⅴ
  7. ^ 宮川成雄 (2002). “最近の判例”. アメリカ法: 146. 

ユニゾン対大法官 (UNISON事件)[編集]

ユニゾン対大法官 R(on the application of UNISON)vLord Chancellor [2017] UKSC51とは、イギリスの憲法および労働法についてのイギリス最高裁の判例である。法の支配についての積極的な解釈を展開し、コモン・ロー上の裁判を受ける権利を侵害することを主な理由として、大法官の命令に基づく雇用審判所と雇用上訴審判所の手数料引き上げを行政に与えられた権限の踰越であり、不法であると判断した。

事実[編集]

 イギリスでは労働者の権利に関する裁判は、雇用審判所(Employment Tribunal)と雇用上訴審判所(Employment Appeal Tribunal)でのみ取り扱われる。従来は無料で利用できたが、2013年7月13日に大法官によって雇用審判所及び雇用上訴審判所手数料命令(the Employment Tribunals and the Employment Appeal Tribunal Fee Order 2013)が出され、以降はそれに従って手数料を支払わなければ労働審判所を使用できなくなった。かかる命令は、2007年審判所・裁判所・執行法(the Tribunal, Court and Enforcement Act 2007)の42条1項で大法官に授権された権限に基づいたものであり、42条3項は雇用審判所の手数料について定めることも認めている。この命令が出された目的は、裁判所利用料についての理念を納税者負担から受益者負担へと転換することに加え、価格メカニズムの働きにより迅速な裁判を促進すること、根拠が弱く不合理な主張を減らすためであった。

 手数料命令によって労働審判を申し立てた者が支払わなければならなくなった手数料は、かかる訴訟の原告の数及び事案の複雑さによって異なる。タイプAは事前の聴聞が不要であるかほとんど必要なく、実際の聴聞も短い時間でよいような事案に当てはまる。タイプBは、不公平な解雇や同一賃金、差別の主張などを含むその他の複雑な事案すべてが当てはまる。上訴した場合は、さらに手数料が必要であり、上訴審では手数料は事案の複雑さや原告の数に左右されない。

 手数料命令は、手数料免除についても規定している。子供の数や配偶者と合算した所得を考慮して、手数料の一部または全部が免除となる。また大法官が例外的な場合であると認めた場合にも、手数料は免除される。

判決[編集]

最高裁は全員一致で、雇用審判所の手数料は不法であると判示した。

理由付け[編集]

 Reed裁判官意見(Neuberger裁判官ほか5名の裁判官が同意)では、コモン・ロー上の権利については法の支配の価値について強調しながら論じている。裁判を受ける権利は、法の支配に内在的なものであり、裁判を実際に受ける個人にのみ奉仕するものではなく、社会一般に役に立つものである。さらに裁判を受ける権利はマグナ・カルタ以来の重要な権利であるから、コモン・ロー上の裁判を受ける権利は司法へのアクセスが阻害される現実の危険があり、法の目的として正当化される以上の介入があれば手数料命令は不法である。

 本件についていえば、調査から訴訟数の激減が分かり、アンケート調査からも手数料支払いを理由として訴えを起こさない場合が見受けられることから、裁判を起こすことは不可能ではないにしても、手数料によって裁判を受ける権利が現実に阻害される危険が認定できる。本件命令の目的である受益者負担、迅速性の向上、濫訴の防止も調査が示すところによれば効果的に達成されていない。むしろ、穏健な金額の訴訟や非金銭の主張を抑止するものとして手数料命令は機能している。したがって、手数料を課すこと自体は問題ではないが、権利への侵害は立法目的達成のために必要かつ合理的な程度であると言えないので、手数料命令は不法である。

 EU法上の裁判を受ける権利についても、この権利はEU法の実行性の原則からして長い間認められてきた権利であり、欧州人権条約EU基本権憲章によっても確認されている。その制約は、目的と手段の間に合理的に比例した関係があるときにのみ認められる。

 本件においては、既にコモン・ロー上の権利の検討で確認したように、手数料命令の目的は本件命令によって達成されておらず、比例した関係があるとは言えない。また、手数料が司法アクセスを妨害するかどうかは、手数料の支払い能力だけでなく支払いのタイミングなど現実に与える衝撃の観点から検討されなければならず、本件は現実に与える衝撃が大きい。したがって、EU法上の裁判を受ける権利をも侵害していると判示した。

特徴[編集]