DSダイアグラム(DS-diagram)[注 1]は、数学における3次元多様体の表現方法の一つ。3次元多様体
を多面体の表面(3次元球体
の境界
)を貼合せたものとして表現するとき、その貼合せ写像の特異点(分岐点)を球面上の3-正則グラフとして表現したものである[2]。
曲面(2次元多様体)の多角形表示の一つの3次元化(アナロジー)となっている。
DSダイアグラムは、Eサイクルに注目することによって記号列で表現することが可能である。
Simple polyhedron[編集]
2次元の有限多面体
は、その任意の点に以下の
の開部分集合に同相な近傍が有るならば、simple polyhedron(又はclosed fake surface[3])と呼ばれる[4][5][6]。
及び
に対応する
の点(特異点)の集合を
により表す。その中で、特に
に対応する
の点(頂点)の集合を
により表す。
屡々更に強くP − S(P ) の各連結成分が開円板に同相であることを仮定する場合がある[注 2]
DSダイアグラム[編集]
を
に埋め込まれた3-正則グラフとする。
あるsimple polyhedron
が存在して、以下の意味で局所的な同相写像
が存在するとき(
は
の頂点の集合を表す)、
をDSダイアグラムという[4]。
![{\displaystyle f^{-1}(S(P))=G}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/98221f80f3f58da54d974e3db1e0c2d30e387a13)
![{\displaystyle f^{-1}(V(P))=V(G)}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/43fbe6f97f15459da04d00b564d3e3930c932131)
![{\displaystyle |f^{-1}(x)|={\begin{cases}4&x\in V(P)\\3&x\in S(P)-V(P)\\2&x\in P-S(P)\\\end{cases}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/26a01b58f4695a3c1db40792d7beb40358827244)
Eサイクル[編集]
DSダイアグラム
に対し、
を
のサイクル、
を
の2つの連結成分とする。
は以下を満たすときEサイクル(E-cycle)と呼ばれる[注 3][7][4]。
![{\displaystyle |e\cap f^{-1}(x)|={\begin{cases}2&x\in V(P)\\1&x\in S(P)-V(P)\\\end{cases}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/56da6f5ca1abe7e938575f95ea1e2a9c4e67d3ea)
はそれぞれ全単射
Eサイクル
が存在し具体的に指定されたDSダイアグラムを、Eサイクル付DSダイアグラム(DS-diagram with E-cycle)と呼び、
等と表す。
Eサイクル上の頂点に、それが張り合わされる頂点が
のどちらに存在するかに応じて+/-の符号を付すことで、Eサイクル付DSダイアグラムを復元可能な記号列で表すことができる[注 4]。この記号列を
のarrangementと呼び、
等と表す。
以下の図では、
3次元多様体との関係[編集]
DS-ダイアグラム
に対し、
を自然に
に拡張することで、一つの閉3次元多様体
が対応する。
- Gが空グラフのときは、DS-ダイアグラムは
を表すと考えることができる[4]。
- Gとして特に頂点が無く辺しか存在しないもの(hoop)も認める。Fig. 1は
を表す[4]。
- Fig. 2は
を表す。このように一般に
は連結でないことがある。
関連概念[編集]
3次元多様体のブロック数[編集]
Eサイクル付DSダイアグラム
のarrangementにおいて、連続する+符号の頂点の部分列を正ブロック(positive block)と呼ぶ。
の異なる全ての正ブロックの個数を
のブロック数と呼び、
により表す[4]。
同じ多様体を表す全てのEサイクル付DSダイアグラム
のブロック数
の内、最小のものをその多様体のブロック数
と定義する[4]。即ち
ブロック数は明らかに多様体の位相不変量であり、更に
を除いてHeegaard種数に一致することが知られている[8]。
- ^ ’DS’は’Dehn-Seifert’又は’developed shape’の略とされる[1]。
- ^ この条件を満たすPはspecial polyhedronと呼ばれる[5]。
- ^ ’E’はequatorに因む。
- ^ Whitneyの定理により3-正則グラフの球面への埋め込みは、球面のisotopyを除いて一意である。
- ^ 山下正勝 (1987). “DS-diagram と Heegaard diagram(低次元トポロジーの諸問 題と最近の成果)”. 数理解析研究所講究録 636: 91-107.
- ^ Ikeda, H and Inoue, Y (1985). “Invitation to DS-diagrams”. Kobe J. Math. 2: 169–186
.
- ^ H. Ikeda. Acyclic fake surfaces, Topology 10 (1971) 9–36. https://doi.org/10.18910/3551.
- ^ a b c d e f g M. Endoh and I. Ishii (2005). “A new complexity for 3-manifolds”. Japan. J. Math. 31, No. 1. https://www.jstage.jst.go.jp/article/math1924/31/1/31_1_131/_pdf.
- ^ a b Matveev S. (2003). Algorithmic topology and classification of 3-manifolds, Algorithms and Computation in Mathematics, 9.. Springer-Verlag, Berlin
- ^ Benedetti, R. and Petronio, C. (2006). Branched Standard Spines of 3-manifolds. Lecture Notes in Mathematics. Springer Berlin Heidelberg. ISBN 9783540683452. LCCN 97-7250
- ^ Ikeda, H (1986). “DS-diagrams with E-cycle”. Kobe J. Math. 3: 103–112.
- ^ Y. Koda (2007). “Branched spines and Heegaard genus of 3-manifolds”. manuscripta mathematica.
外部リンク[編集]