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利用者:Tomos/名誉毀損関連ガイドライン草稿 調査義務関連

以下は、未整理のメモです。今のところ実用に耐えるものにはなっていません。

名誉棄損に詳しい方、調査に基づいて編集して下さる方は歓迎です。

一定の質が達成できれば、正式ガイドライン化へ向けてコミュニティの合意などをとりつけて下さる方も歓迎です。

正式なガイドラインとしては採用されず、このページに留まって、ひとつの見方として議論で参照されることがある、ということでもよいように初版の執筆・投稿者は考えています。


Tomos 2007年7月31日 (火) 11:36 (UTC)




事実関係の調査

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真実性・真実相当性の証明の要件

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Q. 真実でなければ、名誉毀損になってしまうのでしょうか?

真実でないことを書いた場合であっても、書いた内容が「真実であると信じる相当の理由」があることを書いた人が証明できれば、名誉毀損の違法性がないとされます。

これは基本的にはどれだけ調査をしたか、また、調査をしたことをどれだけ裁判の場で証明できるかの問題のようです。


Q. 真実であることの「証明」 をするというのは、つまり、書き手が証明しなければいけないのですか?

そうです。

あるソースに書いてある内容を信頼して、その内容をウィキペディア上で紹介する場合には、その際に、単にそのソースを明記するだけではなく、どうしてその内容を信頼するに至ったのかについても、どこかに記録として残しておくと後々役に立つことがあるかも知れません。

逆に、証明できないケースとしては、新聞記者などが取材源を明らかにしたくない場合があります。このような場合には、本当に取材があったのかどうかなどについても、ある程度判断が保留されてしまい、「証明」として弱くなってしまいます。

平成17年07月07日 東京高裁 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=7&hanreiKbn=03 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20FD2A7BA22CEC4B49257050000DD0AF.pdf

「被控訴人B及び同Cの供述等は,上記のとおり,その内容が詳細であることに加えて,具体的かつ迫真性に満ちたものであって,相当程度の情報源からの取材に基づくものであることを窺わせるものであるといえるものの,それが真実であることについては,その具体的な情報の入手先は一切明らかにされておらず,したがって,控訴人からの反証の機会も与えられていない状況にあり,結局,これを裏付けるに足りる証拠は提出されていない。

 したがって,名誉毀損の核心部分となる諸事実については,真実であるとの証明があるとはいえない。」

平成8年7月30日東京地裁判決でも、同じような主旨の見解が述べられています。 「放送による名誉毀損に基づく損害賠償訴訟において,右取材源秘匿の必要性を根拠に,不法行為の違法性阻却事由の一つとされている放送内容に関わる事実を真実と誤信したことについての立証の程度を緩和することはできないと解するべきである。」

信頼できる情報源の種類

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Q. 報道機関の報道内容を信じて書いた文章は、「真実であると信じる相当の理由」があるので仮に間違いが含まれていても名誉毀損にはならないのでは?

そうとも限りません。独自の裏づけ取材などをせずに報じることは不適当だとする意見を述べた判決が幾つかあります。

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=25250&hanreiKbn=01 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/FBD8E85657C78BFC49256BF200267997.pdf (新聞社が通信社の配信内容を信じたことが問題とされた件) 平成14年1月29日 最高裁判決


平成9年7月22日 仙台地裁石巻支部 平成7年(ワ)第111号


Q. 警察発表や、警察官から提供された情報なら信頼してもいいのでは?

そうとも限りません。

公式発表の前の段階で得た情報に基づいて行った報道については、その情報を真実と信じる相当の理由はないと却下されたことがありました。 (昭和47年11月16日 最高裁判決)


Q. 裁判所の判決なら、信頼してもよいのでは?

刑事裁判の判決については、そのように判断された判決があります。

ただし、どのような場合であっても刑事裁判の判決に書いてあることなら絶対安心、というわけではない点にも注意が必要なようです。

(最高裁平成11年10月26日判決) 「刑事第1審の判決において罪となるべき事実として示された犯罪事実,量刑に関する事実その他判決理由中において認定された事実について,…右判決の認定に疑いを入れるべき特段の事情がない限り,後に控訴審においてこれと異なる認定判断がされたとしても,…真実と信ずるについて相当の理由がある」「刑事裁判における慎重な手続きに基づき,裁判官が証拠によって心証を得た事実であるから,…確実な資料,根拠があるものと受け止め,…真実と信じたとしても無理からぬものがあるといえるからである。」

Q. 社会で広く信じられていることを信じて書いた文章は、名誉毀損にはならないのでは?

社会で広く信じられていることの中には、真実に反することも含まれています。そこで、十分な調査をせずに真実に反することを書いて他人の名誉を毀損すれば、それについて法的な責任をとらされることはありえます。

平成9年9月9日最高裁判決[1][2]

「特定の者が犯罪を犯したとの嫌疑が新聞等により繰り返し報道されていたため社会的に広く知れ渡っていたとしても、このことから、直ちに、右嫌疑に係る犯罪の事実が実際に存在したと公表した者において、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があったということはできない」

平成10年1月30日最高裁判決[3]

「ある者についての犯罪の嫌疑が新聞等により繰り返し報道されて社会的に広く知れ渡っていたとしても,それによって,その者が真実その犯罪を犯したことが証明されたことにならないのはもとより,右を真実と信ずることについて相当の理由があったとすることもできない。」


http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=3128&hanreiKbn=03 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/A92646C075E670C149256F4D001DDAA9.pdf 平成16年09月16日 名古屋高裁 (歯科医院事件) 既に公知の事実を改めて摘示する場合でもなりたつ。 「したがって,本件記事が掲載された当時,被控訴人の社会的評価が既に著しく低下していたとはいえず,本件記事の掲載によって新たに被控訴人の社会的評価は低下したというべきである」



Q. 専門家の発言であれば、それを信用して文章を書いても許されるのでは?

そうとも限りません。

東京地裁 平成8年1月31日判決では、専門家の書いた記事について紹介した文章について、十分な裏付け調査をしていないという理由などによって「真実だと信じる相当の理由」があったとは認められませんでした。

東京地裁 平成8年3月25日判決では、専門家の見解も紹介しつつ、ある脅迫状が特定の人物が送ったものであるという疑惑を提起したところ、十分な裏付け調査をしていないという理由などによって「真実だと信じる相当の理由」があったとは認められませんでした。

但し、専門家の見解に依存することが常に不十分であり、独自の調査をしなければ必ず問題になるとまでは言えないようです。

(参考:前田陽一 「専門家の意見と相当性の存否 -ロス疑惑デパート脅迫事件訴訟」 『メディア判例百選』 別冊ジュリスト No. 179 2005/12 有斐閣 p.68-69)


Q. 一面的な取材では「信じるに足る相当の理由」にならないのでしょうか?

その可能性があります。

平成10年11月16日 東京高裁判決では「紛争の一方の当事者だった者のみからの取材では事実が正確に述べられない危険性があることは容易に看取できるところである」 とし、裏付け取材を不十分なものとしています。

(参考:樫見由美子 「一方当事者のみを情報源とした内紛報道」 『メディア判例百選』 別冊ジュリスト No. 179 2005/12 有斐閣 p.66-67 )

調査義務の程度

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Q. 名誉毀損の判例は新聞や雑誌などいわゆるマスコミを被告にしたものが多いようですが、ウィキペディアに書き込む人にも同じようにしっかり調査する責任が課されるのでしょうか?

事実関係の調査をする義務については、以下のような要素が考慮されているようです。

  • 速報性を重視する事情があるかどうか (なければより慎重な調査が求められる)
  • 内容に誤りがあったら大きな被害が出るかどうか (出る場合は事前に慎重に調査することが求められる)
  • 社会的に影響力の大きな媒体であるかどうか (大きな媒体に掲載する文章は、より慎重に調査することが求められる。)
  • 普通に考えて驚くような内容であるかどうか(そうであれば、確認のためにより慎重な調査が求められる)

報道機関と同じだけの調査義務を課してしまうと、ブログやインターネットの掲示板、ウィキなどを通じた言論活動は萎縮してしまうかも知れませんから、裁判所はその点に配慮した判断を示す可能性がないとも言い切れないでしょう。

ですが、ウィキペディアは通常、速報を必要としませんから、慎重な調査を必要とします。

ウィキペディアの社会的な影響力の大きさについては、どう判断されることになるのか不明です。

平成18年06月07日 東京地裁 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060704095124.pdf http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=04&hanreiNo=33232&hanreiKbn=03 市会議員が自分のウェブサイトで述べた内容が名誉毀損となったケース。会計をめぐる問題を扱ったものだ。会計の専門家ではないこと、あるいは報道を職業としているわけではないこと、などは特に争点になっていません。

昭和32年10月16日 東京高裁判決 「本件交通事故のような立場に置かれた場合被害佐賀憤激のあまり加害者側に対し,度を越えた暴行の所為に出ることはあっても,その『れき殺を図る』というようなことはむしろ異常のことに属するから,いやしくもかかる事象を捉えて殺意ある行為と断じ,一個の社会問題として世人の反省と批判に訴えようとするにあるとすれば,更に調査を尽して真実の把握に慎重を期すべきものであり,記事の性質上その余裕を許さぬ緊急を要するものであるとは考えられない。」「当然その真実性について一応の疑念をさしはさむべき事案と解すべきであるし」といった形で、調査義務がそのほかの件に比べて高い場合を述べています。

(参考:山川洋一郎 「デスクの過失責任 -「わが子ひとの子」事件」 『メディア判例百選』 別冊ジュリスト No. 179 2005/12 有斐閣 p.162-163)

平成13年11月14日 東京高裁 http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=126&hanreiKbn=03 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D9D7DB167DF70C8B49256B5A0025C38B.pdf 「本件記事が犯罪報道に係るものであって、被控訴人の名誉を侵害しその社会的な評価を著しく低下させるものであることを考えると、前記取材内容だけで控訴人が本件記載部分を真実であると信じたことに相当な理由があるということはできない。」