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利用者:Toshinari bot/sandbox

せめてこの不遇が一時的なものであれば(『河』)まだ慰みようもあるが将来の見通しは暗い(『鷹狩』)。しかも年齢は而立に近く(『鶴』)、官は保延三年以来遠江守に留まっているに過ぎない(『旅』)。藤原道長の六男・御子左大納言長家の子孫という名家も自分の代において衰微してしまうのだろうかと恐れ(『春雨』)、何故衰えたのかと自ら問う(『氷』)彼の思念はひどく暗い所に落ち込んで行く[1]

主な作品

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  •    花咲かぬ宿の梢に中々に春とな告げそ鶯の声【玉葉集1838】       花が咲くことのない家の梢に「春が来た」と告げてくれるな鶯の声よ(春なのに昇進がないと思い知るから)
  • 若菜  沢に生ふる若菜ならねどいたづらに年をつむにも袖は濡れけり【新古今集15】       沢に生える若菜を『摘む』わけでもないが、(出世もせず)無駄に年を『積む』(重ねる)ことでも涙で袖が濡れるのだなあ
  • 残雪  春知らぬ越路の雪も我ばかりうきに消えせぬ物は思はじ【玉葉集1835】       春を知らぬまま消えずに残る北陸の雪も、私程辛い思いが消えず思い悩むことはあるまい
  •    埋もれ木となりはてぬれど山桜惜しむ心は朽ちずもあるかな【風雅集1469】       身は老いて朽ちた木と成り果てたが、山桜を惜しむ心(栄達を望む心)は朽ちずに残っている

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  • 更衣  花の色は今日脱ぎ替えついつか又苔の衣にならむとすらん【玉葉集1915】       春の花色の装束は、四月一日の今日、夏の装束に衣替えしたが、いつの日かまた僧衣を纏う時が来るのだろう
  •    神山に引残さるるあふひ草 時にあはでも過ぐしつるかな 【続拾遺集538】       私は(葵祭で引き抜かれず)神山に残された葵(『あふひ』) ——『時にあふ』(引き立てられる)こともなく月日を過ごしている
  • 菖蒲  今日は又あやめのねさへかけ添へて乱れぞまさる袖の白玉 【新古今集221】       今日五月五日はまた、菖蒲の『根(ね)』の続命縷をも袖にかけ添えて、声(『音(ね)』)さえあげて嘆き、袖も涙の白玉と薬玉とでいつもより一層乱れているのです。
  • 照射  ますらをはしか待つことのあればこそしげき歎きも堪へ忍ぶらむ(らめ)【風雅集1521】       狩人は『鹿』を待つことがあるので絶え間ない苦しみも耐え忍ぶのだろう——私もそのように(『然(しか)』)苦しみに耐えて待とう
  • 五月雨 五月雨は真屋の軒端のあまそそぎ あまりなるまで濡るる袖かな 【新古今集1492】       梅雨が真屋の軒端から『雨(あま)』注ぎ[2]ではないが、『あまり』な程まで濡れる袖だよ
  • 氷室  埋れて消えぬ氷室の例にや世に長らへばならむとすらん【続後拾遺集1020】       埋もれて消えない氷室の氷のように、この世に長く留まれば、 世に埋もれて死ぬこともできずただ生き長らえるのだろう

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  •    嵐たちぬる色よりも砕けて物は我ぞ悲しき【続拾遺集240】       嵐が起こり色褪せた藤袴よりも跡形もなく砕け散った私の心は物悲しくてたまらない
  •    我が袖は荻の上葉の何なれや そめよくからに露こぼるらん【続千載集361】       私の袖は荻の上葉の何だと言うのだ 秋風がそよそよ音を立てるだけでどうして(荻の上葉から露がこぼれるように)私の袖も涙で濡れてしまうのか
  • 鹿   世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる【千載集1151】       ああ世の中には逃れる道などないのだなあ。思い悩み、出家しようと入った山の奥でも、鹿が悲しそうに鳴いている
  •    さりともと思ふ心も虫の音も弱り果てぬる秋の暮れかな 【千載集333】[3]       「いつかきっと」と思う心も、虫の音も、弱り果ててしまった秋の終わりであるよ
  • 紅葉  嵐吹く峰の紅葉(木の葉)の日に添へてもろくなりゆく我が涙かな 【新古今集1803】       嵐が吹いて散る峰の紅葉が日ごと脆くなっていくように 落ち葉のように沈淪する私の涙ももろくなっていくことだ

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  •    杣山や(の) 梢に重る雪折れに たへぬ歎きの身を砕くらむ【新古今集1582】       材木を切り出す山で(の)梢に重く圧し掛かる雪に耐えられず木が折れてしまうように、堪えられない嘆きがこの身を砕くのだろう
  • 炭竃  煙立つ小野の炭竃我なれや なげきを積みて下に燃ゆらん【新千載集1840】       煙が立っている大原の炭竃は私でしょうか? 炭竃は投げ木(薪)を積んで下から燃えていますが、私は嘆きを重ねて心の奥底で燃えているようなものですから

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  • 初恋  洩らしても袖や萎れん数ならぬ身をはづかしの森の滴は【続拾遺集818】       この想いをあなたに洩らしてもきっと袖が萎れるだろう。世間においても、あなたにとっても物の数ではないこの身が恥ずかしく羽束師の森のしずくのように涙が洩れ落ちて
  • 旅恋  世の中は憂き節しげし篠原や旅にしあれば妹夢に見ゆ 【新古今集976】       篠が生い茂る野原で旅寝していると、 恋しい人の夢を見て、逢いたくて辛くなる。 ああ、世の中は辛い節(時期)の多い篠原なのだなあ。
  • 片思  憂き身をば我だに厭ふ厭へただそをだに同じ心と思はむ【新古今集1143】       落ちぶれ果てた私のことは私も嫌いです。どうぞ嫌ってください。せめてそれだけでもあなたと同じ想いだと思いましょう

雑歌

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  •    暁とつげの枕をそばだてて聞くも悲しき鐘の音かな【新古今集1809】[4]       暁と告げるのを黄楊の枕を斜めにし頭を持ち上げ聞くのも悲しい鐘の音であるよ
  •    いかにせむ 賤(しづ)が園生(そのふ)の奥の竹 かきこもるともよの中ぞかし 【新古今集1673】       どうしよう.. 農夫の菜園の奥の竹垣(かき)の節(よ)ではないけれど、 ひきこもっても世間から逃げられないよ?(←自分に言い聞かせている)
  •    憂き身をば我が心さへふりすてて山のあなたに宿求むなり【続後撰集1188、続詞花集891】       この身を、そして我が心さえ振り捨てる家を山の向こうに追い求めてしまうことだ(出家したい)
  •    最上川瀬々にせかるる稲舟のしばしとぞだに思はましかば【続後拾遺集188】       最上川の瀬々で急流に妨げられても稲舟がやがては上って行くように、しばらくすれば私の官位も上がるのでは、とだけでもせめて思えたらなあ
  •    憂き夢は名残までこそかなしけれこの世の後もなほや嘆かん【千載集1127】       つらい夢を見た時は醒めてからもしばらく悲しいよなあ。だから、夢のようなこの世を去っても、来世でなお嘆き悲しむのだろうなあ。
  • 述懐  四方の海を硯の水に尽くすとも我が思ふことは書きもやられじ【新勅撰集1138】       東西南北の海の水を硯に注ぎ尽したとしても私のこの鬱屈とした思いは書き表すこともできない
  1. ^ 久保田淳『新古今歌人の研究』東京大学出版会、1973年、249頁
  2. ^ 催馬楽・東屋の「東屋の真屋のあまりのその雨そそぎ我立ち濡れぬ殿戸開かせ」、『源氏物語』東屋巻の「さしとむるむぐらやしげき東屋のあまりほどふる雨そそぎかな」による。(久保田淳 前掲書 254頁)
  3. ^ 平家物語延慶本では平宗盛の歌として使われている
  4. ^ 遺愛寺鐘欹枕聴、香炉峰雪撥簾看(和漢朗詠集・白居易)