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利用者:Yama-no-junin/下書き2

折り染め(おりぞめ)とは、紙の染色法の一つである。折り畳んだ和紙を染料につけて広げることで、さまざまな色合いと模様の美しさを作り出すものである。大人でも子どもでも、色のセンスや経験のあるなしにかかわらず[1]楽しむことができるため、子どもの遊びから芸術作品まで幅広く使われている。

概要[編集]

折り染めは、折り畳んだ紙を「ひたす・ぬぐう・広げる・乾かす[2]」の4つのステップで染めていく技法である。〈紙を色水に付けて染める〉〈紙を広げた時できる模様を見る〉楽しみは、小さな子どもでも味わうことができる。また、同じように行っても全く同一の模様は染めることができないことから〈偶然の美しさを味わう〉という楽しみがある。また、後述する「絞りおりぞめ」のように手順を守ることで〈意図した模様を作り出す〉楽しみもある。

染色方法[編集]

以下に述べるのは、山本俊樹著『みんなのおりぞめ』を中心にまとめたものである。

必要なもの[編集]

  • 用紙・・・通常、障子紙を適当な大きさに切ったものが使われる。模様がなく、パルプ80%~90%程度の機械すきのもので十分である。水をよく吸い、濡れても破れにくい紙なら、他の紙を使うことも可能[3]
  • 染料・・・水溶性のもの。近年は折り染め用と銘打った商品も販売されている。水で溶いてペットボトルなどに入れておく。混ぜて色を作ることもできる。
  • 染料を入れる容器・・・作る色の数だけ用意する。口が広く浅めの容器が適している。牛乳パックを切ったものや、食品トレーなどでも可[4]
  • ぞうきん・・・紙に余分についた染料液をふき取る際に使用する。他の色を重ねて染めたいとき、容器の中の染料を汚さないため。ペーパータオルなどでも可[4]
  • 新聞紙・・・作業テーブルの汚れ対策に、また、染め上がった紙を乾かすために敷く[4]
  • その他・・・染料は服についたら落ちない。汚れが気になる場合は、エプロン・ビニール手袋など用意するとよい[4]

準備[編集]

  1. 用紙を折り畳み、手のひらに入る程度の大きさにまとめる。染料は中まで染み込むので、用紙の表裏は気にしなくてよい[5]
  2. 折り終わった用紙を、広がらないように輪ゴムをかけて止める[6]

染め方[編集]

  1. 折った用紙を染料液に浸す。好きな所を好きな色で染める。一度染めたところに違う色を重ねてもよいし、白い部分を残してもよい[7]
  2. 染料液から引き上げたら、余分な水分をぞうきんに吸わせる。液が垂れ落ちないように、また、他の染料液に浸したときに容器の中で色が混ざらないように、一色染めるごとに吸い取るようにする[8]
  3. 輪ゴムを外し、紙を広げる。湿った紙が破れないよう丁寧に行う[7]
  4. 染めた紙が重ならないように、新聞紙に広げて乾かす。早く乾かしたいときはアイロンを使ってもよい[8]

歴史[編集]

折り染めの誕生[編集]

紙を染めることは、日本では奈良時代から行われていた。しかしそれは一色に染める方法が一般的だった。模様のついた和紙としては〈千代紙〉が昔からあるが、これは木版で紙に印刷したものである[9]

「折り染め」の方法は、版画家の武藤六郎[注 1]が1953年(昭和28年)に知人から1枚の染紙をもらい、その美しさに魅せられて、手元にあった版画用の和紙で染めてみたのが始まりだという[2]。武藤はまず和紙を二等分に折り、順次折りたたんでアコーディオン折り(屏風だたみ)とし、折り目のついた棒状の紙を正方形、長方形、正三角形、直角三角形、麻の葉形など、手のひらに入るぐらいの大きさにした[注 2]。この折りたたんだ和紙を手に持って紙の頂点、各辺を染料に浸して染めていく[2]。紙を広げると連続模様ができるのが特徴である。たとえば亀甲模様は正三角形の1辺のみを染める。武藤はこの技法を凝らして紙衣(かみこ)や屏風などの作品を作った[2][3]。その後、折り染めは工芸品の技法の一つとして定着した[4]。

工芸から子どもの遊びへ[編集]

工芸作品を作る方法として行われていた折り染めを子どもが楽しめる遊びにしたのは、横浜市北区日吉本町で書店を経営していた徳村彰[注 3]と妻の徳村杜紀子である。徳村夫妻は書店経営の傍ら、1971年から「ひまわり文庫」という子どもの遊び場を主宰していた[7][8]。

徳村彰と徳村杜紀子はあるとき加藤睦朗[注 4]の『千代紙 型染紙』(保育社カラー文庫)で紹介されていた折り染め作品[4]とその作り方[10]の解説をたまたま見たという[11][12]。夫妻はひまわり文庫で使う100~200枚の千代紙が高価になることに悩んでいたので、それらに代わる安価な工作材料を探していた。そこで、折り染めが市販の千代紙の代わりになるのではないかと思いついた。最初は障子紙と水彩絵の具で試みたが、ぼやけてうまくいかなかった[11]。

たまたま、ひまわり文庫に来ていた子どもの父親に合成皮革の製品を作っている職人がいた。その職人から皮を染める染料[注 5]を紹介してもらい、この染料と安価な障子紙で折り染めがうまくできることを発見した[12]。カラー文庫では「染めたら一晩乾かす」とあったため、徳村はこれでは子どもの遊びには使えないと感じた。しかし、革職人が提供してくれた染料がアルコールに溶かすものであったため、この染料なら短時間で乾き、子どもの遊びに適していることを発見した[11]。ひまわり文庫の子どもたちはこの折り染めを大歓迎し、折り染めは工芸品の技法から子どもが夢中になる遊びとなった[12]。

学校教育への普及[編集]

1975年に雑誌『ひと』[注 6]に掲載された徳村彰の折り染めの記事[14]を見た加川勝人[注 7]は、折り染めを小学校の授業で行い、その授業結果と折り染めの方法を1983年に雑誌『たのしい授業』[注 8]に発表した[15]。加川の授業の追試はすぐに『たのしい授業』の読者によって行われ[16]、仮説実験授業研究会の入門講座でも「ものづくり」のメニューの一つとして、こどもから大人まで楽しめる教材として定着した[17]。

学校で大人数の児童を相手に行うにあたり、ネックとなったのは「染料が高価である」ということであった。1980年代後半に、安価な染料が豊田泰弘[注 10]によって紹介され[18]、豊田から技法を学んだ斉藤敦子[注 11]によって学校の授業で行う方法が確立し、学校教育で誰でも真似できるようになった[19]。また谷岩雄[注 13]はダブルクリップをつかって、花模様を染める方法を発案した[21]。その後もたのしい授業学派の主催する一般向けの講座や教師向けの講座で、「折り染め」は定番のものづくりとなった[22]。

「折り染め」の枠を超える技法の発見[編集]

養護学校の教員として長く務めた山本俊樹は、1999年に授業プラン〈おりぞめ発表会〉に出会い授業で取り組む中で、子どもたちが折り染めを楽しむ姿に導かれ、おりぞめにのめり込んでいった[10]。〈モノを作ることそのものではなくて、ものづくりの楽しさを実感する[11]〉ことを大切にした実践を続ける中、2006年にものづくりプラン「紙を染める~〈絞りおりぞめ〉みせまショウ[12]」を発表するなど、「それまで偶然に頼っていた模様を、意図的に作れるようになった」「その技法を誰でも真似できる授業プランとして提示した」という2点で、教育の科学上の大きな発見を成し遂げたと言える。

山本が考案した技法[編集]

ステンドおりぞめ
2000年に考案。黒一色で折り染めして乾かした紙に、染料液をつけて染めていく。光を透かすと、まるでステンドグラスのように色とりどりに輝く[13]
「ステンドおりぞめ」を使った「ランタン」。ラミネートした折り染めを丸めて、LEDライトを入れてある。
切り紙おりぞめ
2003年に、切り紙作家矢口加菜子の切り紙に影響を受け考案。切り紙した用紙を開かずにそのまま染料液につけて染める。「サクラ[14]」「シトラスリボン[15]」など。
絞りおりぞめ
2005年に絞り染めの技法を応用し考案。折り畳んだ紙を輪ゴムできつく縛って染めると、その部分が白く残る。折り畳み方・ゴムを締める位置・染め方を工夫すれば様々な模様を意図的に作り出すことができる。「ハート[16]」は特に人気。
広げ水
染料液で染めた紙をそのまま浅く張った水に立てて、ゆっくり水を染み込ませることで染料の分子が紙の中に広がり、独特の模様を作り出すという技法。これまで偶然に出来ていた模様を、手順を守ればだれにでも再現できるという特徴がある。染料液につける前の紙を水に付ける「先き水(さきみず)」もある。2016年7月に山本のブログで「水分け染め」の名で紹介されて以来、「ユックリ染め」「デベロップおりぞめ」「水を使う折り染め」と名称を変えながら発展してきた。
  1. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、3頁。 
  2. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、22-23頁。 
  3. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、14-17頁。 
  4. ^ a b c d 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、8頁。 
  5. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、20頁。 
  6. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、21頁。 
  7. ^ a b 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、22頁。 
  8. ^ a b 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、23頁。 
  9. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、76頁。 
  10. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、著者紹介頁。 
  11. ^ 山本俊樹 (2012). “ものづくりプラン 紙を染める~〈絞りおりぞめ〉みせまショウ”. たのしい授業プラン 図工・美術 (仮説社): 64. 
  12. ^ 山本俊樹 (2012). “ものづくりプラン 紙を染める~絞りおりぞめみせまショウ”. たのしい授業プラン 図工・美術 (仮説社): 64-81. 
  13. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、38頁。 
  14. ^ 『みんなのおりぞめ』仮説社、2016年、62頁。 
  15. ^ コロナ禍で生まれた差別、偏見を耳にした愛媛県の有志がつくった「シトラスリボンプロジェクト」に賛同し生まれた。
  16. ^ 山本俊樹 (2016). “絞りおりぞめの〈選択肢〉ハートに染める”. ものづくりハンドブック : 201-206.