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利用者:Ymatz/sandbox

多変数函数の微分法[編集]

全微分[編集]

1次近似可能性の意味での微分可能性は、多変数関数については、全微分可能性というかたちで一般化される。

全微分可能性[編集]

に値をもつ n 変数関数 f(x1, …, xn) が点 全微分可能であるというのは、ある線型写像 が存在して、h → 0 のとき

が成り立つことを意味する。ここで の標準的なノルムを表しており、 はランダウの記号である。

f(x1, …, xn) が点 a で全微分可能なとき、上記の条件における線型写像 は一意的であることがわかるので、これを f′(a) と書く。また、線型写像 f′(a) を表す行列をヤコビ行列といい、Jf(a) などと表す。aJf(a) を対応づける行列値関数のことを Jf(x)Jf などと書く。

偏微分との関係[編集]

に値をもつ関数 f(x1, …, xn) について、f が点 a において全微分可能ならば、f はこの点 a で任意の変数に関して偏微分可能である。f を成分表示して (f1, …, fm) と書くと、ヤコビ行列は

によって与えられる。

逆に f が点 a において任意の変数に関して偏微分可能であるとしても、点 a において全微分可能とは限らない。ただし、点 a の近傍の各点で任意の変数に関して偏微分可能で、かつ偏導関数が点 a において連続ならば、点 a における全微分可能性が従うことが知られている。

多項式近似への応用[編集]

多変数のテイラーの定理は次のように述べられる。

全微分を繰り返しとることは、高階のフレシェ微分(を Rp に特殊化したもの)として定式化することができる。つまり、k-階の全微分は

なる写像として解釈することができる。この写像は点 xRn に対して、Rn から Rm への k-重線型写像の空間の元で、その点において f を(ある特定の明確な意味において)「最適」に k-重線型近似するものを割り当てる。対角線埋め込み Δ: x → (x, x, …, x) との合成を考えれば、多変数のテイラー級数も最初の方の項が
となるようなものとして与えられる。ただし、f(a) は定値函数と同一視され、各 (xa)i はベクトル xa の第 i-成分で、(Df)i, (D2f)jk, … は線型変換としての Df, D2f, … の各成分を表す。

ジェット[編集]

高階の全導函数となるべきものはジェット英語版と呼ばれるもので、これは線型写像ではない(高階導函数は凹性(凸性)などの微妙な幾何学的性質を反映するので、これはベクトルのような線型の情報では記述できない)し、接束上の写像でもない(接束は底空間と方向微分に対してしか意味を成さない)。ジェットは高階の情報を反映することから、各方向への高階の変化を表す追加の座標を引数としてとる。このような余分の座標によって決定される空間はジェット束英語版と呼ばれる。函数の全微分と偏微分との関係に並列に対応するものは、函数の k-階のジェットと k 階以下の偏微分との関係として理解することができる。

動機:座標の不適切さ[編集]

接続 (幾何学)からコピー)

球面上の(黒い矢印の)平行移動。青と赤の矢印は、それぞれ異なる方向への平行移動を表しているが、右下の同じところで終わっている。2つの矢印が同じ方向を向いて終わっていないことが、球面上の曲率の持っている意味である。

次の問題を考えてみよう。球面 S2 の一点 P において接ベクトルが与えられたときに、この接ベクトルを球面のほかの点へと整合性を持って移動するにはどうしたらよいか。

これは、たとえば次のような文脈で問題となる。球面上を運動する点があったとして、その速度ベクトル、加速度ベクトルを定義することを考えよう。点の運動を c(t) で表すとき、時刻 t0 における速度ベクトル c′(t0) は、実は点 c(t0) における接ベクトルとして特に問題なく定義される。しかし、さらにもう一回微分を行うためには、時刻 t0t0 + Δt における速度ベクトルの差をつくる必要がある。ここで c′(t0) は点 c(t0) における接ベクトルであるのに対して、c′(t0 + Δt) は点 c′(t0 + Δt) における接ベクトルだから、そのままでは両者を比較できない。

球面ではなく平面 の場合にどうしたか振り返ると、 では座標系を用いて接ベクトルを成分表示することができて、その成分表示を用いて速度ベクトルの差を定めることができた。

球面でも同じことを試みることができるだろう。しかし、球面はひとつの座標系(より正確には座標近傍)で覆うことはできない。日常のことばを用いるならば「地球全体を一枚の地図上に描く(ただし、すべての点が一対一対応するように)図法はない」ということで、これは経験からもわかるだろう。球面を扱うためには複数の座標系が必要である。そして、球面の少なくとも一部は、必ず二つ以上の座標系で覆われることになる。速度ベクトルの差を成分表示に基づき定めるとすれば、どの座標系を用いるかという問題が生じる。「球面の接ベクトルの差を成分表示に基づき定めるにあたり、どの座標系を用いても結果が異なることがないよう、球面全体をいくつかの座標系によって覆いつくす」方法を考えることになる。しかしながら、そのような方法は、実は存在しない。

c′(t0 + Δt) を点 c(t0) へと(または逆に、c′(t0) を点 c(t0 + Δt) へと)何らかの方法で移動しなければならないのである。

しかしながら、特別な注意を払わない限り、ある座標系で定義された平行移動は他の座標系で定義されたものとは一致しない。より適切な平行移動系は、球面の回転対称性を利用する。北極点であるベクトルが与えられると、回転軸方向を持たない曲線に沿って北極が移動するような方法で球面を回転させることで、このベクトルを曲線に沿って移動させることができる。これの平行移動の意味は、球面上のレヴィ・チヴィタ接続である。2つの異なる曲線の始点と終点が一致していて、ベクトル v が正確に回転より作られる第一の曲線に沿っているとすると、終点での結果として現れるベクトルは、第二の曲線に沿って正確に移動した v の結果として現れるベクトルとは異っている。この現象は、球面の曲率を反映している。平行移動を可視化することに使える単純な力学的な装置が、指南車である。

例えば、S に立体射影による座標を入れたとし、S を R3 の中の単位ベクトルからなると仮定すると、S は座標の対を持つことになる。一つは北極の近傍を覆い、もうひとつは南極を覆う。写像

は、北極の近傍 U0 と南極の近傍 U1 をそれぞれ覆う。X, Y, Z を R3 に付属する周りの座標とすると、φ0 と φ1 は、逆写像

を持つので、座標変換の函数は円に関する反転

となる。

ここで、ベクトル場を導き出された座標系に対する成分として表現しよう。P が U0 ⊂ S の点であれば、ベクトル場は、次のプッシュフォワードで表現される。

ここに、 は φ0ヤコビ行列を表し、v0 = v0(x, y) は、vにより一意的に決定される R2 上のベクトル場である。さらに、座標系の交叉である U0 ∩ U1 の上では、φ1 に関して同じベクトルを表現することができる。

成分 v0v1 を関係づけるためには、連鎖律を等式 φ1 = φ0 o φ01 に適用して

を得る。これの行列の等式の両辺を v11−1(P)) へ適用し、(1) と (2) を使うと、

を得る。

ここで、曲線に沿って平行にベクトル場をどのように平行に移動するのかという主要な問題へ至る。P(t) を S の中の曲線と仮定する。ナイーブには、曲線に沿ってベクトル場の座標成分が定数であれば、ベクトル場は平行であると考えることが可能である。しかしながら、直ちに曖昧さがでてくる。どの座標系に対して、これらの成分を定数とすべきなのか?

例えば、v(P(t)) が座標系 U1 で定数である、すなわち、函数 v11−1(P(t))) は定数であるあったと仮定する。しかし、積の微分法則を (3) へ適用し、dv1/dt = 0 を使うと次式を得る。

しかし、 はいつも非特異行列であるので(曲線 P(t) は定常でなくなり)、v1v0 は曲線に沿って同時には決して定数ではありえない

問題の解決策[編集]

上に現れた問題は、通常のベクトル解析方向微分は、ベクトル場の成分へ適用すると、座標系の変換の下ではうまく振る舞わないという問題である。これは、実際にベクトル解析のような考え方が全く意味を持たないとすると、ベクトル場の平行な変換をどのように記述するかは非常に困難な問題となるということである。この問題の解決には、2つの基本的に異なった方法がある。

第一のアプローチは、方向微分を一般化して座標変換の下で「うまく振る舞わせる」には何が必要かを試すことである。このアプローチは接続に共変微分という戦術を使うことである。うまく振る舞うことは、共変性に同じである。ここで、線型作用素の成分はクリストッフェル記号と呼ばれる、ベクトル場自体の上の微分を意味しないある線型作用素による方向微分の変形を考える。座標系 φ での方向 u のベクトル v 成分の方向微分 Duv は、共変微分

により置き換えることができる。ここに Γ は座標系 φ に依存し、uv について双線型である。特に、Γ は u あるいは v のいかなるをものも含んではいない。 この方法では、Γ は異なる座標系へ φ が変更されたときにも、所定の方法で変換される必要がある。この変換は、座標変換の一階の微分だけでなく二階の微分も含んでいないので、テンソルではない。Γ の変換法則を特定するだけでは、Γ を一意的に決定するには充分ではない。他にも正規化条件を導入する必要があり、導入すべき正規化条件は、通常は考えている幾何学のタイプに依存する。リーマン幾何学の場合は、レヴィ・チヴィタ接続を導入すると、(ある対称性条件と同様に)リーマン計量と整合性を持つクリストッフェル記号が必要となる。これらの正規化を行うと、接続は一意に定義される。

第二のアプローチは、空間の対称性の痕跡を捉えようとするリー群を使うアプローチである。これが、カルタン接続のアプローチである。上記の球面上のベクトルの平行移動を特定する回転を使った例は、これに非常に良く似ている。

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注釈[編集]

出典[編集]

参考文献[編集]

  • 上野健爾他編 編『岩波数学入門辞典』岩波書店、2005年。ISBN 9784000802093 
  • 日本数学会編 編『岩波数学辞典』(第4版)岩波書店、2007年。ISBN 9784000803090 
  • Cajori, Florian (1923), “The History of Notations of the Calculus”, Annals of Mathematics. Second Series 25 (1): 1-46, https://www.jstor.org/stable/1967725 
  • Cauchy, Augustin Louis (1840). Exercices d'analyse et de physique mathematique. 1. Bachelier 
  • de Morgan, Augustus (1836). The differential and integral calculus. Baldwin and Cradock