回転デトネーションエンジン
回転デトネーションエンジン(かいてんデトネーションエンジン、RDE、rotating detonation engine) は、一つまたは複数の爆轟反応が、環状流路内を連続的に周回する圧力上昇燃焼の一形態を利用したエンジンである。数値シミュレーションと実験結果は、RDE が輸送やその他の応用目的に利用できる可能性を秘めていることを示している[1] [2]。
デトネーション、爆轟では火炎前線は超音速で拡大するため、理論的には従来の爆燃によるものより25% も効率的である[3]。このような効率の向上は、燃料の大幅な節約につながる[4] [5]。デトネーションを利用したエンジンには他にパルス・デトネーション・エンジン(PDE)がある。
RDE の基本的な概念は、円形のチャネル (環状流路) 内を移動するデトネーション波である。燃料と酸化剤は通常は小さな穴またはスリットからチャネルに注入される。デトネーションは、何らかの形で着火され燃料/酸化剤混合物で開始される。エンジンが始動した後、デトネーションは自立して継続する。 1回の爆発で燃料と酸化剤の混合物が点火され、爆発を維持するために必要なエネルギーが放出される。燃焼生成物はチャネルから膨張し、入ってくる燃料と酸化剤によってチャネルから押し出される [2]。
開発
[編集]RDE の開発には多くの団体が取り組んでいる。
NASA
[編集]グレン研究センターのダニエル・パクソン[6]は、数値流体力学(CFD)のシミュレーションを利用し、RDE のデトネーション基準フレームを評価して、その機能をPDE と比較した[7]。その結果、彼はRDE が少なくとも PDE と同じレベルで機能することを発見した。さらに、RDE の機能は PDE と本質的に同じであるため、直接の比較ができることも確認した。
2023年1月25日、NASA は初のフルスケール回転デトネーションロケットエンジン(RDRE)のテストに成功したと報告した。このエンジンは4,000 lbf (18 kN)の推力を発生させた。NASA は次の研究ステップとして、10,000-重量ポンド (44 kN)の推力ユニットを作成する意向を表明した[8]。2023年12月20日、実物大のRDRE 燃焼装置が251秒のあいだ運転され、5,800-重量ポンド (26 kN)を超える推力を達成した。米国アラバマ州ハンツビルにある NASA のマーシャル宇宙飛行センターで撮影されたテストスタンドのビデオで点火が実証されている[9]。
エアロジェット・ロケットダイン
[編集]2010年以来、2017年までに、エアロジェット・ロケットダイン社は、複数の組合せからなるRDE ロケットのテストを520回以上実施してきた[10]。
アメリカ海軍
[編集]アメリカ海軍 も開発を後押ししてきた[11]。海軍研究所 (NRL) の研究者はRDE などのデトネーションエンジンが船舶の燃料消費量を削減する可能性に特に興味を持っている[12][11]。RDE を現場で使用するには、まだいくつかのハードルがあり、2012年時点で、NRL の研究者は RDE の仕組みをより深く理解することに重点を置いていた[13]。
パーデュー大学
[編集]2016年5月、アメリカ空軍 に所属する研究者チームが、液体酸素 と 天然ガス を推進剤として使用する回転デトネーション ロケット エンジンを開発した[14]。パーデュー大学 では追加のRDE テストが実施された。これには「光学的非侵入実験測定用デトネーションリグ (DRONE)」と呼ばれるテスト事項、つまり「ラップされていない」半境界線形デトネーションチャネル実験が含まれる[15]。IN Space LLCは米空軍との契約に基づき、パデュー大学で2021年に液体酸素と気体メタンを使用し、22,000 N (4,900 lbf)の推力を発するRDRE をテストした[16]。
セントラルフロリダ大学
[編集]2020年5月、米空軍に所属する工学研究者のチームは、水素/酸素燃料混合物で動作して200 lbf (890 N)の推力を生み出すことができる、高度に実験的なRDE の実働モデルを開発したと主張した[17]。
2021年にこのグループはランプ角度が30度の斜めデトネーション波エンジンの実証試験に成功した[18][19]。
DARPA
[編集]DARPAはRTXと協力し、超音速空中発射スタンドオフミサイルへのRDE の応用を研究している[20][21]。DARPAは2024年3月にRDRE エンジンのテストに成功したVenus Aerospace とも協業している[22]。
ゼネラル・エレクトリック
[編集]2023 年に GE は、マッハ 2.5 クラスのターボファンと回転デトネーションデュアルモードラムジェット (RD-DMRJ) を組み合わせた小規模な実験室用タービンベース複合サイクル (TBCC) システムの実証試験に成功した。この試験はプログラム開始から18か月で実施された。同社は、マッハ5を超える速度の飛行をする場合に必要な、超音速気流の存在下での圧縮された燃料と空気の混合物の回転デトネーションの達成を報告した[23]。
JAXA
[編集]宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2021年7月27日観測ロケットS-520-31号機に搭載した500N級のRDEにより、世界で初めての宇宙実験に成功した[24]。推進剤はメタンと酸素が用いられた。エンジンシステムの名称は深宇宙探査用デトネーションエンジンシステムであった[25]。
その後、JAXAは燃料にエタノール、酸化剤に液化亜酸化窒素を用いるエンジンシステムを開発[26]。2024年11月14日、S-520-34号機に搭載し、内之浦宇宙空間観測所より打ち上げて液体推進剤回転デトネーションエンジンシステム飛行実証実験に成功した[27]。推力は約500Nであった。また、S-520-34号機は搭載されたインフレータブル型データ回収システム「RATS2」により、エンジン作動中のデータを持って地球に再突入、海上に落下してデータとして回収できる予定[28]。
PDエアロスペース
[編集]PDエアロスペースは2022年4月5日に世界初のジェット/ロケット切り替え式RDE の実証実験を行った[29]。
エネルゴマッシュ
[編集]ロシアのドミトリー・ロゴージン副首相によると、2018年1月中旬にNPOエネゴマシュ社は2トンクラスの液体燃料 RDE の初期テストフェーズを完了し、宇宙打ち上げ機で使用するためのより大きなモデルを開発する予定[30]。
ワルシャワ航空研究所
[編集]2021年9月15日、ワルシャワ航空研究所は、液体ロケット推進剤を動力源とするRDRE を搭載した実験的なロケットの飛行試験に初成功した。このテストは2021年9月15日、ポーランドのワルシャワ近郊にあるジエロンカの軍備技術研究所の試験場で行われた。ロケットエンジンは計画通り3.2秒間作動し、ロケットを約90m/sの速度まで加速させ、高度450mまで到達させた[31]。
中国科学院
[編集]2021年、中国科学院の機械研究所は、灯油を燃料とする世界初の極超音速デトネーション波エンジンの試験に成功した。このエンジンはマッハ9で飛行機を推進することができると主張されている[32]。
北京動力機械研究所
[編集]2023年、研究者達はハイブリッド空気吸入エンジンのデモユニットを発表した。これはマッハ7未満での推進用の連続 RDE と、マッハ16までの速度で使用するための スクラムジェットエンジン を組み合わせたもの。斜め衝撃波は静的であり、安定している。北京動力機械研究所は中国を代表するラムジェットエンジン製造会社である[33]。
重慶大学工業技術研究所/TWR
[編集]2023年初頭、中国は世界初のRDE ドローンの飛行に成功した。飛行は 甘粛省 の非公開の飛行場で行われた。 FB-1 RDE は重慶大学工業技術研究所と民間企業である Thrust-to-Weight Ratio Engine (TWR) によって共同で開発された[33]。
その他の研究機関
[編集]別の実験では、RDE の流動場をより深く理解するため、数値解析の手法が使用されている[34]。2020 年のワシントン大学における研究では、環状部の幅などのパラメータを制御できる実験装置が検討された。
出典
[編集]- ^ Lu, Frank; Braun, Eric (7 July 2014). “Rotating Detonation Wave Propulsion: Experimental Challenges, Modeling, and Engine Concepts”. Journal of Propulsion and Power (The American Institute of Aeronautics and Astronautics) 30 (5): 1125–1142. doi:10.2514/1.B34802 .
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