国際ドッキングアダプタ
国際ドッキングアダプタ (International Docking Adapter、IDA) は宇宙機ドッキング機構のひとつで、ロシア製のAPAS-95からNASAドッキングシステム (NDS) / 国際標準ドッキングシステム (IDSS) に変換するものである。IDAは国際宇宙ステーション (ISS) のハーモニーに取り付けられた2基の与圧結合アダプタ (PMAs) に据え付けられる予定である。
前史
[編集]IDA以前にも、同様の機能を持つドッキングアダプタが検討されていたが、開発中止の憂き目に遭ってきた。
ATLAS
[編集]ATLAS (APAS to LIDS Adapter System) は2008年に発表された[1]。これは、PMAに取り付けてAPAS-95を低衝撃ドッキングシステム (LIDS) に変換するものであった[1]。ATLASは、オリオン宇宙船によるISSへの有人ミッションの最初の2回で打ち上げられる予定であったが[1]、後にオリオン宇宙船のISSミッションは中止となり、乗員輸送は商業乗員輸送プログラムに委ねられることになった[2]。
共通ドッキングアダプタ
[編集]共通ドッキングアダプタ(Common Docking Adapter、CDA) は2009年に発表された[3]。これは共通結合機構をNASAドッキングシステムに変換するもので、日本のHTVで輸送し、ハーモニーの前方と天頂側に取り付けられる予定であった[4]。
設計
[編集]IDAはAPAS-95をNASAドッキングシステム (国際標準ドッキングシステムに適合) に変換するもので、クルーや貨物だけでなく電力およびデータもやり取りすることができる[5]。IDAの重量は526キログラム (1,160ポンド) で、高さ110センチメートル (42インチ)、幅160センチメートル (63インチ) である[5][6]。ドッキングターゲットやレーザー反射器および関連システムを外周に取り付ける場合、外径は約240センチメートル (94インチ) になる[5]。
IDAの主契約者はボーイングで、同社のヒューストンプロダクトサポートセンターで組み立てられる[7][8]。ロシアのRKKエネルギアから供給される一次構造部材に、全米25州に点在する協力会社から納入される部品が組み付けられる[5][8]。
IDAモジュールの設置
[編集]IDAは、 デクスターでドラゴン宇宙船の貨物室から取り出し、PMAの前方 約30センチメートル (1フィート) に移動され、慎重にPMAに設けられた取付座に取り付けられる[8]。その後、宇宙飛行士の船外活動により電気接続を行い、固定する[8]。
IDA-1はハーモニーの前方PMA (PMA-2)、IDA-2は天頂側PMA (PMA-3) に設置される予定であった[9][10]。しかし、IDA-1が打ち上げ失敗により失われたため、IDA-2はIDA-1の代わりにPMA-2に取り付けられた[11][12]。IDA-1の代わりにIDA-3が製作され、PMA-3に取り付けられる[11]。
IDA-1
[編集]2015年2月、IDA-1はボーイングのヒューストン工場からケネディ宇宙センターに輸送された[8]。IDA-1に取り付けられるドッキングシステム機材は、打ち上げ前に1ヶ月に渡って宇宙ステーション整備施設で動作試験が行われた[5]。
IDA-1は2015年6月28日のスペースX CRS-7の打ち上げ失敗により失われた[9][10][13]。
IDA-2
[編集]IDA-2は2016年7月18日のスペースX CRS-9で打ち上げられた[14]。その後、2016年8月19日の船外活動でPMA-2に取り付けられた[12]。2019年3月3日のクルードラゴン Demo-1到着時に初ドッキングが行われた[15]。
IDA-3
[編集]IDA-3は2019年7月のスペースX CRS-18で打ち上げられた[16]。IDA-3は速やかに打ち上げるため、ほとんどが予備部品で構成されている[17]。2019年8月21日の船外活動でPMA-3への取り付けが行われ[18]、2020年12月7日のスペースX CRS-21到着時に初ドッキングが行われた[19]。
ギャラリー
[編集]-
PMA-2へのIDA接続図
-
IDA-1喪失前の設置場所
-
IDA-1喪失後の設置場所
関連項目
[編集]参考文献
[編集]- ^ a b c Coppinger, Rob (4 Jan 2008). “NASA develops new docking system for Constellation”. Flightglobal. 19 January 2015閲覧。
- ^ Klotz, Irene (18 June 2014). “Orion No Backup for Commercial Crew, Says Bolden”. SpaceNews. 28 February 2015閲覧。
- ^ “Recovery Act: United States On-orbit Segment Phase II Development of International Space Station Common Docking Adapter”. SpaceRef (7 Oct 2009). 28 February 2015閲覧。
- ^ Hatfield, Skip (17 Nov 2010). “NASA Docking System (NDS) Technical Integration Meeting”. NASA. 28 February 2015閲覧。
- ^ a b c d e Siceloff, Steven (27 June 2015). “Docking Adapter Sets Stage for Commercial Crew Craft”. NASA. 28 June 2015閲覧。
- ^ “SpaceX CRS-7 Mission Overview”. NASA (June 2015). 28 June 2015閲覧。
- ^ “SpaceX Pre-Launch Briefing from NASA's Kennedy Space Center”. NASA (27 June 2015). 28 June 2015閲覧。
- ^ a b c d e “Space Station Live: The ABCs of IDA (video)”. NASA (20 Feb 2015). 28 February 2015閲覧。
- ^ a b Hartman, Dan (23 July 2012). “International Space Station Program Status”. NASA. 10 August 2012閲覧。
- ^ a b Hartman, Daniel (July 2014). “Status of the ISS USOS”. NASA Advisory Council HEOMD Committee. 26 October 2014閲覧。
- ^ a b Scimemi, Sam (November 4, 2015). “HSF Transition from ISS to cis-lunar space and ISS Status”. NASA. 29 November 2015閲覧。
- ^ a b Harwood, William (19 August 2016). “Spacewalkers attach docking adapter to space station for commercial vehicles”. Spaceflight 20 August 2016閲覧。
- ^ Foust, Jeff (28 June 2015). “Docking Adapter, Satellites, Student Experiments Lost In Dragon Failure”. SpaceNews. 29 June 2015閲覧。
- ^ Jason Rhian (18 July 2016). “SpaceX Conducts Second Ground Landing After Launch Of CRS-9 Dragon To ISS”. Spaceflight Insider
- ^ Jeff Foust (3 March 2019). “Crew Dragon docks with ISS” (英語). SpaceNews. 6 June 2019閲覧。
- ^ Pietrobon, Steven (August 20, 2018). “United States Commercial ELV Launch Manifest”. August 21, 2018閲覧。
- ^ Stephen Clark (1 May 2016). “Boeing borrows from inventory to speed docking adapter delivery”. Spaceflight Now
- ^ “Spacewalkers Complete Installation of Second Commercial Docking Port – Space Station”. blogs.nasa.gov. 2019年8月21日閲覧。
- ^ Seth Kurkowski (7 December 2020). “Two SpaceX spacecrafts docked to International Space Station as Dragon 2 joins Crew Dragon” (英語). SpaceExplored.com. 27 January 2021閲覧。