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大字 (数字)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

数字の大字(だいじ)は、漢数字の一種。通常用いる単純な字形の漢数字(小字)の代わりに同じ音の別の漢字を用いるものである。

概要

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壱万円日本銀行券(「壱」が大字)
弐千円日本銀行券(「弐」が大字)

漢数字には「一」「二」「三」と続く小字と、「壱」「弐」「参」と続く大字がある[1]。漢数字は通常は小字を用いるが、字画が少なく改竄のおそれがあるため、重要な数字の表記では大字を用いることがある[1]。具体的には法的文書や会計書類(例えば戸籍領収書登記など)で算用数字の普及まで頻繁に用いられていた。かつて大字は、万に至るまで用いられてきた。

例えば、領収書に「金一万円」と書くと、後から「丨」や「L」、「イ」、「ニ」などを書き加えて「十万円」、「七万円」、「廿万円」(二十万円)、「千万円」、「三万円」などにする改竄が容易に可能であり、「八万円」に「亠」を書き加えて「六万円」にする改竄も可能である。

逆に「金三万円」や「七万円」や「百万円」と書かれた領収書を受け取ると、提出時に「(一や二、乚、白を書き加えて)『三万円』や『七万円』や『百万円』に水増ししていないか」と疑われる恐れもある。

画数が多く難しい漢字を用いることで改竄を防ぐようにしたのが大字の存在理由である。例えば、「一」に対応する大字の「壱」、「六」に対応する大字の「陸」、「八」に対応する大字の「捌」、「千」に対応する大字の「阡」、「万」に対応する大字の「萬」では、「一」「六」「八」「千」「万」のような改竄はできず;「三」に対応する大字の「参」、「七」に対応する大字の「漆」、「百」に対応する大字の「陌」では水増しを疑われる事はない。

日本では、8世紀初頭に編纂された大宝律令において公式文書の帳簿類に大字を使う事が定められている。「凡そ是れ簿帳…の類の数有らむ者は、大字に為れ」(公式令66条)[2]とされ、東大寺正倉院に残る天平時代の戸籍や正税帳(国家の倉庫の出納簿)はこの令に則って、一から万まで下表にある大字が使われている[3]

以下に日本と中国の大字を示す。一部は新字体簡体字になっている。

算用数字 漢数字 日本の大字 中国の大字
新字体 旧字体・俗字 繁体字 簡体字
0
1 壹、弌
2 貳、貮、弍
3 參、弎
4 四、亖[注 1]
5
6
7 漆、質[注 2]
8
9
10 拾、什
20 廿、卄[注 3] 弐拾 貳拾 貳拾廿(呉語、ほぼ使わない)
30 卅、丗[注 4] 参拾 參拾 参拾広東語閩南語、ほぼ使わない)
40 [注 5] 肆拾䦉拾(閩南語、ほぼ使わない)
100 陌、佰
1000 阡、仟
10000

日本の法令で定められているのはのみである[4][5][6][7][8]。現在の日本銀行券には「千円」「弐千円」「五千円」「壱万円」と書かれている。他にかつて発行された日本銀行券で大字が使われているものには「五拾円」「貳百圓」「貳拾圓」「拾圓」「壹圓」「拾錢」があり、また日本銀行券以外の日本の紙幣(政府紙幣など)も含めれば「貳圓」「五拾錢/五拾銭」「貳拾錢」もある。伍は麻雀牌の表記以外の商取引などで使われる場合は少ない。

大字を用いる時は一般に数詞を用いた書き方が行われる。また通常は言わない「壱」を明記することがある。例えば 110 は「百拾」か「陌拾」「壱百壱拾」か「壱陌壱拾」と書き、「壱壱零」といったアラビア数字のような位取り記数法を用いるのは一般的でない[注 6]

簡体字の「」(、sān、ㄙㄢ)は本来「参」(參、cān、ㄘㄢ)の異体字だが、現在は「三」の大字専用として使われているようである[注 7]

擬古調的表現

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大字を、旧字体と同じように「古さ」あるいはそれらしい擬古調的表現の一環として用いることがある。

例えば、アニメ作品『新世紀エヴァンゲリオン』は、タイトル数を「第弐話」「第弐拾四話」などと大字を活用して表現し、エヴァの機体も「弐号機」「参号機」などと命名している。他にも、『ファイブスター物語』のマシンメサイア、「焔星(イェンシー)」の機体にも付けられていた。他にも、『夏目友人帳 (アニメ)』のシリーズタイトルにも表現として3期タイトルから使われている

脚注

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注釈

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  1. ^ ただし「亖」の字は古字であり、現在では一般的ではなく、殆ど使用されていない。
  2. ^ 草野心平の詩 「富士山作品第質」に使用例がある。
  3. ^ 現在では一般的には「二十」と書かれる。
  4. ^ 現在では一般的には「三十」と書かれる。
  5. ^ 現在では一般的には「四十」と書かれる。
  6. ^ 明治期の紙幣の漢数字による番号表記では、「第壹貳號 壹貳叄四五六」のような形式で印刷された例はある。
  7. ^ 新華字典の「」の項目。

出典

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  1. ^ a b 小島浩之. “漢籍整理備忘録 −中国の古典籍・古文書の理解のために−”. 大学図書館研究. 2021年12月9日閲覧。
  2. ^ 「正倉院文書の世界」丸山裕美子著、中公新書2054、2010年発行、75頁
  3. ^ 「正倉院文書の世界」
  4. ^ 公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第37条第3項”. e-Gov (2011年6月24日). 2019年12月24日閲覧。 “2011年7月15日施行分”:数量、年月日及番号ヲ記載スルニハ壱弐参拾ノ字ヲ用ウヘシ
  5. ^ 大正十一年大蔵省令第四十三号(会計法規ニ基ク出納計算ノ数字及記載事項ノ訂正ニ関スル件)”. e-Gov (1950年5月22日). 2019年12月24日閲覧。 “1950年4月1日施行分” 第1条:会計法規ニ基ク出納計算ニ関スル諸書類帳簿ニ記載スル金額其ノ他ノ数量ニシテ「一」、「二」、「三」、「十」、「廿」、「卅」ノ数字ハ「壱」、「弐」、「参」、「拾」、「弐拾」、「参拾」ノ字体ヲ用ユヘシ但横書ヲ為ストキハ「アラビア」数字ヲ用ユルコトヲ得
  6. ^ 戸籍法施行規則(昭和二十二年司法省令第九十四号)第31条第2項”. e-Gov (2017年9月25日). 2019年12月24日閲覧。 “2017年9月25日施行分” :年月日を記載するには、壱、弐、参、拾の文字を用いなければならない。
  7. ^ 小切手振出等事務取扱規程(昭和二十六年大蔵省令第二十号)(昭和40年大蔵省令第20号) 附則第2項”. e-Gov (1965年4月1日). 2019年12月24日閲覧。 “1965年4月1日施行分”:小切手の券面金額は、当分の間、所定の金額記載欄に、漢数字により表示することができる。この場合においては、「一」、「二」、「三」及び「十」の字体は、それぞれ「壱」、「弐」、「参」及び「拾」の漢字を用い、かつ、所定の金額記載欄の上方余白に当該金額記載欄に記載の金額と同額をアラビア数字で副記しなければならない。
  8. ^ 商業登記規則(昭和三十九年法務省令第二十三号)第48条第2項”. e-Gov (2019年9月17日). 2019年12月24日閲覧。 “2019年10月1日施行分”:金銭その他の物の数量、年月日及び番号を記載するには、「壱、弐、参、拾」の文字を用いなければならない。ただし、横書きをするときは、アラビヤ数字を用いることができる。

外部リンク

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