北新地ビル放火殺人事件
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北新地ビル放火殺人事件 | |
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場所 | 日本 大阪府大阪市北区曽根崎新地一丁目3番17号 堂島北ビル4階「働く人の西梅田こころとからだのクリニック」[1] |
座標 | 北緯34度41分51.7秒 東経135度29分44.4秒 / 北緯34.697694度 東経135.495667度座標: 北緯34度41分51.7秒 東経135度29分44.4秒 / 北緯34.697694度 東経135.495667度 |
日付 |
2021年(令和3年)12月17日 10時20分ごろ |
標的 | 働く人の西梅田こころとからだのクリニック |
攻撃手段 | 放火 |
武器 | ガソリン、オイルライター |
死亡者 | 27名 (被疑者・院長を含む) |
負傷者 | 1名 |
損害 | 堂島北ビル4階25㎡ |
犯人 | 被疑者A(死亡) |
動機 | 拡大自殺の可能性 |
攻撃側人数 | 1人(被疑者A) |
管轄 |
北新地ビル放火殺人事件(きたしんちビルほうかさつじんじけん)は、2021年(令和3年)12月17日に大阪府大阪市北区曽根崎新地一丁目(通称:北新地)の「堂島北ビル」4階で発生した放火事件[2]。
概要
[編集]2021年12月17日10時20分ごろ、大阪府大阪市北区曽根崎新地一丁目にて「ビルの4階が燃えている」と119番通報があり[3]、消防車両80台が出動した[4]。現場は「堂島北ビル」で4階部分の約25 m2が焼損し、火はおよそ30分後にほぼ消し止められた[4][5]。
火元と見られる4階には心療内科や精神科などを専門とするクリニック「働く人の西梅田こころとからだのクリニック」があった[6]。放火の疑いがあり、警察の捜査と消防が調査を行った結果、放火と立証された。また、その放火を行った犯人がビル内で見つかった重傷者(その後、蘇生後脳症で死亡)であることが判明した。
被害状況
[編集]死亡・負傷した28名のうち、27名は心肺停止状態で全員がビルの4階で発見され、6階から救出された1名は中等症の症状。心肺停止状態だった大半は、クリニック奥の診察室や隣接する大部屋の周辺で倒れていた[10]。当日中に死亡が確認された24名については、司法解剖の結果から全員が一酸化炭素中毒が死因とみられている[11]。21日午前2時50分頃、治療を受けていた女性が死亡した[12]。翌2022年3月7日午前0時25分頃、意識不明の女性が死亡し、事件当時心肺停止だった26名全員が死亡した[13]。
府警は死亡者について、18日以降、身元の判明した者の氏名・年齢・職業を公表した。そのなかにはクリニックの院長も含まれている[14][15]。なおその他の死亡者については、クリニックの患者か、患者ではないクリニックのスタッフなどについては、個人情報に当たるとして公表しなかった[16]。
建物被害については、焼損範囲は4階部分の25 m2ほどで、特にクリニックの出入り口付近が激しく燃えたとみられている[17]。
火災の推移
[編集]- 10:18 - 消防が火災を覚知[4]。
- 10:46 - 火災を鎮圧[4]。
- 11:50 - 消防庁災害対策本部を設置(第2次応急体制)[4]。
- 13:00 - 消防法第35条の2に基づく消防庁長官調査の実施のため、消防庁職員4名・消防研究センター5名を派遣[4]。
- 17:04 - 鎮火[4]。
捜査
[編集]大阪府警察は、目撃者の証言などから放火の疑いがあると判断。火災当日に殺人と現住建造物等放火の疑いで天満警察署に捜査本部を設置して捜査を開始した[7]。
19日未明、府警はクリニックの元患者で、現場から心肺停止の状態で搬送された男が事件に関与した疑いがあると特定。男は蘇生したものの重篤な状態で、府警は逮捕状の請求を見送っていたが、事案の重大性を鑑みたとして異例の判断により男の氏名を公表。また顔写真、事件当日の防犯カメラ映像を公開した[18]。
クリニックの待合室に居て逃げ出した患者2名は、男がエレベーターから降りてクリニックに入り、待合室の床に紙袋を置いて蹴り倒すと中から液体が流れ出し、その付近から強く火が燃え上がったと証言している[6]。
男の所持品からは、他に催涙スプレー2本も見つかっている他、現場には焼けたオイルライターが落ちていた[19]。近くにはストーブがあったとの報道もある[20]。出火後も逃げる素振りも見せなかったこの男は、出火直後に両手を広げて立ちはだかる様子や、外に逃げる人を捕まえようとする姿が防犯カメラに映っていた[21][22]。
男は心肺停止の状態で病院に搬送され治療を受けたが、一酸化炭素中毒や顔などに重度の火傷を負い、さらに心肺停止の間に酸素が脳に供給されず低酸素脳症を発症していた[23]。男は結局意識を回復せず、同月30日19時05分に死亡が確認された[24][25]。この男は司法解剖に付され、死因は一酸化炭素中毒による蘇生後脳症(低酸素脳症)と確認された[26]。被疑者の男が死亡したことにより、捜査本部による被疑者に対する直接の事情聴取が不可能となるなど、事件の全容解明へ向けた捜査に影響することは避けられなくなった[24][25]。
男の関係先からはクリニックの診察券が見つかっており、警察は通院していた患者と見ている[27]。事件発生の30分ほど前には、紙袋を持参した男の自宅と見られる大阪市西淀川区の住宅で火災が発生しており、府警は関連性を調べている[28]。21日には、2年前に発生した京都アニメーション放火殺人事件やその模倣である徳島県の地元アイドルグループのライブ会場となった雑居ビルで2021年3月に発生した放火殺人未遂事件に関する新聞記事の切り抜きなどが男の自宅から見つかっており、大阪府警は男が少なくとも5か月前からその事件に関心を持っており、その模倣であるか、関連性を調べている[29][30][31][32][33][34]。
また、同日に被疑者の自宅と見られる関係先の焼けた跡から「放火殺人」「大量殺人」「消火栓を塗る」などと書かれた紙片のメモも発見されて押収されたが、クリニックの防火扉や消火栓に開きにくくなるような細工が施され脱出および消火を困難にしていたこと、被疑者Aが脱出しようとした犠牲者に対して脱出経路を塞ぐように体当たりをしていたこと、現場や自宅から刃物が見つかったことなどから、捜査本部は前述の新聞記事の切り抜きとあわせて強い殺意と計画性を裏付ける証拠として捜査を進めている[30][31][33][34]。
2022年3月16日、大阪府警は被疑者Aを殺人と殺人未遂、現住建造物等放火などの疑いで書類送検し[35]、翌17日には大阪地方検察庁によって不起訴処分が下された[36]。これにより一連の捜査は終結した。
被疑者
[編集]被疑者は1960年に大阪市此花区で板金工場を営む家庭に4人兄弟の次男として生まれた[37]。高校卒業後は板金工として実家など複数の工場を転々とし、技術を磨いた[37]。1985年8月に看護師と結婚[38][39]。1987年5月には西淀川区の3階建て民家を購入し、約20年間妻と2人の息子と共に暮らした[38][39]。2002年3月には大阪市内の板金工場にアルバイトとして採用。腕前が認められ数か月で正社員となった[40]。男は1級建築板金技能士の資格を持つ腕利きの職人であったが、けがや家庭の事情などが重なり、家業は継がなかった、と同社の社長の妻に話していたという。職場では作業で指摘をするとカッとなることはあったものの、ちゃんと話せばすぐに落ち着いて後に引きずらない性格で、若手への面倒見もよかったという[41]。2006年7月に西淀川区内のマンションに転居し、住宅は人に貸し出して月7万円の家賃収入を得ていた[38][42]。
2008年9月に妻と離婚[37][38][39]。2009年9月頃に元妻に復縁を申し込んだが断られ[39]、2010年10月には板金工場を無断欠勤で退職[38]。競馬に金をつぎ込むなどし、生活は乱れていった[37]。2011年4月、元妻宅で長男を出刃包丁で殺そうとし、大阪府警に殺人未遂容疑で逮捕され、その後懲役4年の実刑判決を受けた[39]。2015年2月に堺市内の更生保護施設に入所[38]。
2016年秋ごろから半年は浪速区の簡易宿泊所に滞在。2017年2月に生活保護を申請したが、家賃収入を理由に認められなかった[38]。この時点で預貯金はほとんどなく、消費者金融から50万円を借り入れていた[43]。また「前科がじゃまをして仕事が見つからない」とも述べていた[44]。2017年2月に父親(事件の約30年前に他界[37])から相続していた此花区の住宅に転居しており、翌3月より現場となったクリニックに通い始め「夜眠れない」などと相談していた[39][38]。2019年10月からは家賃収入がなくなり、2021年1月には口座残高が0円となる[38]。2月5日には「心療内科」「ねだやし(根絶やし)」と記したメモを残しており、クリニック襲撃を決意したとみられる[45]。5月には此花区の住宅の電気やガスが止められ、同月に2度目の生活保護を申請したが受給に至らなかった[38]。市によれば2度目の申請は男自ら取り下げたという[46]。6月にはかつて暮らしていた西淀川区の自宅に戻ったが、その頃からスマートフォンのアプリに「人がいるか確認」「ガソリンを買う」など、犯行計画とみられるメモを残し始めていた[39]。
行政の動き
[編集]19日、総務大臣・金子恭之は、全国の消防に対し、今回の火災が発生したビルと同様に階段が一つしかなく、不特定多数が出入りする施設が3階以上に入居する雑居ビル約3万棟について、立ち入り調査を行うことを要請した。避難経路が確保されているかなどを調べ、調査結果を基に有識者会議で再発防止策を検討するとしている[47]。
また、18日までに大阪市消防局や静岡市消防局、郡山地方広域消防組合などが独自にビルの緊急立ち入り検査を開始した[48][49][50]。
反応
[編集]政界の対応
[編集]- 内閣総理大臣・岸田文雄(当時)は、火災について「大変悲惨な事件が発生した。まずは実態をしっかり把握し、原因・経緯について明らかにすることによって再発防止に努めなければならない」と述べ、弔意を表すと同時に被害者に対して支援を行うことを表明した[51]。
- 大阪府知事・吉村洋文は「亡くなった方のご冥福を心からお祈り申し上げます。現在も医療機関で懸命の救命活動が行われている。1人でも多くの命が救われることを願っている」と述べるとともにDMATを現地に派遣したことを明らかにした[52]。また、Twitterにおいて「火災現場となったクリニックには、約600名の患者さんが通院されています。本日、大阪精神科診療所協会、大阪精神科病院協会に、当該クリニック通院患者さんの今後の診療対応につき各会員病院、診療所での協力を要請しました。こころの健康総合センター、各市町村、関係機関とも情報共有します。」とツイートした[53]。
世界の反応
[編集]- イギリスBBC[54]、アメリカニューヨーク・タイムズ[55]、ドイツDPA通信、韓国聯合ニュースなどの海外メディアが一斉に報じた[56][57][58]。
- 在大阪中華人民共和国総領事館は、Twitterアカウントで毎日新聞の記事を引用し「17日大阪の繁華街のビルで火災が発生。死傷者多数、心を痛めている。衷心よりお見舞い申し上げる。これ以上人命が失われることがないよう祈っている。当館は中国国民の安否確認を急いでいる。」と声明を発表し、総領事の薛剣も「水火無情!速報によると、火災でなくなった方が24人に増えた。犠牲者の家族に衷心より哀悼の意を申し上げる。事件の調査結果に注意を払っている。」と哀悼の意を表明[59][60]。また、駐大阪・神戸米国総領事館は、NHKニュースの記事を引用し「大阪の繁華街の建物火災で多くの人命が失われたという悲劇的なニュースを見ました。私たちの思いと祈りは、犠牲になられた方々の家族と愛する人たちと共にあります。」と声明を発表[61]。
備考
[編集]関連項目
[編集]- 雑居ビル火災
- 既存不適格 - 事件現場のビルは1970年に建設され、現在必要な防災設備の一部がない[64]。
- 京都アニメーション放火殺人事件
- 大阪個室ビデオ店放火事件
- 川崎市簡易宿泊所火災 - 放火による犯行の可能性が高いとされている
- 中国北方航空6136便放火墜落事件
- 無敵の人 (インターネットスラング)
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ “アクセス・地図”. 西梅田こころとからだのクリニック. 2021年5月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月17日閲覧。
- ^ a b c 「大阪ビル火災で24人死亡、全員クリニック内か ほか3人も心肺停止」『朝日新聞デジタル』朝日新聞社、2021年12月17日。オリジナルの2021年12月17日時点におけるアーカイブ。2021年12月17日閲覧。
- ^ 「大阪・北新地でビル火災、27人が心肺停止状態…放火の可能性 : 社会 : ニュース」『読売新聞オンライン』読売新聞社、2021年12月17日。オリジナルの2021年12月17日時点におけるアーカイブ。2021年12月17日閲覧。
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- ^ 「大阪・北新地でビル火災 27人が心肺停止―放火の疑いで捜査・府警」『時事ドットコム』(時事通信社)2021年12月17日。オリジナルの2021年12月17日時点におけるアーカイブ。2021年12月17日閲覧。
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- ^ 「大阪 繁華街ビル火災 5人の死亡確認 放火の疑いで捜査」『NHKニュース』NHK大阪放送局、2021年12月17日。オリジナルの2021年12月17日時点におけるアーカイブ。2021年12月17日閲覧。
- ^ 「【速報】19人が死亡 大阪・北新地ビル火災」『FNNプライムオンライン』関西テレビ放送、2021年12月17日。オリジナルの2021年12月17日時点におけるアーカイブ。2021年12月17日閲覧。
- ^ “院内奥に多数の被害者集中 煙が充満し逃げ場失う 大阪ビル放火”. 毎日新聞ニュースサイト. 毎日新聞社. (2021年12月18日) 2021年12月18日閲覧。
- ^ “死亡の24人全員が一酸化炭素中毒死 大阪ビル放火”. 毎日新聞社. (2021年12月20日) 2021年12月20日閲覧。
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- ^ “現場に焼けたオイルライター カメラに点火の様子も 大阪・北新地ビル火災”. 産経west. (2021年12月19日) 2021年12月20日閲覧。
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外部リンク
[編集]- 大阪市北区におけるビル火災について - 大阪市消防局
- 大阪府大阪市北区で発生したビル火災 (第2報) (PDF) - 総務省消防庁
- 大阪府大阪市北区で発生したビル火災 (第3報) (PDF) - 総務省消防庁
- 大阪市のクリニックに放火 26人死亡 - NHK放送史
- “西梅田こころとからだのクリニック”. 2021年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年1月29日閲覧。