完全去勢
完全去勢(かんぜんきょせい、英語: total emasculation )とは、両精巣いわゆる生殖腺のみを切除する狭義の去勢と異なり、本来、内外生殖器の全てを切除することである。通常は両精巣と両側一部の精索、陰茎、陰嚢等を含める男性の外陰器のみを完全に除去した場合となる。
歴史上、人間の男性に対して、さまざまな目的でしばしば行われた。
医学的に見た完全去勢
[編集]医学では、完全去勢のことを total emasculation と称する。日本語への翻訳としては全除精術、全去勢術、全陰部切断術などいろいろに訳される。
いずれにしても、陰茎全摘術・両側除睾術・外陰部に続く両側の精索・陰嚢全切断術、陰嚢内組織摘除術、陰茎皮膚切除術等を同時に行う大手術で、病変部(腫瘍)が陰嚢にまで達しているなど、かなり進行した陰茎癌や、男性器への外傷が相当激しい場合又は性別適合手術等で行われる。
手術後は、男性機能は紛れもなく全廃となり、立位の排尿等も不可能になる。尿道は陰茎の再建がなされる場合を除き、原則として会陰部、肛門の前方に移設、開口されることが多い。
トランスジェンダーの人々の中には、医学的な診断のもと、本人が望んだ場合、去勢手術を行うことがある[1]。
史学・民俗学的に見た完全去勢
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有名なのは中国などの去勢した官吏である宦官の事例である。宦官の去勢の方法は、国や地方によって各種の方法があったが、中国においてはほぼ例外なく「完全去勢」が行われた。
また、宗教的な理由で 自己去勢を行った事例も知られており、このうち、古代ギリシャ・ローマのキュベレ教徒や、18世紀ロシアのスコプツィ教徒は、儀式の中で「完全去勢」を施していた。
インドでは、現在もヒジュラーという宗教集団があって、その構成員は「完全去勢」をしていることで有名である。
その他、アフリカ東部の部族間の戦争習慣としての捕虜の「完全去勢」が、知られている。
脚注
[編集]- ^ Apeiranthitou, Vasiliki; Thomas, George; Louka, Penelope (16 May 2019). “Gender dysphoria: A critical discussion of the understanding and treatment of gender dysphoria”. Dialogues in Clinical Neuroscience & Mental Health 2 (1): 72–80. doi:10.26386/obrela.v2i1.110.
参考文献
[編集]- 三田村泰助著 『宦官――側近政治の構造』 中央公論新社[中公新書]、ISBN 4121000072。[中公文庫BIBLIO]、ISBN 4122041864。
- 顧蓉著、葛金芳著、尾鷲卓彦訳 『宦官―中国四千年を操った異形の集団』 徳間書店 ISBN 4198914028
- 三浦哲郎著 『少年賛歌』 文藝春秋社 1982年
- 寺尾善雄著 『宦官物語―男を失った男たち』 東方書店 ISBN 4497851435
- 石川武志著 『ヒジュラ―インド第三の性』 青弓社 ISBN 4-7872-7056-7