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数学 において、有理化 (ゆうりか、英 : rationalization )とは、根号 を含む式(とくに平方根 を含む分数 式の分母または分子)から根号を取り除く式変形のことである。根号を持つ無理数 (代数的無理数 )を有理数 に変える操作であることからこの名がある。
有理化をすることで計算がしやすくなったりする。[ 1] 例えば分母の有理化
1
2
+
3
=
1
(
2
−
3
)
(
2
+
3
)
(
2
−
3
)
=
2
−
3
4
−
3
=
2
−
3
{\displaystyle {\frac {1}{2+{\sqrt {3}}}}={\frac {1(2-{\sqrt {3}})}{(2+{\sqrt {3}})(2-{\sqrt {3}})}}={\frac {2-{\sqrt {3}}}{4-3}}={2-{\sqrt {3}}}}
などがあげられる。
抽象代数学 的にはこの例は、
Q
{\displaystyle \mathbb {Q} }
を有理数体、
d
∈
Q
{\displaystyle d\in \mathbb {Q} }
が有理数の平方 ではないとしたとき
Q
(
d
)
=
{
a
+
b
d
a
′
+
b
′
d
|
a
,
a
′
,
b
,
b
′
∈
Q
}
{\displaystyle \mathbb {Q} ({\sqrt {d}})=\left\{{\frac {a+b{\sqrt {d}}}{a'+b'{\sqrt {d}}}}\,{\Big |}\,a,a',b,b'\in \mathbb {Q} \right\}}
という
Q
{\displaystyle \mathbb {Q} }
の二次拡大体 を考えると、
Q
(
d
)
=
Q
[
d
]
(
=
{
a
+
b
d
∣
a
,
b
∈
Q
}
)
{\displaystyle \mathbb {Q} ({\sqrt {d}})=\mathbb {Q} [{\sqrt {d}}](=\{a+b{\sqrt {d}}\mid a,b\in \mathbb {Q} \})}
が成り立つ、という主張に一般化できる。
これは
K
=
Q
(
d
)
{\displaystyle K=\mathbb {Q} ({\sqrt {d}})}
の各元
a
+
b
d
{\displaystyle a+b{\sqrt {d}}}
に対し、その拡大
K
/
Q
{\displaystyle K/\mathbb {Q} }
に関する共役元
a
−
b
d
{\displaystyle a-b{\sqrt {d}}}
を掛ければ
N
(
a
+
b
d
)
:=
(
a
+
b
d
)
(
a
−
b
d
)
=
a
2
−
b
2
d
{\displaystyle N(a+b{\sqrt {d}}):=(a+b{\sqrt {d}})(a-b{\sqrt {d}})=a^{2}-b^{2}d}
(この
N
(
a
+
b
d
)
{\displaystyle N(a+b{\sqrt {d}})}
は
a
+
b
d
{\displaystyle a+b{\sqrt {d}}}
の(拡大
K
/
Q
{\displaystyle K/\mathbb {Q} }
に関する)ノルム と呼ばれる。)が
Q
{\displaystyle \mathbb {Q} }
に属すということからまさに有理化によって 証明されるわけである。
一般に、体 K の(有限次ガロア)拡大体 L の元に対し、その元の拡大 L /K に関する共役元(二次拡大ではただ一つだが、一般には複数ある)をすべて掛け合わせたものを、その元のノルムとよぶが、ノルムは下の体 K に属する。したがって同様のこと、つまり有理化は共役元が全て計算できるならば、二次拡大に限らず行える。
Q
{\displaystyle \mathbb {Q} }
以外の体の拡大についても同様のことができる。たとえば、
Q
{\displaystyle \mathbb {Q} }
を実数 体
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
にとりかえ、d = −1 としてみよう。
C
=
R
(
−
1
)
=
{
a
+
b
−
1
∣
a
,
b
∈
R
}
{\displaystyle \mathbb {C} =\mathbb {R} ({\sqrt {-1}})=\{a+b{\sqrt {-1}}\mid a,b\in \mathbb {R} \}}
(ここで、
−
1
{\displaystyle {\sqrt {-1}}}
は虚数単位 のことである。)であって、各元(つまり複素数)
α
=
a
+
b
−
1
{\displaystyle \alpha =a+b{\sqrt {-1}}}
の
C
/
R
{\displaystyle \mathbb {C} /\mathbb {R} }
に関する共役元とは、共役複素数
a
−
b
−
1
{\displaystyle a-b{\sqrt {-1}}}
のことであるということに注意して、そのノルムを計算すると
N
(
α
)
=
α
α
¯
=
(
a
+
b
−
1
)
(
a
−
b
−
1
)
=
a
2
+
b
2
{\displaystyle N(\alpha )=\alpha {\bar {\alpha }}=(a+b{\sqrt {-1}})(a-b{\sqrt {-1}})=a^{2}+b^{2}}
は
R
{\displaystyle \mathbb {R} }
に属する。したがってたとえば、
1
2
+
−
1
=
1
(
2
−
−
1
)
(
2
+
−
1
)
(
2
−
−
1
)
=
2
−
−
1
4
+
1
=
2
−
−
1
5
{\displaystyle {\frac {1}{2+{\sqrt {-1}}}}={\frac {1(2-{\sqrt {-1}})}{(2+{\sqrt {-1}})(2-{\sqrt {-1}})}}={\frac {2-{\sqrt {-1}}}{4+1}}={\frac {2-{\sqrt {-1}}}{5}}}
などの変形が可能である。このような変形を(分母の)実数化 ということがある。