コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

富士山における鉄道構想

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

富士山における鉄道構想(ふじさんにおけるてつどうこうそう)は、富士山周辺での登山鉄道の構想である。

2020年代においては、富士山の北側が属する山梨県の県庁が積極的であり、次世代型路面電車(LRT)上下分離方式で整備・運営した場合の収支見通しを2024年9月20日に公表している[1][2]。これ以外にも様々な構想が提唱されてきた。

民間では、富士山北麓を営業エリアとする富士急行が意欲的であり、ほとんどの構想に関わりがある。同社の子会社である富士山麓電気鉄道富士急行線という鉄道を運営しており、途中には富士山駅という名称の鉄道駅があり、「富士登山電車」という観光列車も存在するが[3]、同線は標高857メートルの河口湖駅止まりであり、富士山中腹(五合目)に至るにはバスなど自動車に乗り換えて富士山有料道路(富士スバルライン)を登る必要がある。また南麓の静岡県側からの入山を含めて、富士登山で山頂まで到達するには徒歩によらなければならない。

歴史

[編集]

1960年代まで

[編集]

雑誌『動く実験室』1947年8月号掲載の堀田伝四郎「富士山をのぼる電車」という記事では、ケーブルカーなどの計画・構想を紹介している。

1960年代、富士急行が富士山鉄道構想を発表した。富士山に直接掘削機で穴を開け、5合目 - 8合目間(山麓線、定員175人)及び8合目 - 頂上間(山上線、定員120人)のケーブルカーを建設するというものであった。そして1963年(昭和38年)に「富士山地下鋼索鉄道」として申請された。ところが1974年(昭和49年)には申請取下を発表した。富士急行社長によれば、自然保護を重視し、諸般の情勢を考慮してとのことであった[4]

富士スバルライン利用構想の浮上

[編集]

2008年平成20年)11月、富士五湖観光連盟(会長:富士急行社長堀内光一郎)が富士スバルラインに代わる富士山5合目へのアクセスとして打ち出した構想は、麓の有料道路ゲート付近に始発駅を設け、有料道路上に単線の線路を敷設して5合目ロータリーまでを結ぶものであった。観光客の散策のため、途中に4駅を設置する。建設費は600億円から800億円程度を見込んでいた。

2013年(平成25年)6月、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の世界文化遺産登録を受けて、富士急社長の堀内は富士山駅付近から、富士スバルラインの敷地などを通って、富士山5合目までを結ぶ約30キロメートルの鉄道路線を観光用鉄道として新たに敷設し、鉄道の開設に伴い現行の道路は廃棄するという構想を発表した[5]。スバルラインは急斜面だが、鉄道の場合、通常車両で運行が可能という。これに対して、当時の山梨県知事横内正明も「道路よりも環境への負荷が少なく冬も5合目に行ける利点がある。長期戦略として検討の余地はある。道路にはこだわらない」と発言した[5]

横内正明の後任である後藤斎は、2018年(平成30年)9月25日に検討会の設置を示唆し[6]、その後任の長崎幸太郎も、知事就任前の会見で勉強会を設けることを示唆した[7]2019年令和元年)5月22日、長崎幸太郎が、2年後をめどにルート案などの構想を発表する考えを示した[8]。一方、富士山麓にある富士吉田市堀内茂市長は「技術的に困難」「安全性に問題がある」とし、反対または慎重な姿勢をとった[9][10]

富士山登山鉄道が開業した後、東日本旅客鉄道(JR東日本)や富士急行が東京都心方面から5合目までの直通列車(成田エクスプレス富士回遊)の運行を検討しているとも報じられた[11]

2024年(令和6年)11月18日、長崎知事はLRTを含む鉄道・鉄軌道方式での整備を断念し、ゴムタイヤ式の交通手段(ゴムタイヤトラム)を検討すると発表した[12][13]

富士山登山鉄道構想検討会発足

[編集]

こうした経緯の後、山梨県などは「富士山登山鉄道構想検討会」を発足させ、2019年(令和元年)7月29日以降、会合を重ねた[14]。会長を御手洗冨士夫経団連名誉会長、理事長は山東昭子参議院議長が務め、富士スバルライン上に次世代型路面電車(LRT)路線を敷設する方式が最も優位性があるとの素案を、2020年(令和2年)1月30日に了承している[15]

反対・慎重論

[編集]

国際連合教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の諮問機関で、世界遺産への登録審査や保全を担う国際記念物遺跡会議(ICOMOS、イコモス)は、富士山登山鉄構想について、「富士山の来訪者管理や環境悪化に関する多くの課題を解決する統合的なアプローチとなりうる」と評価しつつも、「環境破壊につながる」と富士北麓地域にて反対運動が起きていることを挙げた上で「多くの利害関係者の支持を得る作業が必要」との通知を日本政府に送付していたことが2022年10月に報じられた[16]

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ 富士登山鉄道構想「上下分離で」日本経済新聞』朝刊2024年9月21日(東京・首都圏経済面)
  2. ^ 富士山登山鉄道構想 山梨県がLRT運営の収益試算結果を公表NHK 山梨 NEWS WEB(2024年9月20日配信)2024年9月28日閲覧
  3. ^ 富士急行線公式サイト内:列車のご案内 富士登山電車(2024年9月28日閲覧)
  4. ^ 『富士山麓史』(富士急行、1977年)pp.641-642
  5. ^ a b 「富士山5合目まで鉄道で 富士急社長が構想」日本経済新聞』電子版2013年6月19日(2020年2月2日閲覧)
  6. ^ “山梨知事、富士山の登山鉄道で「検討会設置」”. 産経デジタル. (2018年9月25日). オリジナルの2019年2月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190210031642/https://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/180925/plt18092520520025-n1.html 2019年2月10日閲覧。 
  7. ^ “横断道の県費減に自信 就任前の長崎新知事に聞く”. さんにちEye(山梨日日新聞電子版). (2019年2月4日). オリジナルの2019年2月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190210030504/https://www.sannichi.co.jp/article/2019/02/04/00325524 2019年2月10日閲覧。 
  8. ^ “富士山登山鉄道で構想策定 山梨県、2年後めどに”. 産経新聞ニュース. (2019年5月22日). https://www.sankei.com/life/news/190522/lif1905220018-n1.html 
  9. ^ “登山鉄道構想「地元は不安」 富士吉田市長が見解”. 毎日新聞』山梨県版. (2018年10月6日). オリジナルの2019年2月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190210032700/https://mainichi.jp/articles/20181006/ddl/k19/010/176000c 2019年2月10日閲覧。 
  10. ^ “富士山登山鉄道構想、富士吉田市長は反対”. 産経新聞ニュース. (2019年2月9日). オリジナルの2019年2月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190210032909/https://www.sankei.com/region/news/190209/rgn1902090009-n1.html 2019年2月10日閲覧。 
  11. ^ 富士山に登山鉄道構想 過去には山頂までの計画も NIKKEI STYLE(2013年7月26日)2020年2月2日閲覧
  12. ^ “富士山登山鉄道、山梨知事が断念表明 地元の反対根強く”. 日本経済新聞. (2024年11月18日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC184KT0Y4A111C2000000/ 2024年11月28日閲覧。 
  13. ^ “「富士山登山鉄道構想」鉄道敷設の導入断念 新たな検討へ 山梨”. NHK NEWS WEB. (2024年11月18日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241118/k10014642221000.html 2024年11月28日閲覧。 
  14. ^ 富士山登山鉄道構想検討会 山梨県(2021年7月15日閲覧)
  15. ^ 「富士山登山鉄道の素案了承」『日本経済新聞』朝刊2020年1月31日(東京・首都圏経済面)2020年2月2日閲覧
  16. ^ 山梨放送 (2022年10月25日). “富士山の登山鉄道構想 ユネスコ諮問機関が国に評価する通知「課題改善につながる」 山梨県”. 日テレNEWS. 2022年10月27日閲覧。

参考記事・文献

[編集]

関連項目

[編集]