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小林酒造 (栃木県)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
小林酒造株式会社[1]
KOBAYASHISYUZO CO.,LTD.[1]
本社蔵。2023年10月撮影。地図
種類 株式会社[1]
市場情報 未上場
本社所在地 日本の旗 日本
323-0061[1]
栃木県小山市卒島743-1[1]
北緯36度20分45秒 東経139度46分10秒 / 北緯36.34583度 東経139.76944度 / 36.34583; 139.76944座標: 北緯36度20分45秒 東経139度46分10秒 / 北緯36.34583度 東経139.76944度 / 36.34583; 139.76944
設立 1872年明治5年)[1]
業種 食料品
法人番号 6060001014228
事業内容 酒造業
代表者 小林甚一郎[1]
資本金 1,000万円[2]
売上高 9億円[2]
従業員数 45人(2023年9月)[3]
外部リンク 公式サイト
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小林酒造株式会社(こばやししゅぞう)は、栃木県小山市卒島にある日本酒メーカーである。吟醸酒を中心とした酒づくりをしており、「鳳凰美田」の銘柄で知られる。

沿革

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第3工場「飛翔蔵」。2023年10月撮影。

現在の小林酒造は、1872年4月1日(明治5年)に小林米造によって丸越酒店の名で創業された[4][2]第二次世界大戦中から戦後まもなくは酒造りを中止して酒販店として経営を続けたが、1954年に操業を再開し、1955年に社名を小林酒造と改める[4]。戦後は主に秋田県の大手酒造メーカーの下請けとして日本酒づくりを続け、最盛期には年間1000石[注釈 1]もの生産量を誇ったが、日本酒のブームが下火になるにつれて下請け仕事は減少の一途を辿っていた[5]

そんな中、5代目の小林正樹が東京農業大学農学部を卒業後、都内の醸造試験所で2年間の修業を経て1992年に小林酒造を継いだ[6][7][5]。この時の小林酒造は家族以外の従業員は2人のみであり、年間生産量は最盛期の10分の1に近いわずか120石、正樹自身この時の小林酒造について「県内で一番小さな会社だった」と述べている[7][5]。経営状況についても「廃業寸前でした。それくらいひどいスタートだったんです」と述べている[6]。小林酒造に入社した正樹は生産方針を大きく変え、1994年に「鳳凰美田」を発売、1995年には普通酒や本醸造を製造せず吟醸酒だけを製造するようにした[6][5][8]。正樹の妻・真由美は岩手県酒類総合研究所に指導官として勤めていた経歴があり、彼女の協力のもと改革を進めていったという[9][7]。真由美はその後2023年1月時点でも醸造責任者を務めており、正樹は彼女の酒造りを「センスも良いし、神(かみ)ってる」と高く評価している[7]。また、社長である4代目・小林甚一郎は「先代の父は私の言うことを聴いてくれず、苦労した」という理由から「新商品の企画は専務(小林正樹)に任せっきり」と述べており、正樹に裁量を与えたことが結果的に成功につながったと振り返っている[4]。2004年、2005年には目標としていた全国新酒鑑評会で金賞を獲得した[7]

2014年には栃木県栃木市内の惣社東産業団地に第2工場を新設し[注釈 2]、吟醸酒をベースとしたフルーツリキュールの生産工場として稼働させている[10][5]。リキュールの生産能力は新設前の倍となる400,000リットルであり、本社工場は日本酒づくり専門となる[10]

2022年5月には第3工場「飛翔蔵」が竣工した[11]。飛翔蔵は清酒づくりに特化しており、小林酒造全体としての清酒生産能力は竣工以前の2倍となる年間800,000リットルとなった[11]。それに伴って本社工場では醸造タンクを従来の金属製のものから木桶に置き換えており、伝統的な酒造りへの回帰を目指している[11]

製造

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日本酒づくりに使用する米は山田錦をはじめとした酒造好適米である[5]。すべて契約農家から仕入れており、栃木をはじめ全国の農家数百軒と契約をしている[12]。仕込み水には思川の伏流水を使用[5][13]。小山の水は硬水であり、酵母が発酵しやすいという[12]。酵母は栃木県酵母を中心に何種類かをブレンドして使用しているほか[5]、ワイン酵母を使ったユニークな酒造りにも挑戦している[14]

商品

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「鳳凰美田」「鳳凰金賞」「美田鶴」の3種類の日本酒を作り分けているほか、果実と日本酒を使ったリキュール、日本酒ベースのスピリッツなどを製造している[12]

日本酒

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主要銘柄の「鳳凰美田」(ほうおうびでん)は、1994年にはじめて発売された[8]。その名は、高級酒を普通酒と区別する用語である「鳳凰」と、小林酒造の所在地がかつて美田村(みたむら)に属していたことに由来する「美田」とを組み合わせたものである[5]

リキュール

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吟醸酒をベースに柚子などを使ったリキュールも製造しており[10][5]、毎年安定した味になるよう原料の果物は収穫時期を固定しているほか、原料の特性に合わせて砂糖などの原料も調整されているという[12]。細胞を細かく砕く特殊技術が使われており、それに由来するトロっとした舌触りが特徴である[15]

リキュールの中でも特に「鳳凰美田 完熟もも」は、2013年の天満天神梅酒大会のリキュール部門で優勝している[16]。天満天神梅酒大会の総評では「すりつぶした桃のかおり。圧倒的果肉の繊維感があり、桃の果実感をここまで表現したのは凄すぎる」と評価された。[16]。日本酒ベースのリキュールを製造し始めた理由として、リキュールは日本酒より客層が広いことを挙げており、日本酒にあまり親しみのない若年層や女性層へのリーチを意識してのことであるという[15]

スピリッツ

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地元・日光の米と水で作ったスピリッツを日光産のミズナラ樽で熟成させた、地元産を前面に押し出した製品を展開している[11]

評価

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SAKETIMEの日本酒人気ランキング(2020年2月26日時点)では13位にランクインしている[17]。小林正樹は2017年時点の鳳凰美田の人気について「醸造する前から、販売する酒販店が決まっている」状況であると述べている[5]

2012年には日本航空の国際線ビジネスクラスに採用されたほか[10]、「鳳凰美田 純米大吟醸 水分神(みくまり)」はザ・リッツ・カールトン日光のダイニングで提供されている[13]

風味

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酒食ジャーナリストの山本祥子は鳳凰美田を「フレッシュ感があり、マスカットを思わせる爽やかな日本酒」であると述べている[13]。毎日新聞は味わいについて「マスカットやメロンのような華やかな吟醸香が特徴」であると述べている[5]。小林正樹は鳳凰美田の味わいについて「マスカットのような香りと米の輪郭を感じる」酒であると述べている[9]

受賞歴

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全国新酒鑑評会

  • 平成14酒造年度 - 「鳳凰美田」金賞受賞[18]
  • 平成18酒造年度 - 「鳳凰美田」金賞受賞[19]
  • 平成24酒造年度 - 「鳳凰美田」金賞受賞[20]
  • 平成27酒造年度 - 「鳳凰美田」金賞受賞[21]
  • 平成28酒造年度 - 「鳳凰美田」金賞受賞[22]
  • 平成30酒造年度 - 「鳳凰美田」金賞受賞[23]
  • 令和3酒造年度 - 「鳳凰美田」金賞受賞[24]

脚注

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注釈

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  1. ^ 1石=一升瓶100本文[5]
  2. ^ 総工費5億円[10]

出典

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  1. ^ a b c d e f g 蔵情報|鳳凰美田|公式ウェブサイト”. hououbiden.jp. 2023年11月21日閲覧。
  2. ^ a b c 小林酒造株式会社|掲載企業詳細|栃木県が運営するとちぎの就職支援サイト WORKWORKとちぎ”. workwork-tochigi.jp (2020年1月26日). 2023年12月9日閲覧。
  3. ^ 職場情報総合サイト”. shokuba.mhlw.go.jp (2023年9月21日). 2023年12月9日閲覧。
  4. ^ a b c 福森 2004, p. 33.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m 古田 2017, p. 18.
  6. ^ a b c 木村 2015, p. 160.
  7. ^ a b c d e 面川 2023, p. 19.
  8. ^ a b 読売新聞 1999, p. 30.
  9. ^ a b 木村 2015, p. 161.
  10. ^ a b c d e 日経速報ニュースアーカイブ 2013.
  11. ^ a b c d 桜井 2022, p. 41.
  12. ^ a b c d 読売新聞 2012, p. 29.
  13. ^ a b c 山本 2020, p. 85.
  14. ^ 伊藤 2019, p. 41.
  15. ^ a b 長田 2013, p. 22.
  16. ^ a b 天満天神梅酒大会”. umesusu.jp. 2015年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年11月28日閲覧。
  17. ^ 藤 2020, p. 23.
  18. ^ 『酒類総合研究所』「平成14酒造年度 全国新酒鑑評会入賞酒について」平成15年5月28日、2022年4月23日閲覧
  19. ^ 『酒類総合研究所』「平成18酒造年度 全国新酒鑑評会入賞酒について」平成19年5月24日、2022年4月23日閲覧
  20. ^ 『酒類総合研究所』「平成24酒造年度 全国新酒鑑評会入賞酒について」平成25年5月22日、2022年4月23日閲覧
  21. ^ 『酒類総合研究所』「平成27酒造年度 全国新酒鑑評会入賞酒について」平成28年5月18日、2022年4月23日閲覧
  22. ^ 『酒類総合研究所』「平成28酒造年度 全国新酒鑑評会入賞酒について」平成29年5月18日、2022年4月23日閲覧
  23. ^ 『酒類総合研究所』「平成30酒造年度 全国新酒鑑評会入賞酒について」令和元年5月17日、2022年4月23日閲覧
  24. ^ 『酒類総合研究所』「令和3酒造年度 全国新酒鑑評会入賞酒について」令和4年5月25日、2022年5月25日閲覧

参考文献

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書籍・雑誌

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  • 木村克己『日本酒の基礎知識』新星出版社、2015年。ISBN 4405093059 
  • 山本祥子「新日本紀行 鳳凰美田」『週刊ダイヤモンド』第106巻第42号、ダイヤモンド社、2020年10月31日、85頁、全国書誌番号:00033351 

新聞

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  • 桜井豪「磨け 海渡れ 「鳳凰美田」の小林酒造 海外開拓、新棟増設で生産能力確保 本社工場は木桶で仕込み」『日本経済新聞 北関東版』日本経済新聞社(日本経済新聞)、2022年6月11日、41面。2023年10月17日閲覧。
  • 伊藤健史「酒どころ栃木の「下野杜氏」、伝統と革新で味磨くーー外池酒造店、虎屋本店(北関東フォーカス)」『日本経済新聞 北関東版』日本経済新聞社(日本経済新聞)、2019年6月29日、41面。2023年10月17日閲覧。
  • 「栃木の小林酒造、日本酒生産能力3割増 海外販売強化」『日経速報ニュースアーカイブ』日本経済新聞社、2013年12月6日。2023年10月17日閲覧。
  • 藤英樹「「栃木の酒を海外にも」」『東京新聞 朝刊』中日新聞東京本社東京新聞)、2020年3月4日、23面。2023年10月17日閲覧。
  • 面川美栄「とちぎの日本酒・最前線:/ 5 小山 小林酒造 若い蔵人たちと励む 農業基盤の保持にも注力 /栃木」『毎日新聞 地方版 栃木』毎日新聞社毎日新聞)、2023年1月7日、19面。2023年12月10日閲覧。
  • 古田信二「とちぎのお酒で乾杯!:小山市 小林酒造「鳳凰美田」 コメは磨けばおいしくなる /栃木」『毎日新聞 地方版 栃木』毎日新聞社毎日新聞)、2017年12月29日、18面。2023年12月10日閲覧。
  • 長田舞子「コレ・良かんべ:小林酒造「鳳凰美田 完熟もも」 /栃木」『毎日新聞 地方版 栃木』毎日新聞社毎日新聞)、2013年4月24日、22面。2023年12月10日閲覧。
  • 「[トップ・戦略を聞く] 小林酒造 小林正樹専務43=栃木」『読売新聞 東京朝刊』読売新聞東京本社読売新聞)、2012年12月20日、29面。2023年12月10日閲覧。
  • 福森誠「[元気な会社] 清酒醸造業「小林酒造」 小林甚一郎社長66=栃木」『読売新聞 東京朝刊』読売新聞東京本社読売新聞)、2004年12月9日、33面。2023年12月10日閲覧。
  • 「新酒のしぼり始まる 小山の小林酒造・酒蔵に香り漂う=栃木」『読売新聞 東京朝刊』読売新聞東京本社読売新聞)、1999年11月13日、30面。2023年12月10日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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