川男
川男(かわおとこ)は、日本の妖怪の一つ。江戸時代中期の国学者・谷川士清の編纂による国語辞典『和訓栞』のうち、方言や俗語などを収録して士清没後の明治20年(1887年)[1]に出版された「後編」に記述されているもので[2]、川辺の妖怪とされる。
概要
[編集]『和訓栞』の記述によれば、高い山に流れる川の畔にいる妖怪とされ、背が高く肌の色が黒い。美濃国(現・岐阜県)では、夜間に網を使って漁に行く人が見かけることが多く、2人の川男が並んで物語を話していたという[2][3]。背の高い妖怪であることから、かつては背の高い人を「川男のようだ」という言い回しもあったという[2][3]。
「川男」の名は、山の妖怪として日本各地で伝承される妖怪「山男」に対して名づけられたものと見られている[4]。色が黒いという特徴は、単に夜間のために黒く見えたものとの解釈もある[4]。
日本の水辺の妖怪としてよく知られる河童の一種とする意見もあるが[5]、「背が高い」などの点は河童の特徴には見られない[4]。このことから川男は河童の仲間というよりも、河童とは別種の未確認動物とも考えられており[4][6]、高い山の川にいるという点から、上流の川の水の精として伝承されている魍魎の一種とする説もある[4]。日本各地に伝承を残している河童に対して、川男の伝承は非常に少なく、また同じ川の妖怪である「川姫」「川女郎」が人に危害を与えたり大声を出すものと伝えられていることに対し、川男はそのような特徴も確認されていない[6]。
そのほかに昭和・平成以降の妖怪関連の書籍による説としては、人間に近い姿の妖怪であり、おとなしげな顔立ちであるが、実際に性格もおとなしいものとする説や[6]、川を訪れた人に物語を聞かせるという説もある[7]。
なお、民俗学研究所による『綜合日本民俗語彙』で妖怪の類に分類されていることを始め[8]、昭和以降の多くの妖怪関連の書籍に記載されているものの、原典『和訓栞』には「高山の流れの大川に居るもの」のあるのみで[2]、妖怪の類との記述は見られない。妖怪ではなく、単に川辺に座っていた背の高い人間を「川男」と呼んだという可能性も示唆されている[9]。
創作作品での登場
[編集]2008年には、テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(水木しげる原作)にゲストキャラクターとして登場。視聴者からは、声優を担当した小西克幸と鈴木琢磨の飄々とした演技が印象的だったとする意見が制作側へいくつか寄せられ[10]、製作スタッフの間でも面白いキャラクターとして評判だったという[11]。
脚注
[編集]- ^ “谷川士清”. ようこそ宣長ワールドへ. 本居宣長記念館(公益財団法人鈴屋遺蹟保存会). 2006年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年11月27日閲覧。
- ^ a b c d 谷川 1887, p. 31
- ^ a b 日野 1926, p. 186
- ^ a b c d e 笹間 1994, p. 53
- ^ 草野巧『幻想動物事典』新紀元社、1997年、93頁。ISBN 978-4-88317-283-2。
- ^ a b c 水木 1991, p. 141
- ^ 多田克己『幻想世界の住人たち』 IV、新紀元社〈Truth In Fantasy〉、1990年、124頁。ISBN 978-4-915146-44-2。
- ^ 大藤時彦他 著、民俗学研究所 編『綜合日本民俗語彙』 第1巻、柳田國男監修、平凡社、1955年、431頁。 NCID BN05729787。
- ^ 『世界の幻獣エンサイクロペディア』一条真也監修、講談社、2010年、163頁。ISBN 978-4-06-215952-4。
- ^ “川男の声は…”. ゲゲゲかわら版(テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』制作スタッフによる公式ブログ). 東映アニメーション (2008年2月3日). 2011年11月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月2日閲覧。
- ^ “川男”. ゲゲゲかわら版 (2008年1月27日). 2011年11月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月2日閲覧。
参考文献
[編集]- 笹間良彦『図説・日本未確認生物事典』柏書房、1994年。ISBN 978-4-7601-1299-9。
- 谷川士清『倭訓栞』 後編、成美堂、1887年。 NCID BA63638519 。
- 日野巌『動物妖怪譚』 上、中央公論新社〈中公文庫〉、2006年(原著1926年)。ISBN 978-4-12-204791-4。
- 水木しげる『図説 日本妖怪大全』講談社〈講談社+α文庫〉、1994年(原著1991年)。ISBN 978-4-06-256049-8。