強制摂食
強制摂食(Force-feeding、食事強制、強制飼養)とは、何らかの方法で人物・動物の意思に関係なく摂食を行わせることである。ただし、睡眠中にも食物を直接消化管に送ることが可能な「経管栄養食」については、当人意思の合意のもとに行われる場合と、そうでない場合がある。
人間への強制摂食
[編集]経管栄養食により、鼻・胃などから、直接食道・胃に栄養を供給する。
医療
[編集]統合失調症、幻覚、拒食症等の摂食障害等、精神障害により、一定期間患者が食事を摂取できない場合に実行されることがある。精神状態に要因がある場合、本人の同意に基づく経管栄養食によって栄養・体重が回復したところで、根本的な解決とは考えられない。
本人が摂食の欲求を表せない場合、生命活動維持に影響するほど栄養・水分摂取が出来ない場合がある。その場合は法律に基づき、経管栄養を実施する。経管栄養は、鼻の穴からの経鼻栄養(Nasogastric intubation)または、胃壁に穴を開ける胃瘻造設術によって実施される。この手法は経腸栄養と呼ばれ、食物は胃内などの消化管へと注入されて、消化器による消化と吸収の作用を利用するため、投与する製剤は、必ずしも無菌製剤である必要はない。これに対して、血液中に直接電解質やグルコースやアミノ酸や脂肪を注入する手法は静脈栄養と呼ばれ、点滴静脈注射によって供給するために無菌製剤でなければならず、さらに浸透圧の高い液体を注入する場合には血流の多い場所への注入が必要になるなど、可能な部位も限られてくる。原則として、消化吸収能力が充分である上に、例えば膵炎が起きているなどの理由で消化管内に食物が流れることが好ましくない状態ではないのであれば、より生理的な方法である経腸栄養の利用が優先される[2]。
刑務所
[編集]1975年の世界医師会による「東京宣言」で禁止されるまでは、囚人がハンガー・ストライキを行った場合、経管栄養が行われた。
英国においては、1913年の法律『Cat and Mouse Act』が出来るまでは、女性解放運動のためのハンガー・ストライキ実行者に対して用いられた[5]。女性解放運動家シルビア・パンクハースト(Sylvia Pankhurst)は、鉄製の猿ぐつわによって口を開けられ、歯茎から出血し、嘔吐したことを記している[6]。
アイルランド独立運動期には、英国は活動家に対して強制摂食を行った。1917年、英国はダブリンのマウントジョイ刑務所(Mountjoy Jail)において、活動家トーマス・アッシュ(Thomas Ashe)を強制摂食で死亡させた[7]。
アメリカ合衆国の司法によると、グアンタナモ湾収容キャンプにおいて強制摂食は頻繁に行われていた[8][9][10]。(参照:グアンタナモ湾におけるハンガー・ストライキ(Guantánamo Bay hunger strikes)
コロラド州の最高管理刑務所(Supermax prison)「ADX Florence」では経管栄養による強制摂食が行われている[11][12]。
結婚前の女性に対する強制摂食
[編集]過去、中東、北アフリカにおいてふくよかさが女性の資産、豊かさの象徴と考えられていた時代に、女性は母親・祖母から過食するように強いられ、充分でないと時に懲罰を受けた。栄養摂取が困難であったモーリタニアなどサヘル地域では比較的長く継続された[13][14]。
人間以外への強制摂食
[編集]畜産業
[編集]強制飼養(仏: gavage、ガヴァージュ)は、フォアグラ生産のためにアヒル、ガチョウに対して行われることで知られる。
フォアグラ生産以外の目的では、現代エジプトにおいてノバリケンに栄養を多く強制摂取させる行為が存在する(呼称:"Tazgheet" تزغيط )。また、北京ダックに使うアヒルにも「填鴨」(繁体字: 填鴨、簡体字: 填鸭、拼音: )と呼ばれる手段が存在し、転じて中国では詰め込み教育のことを「填鴨式教育」と呼ぶ。
一般的には、ガン、ガチョウ、Mulard ducks(ノバリケンとペキンダック(Pekin duck)の雑種)に行われる。屠殺の4-5ヶ月前に開始し、個体の大きさによって1日に2-4回の強制飼養が2-5週間継続される。強制飼養には、薄い金属かプラスチックの漏斗を鳥の喉に挿入し、素嚢に食物を送る。すり潰したトウモロコシなどの穀物に、脂肪、ビタミンなどが混合されて使用される。水鳥は嘔吐反応がなく、食道が柔軟なため、通常チューブ使用が選ばれるが、冬期に入る前の短期間で多くの食糧摂取を行うことができるため、強制飼養に向いていると考えられている。強制飼養を終えると鳥は元の体重に戻るために、屠殺準備段階で行われる。鳥の肝臓は過食を原因とする脂肪肝となり、最大で通常の12倍(3 ポンド)程度にまで肥大する。この脂肪肝となった肝臓こそがフォアグラである。また、脂肪の付いた肉(コンフィに使用)、羽毛も市場に流通される。
祭礼
[編集]台湾では 神豬という行事で生贄となるブタへの強制給餌が行われる。
科学的研究
[編集]代謝の研究のために、ネズミなどの実験動物に対して強制飼養が行われることがある。液体はチューブまたは注射によって強制的に飼養される[15]。
脚注・参照
[編集]- BBC 1 TV programme "Force fed" November 2, 2005
- ^ Pankhurst, Emmeline (1911). The Suffragette. New York: Sturgis & Walton Company. p. 433
- ^ 経腸栄養(EN)の選択基準
- ^ http://www.pseudopodium.org/kokonino/tq/rydernar.html
- ^ WMA - Policy Archived 2007年10月5日, at the Wayback Machine.
- ^ Purvis, June; Emmeline Pankhurst, London: Routledge, p 134, ISBN 0-415-23978-8
- ^ Pugh, Martin; The Pankhursts, UK: Penguin Books, 2001, p 259, ISBN 0-14-029038-9
- ^ Barbara Olshansky, Gitanjali Gutierrez (2005年9月8日). “The Guantánamo Prisoner Hunger Strikes & Protests: February 2002 – August 2005”. Center for Constitutional Rights. オリジナルの2010年1月21日時点におけるアーカイブ。
- ^ Savage, Charlie (2005年12月30日). “46 Guantanamo detainees join hunger strike”. Boston Globe. オリジナルの2010年1月21日時点におけるアーカイブ。 2007年9月17日閲覧。
- ^ “Gitmo Hunger Strikers' Numbers Grow”. The New Standard. (2005年12月30日). オリジナルの2010年1月21日時点におけるアーカイブ。 2007年9月17日閲覧。
- ^ “Doctors attack U.S. over Guantanamo”. BBC News. (2006年3月10日). オリジナルの2010年1月21日時点におけるアーカイブ。 2006年3月15日閲覧. "The letter, in the medical journal The Lancet, said doctors who used restraints and force feeding should be punished by their professional bodies."
- ^ “Supermax: A Clean Version Of Hell”. CBS News. (October 14, 2007) 2009年5月31日閲覧。
- ^ “'Shoe bomber' is on hunger strike”. BBC News. (June 11, 2009) 2009年3月10日閲覧。
- ^ "Women rethink a big size that is beautiful but brutal" Clare Soares 11 July 2006. Christian Science Monitor
- ^ "Gavage in Mauritania" [Subalternate Reality]
- ^ An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest : Abstract : Nature
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- ウィキソースには、How It Feels to Be Forcibly Fedの原文があります。
- Voluntary and Voluntary Total Fasting and Refeeding, Detention Hospital, Guantanamo Bay, Cuba
- Manifesto for the abolition of force feeding